第177話 忘れていた行事ごと
こうして堅勇先輩の件は落ち着きをみせた。
体力を回復した俺は、みんなと一緒に家に帰ることにする。
先に堅勇先輩は琴葉さんと一緒に体育館を出た。
「――さっき言った通り、茶近の件はボクらの責任であり『落とし前』として協力するよ。その代わり、ミカナのことは大切に真剣に考えてほしい……ボクが神西に望むのはそれだけだ」
っと、最後に耳打ちされてしまう。
何か釘を刺されたような感じだ。
中途半端な気持ちで、美架那さんに関わるなと言いたげに思えた。
堅勇先輩の言いたいこともわかる。
それだけ素敵な女性だからな……俺だって悲しませる真似はしたくない。
なんなら彼女のお母さんが退院したって、落ち着くまでずっと俺の家にいてもらっていいんだ。
俺は美架那さんが好きだ。
しかしそれは恋愛感情とかじゃなく、彼女の人柄であり気持ちが好きなだけで、良き先輩であり友達としてだと思っている。
けど、美架那さんが俺のことを異性として好意を持ってくれているなら……。
そう考えてしまうと胸がモヤモヤしてくる。
実際、美架那さんは「そんな余裕はない」と言っていたし、彼女の現状を考えれば最もな話だ。
だから俺も考えないようにしたい。
今の関係がベストだと割り切るようにした。
「……ねえ、サキ~。そろそろ普通の話していい~?」
みんなで体育館を出る際、詩音が顔を覗かせ控えめに言ってくる。
にしても普通の話って……まぁ、彼女達にとってはそうだよな。
「いいよ、なんの話?」
「終業式の日って、別の日と被っているんだけどわかるぅ?」
え? 何だ遠回しに……なんだっけ?
「ごめん、最近色々ありすぎて、わかんないや」
「だね……クリスマスだよ。今日は クリスマス・イヴ」
「ああ~、そうだったな――あっ!?」
「あって何?」
「いや……俺、何も準備してないや」
本当は、みんなに日頃の感謝で色々考えていたのに……。
それこそ、美架那さんの件で始まり、三年生達との絡みで気持ちに余裕がなかった。
つーか、詩音達もぎりぎりまで忘れていたんじゃないの?
あるいは、俺に気を利かせて言わなかっただけか……だとしたら申し訳ない。
「やっぱりね……私も愛紗と詩音が言うまで忘れていたから、サキ君のことは言えないわ」
「麗花も?」
「ええ、お父さんも年末は勤務で返って来れなくなってしまったことや……あと、色々とね」
珍しく歯切れ悪く言ってくる。
麗花は生徒会長として色々大変だったからな。
俺のトレーニングにも付き合ってくれたり、美架那さんの弟と妹に勉強を教えていた、俺に出来ないしサポートを色々してくれている。
でも、お父さんが帰って来れないとなると、麗花は家に帰らず三学期まで俺の家にいてくれるのか……。
それはそれで嬉しいんだけど。
「サキくんも大変だと思うから気にしなくていいよ。けど、先輩達もサキくんを守ってくれるみたいだし、少し安心かなって思って」
「うん……愛紗、そうだね。本当にありがたいし気も楽になったよ」
天馬先輩や勇魁さん、それに堅勇先輩に加えリョウとシンが入れば、もう無敵戦隊の完成だな。
例の茶近って先輩も相当やばそうだけど、これだけの面子の前じゃ俺との直接対決はなさそうじゃね?
昨日の敵は今日の友とはよく言ったものだ。
詩音が晴々とした笑みと綺麗な前歯を見せる。
「だったらさぁ、今日と明日くらいは羽目外してもよくない?」
「うん、そうだね」
だけどお前は、ほぼ毎日羽目を外しているような気もするけどな。
昨年まで、クリスマスは親以外の誰かと過ごすことはなかったんだ。
その親も今年と正月は帰ってこないらしいし。
まさか学年最強の美少女と言われる愛紗達と過ごすことになるなんて……。
待てよ?
「ミカナさんは今日のバイトはないんですか?」
「これからあるよ。イベントごとだから、余計に書き入れ時だからね。でも弟達もいるから早く終わらせるつもり……サキくん、私も仲間にいれて~」
「勿論、いいですよ」
やった! 三年の女神の美架那さんも一緒か……もう今年は最強じゃね?
「…………天馬先輩達も一緒にどうですか?」
何気に誘ってみる。
だって羨ましそうに、こっちを見ていたからな。
今後、頼もしい味方になってくれる先輩達なのに邪険にするわけにもいかない。
「いいのか、神西?」
「ええ、勿論です。親睦の意味も込めて……俺の家、狭いですけど」
「別に構わないよ……高校最後のクリスマスで、ミカナと一緒か。良かったな、勇魁」
「ああ、いい思い出になるよ、ありがとう神西君」
やたら感謝されてしまう。
きっと美架那さんのことだから、ずっとアルバイト付けで家族以外の誰かと過ごすことなんてなかったんだろう。
「いえ、皆さんにはお世話になっていますから、亜夢さんも来てくださいね」
「はい」
亜夢さんも喜んでくれる。
彼女も片想いをしている天馬先輩と一緒に過ごせるのだから嬉しくない筈がない。
しかし、相当な人数になってしまったぞ。
俺の家大丈夫か?
など考えながら、チラッと親友達を見た。
リョウとシンはしれっと歩いており、黒原は「へへへ」と不気味に微笑んでいる。
…………あれだな。
先輩達を誘って、友達を誘わないってどーよ。
しかも散々、助けてもらっている大親友だぞ。
黒原も役には立っているよな……一応は。
俺の家、かなり大人数でやばいけど声だけでも掛けてみるべきだよな。
「リョウとシン、ついでに黒原もどうだ?」
「いいのか、サキ」
「ああ、みんなにはいつも世話になっているからな」
「なんか楽しそうだな……そういや、クラス委員長の天宮さんと来栖さんの二人からも誘われていたんだが、親友優先で断るよ」
「いや、シン! 先約いるなら、そっち優先しろよ! 彼女達、可哀想だろ!」
イケメンのシンもモテる男とはいえ、まさかあの二人に声を掛けられていたとは……手引きしたのは遊び仲間の詩音か?
しかし、せっかくの女の子達からの誘いも平然と断ろうとするのだから、奴も相当ズレてるぞ。
シンには女子達の誘いを優先するように伝える。
「黒原は来るだろ?」
「……御意。断る理由がありません、フフフ」
だろーな。一番、暇そうだし。
「リョウは?」
「そうだな……千夏と一緒に行くけどいいか?」
「うん、待ってるよ」
あとは家をどうするかだ。
ソファーを撤去して、立食式パーティを検討しよう。
料理も愛紗一人じゃ負担半端ないから、俺も手伝うしかないぞ。
堅勇先輩とのバトル後で疲労も残っているけど仕方ない。
それから買い物を済ませ、クリスマス・パーティーの準備に取り掛かった。
詩音は美架那さんの弟である『
なんだかんだ詩音は子供達に優しいし面倒見がいい。
あの明るく軽快なノリも子供を安心させ懐かせていた。
まるで金髪の保育士さんみたいだ。
麗花と夏純ネェは居間と食堂の間取や寸法を参加する人数に合わせて模様替えをしていた。
時折、訳のわからない方程式を持ち出して、どのようにテーブルや椅子を設置するか話し込んでいる。
そういや麗花はともかく、夏純ネェもインテリ系だったな。
二人共、何か変なスイッチが入ったかのようにこだわり出している。
俺曰く、適当でいいじゃんと思えてしまう。
愛紗と俺の二人は台所にて並んで調理をしている。
それぞれエプロン姿で、まるで仲の良い新婚夫婦並み。
「サキくん。私、揚げ物見るから、お魚捌くの任せていい?」
「いいよ。自炊して慣れているからね、これくらい問題ないさ」
「えへへ、頼もしいな……あれだけの人数じゃ一人じゃ不安だったから」
「ごめんな、俺が人数を増やしてしまって」
「いいよ、サキくんのみんなを呼びたい気持ちわかるから……」
やっぱり愛紗は優しい。まさに天使だな。
おかげでこっちまで優しい気持ちになれる。
――にしても変だぞ。
普段ならこれだけいい雰囲気だと大抵、他の女子達がやっかんでくるんだけど、その気配がない。
なるほど、そういうことか――。
みんな料理に関してはポンコツだから、俺と愛紗に委ねざる得ないもんだから黙って見過ごしているんだな。
現金と言うべきか……何とも言えない。
けど、久しぶりだ。
こうして余計なことを考えず、みんなで楽しいひと時を過ごせるのは――
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