第163話 天パ先輩との帰宅
「あっ、いけねーっ」
次の日、学校の教室にて。
俺は制服の上着ポケットに『ナックルダスター』が入っていることに気づいた。
昨日部屋で素振りして、そのままポケットに入れてしまったようだ。
生徒会の副会長が学校内に凶器持ち込むって……確実にやばいよな。
ここは家に帰るまで、しれっとしていようと思った。
ちなみに朝の登校は、天馬先輩に迎えに来てもらっている。
愛紗と麗花と詩音、それに近所に住んでいるリョウに囲まれ、随分と賑やかな大所帯になってしまった。
美架那先輩は終業式までバイト漬けらしい。
あと二日で二学期も終わるからな。
このまま何事もなければいいんだけど……。
「サキ~、冬休みどこ行くぅ?」
放課後、生徒会室で詩音が聞いてくる。
「え? 何も考えてないけど……寒いから、トレーニング以外は家で過ごそうかと」
「みんなでどっか行こーよ。ニコりんも来るんでしょ?」
「そういや、ニコちゃんから連絡来ないな……受験生だから案外今年は来られないかもしれない」
夏純ネェとはやり取りしているみたいだから、家に帰ったら聞いてみるか。
「サキくん、私はこれから黒原君と軍侍さんの三人で、明後日の生徒総会の報告資料作るから先に帰ってね」
「わかったよ、麗花……俺も手伝おうか?」
「いいわ。本当は会計だけで済む仕事だけど、軍侍さんに色々と教えてあげたいしね」
麗花は詩音と違い、次期生徒会の担い手として路美を大切に育てたいと思っているようだ。
「ありがとうございます、生徒会長」
路美も笑顔で応えている。この子も詩音との対応が異なり、麗花を尊敬しているようである。
「まぁ、僕はハーレムなので別に構いませんが……フフフ」
わざわざ俺の背後に回り耳打ちしてくる、黒原 快斗。
そして副会長の俺は、当日の挨拶や司会進行が役割のようだ。
「わかったよ。それじゃお言葉に甘えて先に帰らせてもらうよ。愛紗、詩音行こ」
「サキくん、わたしね、帰りに自分の家に寄りたいの。今日、お母さんが病院休みだから夕食くらい作ってあげようかと思って」
「そっか……そうした方がいいね。わかったよ、詩音はどうせ何もないだろ?」
「何、その『お前、どうせ暇だろ?』みたいな言い方。サキらしくないよ」
「ご、ごめん……言い方が悪かったよ」
真顔で怒られてしまった。しかも口調も普通だから本気で怒っている証拠だ。
俺が丁寧に謝ると、詩音の表情が緩み笑顔になる。
「いいよ~、サキ~。一緒に帰ろー♪」
そのまま俺の腕に抱き着いてきた。
変わり身の早さに思わず苦笑いを浮かべてしまう。
まるで気まぐれな子猫のように翻弄されているようだ。
「北条先輩! 生徒会室でそういうのやめてもらえます!? サキ先輩が困っているじゃありませんか!」
「何よ~、ロミロミ。サキが困るわけないでしょ~? ねぇ、サキ~」
「いや、路美が正しいぞ。みんなの目もあるんだから離れてくれよ」
「じゃあ、下校中ならいい~? 天パイセンなら細かいこと言わないしょ~?」
「え? まぁ、そうかもしれないけど……」
基本、あの人は美架那さんオンリーだからな。
逆に安心してくれるかもしれない。
詩音とデート気分も満喫できるか……。
少し揺らぎ始めてしまう。
しかし。
「詩音、貴女も庶務として一緒に残って手伝いなさい!」
「ええーっ! レイちゃん、どうして~!?」
「なんかイラっとしてきたからよ! いつも貴女だけ人前で堂々と、サキ君に……」
「そうですよね! 東雲会長、流石です!」
麗花と路美は公私混同で共闘する。
流石の詩音も何も言えず渋々了承した。
ん? ってことは、帰るのは俺と天馬先輩の二人?
別にいいんだけど、なんか微妙だな。
「シンはどうする? 一緒に帰るか?」
「いや、俺は勇魁さんと亜夢さんと一緒に帰る。あの人達のボディ・ガードも含めてな」
「勇魁さんのボディ・ガード? いる?」
あの人、ジークンドーの使い手で滅茶苦茶強いじゃん。
「怪我も大分回復したようだが、まだ完全じゃないようだ。今襲われたら、あの人とて危ないだろう……残り二人の『勇者四天王』とやらも、サキに手を出せない状況なら、腹いせに勇魁さんに矛先を向けるかもしれない」
そうかもしれないな……つい最近まで裏で繋がっていたんだからな。
俺を狙っている勇者四天王の二人こと、『鳥羽 堅勇』と『勇岬 茶近』から標的にされても可笑しくないか。
考えている中、生徒会室の扉が開けられる。
天馬先輩がわざわざ迎えに来てくれた。
「――神西。終わったんなら、そろそろ帰るぞ」
「あ、はい。んじゃ俺、先輩と先に帰るわ。みんな何かあったら連絡してくれ」
「わかったぁ。サキくんもだからね」
愛紗達が温かく見送ってくれる中、俺は生徒会室を出て天馬先輩と下校することにした。
時刻はまだ夕方だが、今時期は陽も早く沈んでしまう。
ほとんど夜中と変わらない暗さだった。
けどまさか、この先輩と二人っきりで帰る日が来るとはな……。
少し前じゃ絶対に想像できない絵面だ。
出会った当初は、本当に狂犬みたいで大嫌いだったけど、和解してみると凄く漢気の溢れる先輩だと思う。
リョウがよく「どこか憎めない」という言葉も今なら納得できる。
「神西は将来何になりたいとか考えているのか?」
帰宅途中、天馬先輩が何気に聞いてくる。
「え? まだ何も……とりあえず目の前の課題をひたすら頑張っているだけです、はい」
「そうか。就職とか困ったら俺のところに来い。面倒をみてやる」
「は、はぁ……その時はお願いします」
何か俺、すっかりこの先輩に気に入られてしまったのか。
勇磨財閥の後ろ盾が得られて安心できるけど、何か微妙に思える……。
自分の将来は自分の意志で決めて実力で得たいものだ。
いや、それ以前に――。
俺の気持ちもはっきりさせないと。
愛紗、麗花、詩音。
三人が泊まりに来てくれるようになって、一緒に過ごす時間が増えるたびに益々迷走してしまう。
彼女達のことを知れば知るほど……。
けど答えを焦っちゃいけない。
せめて高校を卒業するまで今の関係を楽しみたい。
愛紗達がそれを望んでくれている限り、俺もそう思うようにしている。
人気がなく電柱に設置された街路灯が煌々と照らされる路地へと入った。
辺りは静かで、どこか不気味な感じがする。
隣に天馬先輩がいなければ、ちょっぴり不安だったかもしれない。
「そうそう、天馬先輩。今日も『鳥羽先輩』と『勇岬先輩』は学校に来てないんですか?」
「ん? 堅勇と茶近か……ああ、今日も学校をフケている。連絡にも出やがらねぇ……一体何を考えているやら」
精悍な顔つきに、少し困惑した表情を覗かせる。
「二人とも中学から一緒なんですよね? プライベートとかで遊んだこととかなかったのですか?」
「四人でつるむことはあるが、学校外で個人的にどこか行く仲と言ったら勇魁くらいかな。『堅勇』は目的が合えば同行くらいはしてくれるが、特に『茶近』はのらりくらりしているから何を考えているかわからない……まぁ、勇魁から長年あいつが俺に抱いていた胸の内は聞いているからな……信じたくはないが、実際こうして学校に来なくなったってことはそういう事なんだろう」
天馬先輩は寂しそうに語ってくれる。
ずっと大切にしていた仲間達が、実は自分をいいように利用して陰で嘲笑っていたとは、なんとも酷い話だ。
確かに強引な天馬先輩のやり方にも問題はあったのだろうし、一番は表面上だけの浅く利益だけの友達付き合いでしかなかったことだろう。
勇魁さんみたいにお互い腹を割って話し合う場を取り持って、あの二人と和解することはできないのだろうか?
まぁ勇魁さんの件も、俺が戦って勝ち主導権を握った上で、初めてそうなることができたんだけど。
じゃあ結局、あの二人と戦う羽目になるのだろうか……。
そう思いながら歩いていた時だ。
ふと、天馬先輩の足取りが止まった。
片手で俺の腕を掴みぐっと引っ張る。
「先輩?」
「神西、後ろに下がってろ……」
「え?」
俺は意図がわからず首を傾げる。
対して天馬先輩の表情は普段に増して真剣だ。
「出て来いよ、堅勇!」
天馬先輩が叫ぶと、すぐ目の前にある電柱の影から男が一人現れた。
背が高く、顔の彫りが深い整った容姿で、長い金髪を後ろで束ねている。
服装は上下黒のパーカーを着こんでおり、右手に布で包まれた長く細い棒のよう物が握られていた。
――間違いない、この男は『鳥羽 堅勇』だ。
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