第164話 ナルシスト勇者の襲撃
俺達の前に姿を見せた、堅勇先輩はフッと笑う。
「天パゴリ……いや天馬、どうしてボクの存在がわかった?」
今、天パゴリラと言おうとしたぞ、この先輩。
「いつもオメェが付けている香水だ。ふと匂ったんでな……相変わらず独特の鼻につく臭いだぜ」
「有名ブランドだよ。某俳優も愛用している代物だ。相変わらず、キミはボクより金持ちの癖にそういうモノには疎いな……しかし鼻が利くのは理解した。凶犬がすっかり神西の番犬に成り下がったってわけだ」
「これが俺なりのけじめだ。神西には散々迷惑を掛けちまったからな……特に俺らの問題で、これ以上巻き込ませねぇよ!」
「俺ら? ミカナの問題じゃないのか?」
「勿論、ミカナも巻き込ませねぇ……今のまま普通の女子高生として卒業させてやりてえ」
「無理だな。お前が……勇磨財閥の御曹司とつるんでいる限り、たとえ男女の関係がなかろうと、彼女は周囲からそう見られてしまう。天馬、お前は彼女にとっての
「かもしれねえ……だからこそ、『勇磨財閥』を抜きで俺のやり方でミカナを支えていく。仮にミカナが他の男を好きになっても仕方ねえ! 振り向いてくれなくても、俺が後悔しないよう納得いくまで、あいつを支える……俺の『師匠』からそう学んだんだ!」
「師匠?」
あっ、黒原ね。
でもそれ、エロゲーネタの引用らしいっすよ。
「堅勇。お前こそ何故、学校を休んでいる? その格好はなんだ?」
「決まっているだろ――」
堅勇先輩はニヤッと微笑み、右手で握っていた布包の中を開封する。
とても細長く鍔やグリップなど独特のフォルムを持つ刀剣。
――レイピア。
フェンシング競技で使用する剣と同等の代物。
切先は尖ってなく丸みを帯びている。実剣ではないようだ。
ちなみにスポーツとしてフェンシングが使用する剣は『フルーレ』『エペ』『サーブル』の競技で使用する剣の形状が異なっているらしい。
堅勇先輩が披露したレイピアは何に該当するのかわからない。
ただネットでみる競技用より、一回りくらい太く頑丈そうに作られているような気がする。
「神西 幸之を粛清するためだ」
堅勇先輩は堂々と言い切った。
最早、普段の変人ナルシストの風貌は微塵も感じない。
それこそ
「勇魁が言った通り、やはりテメェら神西を狙っていたのか? まさか、お前が自ら闇討ちと仕掛けようと待ち構えているとはな……」
「元々、ボク一人さ。噂通り暴力団の後ろ盾でもあると思ったのか? んなわけないだろ? 多少影響力があるのは、あくまで祖父だけ……ボクらファミリーはノーマルだよ。勿論、拳銃なんて手に入らないさ。そう匂わせるよう、キミ達の安易な戯言に付き合っていただけさ……誰にも舐められないようにね」
「お前、舐められたことねーだろ? 女癖の悪さで変人扱いはされているけどよぉ」
「舐められるとはそういう意味じゃないよ。ボクが舐められないようにするのは『ファミリー』のためさ」
「ファミリー? 付き合っている女達か?」
「そっ、ミカナもファミリーに入ってもらう……いや彼女が望めば、ボクがミカナのファミリーに入る。何もかも捨ててもな。ボクにはその覚悟がある」
「ミカナ本人がそれを望んでねーのに無理があるだろ? それに神西を粛清しても、ミカナが靡くわけねーだろ?」
「天馬、お前だってもう気づいている筈だ――ミカナは神西のことが好きだってことを」
え? なんだって!?
あの美架那さんが俺のことを……。
俺は天馬先輩の顔色を窺う。
先輩は特に表情を変えることなく、ただ黙って堅勇先輩を凝視している。
「…………かもしれねぇ。本人は、まだ気づいてないようだけどな」
「意外だな。それだけ理解していて、何故、神西側につく? 少し前のお前なら、問答無用で神西に噛みついただろ?」
「噛みついたさ、もう牙がボロボロになるほど十分にな……その結果が今の俺だ。きっと勇魁だってそうだぜ……結局、神西の強さとミカナが惹かれちまう理由を思い知らされちまっただけだ。今の俺達じゃ、逆立ちしても神西の優しさや心の広さには及ばないぜ」
「認められないね……いや認めるわけにはいかない。ミカナは誰にも渡さない!」
堅勇先輩はレイピアを構え、切先を俺に向けてきた。
すかさず天馬先輩は俺の前に立ち、堅勇先輩と対峙する。
「やめろ、堅勇! 神西に手を出すなら俺が相手だ!」
「変わったな天馬……いや、元々そういう奴だったかもな。考えてみれば、キミとこうして気持ちをぶつけ合ったのは初めてかもしれない。キミだけじゃない……勇魁や茶近もそうだ。みんな似たような境遇ってだけで一緒にいるだけの集まり……誰もが腹に一物を抱えたままの関係でな。そうだろ?」
「堅勇……」
「しかし、
堅勇先輩は怒号を放ち、右手に握るレイピアを撓らせる。
ビュン!
「ぐおっ!」
ピンポイントで、天馬先輩の喉元を突き、素早く剣を引いた。
堅勇先輩は独特のフェンシング
最小の動きで高速に放ち、しかも精密に相手の急所を突き刺す。
前にシンが話していたように恐ろしい剣技だ。
「がはっ……テ、テメェ!」
天馬先輩は喉元を押え屈んでいる。
真剣だったら間違いなく即死だ。
堅勇先輩は構えを維持したまま、冷たい視線を向ける。
「やめておけ、天馬。お前の柔道技じゃ、ボクには勝てない。今の突きだって浅く手を抜いてやった方なんだぞ」
今のが手加減した方だってのか!?
ボクシングで鍛えた俺でさえ、剣筋が見えなかったぞ!
「ひ、引くに引けないと言ったのはテメェだろーが。俺だってそうだ……仮初にせよ、長年一緒につるんでいた以上、やりたい放題してきた俺にも責任はある! もう俺達のことで誰にも巻き込ませねぇ!」
「天馬先輩……」
「神西、お前だけでも逃げろ! こいつは俺がなんとかする!」
そう叫び、天馬先輩は駆け出した。
掴める距離まで接近するつもりだ。
「なんだ? 今更、懺悔のつもりか……馬鹿馬鹿しい!」
堅勇先輩は鼻で笑い、レイピアを振るう。
バシィ、バシィっと容赦なく、天馬先輩の顔面や手の甲を何度も叩きつける。
極細の剣身から繰り出される攻撃は、一見して軽い一撃のように思えるが決してそんなことはない。
その高速で放たれる斬撃は撓りを利かせた鉄製の鞭である。
特に『突き』が最も危険であり、実剣でなくても部位によっては簡単に皮膚を貫き、身体の重要器官に達す可能性もあるだろう。
堅勇先輩は巧みなフットワークで距離を保ち、正確に顔面や肌が露出した部位に叩き込んでいる。
「ぐっ、おおお……」
必死に距離を詰めようとする、天馬先輩だったが目にも止まらない連撃に次第に足取りが止まっていく。
一方的な滅多打ち――。
顔面から首と手の甲にかけて、無数の線を帯びたような蚯蚓腫れとなっている。
このままじゃ天馬先輩が危ない!
俺は加勢しようと何度も思考が過るも足がすくんで動けない。
仮初だったとはいえ、長年一緒に過ごした友人に対する仕打ちではないと思った。
――異常なほどの狂気じみた暴力と攻撃性。
俺は『鳥羽 堅勇』という先輩に対して、初めて心の底から畏怖している。
それはこれまで関わってきた連中にさえ、抱くことのなかった感情だった。
「――トドメだ!」
堅勇先輩は躊躇することなく、天馬先輩の額中央部に打突を浴びせる。
ガッ!
「がああぁぁぁ――!」
天馬先輩は叫び声を上げ後ろに倒れる。
気を失ったのか動かなくなった。
「天馬先輩!?」
俺はようやく金縛りが解かれたかのように、天馬先輩の下へと駆け出した。
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