第179話 順代わりのクリスマス・イヴ(中編)
「サキ~楽しんでる?」
隣に座る詩音が声を掛けてくる。
「うん、楽しんでるよ。詩音と子供達で頑張った飾りつけも、見てていい感じだしね」
「えへへ。頑張ったよ~」
にっこりと微笑みながら、俺の腕に抱きついてくる。
相変わらず密着好きの金髪っ子だな。
みんなの前だと余計に恥ずかしい。
「詩音、人前だよ! サキくん困っているでしょ!」
俺の反対側の隣に座る愛紗が怒り口調で窘めている。
「何よ~、アイちゃんだって、さっきサキにいい事したしょ~? あれだってルール違反だからね!」
どうやら、俺が包丁の刃で人差し指をかすめて軽く出血した際、愛紗が口に含んで止血を試みたことに対して不満を抱いているようだ。
「あ、あれは……つい。別に変な意味じゃないよ……ね、サキくん」
「うん、愛紗の優しさが十分に伝わったよ。心配してくれてありがとう」
「……サキくんも優しいよ」
俺の言葉に、愛紗は頬を染め照れ笑いを浮かべ寄り添ってくる。
気づけば両手に花状態だ。
「ふ~ん、サキって年上だけじゃなく、乙女キラーかもね~、にしし♪」
やめて、詩音。そういうこと言うの……シャレになってかいからね。
「……そろそろ10分ね。ほら次は詩音の番よ、早く交代しなさい。私がサキ君の隣に座るんだからね」
向かい側に座っている麗花は、クールに眼鏡をくいっと持ち上げながら言ってきた。
そう、彼女達三人はさっきから10分置きの交代制で俺の隣を譲り合って座っている。
こうすることで、一人20分間は隣で過ごせるという
きっと互いに不公平にならないよう合理的な麗花の提案だろう。
そして、麗花の隣には黒原が座っている。
奴も代わる代わる女の子、しかも学年最強の美少女達が隣に座るもんだから、やたらテンションが上がってしまう。
確かにカースト上位の男達ですら、彼女らと一緒にクリスマス・イヴを過ごすどころか、隣に座ることすらあり得ないのだが……。
「副会長! おこぼれ頂いておりまーす!」
黒原は晴々とした顔で、ノンアルコールのシャンパンが入ったグラスを俺が飲んでいるグラスにくっつけ、チーンっと音を鳴らしている。
ところで、おこぼれって何よ? お前までやめて、そういう言い方するの。
こうして詩音は渋々、麗花と席を交代した。
麗花は俺の隣に座った瞬間、普段誰にも見せない柔らかい笑みを浮かべる。
「フフフ、サキ君。パーティーが終わって落ち着いたら、私達が寝泊まりする部屋に来てくれるかしら?」
「え? みんなの部屋に……いいけど、何?」
「秘密よ。ねぇ、愛紗」
「うん……えへへ」
恥ずかしそうにアイコンタクトをする二人。
ってことは、詩音も関わっていることか?
一体なんだろ……まぁ麗花が誘うのなら、そう変なことじゃないと思うけど。
今考えても仕方ないやと思いつつ、視線を動かすと向かい側席でリョウの隣に座る千夏さんと目が合う。
「そうだ。俺、千夏さんに謝りたいことがあってね」
「私に謝りたいこと? なぁに?」
「リョウのボクシング・プロテストの件……なんか俺のせいで卒業するまで延期させちゃったみたいで」
「ううん。寧ろサキくんに感謝だよ。高校にいる間は、リョウくんとずっと一緒にいられるからね。大学も目指すって言ってくれたから安心だよ」
「まぁ、大学生でもプロで頑張っている奴はごまんといるし、公務員でも世界チャンプになった例もあるからな。焦る必要もねぇって思っただけだよ」
リョウは照れ臭そうに言う。実際は奴自身も千夏さんとの時間も大切にしたいようだ。
理由はさておき、何かとトラブルに巻き込まれる俺への配慮も含まれているようなので感謝しかない。
「だからサキも、ゆっくりでいいから考えてくれよ」
「考える? 俺が? 何を?」
「前に話したじゃねーか、お前もプロテスト受けたらどうよって話……特に親父が惚れこんでいる。今日だって朝から声かけろって言われてんだぜ」
え、マジで? リョウの親父さんが、そこまで?
確かにボクシングジムに顔を出す度に誘われているけどな。
「おじさん、どうしてそこまで……」
「俺が親父に、お前の武勇伝を教えているからな。ジークンドー使いに続き、今日もフェンシング使いに勝ったって話したら、手を叩いて喜んでだぜ」
何、話してんのこいつ?
火野家で、そういうことを話題にしないでくれる?
これだから武闘派一家は……。
そんな感じで多少の波乱も交えつつ、和やかにクリスマス・パーティが終わった。
勇魁さんと亜夢さんの二人は自分の家に帰り、天馬先輩は今日もリョウの家に泊まるらしい。
千夏さんもリョウの家で泊まるらしく、鞠莉さんの部屋で健全に寝ると話していた。
何でも火野家では、彼女を『義理の妹』として認定を受けたらしい。
それイコール『嫁』じゃね?
家族容認の付き合いとは、なんとも羨ましい限りだ。
俺ん家なんて、親父が嫉妬してJKと付き合うとうるさそうだからな。
ましてや美少女三人となると悲鳴上げて倒れられそうだ。
「黒原はどうする? 夜も遅いから俺の家に泊まるか?」
「……いいんですか、副会長」
「俺の部屋でよければな」
「……是非に(うっひょー! 一晩、ハーレムの巣に潜り込むことができたぞ! これだから神西くんは大好きなのさぁ! 異端の勇者最高ぉぉぉぉ!)」
後で、麗花達に呼ばれているからな。
こいつには大智くんの相手をさせようと思っている。
ゲームとか得意そうだから話も合うだろう。
「サキちゃん、私この家に来て初めて友達できたわ~。マリーも今はニートなんだって~」
夏純ネェは楽しそうに語っていた。
なんでも、鞠莉さんと盃を交わし合いマブダチになったらしい。
社会人ニートコンビが結成された瞬間でもある。
パーティー後の片付けを終えた頃――。
「サキくん、ちょっといい?」
美架那さんが壁際から顔を出し呼んでくる。
「何ですか?」
「二人っきりで話したいんだ。ちょっとでいいから来てくれる?」
「ええ……構いませんけど」
廊下で美架那さんと二人っきりになる。
彼女にしては普段見慣れない、顔を赤らませてそわそわした雰囲気だ。
そして後ろに隠していた、綺麗に包装された箱を俺に渡してくる。
「こ、これ……もらってくれる?」
「ミカナさん、これは?」
「クリスマス・プレゼントだよ、サキくんへの……」
「俺に……ありがとうございます!」
「いつもお世話になっている大恩人だからね……みんなには内緒だよ」
「は、はい! そのぅ、天馬先輩達には……?」
野暮と思いながら一応聞いてみる。
なんか俺だけってなったら発覚した際、問題になりそうだ。
「うん、一応用意だけはしているわ。明日、渡すつもりよ……けど、あいつら物に満たされているから、友達とした気持ち程度だけどね」
そうかもしれないけど、好きな女子から貰えるプレゼントなら特別だと思うけどね。
こういう義理堅く優しいところが、美架那さんなんだよなぁ。
でも、みんなの分を用意しているなら、さっき大智くんと萌衣ちゃんのついでに渡せばよかったんじゃないか?
そんな美架那さんは、俺に向けて綺麗で可愛らしい素敵な微笑みを見せてくる。
「でも、サキくんは特別だよ。一番に渡したかったから……ね」
「え? それってどういう意味ですか?」
あまりにも意味深な言葉に、俺はドキッとして聞いてしまう。
美架那さんは大きな瞳を丸くし、「え?」と聞き返してきた。
みるみると真っ白な肌が桃色に染まり、耳元にまで達していく。
「や、やだぁ! サキくん、ひょっとして勘違いしえるぅ!? さっきも言った通り感謝の意味だからね……そう感謝のだよ!」
美架那さんは「私、明日もバイトだから、もう寝るからね! おやすみ!」といい、駆け足で部屋へと戻って行った。
俺はプレゼントを持ったまま、その場で呆然と佇む。
なんだ……今の美架那さんの反応は?
ま、まさか……本当に俺のことを?
嘘だろ?
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時季外れネタで申し訳ございません。
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