第159話 幸福な王子様の受難
勇魁さんとの一幕も終わり、俺は美架那さんと家に戻った。
帰った早々、詩音に問い詰められ、麗花や愛紗にまで知られてしまう。
美架那さんが説明してくれて、なんとなく理解を示してくれるも、前回の件もあり三人とも不機嫌には違いなかった。
居間にて。
俺と美架那さんは二人並んでソファーに座っており、頭を下げて俯いている。
向かい側のソファーには、愛紗と麗花と詩音が座っており軽く圧迫面接みたいな雰囲気を醸し出していた。
特に麗花と詩音がキレかかっているのがわかる。
唯一、愛紗だけは心配そうな表情でじっと俺を見つめてくれるも、逆に罪意識が芽生えてしまう。
夏純ネェは大智くんと萌衣ちゃんに「まるで不倫謝罪会見ね……子供達には見せられないわ、行きましょ」と、優しく声を掛け一緒に部屋へと戻った。
珍しく気を遣ってくれたようだけど逆にへこむわ。
最初に麗花が口を開く。
「サキ君、私達がどうして怒っているかわかっている?」
「勇魁さんの件、隠していたから……かな?」
「それもあるわ。普通、暴漢にあったら警察でしょ? そんなに酷い怪我までして……」
「ごめん……でも勇魁さんなら俺が勝てば、きっと目を覚ましてくれると信じていたから……」
「どうしてサキがそこまでするの? そんなの一方的なやっかみじゃない」
詩音が素の口調で問い質してくる。
「自分から首を突っ込んでしまったこともあるよ……亜夢先輩の件でね。だけど二度もあの人に負けたから、なんかこう勝ちたいっていう気持ちも芽生えたというか……とにかく有耶無耶にはしたくなかったんだ」
「全て私が悪いのよ……サキくんに頼って彼の善意に甘えてしまって。誤解のないようにきっぱり言ったつもりだけど、結局何もわかってなかったみたい。明日はバイト休んで学校に行くわ。残りの二人にはきちんと説明するからね」
美架那さんがフォロー入れてくれる。
しかし、麗花は首を横に振った。
「美架那さん、あの三年生達の件はお任せいたします。でも私達が苛立っているのはそこではありません。サキくんがこうして負傷して、ボロボロになってまで関わってしまっていることです」
「サキ……そこまで身を削ってまで関わる必要ないでしょ? 幸福な王子じゃあるまいし、そのうち本当に死んじゃうよ」
「美架那さんにもう一度きちんと説明してもらって、サキくんは距離を置いた方がいいと思う」
詩音と愛紗が助言してくれる。
――にしても『幸福な王子』か。
その通り過ぎて返す言葉もない。
王子って言葉じゃなくて、その童話に出てくる王子がやっていることや結末に対してだ。
確か自分の黄金の身体を貧しい人達に分け与えて鉛像になり、協力してくれたツバメも死んでしまって一緒にゴミ溜めに捨てられる末路だっけ?
まぁ、その後は天国でツバメと共に幸せに暮らしたって話だけど……。
リアルじゃ死んだら終わりだしな。
自分でもバカなことしているなぁって思ってはいるけど……。
「ごめんなさい……本当は私達が出て行くべきなのに……」
美架那さんは申し訳なさそうに深々と頭を下げて見せる。
その姿に、麗花と詩音が申し訳なさそうに顔を伏せた。
二人も本当は彼女の前で言うべき話じゃないと思っている。
それだけ俺のことを心配して思っていてくれているんだよなぁ。
だけど、生活が大変で頑張っている美架那さんにも言わせちゃいけない言葉だと思う。
俺は自然に美架那さんの手を握る。
「絶対にそんなことありません! ミカナさん達はずっとこの家にいてもいいんです! 俺が言うのですから間違いありません!」
「サキくん……」
「それに、これは恩返しでもあるし……俺達、みんなミカナさんに守られて学校生活を満喫してきただろ? ミカナさんが人柱になって先生達すら手にあましていた天馬先輩達に寄り添い、あそこまで真っ当に更生させたのも、全て彼女のおかげなんだ! だから今度は俺達後輩達がミカナさんを守ってあげるべきじゃないか……俺はそう思っているし、そこは譲るつもりはない!」
俺は真っすぐ美架那さんと三人の顔を順番に見据える。
――自分の思った気持ちをぶつけること。
この場にいる子達なら、きっとわかってくれる。
そう信じた。
美架那さんの瞳から大粒の雫が流れ落ちる。
滅多に泣くような女子じゃないだけに、不謹慎ながらとても綺麗に見えた。
「……わたしも、サキくんの言う通りだと思う」
愛紗がぽつりと呟きながら賛同してくれる。
「愛紗……」
「わたしもミカナさんには凄くお世話になったの。だから恩返しがしたい。できることはなんでもしてあげたい」
きっとお父さんの件を言っているんだろうな。
あそこまで円満に解決できたのも、美架那さんの協力があってのことだ。
「ごめんなさい……言い方を考えるべきだったわ。私も生徒会では美架那さんに沢山お世話になっている身なのに……」
「ごめんね、ミィカさん……あたしだって散々助けられているのに……」
麗花と詩音が謝ってくる。
「そんなことない。みんな、それだけサキくんのことを心配しているんだもの……当然だよ。私も申し訳ないと思っている。そしてみんなには凄く感謝もしているよ」
美架那さんは優しく微笑んでくれる。
結局、誰も悪くないんだけど……。
ただみんなで美架那さんを守ってあげようという決意を固められたのは確かだと思った。
「それに、これからは天馬先輩と勇魁さんも協力するって言ってくれたし、頼もしい味方が増えたのも確かさ。俺のことはなんとかなるから大丈夫だよ」
「……だといいんだけど」
ふと美架那さんは瞳を逸らす。
「え? どういう意味ですか?」
「前に言ったでしょ? 天馬はああ見ても男気があるって、勇魁も歪んだ所もあるけどアムちゃんのお兄さんだけあって根は真っすぐよ。でも、他の二人は正直、掴みどころかないの……私の前で見せる顔と裏の顔を使い分けているって感じ」
「他の二人……鳥羽先輩と勇岬先輩?」
名前は、堅勇さんに茶近さんだ。
「そう……堅勇はいつも女子のお尻ばっかり追いかけているナルシストだけど、常に黒い噂が絶えない奴よ。茶近はいつもニコニコして無害を装っているけど、時折心をえぐるようなことをさらりと言ってくるわ。私がよく注意していたけどね」
「つまり、天馬先輩達と違ってミカナさんの言うことを聞かないかもしれないんですか?」
「……そうね。あの二人はいつも天馬か勇魁の傍にいて、ついでに私の言葉を受け入れているって感じ。直接、あの二人に注意することはあるけど、私と揉め事になったり深い話はしたことがなかったわ。LINEもあの二人とは交換したことがないのよ……だから、みんなが思っているほど付き合いは浅い方だと思う」
なるほど、美架那さん的には『勇者四天王』のリーダー格である天馬先輩さえ抑えれば芋づる式で他のメンバーも牛耳れると思っていたようだからな。
実は彼女が思っていたより、仲間関係が複雑で深い闇に覆われていたって感じだろうか。
下手したらミイラ取りがミイラになっても可笑しくない関係だったのかもしれない。
それでも天馬先輩と勇魁さんが本気で彼女を想っていたから、絶妙なバランスで成り立っていたのだろう。
けど、それも砂城のように脆く崩れようとしていた。
ひょっとして俺が、その中に自ら飛び込んで崩してしまったのだろうか。
――しかし、もう覚悟はできている。
俺にはこんなに頼もしい味方が沢山いるんだ。
もう何も迷わずに自分が正しいと思う信念を貫いて行こう。
「とにかく明日、堅勇と茶近に話してみるわ。二人には、なんとかわかってもらうように頑張ってみるから」
不安げに言って俯く美架那さん。
俺はそんな彼女の顔を覗き込む。
「大丈夫です、ミカナさん! これからも俺達がしっかり支えますよ!」
「サキくん……ありがとうね」
顔を上げ、ニッコリ微笑む。
また少し大きな瞳が潤み、涙がにじみ出ていた。
「……勿論、私達も協力するわ。でも、問題はサキ君よ」
「俺ェ?」
麗花に厳しいめの口調で問われ、俺は声が裏返る。
「さっき話が反れてしまったけど、もう無茶しないで……この件だけは一人で抱えていい問題じゃない。みんなで関わるべきことよ」
「わかったよ……そうする」
常にリョウとシンには関わってもらっていたけどね。後、黒原か……。
ここまで来たら、今後は包み隠さず彼女達にも相談するべきだろう。
「それと……もう一つだけ言いたいことがあるわ」
「なんだい、麗花?」
「……詩音、愛紗、貴方達が言ってあげて」
麗花はムスっとした顔で二人に振る。
「オッケー。サキィ! いつまで、ミィカさんの手を握っているつもりなの!?」
「え? あっ……これは!?」
しまった! あれからずっと握ったままだった!
美架那さんも嫌がる素振りがないから、すっかり麻痺していたぞ!
俺は謝罪しながら慌てて手を放した。
あまりにも、華奢できめ細かな指の感触だっただけに、ドキドキと胸が高鳴る。
「サキくん……ひょっとして、ミカナさんのこと……」
「違うよ、愛紗! そんな悲しそうな瞳で見つめないでくれよぉ! そういうつもりじゃないんだ!」
やばいよ、これ……。
今度は別な説明が必要になってしまった。
こればっかりは俺が悪いんだけどね……。
「フフフ、サキくんって本当に不思議だよねぇ?」
美架那さん、楽しそうに微笑んでないでフォローしてくれませんか?
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