第171話 迷える活人拳
あれから俺は勇魁さんに誘われるまま、とある総合体育館へと訪れていた。
既に愛紗達は先に帰ってもらっている。
彼女達もやるべき事があり、それぞれ分担して行動に移していた。
詩音はリョウの家にいる天馬先輩の様子を見に行っている。
麗花と愛紗は美架那さんの代役で遊井病院へ行き、お母さんのお見舞いを含め身の回りのお世話に行っていた。
ちなみに因縁とトラウマのある遊井病院へは、自分達だとバレないよう何かしらの変装をすると言っている。
どんな姿に扮するか知らないが、あまり過剰になりすぎて不審者と間違われなければいいんだけど……。
「勇魁さん、もう身体は大丈夫なんですか?」
「まだ全快ではないけどね。身体を動かす程度なら問題ないよ」
広々とした体育館に俺達の二人だけしかいない。
なんでも勇魁さんの伝手で二時間ほど貸し切っていると話していた。
流石、壱角物産の御曹司。
ある程度の融通が利くらしい。
「勇魁さん、頼まれた物を持ってきました」
シンが大きなボストンバッグを持って来てくれる。
「ありがとう。じゃあ、神西君、お互い動きやすい格好で練習しよう」
「はい」
俺は制服を脱ぎ用意されたスポーツウェアに着替える。
まずは軽くウォーミングアップを行う。
それから両足にレックガードと両手にオープンフィンガーグローブをはめた。
頭部にフェイスガードを被り準備を整える。
また生まれて初めて金的ガードも装着した。
「じゃあ、神西君。まずは実戦的に2ランドのスパーリングしてみようか?」
実戦的か……そういや俺は過去、この人と三回戦って二回負けているんだよな。
俺は頷き、勇魁さんと対峙する。
少し前の真剣勝負とは違い和やかな雰囲気。
勇魁さんも眼鏡を外し、にこにこと笑っている。
俺も安心した気持ちで構えた。
――だがスパーリングが始まった途端、空気が一変する。
ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダァァァン――!
とても負傷中とは思えない、勇魁さんの畳み掛けるようなスピーディーな戦法に俺は翻弄されていく。
それは以前に対戦した時とはまるで異なった動きであった。
軽く当身を入れている程度とはいえ、鳩尾への攻撃を仕掛けられ、連続攻撃で躊躇なく喉元を突いてきた。
さらに金的や目潰しなど平気に、人体の急所部分を的確かつ当然の如く狙ってくる。
また間接を決められた状態で投げられそうになったり、倒された後も急所を狙ってとどめを刺しにくるなどなんでもありだ。
ルールのある格闘技ではまずあり得ない、容赦ない危険な技の数々である。
(うおっ、危ねぇ! これが本来のジークンドーか!?)
俺は改めて、あの時の勇魁さんは手を抜いてくれていたんだと再認識した。
同時に、実戦でこんな戦いされていたら、間違いなく大怪我して入院させられているかもしれない。
こうして、2ランドのスパーリングは終了する。
「基本、ジークンドーは相手を瞬時に一撃で仕留めにいくため、打撃系格闘技のようなコンビネーション技は実際ほとんど使わないんだよ」
2ランドを終えた後、勇魁さんは教えてくれる。
怪我しているとは思えない程けろっとしていた。
逆に俺の方が息を切らしているかもしれない。
あまりにも
その疲労から来ていると思う。
しかし、戦ってみてふと思ったことがある。
「素手にも関わらず、なんだか鳥羽先輩の戦い方にも似ている気もしましたね……?」
「元々、フェンシングとボクシングに影響を受けて創られた戦闘術だからね。特に間合いの取り方や歩法は近いと思うよ」
「ヒット&ウェイから、好機と判断したら一気にインファイトに持ち込むのは、まさにそれですね」
「ああ。僕も神西君には、その戦い方で負けてしまったからね……ハハハッ」
勇魁さんは、少しも悔しがらず爽やかに笑っている。
すっかり反省し更生したとはいえ、こうも清々しく変容するとは……。
そういや、あれだけ荒々しくとっつきにくかった天馬先輩も随分と丸く穏やかになった気がする。
考えてみれば、シンや内島の時もそうだったし、王田も潔く罪を認めていたよな。
俺と勝負して負けた連中は、何か芽生えるモノがあるのだろうか?
そう思い耽けながら見つめていると、勇魁さんは目を合わせてくる。
「どうしたんだい、神西君?」
「いえ、勇魁さん……すっかり変わったなって。亜夢さんも安心しているんじゃないですか?」
「まぁね。亜夢には一番迷惑と心配を掛けてしまったからね。ミカナにも……これからは彼女達の力になれるよう、僕ができることをやってこうと思っている。無論、モラルに反しないようにね」
「そうですか……良かったです」
俺は愛想笑いを浮かべ、目を逸らした。
「……神西君、何か迷っているんだろ? 亜夢から聞いてるよ」
「え? ええ……鳥羽先輩のことで。次、やり合うことになったら、どうするべきかなって……」
「キミが無理して背負う必要はないよ。逃げるのも一つだと思う、後は普通に警察かな」
「はは……ですよね」
意外にもシンプルな返答に思わず笑いが込み上げてくる。
一年生の頃なら、当然その選択で間違いない。
けど、売られた喧嘩は買うのが礼儀じゃないけど……このまま逃げたくないというか。
俺しかもう、今の堅勇先輩を止める人間はいないというか……。
そう思えてしまうんだ。
しかし、素手ではまず勝てない。
ナックルダスターを使用して、一撃で仕留めるしか――。
だが武器を使うこと恐怖心を抱く俺にそれができるかどうか。
スパーリングしている時もずっとそう思っていたんだ。
実際ジークンドーの全貌を体験したが、相手を叩き潰す戦い方も自分には合ってないような気もしてくる。
「……僕は神西君には感謝してるよ」
「え?」
勇魁さんの言葉に、不意を突かれた俺は首を傾げてしまう。
「最後の最後で、僕を更生に導いてくれたことさ……卒業前にね」
「俺は何もしてませんよ。ただ俺って存在を認めてもらいたく勝ちたいためにやったんです。後は恩のあるミカナさんと亜夢さんのためでしょうか?」
「それでもさ……僕が今、こうして穏やかな気持ちで過ごせるのも、神西君が正々堂々とブチのめしてくれたおかげさ。他の連中相手なら、きっと負けてもこんなに清々しい気持ちにはなれなかっただろう。きっと怨恨を残し、また悪どい仕返しを考える。何だかんだ理由をつけてね……」
確かに勇魁さんはそういう所があった。
だから双子の妹である亜夢さんに成り代わって気に入らない連中を粛清していったんだ。
その彼の話は続く。
「けどキミに対してはそう思えなかった。変な言い方だが喝を入れてもらったとか、汚れた心を清めてもらったとか……そんな神憑り的な感情さえ抱いてしまったんだ。それが神西君、キミの男としての魅力なんだろうね」
「俺にはよくわかりません……スポーツならまだしも所詮は暴力沙汰ですし。けど、あの時は勇魁さんと天馬先輩、二人とは戦わなきゃいけないと強く思ったんです。二人共、自分がどうしていいかわからなく、なんだか苦しそうで……でも俺なんかの言葉じゃ伝わらない。『寝取りの神西』っと呼ばれている俺なんかじゃ、きっと認めてもらえない……だから暴力で挑んでくる相手には戦って勝つことで、主導権が握れればと……それなら俺の話を聞いてくれるんじゃないかと思っただけですから」
「なんだ、神西君。もう答えは出ているんじゃないか?」
「答え?」
「キミのその拳で堅勇を制してほしい。そうすれば、引っ込めなくなった彼もキミの言葉を受け入れるだろう」
「はぁ……善処します」
まるで俺の拳が不殺の『活人剣』いや『活人拳』みたいな言い方をしてくる。
どちらにせよ、生徒会副会長に言う台詞じゃないよ、勇魁さん。
けど、結局、堅勇先輩とは戦わなきゃならないような気がする。
もう一人の勇者、
美架那さんが俺のことが異性として好きでいてくれるなら尚更……。
そして俺はその気持ちにどう応えよう。
愛紗達とですら、まだ答えが出せてないってのに――
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