第174話 ナルシスト勇者との戦い




 昨日と同様、体育館内は勇魁さんの声聞きで貸し切りとなっている。


 俺達が室内に入ると、既に堅勇先輩が待機していた。

 襲撃された時と同じ、上下の黒パーカーに右手には例の改造レイピアが握られている。


「待ってたぞ、神西。準備したいことがあれば待ってるよ」


 朝の軽い口調は消失し、雰囲気が変わっている。

 すっかりやる気満々の様子だ。


「はぁ……」


 俺は曖昧な返事をしながら鞄を床に置き、制服の上着だけを脱いだ。

 身体を軽く動かしウォーミングアップをしていく。


「その格好でやるのか? ボクサーだろ? バンテージくらい巻いたっていいんだぞ」


「別に俺はボクサーってわけじゃないですけどね。でも結構です、その代わり――」


 おそらく勝負は一瞬で終わる。


 それにバンテージを巻いたら、アレが装着できなくなる。


「鳥羽先輩がレイピアを使う以上、俺もこれを使用させてもらいますよ」


 ポケットから『ナックルダスター』を取り出し左手指に装着した。


「ああ、いいだろう。じゃあ、早速始めるとしょう。審判役は勇魁でいいかな?」


「僕が?」


「そうだ。この中で一番、公平にジャッジしてくれそうだ。正義感の強いキミなら神西が負けそうになっても途中で邪魔したりはしないだろ?」


「正しい勝負ごとなら責任持って見守ろう。しかし、やりすぎだと判断したら止めに入る。どちらもね」


 勇魁さんらしい返答に堅勇先輩は不敵に微笑む。


「オーケー、それでいい。ルールはどちらかが戦えなくなるか、また降参するかで良いかい?」


「俺は構いません」


 ルールか……一応試合っぽい感じになったけど、互いに本気武器を使う以上、危険なのに変わりない。


 本当はフェイスガードを装着したいところだけど、あの剣捌きの前で視界を狭めるのもなぁ。


 デッド・ウェイトを避け、迅速に動き一気に仕留める。

 自分の戦闘スタイルを活かすにはこれしかない。


 みんなに見守られる中、体育館中央で俺と堅勇先輩は対峙した。


 審判役の勇魁さんは間に入り、俺達の顔をチラッと見合わせる。


「では始め――!」


 掛け声を合図に、堅勇先輩との再戦が開始された。


 互いの得意の構えを保ち、その一瞬のタイミングを計る。


 堅勇先輩は右手に持ったレイピアを前に翳した独特のフェンシングのアンガルド構えだ。

 対して俺は左半身姿勢で両腕を翳し、リズム感のあるフットワークを活かしたボクシングスタイル。


 前回とちがって、堅勇先輩は積極的に踏み込んでこない。

 剣身を揺らしながら、俺の出方を伺っているように見える。


 ナックルダスターでのジャブ攻撃を警戒しているのか?


 確かに顔面意外でも、まともにヒットすれば結構なダメージだろう。



 一触即発の駆け引き状態が続く。



 周囲は静まり返り、固唾を呑んでその瞬間を見守っていた。



 俺の集中力は極限に達し――超集中状態ゾーンに入る。


 足を止めた時。


 堅勇先輩が仕掛けてきた。


突きトゥシュ!」


 レイピアが弧を描きながら撓り、細い切先が俺の喉元を襲う。


 暗い夜道だった時と違い視界が明るい舞台だと、より精密で無駄のない動きだと理解した。

 しかも高速で放たれる一撃、通常なら躱すことは不可能だ。


 だが最初から俺は躱すつもりはない。

 寧ろ受けて立つ、つもりで臨んでいる。


 ――そのためのナックルダスターだ。



 シュッ



 俺はクロスカンターの要領で踏み込み、迫り来るレイピアの剣身に向けて左拳でフックを放つ。



 キン!



 剣身に鋼鉄製のナックルダスターが当たり、剣撃の軌道を逸らした。


 それでも完全に回避することは出来ない。


 より撓り曲がった切先が首筋辺りの頸動脈に触れてかすめる。

 実剣だったら、斬られ終わっていたかもしれない。


 俺は形振り構わず上半身を捻らせ、渾身の右拳でストレートを打つ。


「くっ――!」


 堅勇先輩はバックステップで躱し、拳は僅かに顎先をかすめた。


 このまま体勢を整えられたら、同じ手は二度通じなくなる。

 したがって畳みかけるように速攻で仕留めなければならない。


 ふと、勇魁さんのジークンドー戦法が脳裏に過った。


 俺は、より下半身に力を入れ、瞬発的な脚力でさらに前へと突進する。

 左手を突き出し、堅勇先輩の突き出された右手首を掴むことに成功した。


「――神西ッ!?」


「うぉぉぉぉっ!!!」



 ドッ、ドッ――!



 右手を掴んだ状態で、鳩尾に膝蹴りと顔面に肘鉄を間髪入れず浴びせる。

 どれもシンに教えてもらった打撃技だ。


 そして、堅勇先輩の右腕肘関節を極めた状態で床に倒す。

 勇魁さんから学んだ技である。


 俺はそのまま右腕を振り上げ、拳を下ろそうとした。


 その時、


「もういい神西君、それまでだ! 決着はついた!」


 審判役の勇魁さんが俺の腕を抑え制止してきた。


 その言葉で、床に倒れたままぐったりしている堅勇先輩を見据える。


 どの攻撃からか不明だが、完全に意識を失っているようだ。


「ゆ、勇魁さん……ってことは」


「ああ、キミの勝ちだ。神西君、見事な戦いぶりだった」


「そ、そぉ……」


 俺は掴んでいた堅勇先輩の右腕を離し、へたりと床に座り込んだ。


 超集中状態ゾーンを解いた瞬間、疲労とストレスが一気に流れ込んでくる感覚に見舞われる。


 首筋辺りがヒリヒリと痛み出す。


 紙一重の勝利か……。


 あのレイピアが本物の剣なら、今頃こちら側が終わっていただろう。

 そう思うと、ゾッとしてくる。


「サキくん!」


 真っ先に、愛紗と麗花と詩音が駆け付けてくる。


「サキ~、大丈夫!?」


「ああ、詩音。見ての通り怪我はないよ」


「……色々と言いたいことはあるけど、とにかく無事で何よりだわ」


「ごめん、麗花……心配してくれてありがとう」


「……本当にサキくんが無事で良かったぁ」


「愛紗……」


 俺のために親身になって心配し安堵してくれる彼女達を前に胸が痛くなる。

 守っている筈が、余計な不安を与えてしまっているように思えた。


 もう、こういう心配は掛けさせたくない。

 そう思うも、きっとまだ終わらないような気がしてくる。


「サキくん、本当にごめんなさい……私達のために……」


 美架那さんが近づき瞳を潤ませ、しゃがみ込む。

 親友の亜夢さんが慰める形で、彼女の両肩に手を添えていた。


「ミカナさん、もう何度もいいって言ったじゃないですか。それに、これは俺自身のための戦いでもあったんですからね」


「サキくん……」


 涙を流しつつ、美架那さんは微笑む。

 思わず胸がきゅんと疼くような綺麗な表情だ。

 何度か唇を動かし、何か言おうとするも何を伝えたいのか、俺にはわからない。


「ナックルダスターを攻撃ではなく防御として使うとな……しかも改造レイピアを相手に、よくタイミングを合わせれたもんだ。サキの奴、手技に関してはマジで天才だな」


「基本ボクシングベースだが他の技も吸収して巧みに応用している。今のサキなら、俺でもまともに相手にできないぜ」


 シンとリョウの戦闘狂コンビが勝手に戦いの評価をしている。


「……手技の天才。まさに女子に対しても同様ですね……それも異能たる故ですか、フフフ」


 さらにムカつく解釈をして納得する、黒原。

 

 まぁ、みんななんだかんだ俺を心配して、こうしてついて来てくれているんだから感謝しておこう。


 その一方で、天馬先輩と勇魁さんは、気を失っている堅勇先輩の介抱に当たっていた。

 互いの胸の内はどうあれ、そこはまだ仲間なのだろう。

 

「……う、ううう……」


 堅勇先輩が目を醒ましたようだ。


「堅勇、テメェ……目ぇ覚ましたか?」


「テンパ赤ゴリラ……」


「……今度は俺がボコってやんよ」


 天馬先輩はキレかかって拳を掲げている。


「やめろ天馬、揉め事は後にしろ。状況を察した通りお前の負けだ、堅勇。もう二度と、神西君に手を出すなよ。後は神西君が提示した事を必ず了承すること。でなければ、今度は僕がお前を潰す」


 なんか先輩同士物騒な話をしている。

 

 特に勇魁さんは、堅勇先輩の性格を把握しているっぽいからな。

 脅しの一つも入れないと、人の言う事は聞かなそうだ。


 堅勇先輩は起き上がり、じっと俺を見つめている。

 睨んでいる様子であり、そうでもない様子にも見えた。


 ただ、俺が叩き込んだ肘鉄により、左頬が痛々しく腫れている。

 ナルシスト勇者も形無しだろうか。

 黒原だけは喜んでいるようだけど……。


 少しの間だけ沈黙が流れたと感じた時。


 

 ガラッ



 誰かが体育館に入ってきた。






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