第162話 結成、真勇者を守る会
「ミカナさん、結局は二人の先輩に会えなかったんですよね?」
「そう、理由はわからないけど堅勇も茶近も学校に来てないわ」
「俺も連絡してみたが野郎共は出やがりもしねぇ。まぁ普段も無視されることが多い連中だから、俺からやり取りすることはねぇからな」
リーダー格の天馬先輩からでも無視されるのかよ。
そりゃ本当に上辺だけで、ただ一緒にいるだけの関係だな。
「――僕からは警告だけはしておいたよ」
ドアを開けて、顔を覗かせる勇魁さんと亜夢先輩。
俺に受けたダメージが痛々しく、顔中に絆創膏とガーゼが貼られている。
まともに歩けない様子でもあり、妹の亜夢先輩が肩を貸していた。
「勇魁さん?」
「今後、神西君に手を出すなら、僕と天馬が相手になるとね」
「勇魁さん、それって逆に相手を挑発していることになりません?」
麗花が聞いてくる。
「いや、自分達が不利な立場だと思い知らせないと、あの二人を止められないよ。基本、利益云々で動く奴らだからね……天馬とは違う」
「勇魁の言う通りだ。だが見ての通り、勇魁はこんな状態だからな。自業自得とはいえ、とても神西を守れる状態じゃねぇ。だからしばらく俺が神西の傍につこうと思っている」
「傍につく?」
「学校の送り迎えとか、まぁボディガードみたいなもんだな」
「え? 天馬先輩が?」
「そうだ。俺がお前を守る……それが、俺だけのやり方でミカナを支えることになると思っているんだ」
「天馬がそう提案してくれて、私も嬉しくてね。だから、こうして来たのよ。私もみんなに守られる分、私達もみんなでサキくんを守ってあげる」
「神×神コンビのウィンウィンだね……僕も傷の回復次第、参加するよ」
「お兄様……」
亜夢先輩が嬉しそうに兄を見つめる。
勇魁さんは微笑みながら、妹の頭を撫でている。
本来は仲の良い双子の兄妹のようだ。
「けど、どうしても一人だけ許せない奴がいてね……そいつだけは探して『粛清』してやろうと思っている」
「え? 勇魁さん、誰ですか?」
「僕らを『四天王』とか『女神』とかふざけたネーミングをつけた奴だよ。ようやく二年生の誰かまで突き止めたんだ。卒業まで、なんとか炙り出せるだろう」
「勇魁、そいつだけは許可するわ。ギッタギッタにしてやりましょう!」
「勿論だよ、ミカナ」
「ヒィィィィヤァァァァァァァァッ!!!」
突然、絶叫する黒原。
目を大きく見開き、まるで表情が劇画やホラー漫画っぽく青筋と影を帯びている。
「どうした、師匠? そうか師匠も俺達と一緒に、そいつにヤキ入れてやろうぜ!」
「……ぼ、暴力反対ですぅ! そうですよね、生徒会長!? それに平和を望む女子の皆さん!?」
「勿論よ。でも、先輩に対しての無礼もあるわ……それに学校外なら関与できないしね」
「まぁ、幕末なら間違いなく無礼討ちだね~、にしし♪」
「可哀想だけど……わたし達も色々言われてきたからね……」
黒原は意見を求めるも、麗花と詩音、さらに愛紗までも肯定的な意見が聞かれる。
シンには聞くまでもないだろう。
「……ふ、副会長は!?」
「え? まぁ、愛紗じゃないけど、俺も『寝取りの神西』とか言われたからな……ミカナ先輩達が許せないと思う気持ちもわかるよ」
「それは僕じゃないですからね!?」
「え?」
「……いや、なんでも!(危ねぇ! 地雷を踏むところだったぞ……こうなりゃ、三学期は姿をくらますしかないか!?)」
黒原の奴、意外とと平和主義者なんだな。
うん、少し見直したぞ。
「先輩達、俺のために配慮してくれてありがとうございます!」
俺は皆さんに向かって頭を下げる。
素直に先輩達の心配りが嬉しかった。
「礼は礼は不要だぜ、神西……俺らもお前に救われて、ここに集まってんだ」
「こちらこそ、キミに散々甘えさせてもらって感謝している。全てを晒したことで、すっきりした気分で卒業できそうだよ」
「本当に、サキくんには感謝しかありませんわ……」
「だから堂々と胸を張ってね、サキくん」
天馬先輩と勇魁さんと亜夢先輩が笑顔を向けてくれる。
そして美架那さんも昨日と打って変わって表情が凄く明るくていい感じだ。
きっと天馬先輩と勇魁さんが和解して、二人が俺を守ることに動いてくれて嬉しいんだろうな。
亜夢先輩とも、より友情が深まったように見える。
それに俺も凄く頼もしい味方が増えて安心するよ。
なんか三年生同士が真っ二つに分かれて複雑な心境はあるけど、良い流れで来ているのも確かかもしれない。
やっぱり俺は今のスタンスを貫いてもいいと思う。
無論、みんなの協力を得た上でね。
こうして、俺は天馬先輩のボディガードで家に帰ることになった。
「……なんだぁ。天パイセン、リムジンの送迎じゃないんですね~」
帰宅時、徒歩で歩く俺達に詩音が残念そうに呟く。
ところで『天パイセン』って天馬先輩のことか?
怖いモノ知らずか、この子……。
ちなみに帰宅メンバーは俺と愛紗と麗花と詩音、美架那さんに天馬先輩で歩いている。
「北条、俺が神西に力を貸すのは、あくまで俺自身の力だ。勇磨財閥は関係ない。それはそれで考えてくれ」
「ちぃーす」
「私は天馬の心意気に賛成よ。っていうか初めて見直したわ」
何気に毒を吐く、美架那さん。
「ああ、こういう気持ちになれたのも全て神西と師匠のおかげだ……その恩返しだと思ってくれ」
確かに天馬先輩は凄く変わったと思う。
出会った当初はいきなり殴りかかる凶犬みたいな最低な印象しかなかったけど。
今じゃすっかり頼もしい先輩であり味方だ。
「しかし、神西……ミカナからある程度話を聞いているが、本当に東雲達まで泊まりに来ているんだな?」
「ええ……でも、本当にやましいことは一切ないですからね」
たまにちょっとイチャって感じになるくらいでして……はい。
「まぁ、そうとも聞いている。みんなお前の優しさに惹かれているんだろうな……今ならわかるぜ。だが世の中には、それをやっかむ連中もいるからな、気を付けろよ」
「……わかってます。全て覚悟の上で頑張っているつもりです」
一学期初めの俺じゃ考えられないほど、成長していると自負もしている。
けど、一人の努力じゃない。
いつも俺の傍にいてくれる三人とリョウとシンの友情に支えられながらの成長だと思っている。
天馬先輩のおかげもあり、今日は無事に家に帰ってくることができた。
「そんじゃあな。朝、迎えにくるぜ」
「ありがとう、ございます先輩」
「じゃあね、天馬。ありがとう」
「おう、ミカナ。バイト頑張れよ」
俺達はしばらく天馬先輩の背中を見送っていた。
「うん。本当に変わったわ、天馬……何度も言うけど、サキくんのおかげよ」
美架那さんは、ニコッと笑みを浮かべている。
「そんなことは……でも皆さんが凄くいい流れで進んでいるのは見てわかります。俺も自分の行動が間違ってなかったと自信が持てますよ」
「うん、そうだね。でも無理はしないで……これからは私達も頼ってね」
「はい」
「よし、それじゃ着替えたら、私バイトに行くわ~!」
美架那さんは腕を上に掲げて、身体を伸ばす。
そのまま家へと入って行った。
俺達も続く形で家に入る。
自分の部屋に戻りドアを閉めた途端、昼休みにシンとリョウの言葉をふと思い出す。
ふと机の上に視界を置いた。
無造作に置かれる鉄製の『それ』を持ち、四つの指穴に左手の指を通して装着する。
――ナックルダスター。
シュッ。
素振りでジャブを放ってみる。
グローブとはまた違った重み、空を切る音、そして想像する破壊力。
人体に当たれば間違いなく、大ダメージを与える凶器だ。
「――こんなの使わずにすめばいいんだけど……」
そう願いつつ、使わなければならない時がくるのだろうかと思う自分もいた。
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