第160話 結成、女神を守る会




 次の日、学校にて。


 昼休みにはいり、俺とリョウとシンは一年生の教室に向かっていた。


 ある男に会うためである。



 扉から教室を覗くと案の定、あいつがいた。


「耀平、ちょっといい?」


 俺達の後輩である『風瀬 耀平』だ。

 相変わらずのマッシュルームカットに丸眼鏡を掛けている。

 見た目はガリ勉そうだが、実は元ヤンで『情報屋の傭兵』という通り名を持つ。


「サキさん、ちぃーす! あれ、火野さんに……なんだ、浅野先輩っすか?」


 ちなみに耀平はシンと仲が悪い。


「わぁ、サキ先輩ッ!」


 女子達が集まっているグループで、誰かが黄色い声を上げている。


 あれは、『軍侍 路美』……同じ生徒会の後輩だ。


 そういや彼女も耀平と同じクラスだっけ。


 他の女子達も俺達の存在に気付き、リョウとシンに向けてキャーキャーって騒いでいる。

 やっぱりこの二人は後輩にも人気が高いようだ。


 路美は耀平を押しのけて、俺の方に近づく。


「どうしたんですか、サキ先輩?」


「ん? ああ、耀平に用事があってね? 部活頑張っているかい?」


「は、はい。ごめんなさい……最近、生徒会に参加できなくて」


「インターハイが間近なんだろ? 大事な時期だし気にすることないよ。それに同じ会計監査の黒原は問題ないって言ってくれているし」


 黒原は普段あんなんでも仕事は確実にやるタイプだからな。

 麗花からも、そこだけは定評がある。


「はい、ありがとうございます。黒原先輩にもそうお伝えください」


「うん、わかったよ」


「軍侍、サキさんは俺に用事があって来てくれているっす。お前とイチャつくためじゃないっすよ」


 耀平はイラッとした口調で路美に言う。


「んなの、わかってるって! あんたもサキ先輩に迷惑かけちゃ駄目だからね!」


 路美は何故か耀平に対しては口調が変わる。

 前に「いい奴だけど変態だから」っと話していた。


「それじゃ、サキ先輩……また」


「ああ、じゃあね」


 俺が手を振ると路美はニッコリ笑い、足取り軽く友達グループの中で戻っていった。

 正直ここまで懐かれてしまうと可愛く思える。

 だから邪険にできないし、つい優しくなってしまう。


 こういう所が俺の優柔不断なところなのだろうか。


「んじゃ、耀平。ちょっと面貸せや」


 リョウが指示すると、耀平は「ウィス!」と威勢の声を出して付いて来る。




 俺達四人は生徒会室に入った。


 今時間なら誰もいない、麗花には事前に許可を貰っている。


 そう、俺達の目的は情報収集だ。


 例の二人――。


 三年生であり『勇者四天王』でもある、『鳥羽 堅勇』と『勇岬 茶近』。


 今日、美架那さんは学校に来ている。

 だけど、その二人は学校を休んでいると連絡がきた。


 ちなみに天馬先輩と勇魁さんは登校している。


 特に勇魁さんは俺にあれだけボコボコに殴られたにもかかわらず、大した回復力だと思った。

 でもあの人が本気で倒す気だったら、俺は今頃学校に来られる状態じゃなかったかもしれない。


 そして、勇魁さんは俺と美架那先輩の助言通り、天馬先輩にこれまでの事を正直に話して謝罪したようだ。


「……そっか。まぁ、俺もお前に散々迷惑を掛けてたからな。お相子ってやつだな」


 っと男気を見せて和解したようだ。


 お互い溝が深かった分、これまで一緒にいた絆も深かったのだろう。


 あるいは天馬先輩の人柄なのか。


 そんな先輩達のやり取りに微笑ましいと思っている分、余計に残りの二人の行動が気になってしまう。


 リョウとシンに相談し、「何か企んでいるんだろうぜ」って話になり、まずは情報収集することにしたのだ。

 無論、傍にいた詩音にも説明し、麗花に生徒会室を借りたってわけだ。

 きっと愛紗にも伝わっているだろう。


 昨日の一件で、俺はみんなとこの件に関わっていくことを決めた。


 全ては恩のある美架那さんを守るためだ。

 そして、自分自身も守るため。


 無論、暴力沙汰には女子達を巻き込むわけにはいかない。

 けどそれ以外の相談や助言もできるし、美架那さんの傍にいることもできる。


 みんなそれぞれ出来ることで支えて上げることにしたんだ。



 ――名付けて『女神を守る会』の結成である。


 ついでに狙われている俺もね。



 ちなみに名付け親は黒原だ。


 何故か傍で聞いていたらしく「僕も協力しますよ……フフフ」と不気味にほくそ笑んでいた。

 なんか邪念があるなぁっと思いつつ、こいつはこいつで天馬先輩から「心の師匠」と呼ばれているので、あながち無視できない。


 最近、俺達周囲の見る目も変わって晴れてウェルカムとなった。



「サキさん、三年生の柔道家とジークンドー使いに勝つなんて、ますますヤバイっすね~?」


 座った途端、耀平は嬉しそうに話し掛けてきた。


「え? もう知ってんのか?」


「まぁ、常に情報の網を張っているっすからね。けど壱角兄妹の件は驚いたっすけどね……」


 すげーな。つい昨日と一昨日の件じゃねぇか。

 一体、どんな網なのか興味はあるが、今はそれどころじゃない。


「勇魁さんの件はもう解決しているんだ。誰にも言わないでくれよ」


「勿論っす! 俺の情報収集は身を守るためと趣味っす! 前は金貰って売ってたっすけど、今はすっかり足を洗ったっすからね」


「ならいいけど……んで、本題なんだけど――」


「残りの四天王の情報っすね?」


「そうなんだ……俺、その内の二人に狙われているっぽいんだ」


「いや、ぽいっじゃなく確実に狙われているでしょうね、サキさん……とくに、鳥羽先輩は女絡みじゃヤバいっすよ~」


「鳥羽……堅勇?」


「そうっす。あの人、中学の頃、自分が付き合っていた女子が暴走族にいいようにされたって理由で単身で乗り込んで全員ボコって入院させたらしいっすよ……それで暴走族は解散したようっす」


「マ、マジ?」


「しかも、その女……実は暴走族のリーダーの元カノで付きまとわれてウザいからって、当時付き合っていた鳥羽先輩に嘘をついたらしいっす」


「じゃ嘘の理由で、鳥羽先輩は単身で暴走族に乗り込んだってのか?」


「んで、その女はどうなったんだ?」


 俺に続き、リョウも聞いてくる。


「今も関係は続いているっすよ。鳥羽先輩曰く『ファミリーだからねぇ、ハハハハハッ』って笑って受け流したらしいっす」


 いや、笑って受け流せる話なのか、それ!?

 そういえば、勇魁さんも中学の頃は狂っていたって言ってたっけ。



「ところで、そのファミリーってなんだよ?」


「鳥羽先輩は自分と付き合っている複数の女達を総称してそう呼んでいるっす。んで、ファミリーにはとても寛大なんすよ」


「複数か……まるで『あの人』みたいだな」


 シンはぼそりと呟く。

 きっとセフレが三桁くらいいた『王田』のことを言っているんだろう。


「いえ、先輩が嘗て仕えていた奴より、鳥羽先輩の方が遥かにマシっすよ。何せ、あの人はセフレじゃなく、付き合っている女達全員に対して本気ですからね」


「なんだぁ、サキと一緒じゃん、なぁ?」


「うぐっ……!」


 リョウに指摘され、ぐうの音も出ない。

 つーか狙われている筈の鳥羽先輩に妙な親近感を覚えてきたんだけど……。


「んで、後輩。その暴走族から報復とかないのか?」


「ああ、先輩……あるわけないじゃないっすか。何せ、鳥羽先輩の家は裏社会に精通しているんすから……特に祖父の影響は今もあるらしいっすよ。本当、先輩が仕えていた奴と一緒っすねぇ!」


「ああ!?」


「ああ!?」


 シンと耀平が立ち上がり、互いにメンチを切り合っている。

 もう見慣れたわ……でも一応、止めておくか。


「やめろよ、二人共。要するに女絡みだと、俺も何されるかわからないってわけだな?」


「サキさん、そうっす……。それに、その暴走族壊滅させた件が公になって、鳥羽先輩はフェンシングの世界から永久的に追放を受けたような人っす」


「フェンシングね……聞いたことがあるよ」


「つーことは喧嘩でも、その武器を使うってことなのか?」


「ええ、火野さん。実際見たことはないっすけど、きっとそうっす! それまでは将来を期待されたエースだったっすからね!」


 そんな人が、付き合っていた女子の言葉を真に受けて怒り狂ってたった一人で暴走族を壊滅させたのか?


 んで、嘘をついた女子には咎めることをせず、笑って受け流している……。



 ――こりゃ色々な意味でヤバそうな先輩だ。






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