第167話 親友宅での集会




「サッちゃ~んいらっしゃい。あら、お友達も来てたの~?」


 リョウのお姉さんである、鞠莉まりりことマリーさんがリビングに入ってきた。


「はい、お邪魔しています」


 鞠莉さんは俺に笑顔を向けつつ、手当を終えた天馬先輩に視線を合わせてくる。


「そこの彼、随分とボロボロね。リョウにヤキ入れられたの?」


「い、いえ……その人は三年生の先輩でして、二人で暴漢に襲われている所、ミカナさんとリョウに助けられたんです」


 一応、嘘はついていないつもり。


「それで、サッちゃんも左頬に変な蚯蚓腫れがあるんだね……もう、サッちゃん襲われすぎだよ~」


 もっとも過ぎてぐうの音も出ない。

 厄除けの御払いに行くべきだろうか。


「んで、サッちゃん、今度は誰にやられたの? 今度こそ、そいつ殺しに行くから教えてー?」


「俺はもう大丈夫ですから、どうか気にしないでください」


 このお姉ちゃん、本当に殺しに行きそうだから、ある意味ナックルダスターを使うより抵抗を感じる。


 そんな鞠莉さんは、美架那さんと目が合う。

 しかも、なんか表情が怖い。


「……随分と綺麗な子ね? まさか、サッちゃんの彼女さん?」


「いえ、私は三年生の神楽 美架那です。サキくんとは、そのぅ……大切なお友達でしょうか」


 言葉を選びながら美架那さんは答える。


 大切なお友達か……後輩の俺が彼女にそう思われているなんて、とても光栄なことなんだよなぁ。


 ましてや恋愛感情なんて……とても。


「そう、ウチは鞠莉っていうの。マリーでいいよ、よろしくね」


「はい、マリーさん」


 基本、誰にでも好かれやすい美架那さん。

 ブチギレたらやばい、鞠莉さんとの会話でも安心して見ていられる。


「姉貴のことはほっといてよぉ。こんな事態になっちまっているし、これからの対策とかみんな集めて話合った方がよくね? 俺の家でよければ貸すぜ」


 リョウは提案してくれる。

 隣で鞠莉さんは「んだと、コラァ!」とキレていた。




 それから俺とリョウでみんなを呼び出した。


 まず先に帰っていた、愛紗と麗花と詩音の三人が血相を変えて、リョウの部屋に入って来る。


「サキくん、大丈夫!?」


「ああ、愛紗、俺は大したことないよ……天馬先輩が身体を張って守ってくれたからね」


「サキ~、ごめんね~。やっぱり一緒に帰ってあげればよかったね……」



「そうね……私が詩音を呼び止めなければ……ごめんなさい」


 何故か詩音と麗花が謝ってくる。

 確かに堅勇先輩は女子が傍にいたら手をあげないらしいからな。


 けど万が一ってこともある。


「二人共、そこは謝るところじゃないよ。寧ろみんなに何かあった時の方が問題だよ」


「それに謝るのは俺の方だぜ……神西を守り切れなかったからな」


 顔中に絆創膏だらけの天馬先輩が頭を下げてくる。


「いえ……わたし達、三人とも勇磨先輩には感謝しています。身を挺してサキくんを守ってくれたのですから……」


「南野……ありがとう」


 愛紗の癒しスマイルに、天馬先輩は瞳を潤ませる。

 少なくても俺達と天馬先輩の溝はすっかり埋まったと思う。


「堅勇、それに茶近のことは、私達三年生がなんとかするわ……今、勇魁とアムちゃんも呼んでいるから」


「勇魁さんと亜夢さんも?」


 俺の問いに、美架那さんは頷く。


「既にシンが迎えに行っている筈だぜ。俺の部屋じゃ、すし詰め状態になっちまう。姉貴がいるが、多少ヤバイ話してもそんな害はねぇからリビングに移るか……」


 リョウが提案し、みんな頷く。


 そんな中、詩音がやたらそわそわしている。


「ふ~ん、ここがヒノッチの部屋なんだね~、おっしゃれ~♪」


 悔しいが大人っぽくカッコいい部屋だと思う。

 元とはいえ、ヤンキーって自己陶酔するところがあるからな……美的センスにありふれているんだろう。


「そういや、みんなウチに来るの初めてだったな?」


「チナッチ(千夏)も家に来るの~?」


「い、いや……まだだ……姉貴がいちいちうっせーからな。そこが今後のテーマだ」


 ってことは、千夏さんは鞠莉さんと対面したことはないのか?

 彼女さんなら可愛くて大人しいし問題ないと思うけどな。


「ねぇ、ヒノッチ~」


「なんだい、詩音ちゃん」


「ヒノッチもエログッズ、どっかに隠しているの~?」


「はぁ!?」


 詩音、おま……何、聞いてんの!?


「やめなさい、詩音! 火野君に失礼よ! ごめんなさい、この子、変なところばかり興味があって」


 麗花が保護者のように謝罪している。


 リョウは苦笑いを浮かべ「構わねーよ」と呟く。


「そうだよ! サキくんのだって未だに見つかってないでしょ! きっとそんなの持ってない筈だよ!」


 いえ、愛紗さん。

 少なくても俺は所持しています。

 夏純ネェにもわからない場所に封印しているだけです、はい。


 にしても俺が不在の間、家で何されてんだ?



 それから間もなくして。



 シンに付き添われる形で勇魁さんと亜夢さんが訪れる。


 俺達はリビングへと場所を移し、ソファーに腰を下ろした。


「天馬様……なんて、おいたわしい。本当に大丈夫なのですか?」


「ああ、亜夢ちゃん。こんなの大したことねーよ。心配かけて悪かったな」


 片想い中の亜夢さんと天馬先輩のやり取り。

 俺的には案外お似合いのように思う。

 美女と野獣っぽくて。


 まぁ、そこはまだ良かったのだが――。


「みんな年頃で凄く可愛い子ばかりだね……んで、誰がサッちゃんの彼女なの?」


 鞠莉さんは一番隅のソファーに座り呟いている。

 何故か拳をボキボキ鳴らして顔つきもおっかない。


 言われてみれば、二年生最強の三美神に、三年生の二極の女神が同じ屋根の下で集まっているのだから凄い絵面には違いない。


 つーか、鞠莉さんはどうしてなんでもかんでも俺に繋げてしまうわけ?

 二年生以外は違うんですけど。


「みんな~、姉貴のことは放置してやってくれ……。それより本題に入ろーぜ」


 リョウが話を進めてくる。鞠莉さんは仏頂面だが、まだブチギレてこないだけましだと割り切りことにした。


「予想が確信になってしまったからな。こうして怪我人も出ているんだ。普通に警察沙汰にした方がいいんじゃないか?」 


 意外にもシンが真っ先に提案してくる。

 最もな話だが、ずっと『王田 勇星』の暗殺者アサシンっぽいことしてきた癖によく言い出してきたなっと思った。


 シンよ。お前だって普段から暗器を隠し持っている危険人物だからね。

 けど、こいつも親友なので口には出せないけど。


「そいつだけは勘弁してくれねーか。俺のことに関しては問題ねえ……堅勇は変人だが性根までは腐ってねえ。まだ救えるところもある筈なんだ」


 一番の被害者である天馬先輩が堅勇先輩を庇っている。

 あれだけ滅多打ちされたってのに……やっぱり自分の仲間を『家族以上に大切にしている』って言っていたが本当なのだと思った。


 だからこそ余計にいたたまれない。


 堅勇先輩は天馬先輩の気持ちを理解しているのだろうか?


「僕は神西君に見逃してもらった身だからね……堅勇をどうしたいかは神西君次第だと思う」


 勇魁さんは俺を見つめながら委ねて来る。

 大分ダメージが回復しているようだが、まだ万全ではなさそうだ。


 それよりも――。


「俺としては、もう一人の先輩がいなかったことが気になるのですが……」


「もう一人の先輩? 茶近かい? 彼は自分の手を汚さないタイプだからね。大方、堅勇を丸め込んで襲うように仕向けたんだろう」


 勇魁さんの推測に、俺はどこか腑に落ちない感情が芽生える。


「――以前の暴走族を壊滅に追い込むきっかけを作った『彼女』さんのような嘘ですか?」


「彼女……堅勇の? ああ光石みついしさんのことだね」


「光石さん?」 


「同学年の『光石みついし 琴葉ことは』さんっていう女子だよ。堅勇と今も付き合っている彼女の一人だ。確か、亜夢と同じクラスだったね?」


「はい、お兄様。とても真面目な方で中学の頃にせよ、そういう方達と付き合いのあった人とは今でも信じられませんわ」


 まさか同じ学校内にいたのか……。


「その光石って人の嘘をきっかけに、堅勇先輩はフェシングから遠のいたと聞いています。ですが本人は特に気にされている様子はなく、逆に武勇を誇るように笑っていました」


「普段、自分からはその話をしない奴だよ。それこそ普段は変人ナルシストの方が気が楽でしっくりいっているようだ。但し、内に秘めた攻撃的な気性は僕らの中では最も強かった男だ。天馬と違って起伏がわからない分、タチが悪いと思っていたがね」


「悪かったな、勇魁。わかりやすくてよぉ」


「そこがキミの良いところだと褒めたつもりなんだけど……」


 冗談っぽく言いながら、勇魁さんと天馬先輩は軽く笑みを零している。

 すっかり和解し良い親友となっているようだ。


 堅勇先輩もレールさえ踏み外さなきゃ今からだって……。






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