第169話 語られる勇者の真相(前編)
「どうぞ」
俺が声を掛けると、二人の女子が扉を開けて入って来る。
まず一人は仲介役の壱角 亜夢さん。
もう一人は見慣れない三年生の女子。
長い黒髪をシュシュで縛ったポニーテール。若干、目尻が吊り上がっていた。
しかし整った顔立ちは、品のある亜夢さんに引けを取らないほどの美貌である。
全体的にすらりとしており、スタイルも良さそうだ。
派手なタイプでは決してなく制服を正しく着こなしており、亜夢さんが言っていたように、とても真面目な感じだ。
彼女が、『光石 琴葉』さんに違いない。
う~ん、俺から見ても中学の頃、暴走族の彼氏がいたような女子には見えないのだが……。
「サキくん、光石さんを連れて参りましたわ」
「どうも、光石 琴葉よ」
亜夢さんの紹介で、光石さんは軽く頭を下げて見せる。
「神西です。こんな朝早くから来て頂いてすみません。どうか座ってください」
俺は向かい側のソファーに座って貰うよう指示する。
亜夢さんと光石さんは頷き腰を下ろした。
「話は大体、壱角さんから聞いているわ。ケンちゃんのことね?」
早速、光石さんから切り出してきた。
「ケンちゃん?」
「鳥羽 堅勇……私の彼氏。一応だけど」
「一応ですか……」
俺は彼女の言葉に違和感を覚える。
「知っていると思うけど、ケンちゃんにはファミリーと称した彼女が何人もいるわ。私はあくまでその一人よ」
「ええ、鳥羽先輩曰く、みんな平等に大切にしていると……けど俺が思うに、光石先輩は別格な位置じゃないかと思える部分もあって……」
「中学の頃の話? 私が当時付き合っていた暴走族の彼氏に別れてもしつこく付きまとわれて迷惑だったから、ケンちゃんに嘘の相談をして壊滅まで追い込んでもらったって話?」
光石さんに率直に聞かれ、俺は素直に頷く。
「その結果、鳥羽先輩は将来有望選手だったフェンシングから遠いています。本人はもう冷めていると言ってましたが、俺にはそうは思えません」
「どうして?」
「正直に言います。昨日、俺、鳥羽先輩に闇討ちされ一戦交えています」
「闇討ち? ケンちゃんがまた……どうして神西君を?」
「詳しくは言えませんけど、俺に対して思い違いによるといいましょうか……そんな感じです」
まさか現役で付き合っている彼女の前で、美架那さんのことは言えない。
何せ、堅勇先輩は美架那さんと付き合えるのなら、光石さん達ファミリーと別れてもいいって断言しているからだ。
「……察しはつくわ。神楽さんのことでしょ? ケンちゃん、私の前でも楽しそうに彼女の話をよくしているから」
そ、そうなの?
マジかよ……それで普通に付き合っていられるなんて遊ばれてないにせよ、随分と割り切った関係なんだな。
ますます堅勇先輩がわからなくなってきた。
「まぁ、そんなところです……一緒にいてくれた天馬先輩が俺を庇って代わりに滅多打ちに遭って、俺も鳥羽先輩と戦うことになりこの有様です」
俺は左頬の擦り傷に指先で触れて見せた。
腫れは引いても、まだヒリヒリする。
光石さんは切なそうに見入っていた。
彼女に密告するようで気も引けるが、こうして事実を語ることで俺達の心情を理解してくれることを期待する。
こうして、早朝からわざわざ来てくれるということは、光石さんも堅勇先輩に対して思う所があると感じたからだ。
「……そう。でも、あのケンちゃんとやり合ってよくその程度ですんだね? 文化祭で神西君も相当強いとは思っていたけど……」
「決着はついてません。運良く逃げてくれました……けど実際に対峙して、あの剣技や動き、そして威圧感……とてもフェンシングから気持ちが冷めた人とは思えないんです」
「っと言うと?」
「そうせざる得ない事情が、鳥羽先輩にあったんじゃないですか? あくまで俺の憶測ですが、そのきっかけを作った『光石先輩の件』に何かあると思っています。だから、光石先輩に直接話が聞ければと……」
「……聞いてどうするの?」
「――鳥羽先輩を止めたい」
俺は真剣な眼差しで、光石さんを見据える。
彼女は戸惑った表情を浮かべていた。
「止める? 私がケンちゃんを……」
「はい。本当なら警察沙汰にする話も浮上しましたが、天馬先輩が強く拒み話を大きくしないよう配慮しました。けど鳥羽先輩は今後も俺をつけ狙ってくるでしょう。俺も理不尽な暴力には全力で否定します……ですが、さっき言った通りひっかかる部分もあって……光石先輩から話を聞ければ、ひょっとしたら鳥羽先輩と戦わずに済むんじゃないかという願望も抱いています」
「それって、私にケンちゃんを止めてほしいってこと?」
「可能であれば……無理なら当時のことだけでも話してくれればと……」
「光石さん、どうかサキくんに協力して頂けないかしら? このままでは庇い立てする天馬様の想いも無駄になってしまいますわ」
亜夢さんも俺の味方になって言ってくれる。
そんな光石さんは、俺達から視線を逸らす。
「私が説得しても聞いてくれるかどうか……でもやるだけはやってみるわ。だって神西君の言う通り、ケンちゃんがああなったのも全て私のせいなんだから……」
「光石先輩のせい?」
「琴葉でいいわ――そう、嘘なのよ。私が嘘をついてまで、ケンちゃんを仕向けたこと……その事自体、全てが虚言なの」
琴葉さんの思わぬ告白に、俺と亜夢さんは「え!?」と驚きの声を上げる。
また物品庫から、ガタッと物音が響いた。
きっと身を隠して聞く耳を立てている愛紗達の誰かが何か物を倒してしまったのだろう。
「今の物音は何?」
「あ、いや……物品庫からですね。先輩達が来る前に片づけしてたものなので……それで、全て『嘘』とはどういうことですか?」
俺は上手く誤魔化しつつ、琴葉さんに真相を聞いてみる。
「ええ……中学の頃、私に暴走族の彼氏がいたってことよ。正確には、ずっと奴らにしつこく付きまとわれていたの。それを当時同じクラスメイトだったケンちゃんに相談したわ。その頃はまだケンちゃんとは付き合ってなかったけど、友達から彼の『黒い噂』を聞いて頼ってみたの」
黒い噂……堅勇先輩も祖父と同様に裏社会と繋がりがあるって話だ。
実際はハッタリだと言っていた。
琴葉さんは話を続ける。
「堅勇先輩の『家の力』を借りるために頼ったってことですか?」
「正直に言えばその通りね……付きまとわれている暴走族を遠ざけるために、ケンちゃんを利用しようとしたのよ。酷い話かもしれないけど、親と教師に相談してどうこうなる問題じゃなかったし、私も精神的に滅入っていたから……藁にも縋る思いでね」
「それで鳥羽先輩は受け入れてくれたんですね?」
「ええ。あの頃から、ケンちゃんには沢山の彼女がいたけど、私もその一人になれば全力で守ってくれるって約束してくれたわ。私はそれに乗っかったわ。でも今思えば、それが間違いだったかもしれない……」
「ずっと思っていたんですけど、どうしてそんな複数の彼女が必要なんですかね? 遊び人のようでそうじゃない……俺には理解できない」
「その通りね。ケンちゃんはお金持ちでルックスもいい方だし、フェンシングのエースで頭もいい人よ。ちょっと変わっているけど、温厚で悪い人ではないわ。けど時折、寂しそうな表情を見せる時もあった」
「寂しい? どうして?」
「生まれた家柄から、敵を作りやすいって言ってたわ。だから処世術で自分も暴力団とか繋がっているように見せる、ケンちゃんなりの処世術だったみたい。そんな事もあってファミリー以外は、たとえ普段から一緒にいる勇磨さん達だろうと信用しないっとも話してたわ」
だから中学から一緒につるんでいる天馬先輩だろうと容赦なく滅多打ちにできるってか?
けど納得いかないな……。
憤る俺の感情を他所に、琴葉さんは話を続ける。
「ある日ね……私、さらわれて無理矢理乱暴されたの。付きまとっている暴走族の総長と……仲間達にいいようにされたわ」
「「……!?」」
不意の告白に、俺と亜夢さんは絶句した。
一方、琴葉さんは唇を噛みしめて身体を小刻みに震わせている。
潤ませた瞳から大粒の涙が溢れ零れていた。
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