第173話 覚悟を決める真勇者
「勇魁さん。本当ですか、それ?」
「ああ、堅勇はボクと同じクラスだからね。しれっといたから、びっくりしたよ。一応、普通に声は掛けてみたけどね……」
「それで?」
「神西君に放課後用があるって言っていたね。それ以外は相変わらず、女子達に声を掛けていたよ」
下手に普通にしている分、かえって不気味だな。
俺に用がある時点で、何か仕掛ける気満々じゃないのか?
あるいは、琴葉さんが上手く説得してくれたのか……。
「一昨日の借りもあるから、俺が乗り込んでブン殴ってやるぜ!」
天馬先輩は息巻いて言ってくる。
今回ばかりは当然の要求だけど、この人じゃ返り討ちされ兼ねないぞ。
一応、生徒会役員なので学校内の暴力沙汰は容認できない。
「待ってください。俺に用があるなら受けますよ。だから俺に任せてください」
「神西……わかった。あの変態バカを頼むぜ」
天馬先輩は俺の背中をポンポン叩く。
思わず言ってしまったけど……きっと話し合いじゃないような気がする。
これまでの『勇者四天王』を見ている限り、穏やかに終わるとは思えない。
「そういえば亜夢さん、琴葉さんは来ているのですか?」
「ええ……浮かない顔をしていましたわ。きっと説得には失敗したと思いますわ」
「だったらサキくんは堅勇と会ったら駄目よ! 私が必殺、ゴールデン・クラッシャーで堅勇を再起不能にするわ!」
美架那さんは拳を握りしめて言う。
ゴールデン・クラッシャーって、もろ金蹴りじゃないっすか?
ある意味、ジークンドーばりに容赦ないよ、この女神様は……。
「わたしもミカナさんに賛成だよ。わざわざ、サキくんが相手にする必要ないよ」
「そっだよ~! サキがそこまでする必要はないよ~!」
「逆に勇磨先輩と壱角先輩で先生に訴えれば、流石に動いてくれるんじゃない?」
愛紗と詩音と麗花が制止してくる。
俺も出来れば相手にしたくないけどな……。
また闇討ちされて誰かが傷つくのも嫌だし。
きっと、堅勇先輩は俺と決着をつけるために登校したんだと思う。
もう隠す必要もないから、堂々としているんだ。
俺としては陰でこそこそしている奴よりも、そういう気性の奴が逆に怖い。
以前の王田 勇星のように自分の方針を変えて、どんな卑怯な手を使ってくるかわからないからだ。
俺が逃げ続けることで、その矛先が美架那さんや愛紗達に向けられる可能性もある。
それなら、相手が望むまま正面から受けて立つのもありか……。
ただ単独じゃ危険だよな。
乗っかるのなら条件付けでやっていかないと……。
そう考えていた時だ。
「やあ、諸君。おはよ~」
ふと軽い口調で誰かが挨拶をしてくる。
なんと堅勇先輩だった。
まさか自分から声を掛けにきたのだ
「堅勇、テメェ!」
「駄目よ、天馬!」
天馬先輩は掴み掛かろうとし、美架那さんに引き止められる。
より空気が張り詰められた。
「久しぶりね……何の用?」
「やぁ、ミカナも元気そうだね? 残念だが、まだキミに用はない。勇魁から聞いているだろ? ボクが用があるのは神西君さ~」
陽気な口調で言いながら、流し目で俺を見つめくる。
完全に俺だけを標的にしている、そんな気がした。
これ以上、周りにいる誰かが傷つくより、俺にとってその方が好都合か……。
「俺は別にいいですよ……但し、二人っきり以外なら」
その返答に、堅勇先輩はニヤッと笑う。
「先輩、後輩の水入らずって感じだと駄目なのかい~?」
「嫌です。一昨日、自分が俺と天馬先輩やったことを思い返してくださいよ。願わくば、話し合いを望みますけど、大方あの時の決着を付けるつもりでしょ?」
「ほう、他人のファミリーを勝手に口説いた割には案外察しがいいな。だが、キミの要求に対する意図を聞かせてくれないか?」
「みんなに見届けてもらうためです。後はやりすぎないように制止してもらうための審判役でしょうか? どちらかが勝った方が言う事を聞くってノリはどうですか?」
俺からの提案に、堅勇先輩は考え込む。
束の間。
「う~ん、シンプルで悪くはないかもね。そもそもボクは目的さえ果たせればいいわけだしね。正々堂々とキミをブチのめせれば周囲への見せしめにもなる。そもそも、ボクは神西君には、それほど私怨があるわけじゃないからね。あえて言うなら『目障り』、それだけの存在さ」
はっきりと言いたいことを言ってくれる。
女子には寛大だが、男子には容赦の欠片もないらしい。
それこそ、シンプルでいいけどな。
おまけに第三者が立ち会うことで、『試合的』な形で決着がつけられそうだ。
少なくても潰し合いにはならないだろう。
後は――
「それじゃ決まりですね。時間は生徒総会が終わった放課後でどうですか? 場所は勇魁さん、昨日練習した総合体育館を貸してもらえません?」
「わかった。手配しよう」
そう――後は俺の戦い方次第だ。
っとカッコ良さげに、息巻いたのはいいけど……。
実際は緊張しっぱなしだった。
終業式や生徒総会中も、ずっと震えや吐き気を催してくる。
なんとも最悪な二学期の終わり方だと思った。
「サキ、大丈夫か?」
放課後。
現地へ向かう際、リョウが心配そうに声を掛けきた。
ちなみに、俺の心配し愛紗と麗花と詩音の三人、シンと何故か黒原の二人もついて来てくれている。
美架那さんと天馬先輩達三年生は既に体育館へ向かっているとのことだ。
「うん、そりゃね……多少は緊張くらいするさ」
本当は今にも吐きそうだけどね。
「まぁ試合だと思えばいい。いざって時は俺とリョウで止めに入るからな」
「ありがとう、シン。その時は頼むよ」
この二人が傍にいると安心する。
いつも俺の背中を守ってもらっているみたいだ。
「……副会長。そんなファミリーとかぬかしながら、複数の彼女がいる羨ましい糞勇者先輩なんて、徹底的にブチのめしてくださいよぉ」
黒原が不気味に微笑んでいる。
まさかこいつ、堅勇先輩への妬みで俺について来たってのか?
たまに役に立つし、どうでもいいか……。
「サキくん、危なくなったら、すぐに逃げてね……」
「負けたって、サキ君にデメリットはないわけだしね」
「ウチらとしては、サキに何かあった方が嫌だよ~」
愛紗達も純粋な気持ちで心配してくれている。
三人共、本当は止めたいのだろうけど、俺の意向を汲んで渋々見守るようにしてくれたみたいだ。
彼女達じゃないけど、こんな形での決着なんて馬鹿げている。
しかし俺の存在を認めさせるためにも、やらなければならない。
美架那先輩の為にも……。
あの人の悲しむ顔は見たくない。
それに「光石 琴葉」さん。
堅勇先輩が無茶する都度に、彼女が辛い目に遭ってしまう。
あの先輩がそうなってしまったのは、自分のせいだと罪意識に駆られてしまっているから。
だから余計、否定しなければならないんだ。
堅勇先輩のやり方について――
胸の内で、そう自問自答を何度も繰り返していく内に、俺達は目的地の総合体育館に辿り着いた。
既に美架那さんと天馬先輩、勇魁さんと亜夢さんが来ていた。
「……サキくん、ごめんなさい。本当は私達の問題なのに」
「いえ、美架那さん。俺も色々と考えた上での行動ですから……それに皆さんがこうして傍にいてくれるだけで、凄く頼もしいですよ」
「神西、いざって時は俺と勇魁で堅勇をボコる。お前はヤバくなったら逃げていいからな」
「そうだね……神西君には彼に勝って堅勇の目を醒ましてほしいところだけど、危険と判断した場合は加勢するよ」
天馬先輩と勇魁さんが言ってくれる。
親友のリョウとシンに、この先輩達が加われば安心だな。
亜夢さんが声を掛けてきた。
「神西くん。光石さんには知らせています。彼女、涙を流して『説得できなくてごめんなさい』と謝っておりましたわ」
「そうですか……ありがとうございます、亜夢さん」
ますます負けられないな……。
今の堅勇先輩を止められるのは、もう俺しかいないのだと理解する。
――そして覚悟を決めた。
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