第168話 解決の鍵となる先輩




「サキお前、その光石って先輩が気になるのか?」


 リョウが聞いてくる。


 俺は素直に頷いて見せた。


「……何か、とても重要な部分を見落としているような気がするんだ。それが何なのか……有耶無耶のままじゃ、俺も本気になれない」


「しかし、サキ。その先輩は嘗ての仲間すら容赦なく滅多打ちにする奴だぞ? しかも改造した武器まで使ってくる狂気っぷり。俺としては、まともに相手にする必要ないと思う」


 戦闘狂のシンにしては珍しい。

 だけどそもそも、ナックルダスターを俺に渡してくれたのはお前だろ?


「どうした、シン? いつものお前らしくないんだけど……」


「人には適正ってのがあるからな。俺なら問題なく戦える相手だが、サキの戦闘スタイルに見合う相手じゃない。ましてや迷いが生じているなら尚更だ」


 シンなりに俺のことを心配してくれてうるようだ。


「別に迷っているわけじゃ……ただ、鳥羽先輩は攻撃的な変人だけど、王田と遊井のような一方的で身勝手なワルとも言えないと思う。俺がこいつの使用を躊躇った理由も、そこにあると思うんだ」


 俺は説明しながら、上着のポケットに入っているナックルダスターをぽんぽんと叩く。

 この場で出して見せたら、間違いなく女子達がドン引くと思って出さないようにした。


「サキくん……また喧嘩するつもりなの?」


 愛紗が瞳を潤ませながら聞いてくる。


 胸の奥がきゅっと絞られた。


「自分からはやらないよ。また襲われた時の自己防衛さ……可能なら話し合いで終わらせたいけど、よく考えてみれば俺って鳥羽先輩のこと何も知らないわけだし……」


 本当はもうわかっている。


 堅勇先輩も断言していたからな。

 引くに引けない所まで踏み込んでいるのだろう。


 ――全ては美架那さんへの想い。


 天馬先輩や勇魁さんが一線引いた以上、残り二人にとっては好機と思っているのか。

 それとも、美架那さんが俺のことを異性として好意を持ってくれているかもしれないことに対しての危機感なのか。


 あの剣幕だと後者の方が強い気がする。


 でも美架那さん……実際、俺のことをどう思ってくれているんだ?


「どうしたの、サキくん?」


 美架那さんが瞳を丸くしてきょとんと見つめてくる。

 どうやら無意識に彼女をガン見してしまったようだ。


 一体、何を期待しているんだ……俺は。


「サキ君。私はどんな理由でも、サキ君が危ない目に合うのは反対よ。浅野君じゃないけど、本来なら大人達の力に頼るべきだわ。でも勇磨先輩が黙秘となると、本当なら教師に頼るのは必然なのだけど……鳥羽先輩の家も不動産王で相当、学校に援助していると聞くわ。はっきりとした証拠がない以上、動きそうにないわね」


 麗花が生徒会長らしく理論づけて言ってくる。


「俺もそう思うよ、麗花」


「それにサキくんが主張する鳥羽先輩への情報不足も確かね。話し合いにしても、まず相手のことを知ることから始まるわけだから……いっそ確認してみたら?」


「確認って?」


「その『光石 琴葉』っていう上級生に聞いてみるのよ。真相と共にね。上手くこちら側に取り込めば、鳥羽先輩への牽制にもなるかもしれないわ。彼、女子の前では暴力を振るわないのでしょ? ましてやファミリーの言うことなら耳を傾けてくれるかもしれない」


「特に光石って先輩、嘘を言っても咎められないほど、特別視しているみたいだから味方になったら頼もしいかもね。流石、レイちゃん!」


「ええ、そうよ、詩音」


 なるほど。


 要はその先輩から話を聞くと共に、堅勇先輩を止めてくれるよう頼むのもありってことだな。


「だとしたら、わたくしが取り持ちますわ。一応、光石さんとはLINE登録しておりますので」


「本当、アムちゃん?」


「ええ、っと言っても登録しているだけで、ミイちゃん以外と基本やり取りはしたことはありませんが……」


 それでも顔も知らない俺から声を掛けるよりは全然いいと思う。


「亜夢さん、お願いできますか?」


「わかりましたわ、サキくん」


 亜夢さんはスマホを取り出し、光石っという上級生にメッセージを送信する。


 数分後、先方から「OK」と返答が届いた。



「サキくんの都合のいい時間と場所で良いそうですわ」


「なら朝一の生徒会室でお願いします」


「わかりましたわ、明日はわたくしも同行いたしますね」


「助かります、亜夢さん」


 よし、これで前進しそうだぞ。

 麗花が言ってくれたような展開に発展すれば、もう堅勇先輩と戦わなくてすみそうだ。


「私達はいない方がいいかしら……」


「そだね~レイちゃん。かえって話が拗れても困るしね……女子相手なら、サキは優しいから問題ないと思うよ。逆に違う意味で心配だけどぉ」


 ん? どういう意味だ、詩音よ。一体何を心配しているんだよ。


「でも傍にはいるからね。何かあったら、すぐにわたし達を呼んでね、サキくん」


「わかったよ、愛紗。ありがとう」


 三人共、本当に自分のことのように俺のことを心配してくれる。


 余計なトラブルばかり持ち掛けて申し訳ないと思うと同時に、こうして一緒になって悩んで寄り添ってくれるので本当にありがたい。


 やっぱり俺は彼女達、三美神が大切だ。


 だからこそ余計……。


「アムちゃん、私はついて行った方がいい?」


 美架那さんが何気に聞いている。


「いやミカナさんは一番ついて行ったら駄目でしょ?」


「どうしてよ、サキくん?」


 だって、堅勇先輩は美架那さんにぞっこんだから、好意を持たれていると思い込んでいる俺に闇討ちしてきたんでしょ?

 それに明日会う、光石って先輩は堅勇先輩と現役で付き合っている女子だよ。

 あの人、美架那さんと付き合えるなら、全員と別れてもいいって豪語しているんだからね。

 そんな女子が一緒に同行した日には、話を聞いて味方にするどころか超最悪な修羅場に発展するかもしれないじゃん。


 美架那さん……ひょっとして、こういう面でズレているのかなぁ。


「ミカナさんはバイトあるでしょ? お母さんの面会だってあるんだろうし」


「そうだけど……でもサキくんにばかり重荷を背負わせるのも何か違うと思うし……」


「何度も言いますけど、俺は大丈夫です。こうしてみんなが、俺のために集まって色々と協力してくれるんですから……俺、嬉しいですよ」


「サキくん……うん、わかったよ。私も自分にできることを頑張るから……だから頼りたい時は遠慮なく頼ってね」


 美架那さんは満面の笑みを浮かべる。

 この人が元気だと、なんだか俺まで力が貰えるような気がしてくる。


 ――本当に不思議な先輩。


 けど、とても素敵な年上の女子。


 だから余計に意識してしまっている。


 俺に好意を持ってくれているかもしれないと……。


 それがただの喜びなのか。それとも淡い希望なのか。


 今は答えを出さないことにした――






 翌朝、俺達は普段より早く学校へ向かう。


 天馬先輩は一日、リョウの家で休むとのことだ。

 何故か鞠莉さんと気が合ったらしく、マブダチとして認定されたらしい。


 リョウ曰く。


「どちらも体育会系だから馬があったらしい。天馬さんだけにな……」


 っと、無駄に上手いことを言っていた。




 登校し、俺は真っすぐ生徒会室に向かう。


 ちゃっかり愛紗達も一緒だ。

 昨日は俺に同行しないと言っていたが、あの後心変わりして生徒会室の物品庫で三人身を潜めて聞いていることにしたようだ。


 なんでも詩音の「逆に違う意味で心配」言動が気になったとのこと。


 おい、まさか……俺が光石って先輩とどうこうなると思っているのか?


 寝取りの神西?


 いくらなんでもないわ~。亜夢さんだっているんだぞ。


 三人とも、俺をどういう目で見ているのだろう……。


 生徒会室に入り、愛紗と麗花と詩音の三人は速攻で物品庫を整理して中へと身を潜めていた。

 その異様な手際の良さに、俺は軽く引いてしまう。



 少し待っていると。



 ――コンコン。



 ドアをノックする音が聞こえた。


 おっ、どうやら来てくれたようだ。






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