第165話 異常なフェミニズム
「……神西、まだいたのか? せっかく天馬が盾になったのに、間抜けな奴だ」
堅勇先輩は鼻で笑い吐き捨てた。
俺はしゃがみ込み、天馬先輩のダメージを確認する。
蚯蚓腫れのある見た目と違い損傷自体は少ない。
目などの致命的になりそうな急所は綺麗に外れている。
額から血が流れている。やはり最後の額への打突が致命的になったようだ。
「このサーベルは競技用じゃない。
「そんな危険な凶器で、
俺は堅勇先輩を睨みつける。
「もう勇魁から聞いているだろ? 中学の頃から、ボクらに友情なんてない。ただ利用し合うだけの間柄だ。そんな利用価値もない奴、最早どうなろうが構わない。邪魔をするなら排除するまでさ」
「ふざけるなよ!」
立ち上がりファイティングポーズを構えた。
ふと制服のポケットの中に、『ナックルダスター』が入っていることを思い出す。
――武器を使って人を殴る。
その行為に抵抗を感じてしまう。
前にシンが言ってくれたように牽制する目的なら……。
俺はポケットに手を入れ、左手の指にナックルダスターをはめた。
「メリケンサック? ほう、生徒会副会長の癖に、そんなモノを持ち歩いていたとはな……十分、やる気じゃないか?」
堅勇先輩は臆するどころか、ニヤッと喜悦の表情を浮かべる。
再び
こうして直視すると、より撓って曲がって見える。
一見、
縦横無尽振るわれる、まさに『鋼の鞭』――そう言わざるを得ない。
特に街路灯だけの明かりだと、余計に視界が悪いと思った。
ビュン!
突如、空を切る音。
ビシッと左頬に鋭い痛みが走る。
「痛ッ!?」
俺は下がり距離を置く。
もう攻撃された?
予備動作が少なすぎて、いつ剣を振ったのかわからない。
細い鉄の棒で打たれたような痛み。
攻撃された直後より、後になったほうがじんじんと痛みが増してくる。
王田 勇星の木刀も危険だったが、あの剣も相当タチが悪い。
おまけに実剣ではないにせよ、実戦で使用するようカスタマイズされているようだ。
つまり辛うじて刃がついてないだけの刀剣と変わりない。
あの高速攻撃で後手の対応は危険すぎる。
二~三撃のダメージ覚悟で突っ込みたいが、最小の動きで繰り出される剣撃の引き返しが早すぎて、こちらの射程距離に入る前にすぐに体勢を整えられてしまうだろう。
まるで異質で想定外の相手……。
――どう戦う?
「神西、これから粛清する前に一つ聞く……キミはミカナのことをどう思っている?」
「……どういう意味です?」
「さっきの天馬とのやり取り聞いていただろ? ミカナ本人は気づいてないが、キミを異性として意識している節がある。もしそうなった時、どうするつもりだと聞いている」
「そんなの急に言われてもわかりません。俺達後輩達はみんなミカナ先輩には数えきれない恩がある……自ら人柱になって貴重な学生時代を犠牲にしてまで、あんた達の暴走を抑えてくれていたこと。特に鳥羽先輩、あんたを見ていると余計にそう思えますよ!」
「フン! ボクはまだいい方だと自負するよ……世の中、上には上がいるものさ」
「なんだって!?」
「それより話を反らすなよ。ミカナから告白されたら、キミはどうするつもりだ?」
「……わかりません」
「何?」
「天馬先輩にも言ったけど、俺自身もまだ答えを出せていない……それを飛び越えてミカナ先輩とどうこうなるはあり得ない。ずっと待ってくれる彼女達への侮辱になるから」
「彼女達? 三美神の子達か?」
「……そうです」
「なるほどね……」
堅勇先輩はレイピアの切っ先を下に向ける。
彼の様子から攻撃する意思が薄れたように感じた。
「鳥羽先輩、俺からも聞いていいですか?」
「構わんよ」
「どうして、今になって俺を襲おうとしたんです? 機会ならいくらでもあったような気がするのですが……」
「ないよ」
「え?」
「神西、キミはいつも女の子に囲まれているじゃないか? レディ達の前でキミをボコったら、彼女達が悲しむだろ? ボクはどんな理由があっても女子は泣かせないと決めているんだ」
やはり堅勇先輩は女子を大切にするフェミニストだ。
少し変態っぽいけど、そこだけは憎めない。
「いつも彼女達が傍にいるとは限らないですよ」
「男子だと火野と浅野だろ? キミを含めた二対一で勝てるほど自惚れていない。あと会計の髪の長い男子……彼は弱そうだが、何か異質なモノを感じる」
黒原のことか……あいつは意外と強かだからな。
おまけに自分の存在を消せるし。
堅勇先輩は話を続ける。
「今日は一番ベストだと判断した。ボディ・ガードは天馬だけだからね。たとえ二人掛かりだろうと造作もないと判断し、奇襲に至ったってわけさ」
「そこまでして、俺を……ミカナ先輩を奪うために?」
「そうだ。それもさっき言った通り、ミカナのためなら自分のファミリーを捨てる覚悟がある。勿論、付き合っている彼女達を泣かせるような真似はしない。誠意を込めて説明し、生涯ミカナだけにする。彼女達が納得してくれれば、ボクはずっと彼女達を守ってあげたいと思っている……誠実な
本当に女子には寛容な先輩だ。
それだけに違和感を覚える。
特に、堅勇先輩の過去において――。
「鳥羽先輩は今も付き合っている彼女さんの一人の『嘘』によって暴走族チームを壊滅に追い込み、有望視されていたフェンシングの世界から追放されたって聞いています」
「ほう、キミの耳まで届いているとはね。まぁ、いい……けど語弊はある。実際は追放までされていない。しばらく公式の試合に出られなくなっただけさ……続けられる気になれば続けられたけど、ボクの方が飽きてしまいその気持ちがなくなった、ただそれだけの話だ。それで?」
「本当は予め嘘だって知ってたんじゃないですか? 待ち伏せするような周到な人が見抜けない『嘘』とは思えない。俺には鳥羽先輩が知った上で、いいように利用されているとしか……」
「――知ってたさ。けど、元彼の総長が彼女に付きまとっていたのは事実だ。ボクは舐められないよう連中をシメただけにすぎない。ファミリーなんだから、それくらいの嘘はかわいいものだろ? おかげでファミリー達にナンパしてくる男達は、ボクの名を出せば、この街では大抵逃げていくようになったらしいよ……フフフ」
まるで武勇として誇らしげに語り不敵に微笑んでいる。
堅勇先輩にとって、フェンシングとは自分の強さを知らしめるだけの手段に過ぎないのか?
やり方はどうあれ、女子達を自己満足の道具としてしか見ず、親の財力で好き放題のセフレが多かった『王田 勇星』や『遊井 勇哉』と明らかに異なる。
――異常なフェミニズム。
だが共感を覚える。唯一、そこは認めてもいい。
しかし……。
「鳥羽先輩、俺はあんたに屈するつもりはない! たとえ、あんたにとっては表面上の関係だったとしても、仲間思いの天馬先輩をこんな目にあわせたことは許せない!」
「だったら、ボクを止めてみろよ。こっちは最初から引く気はない」
ヒュン!
堅勇先輩はレイピアの切先を俺の鼻先に向けてくる。
軽く動かしただけで、空を斬る威力。
遠心力も重なり、まともにヒットしてしまうと、左頬のような痛みが襲う。
やっぱり、あの剣撃を見切り躱すのは不可能だ。
こうなりゃ顔以外なら当てられるのを覚悟で突進し、こちらの射程距離でカウンターを浴びせる。
ナックルダスターを使えば、得意の顎先へ高速ジャブの一撃で終わるだろう。
しかし武器を使って人を殴ることに抵抗がある。
クソッ。
迷っている場合じゃないってのに……。
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