第135話 闇深き勇者達の思惑




 ~壱角 亜夢side



>アムちゃん。

 心配かけさせてごめんね。

 お母さんの看病で期末テストまで学校を休みます。

 先生にも伝えているから安心して。

 それと私も弟達と一緒に、しばらくサキくんの家に泊まることになりました。

 何かあったら連絡ください。



 これが、わたくしに送られた美架那ミィちゃんからのメール内容だった。


 どういう経緯でそうなったのかまでは書かれていませんが、家族思いの彼女も弟妹の傍にいたいと思う気持ちも理解できます。

 

 確か、サキくんの家はご両親が不在ですが、親戚の保護者の方がいらっしゃると聞いています。

 普段の彼の様子から、よこしまな気持ちや間違いはないとは信じていますが……。



 ――しかし、タイミングが悪すぎですわ。



 特に今の段階でお兄様に知られるわけにはいかない。


 間違いなく、サキくんが粛清されてしまうでしょう……。



「亜夢、どうしたんだい?」


 隣のお兄様に聞かれ、私はビックっと肩を震わせる。


「な、なんでもありませんわ」


「ミカナからの連絡だろ?」


「違いますわ。別のお友達からですの」


「嘘を言うな。お前、ミカナしかLINEでやり取りできる友達いないだろ?」


 交友関係が、もうバレバレですわ……。


「え、ええ……彼女のお母様の看病で期末テストまで学校を休むという内容ですわ」


「そっか……遠慮なく僕に頼ってくれればいいのに。その為に亜夢に友達になるよう近づけさせたのにな」


 お兄様がわたくしに扮してミィちゃんに逆襲されてから心境が変わり、わたくしに彼女と友達になるよう仕向けてきました。


 当時のわたくしはお兄様のとばっちりを受けていたので、彼女の事が怖くて仕方ありませんでしたが、仲良くなっていくことで素敵なお人柄を理解して今では大親友っと思っています。


 そういう意味では、お兄様には感謝しているのですが……。


 こうして、わたくしを利用してミィちゃんの気を引こうとする。

 悪意はないのでしょうが……お兄様の気性上、何か問題に発展しないか不安で仕方ありません。



「亜夢、もう一度ミカナに『ウチに来ないか?』ってメールしてくれないか?」


「わかりましたわ……後で連絡してみますわ」


「今しろよ。今メールが来たばかりなんだから、ずっと母親に付き添っているミカナだってやりとりしやすい状況ってことだろ?」


「い、今ですか? わかりましたわ……」


 わたくしはお兄様達に背を向けて、スマホのメールを打ち込んでいる。


「何故、画面を隠す?」


「べ、別に隠してませんわ!」


「いつも、僕の前でも堂々と画面が見えるようにメールしているだろ? それをやれと言っているんだよ」


 お兄様は『粛清対象者』以外で他の方には比較的温厚な方ですが、妹のわたくしに対しては高圧的な態度を見せてくる。

 きっとお兄様の中では、わたくしは都合のいい道具としてしか見ていないのだろう。


 なので、わたくしはそんなお兄様が昔から怖くて逆らうことができない。


 わたくしは、恐る恐るスマホの画面を見せる。


「――ん?」


 お兄様はわたくしからスマホを奪い取り、画面にじっと魅入っている。


「……なるほど、堅勇。キミの言う通りらしい」


「なんだって? ユウちゃん、それはどういう意味だよ?」


 茶近が眉を顰めて聞いてくる。



「――神西 幸之は、僕らの踏み込んではいけない領域に踏み込もうとしている」


 

 お兄様の表情が変貌する。

 穏やかな態度から一変して厳粛な態度へと変わった。


 そして、わたくしのスマホの画面を二人に見せた。


 ぎょっとする二人。


「……マジかよ。どうしてミカちゃんが、俺らじゃなく神西なんかと……」


「う~む……ボクから言い出しておいてなんだが、これは既に由々しき問題を通り越しているんじゃないか?」


「……問題はどういう意図でミカナがそうするかだ。弟妹を出汁だしに言い寄られているなら、即彼を『粛清』しなければならない」


「ミカちゃんからだとしたら?」


 茶近が言葉を選びながら、お兄様に伺う。


「――神西君がどう動くかにもよる」


「あのミカナをスルーするってかい? あり得ないね……ボクはこれまで色々と浮き名を流してきたけど、あれほどの女子には出会ったことがない。だからミカナに関しては本気なんだよ、勇魁」


「しかし、彼には『三美神』がいる。まさか、あの子達を邪険にしないだろう……」


「逆にケンユみたいに『複数の女と付き合うわ』なんて、舐めたこと言っちゃってたらどうすんのよ?」


「ボクは舐めてないよぉん。ミカナは『特別枠』だと言ってるんだ。もし付き合えるんなら、それこそ全てを投げ出してもいいという覚悟がある」


「ここにいる者は全員そうさ。だから誓いを立てたじゃないか? あいつ・ ・ ・を省いてね」


 お兄様の言葉に、わたくしの心臓が跳ね上がる。

 

「あいつ? 天パ赤ゴリラか? あいつは駄目だ。頭も悪いし、何より身勝手すぎる」


「おまけに、いつもミカちゃんに必要以上にアプローチしているからな。見ていて、うざいったらありゃしない」


「昔っからああいう奴だ。何せ天下の『勇磨財閥』様だからな。世の中、なんでも自分が中心であり思い通りになると思っている。いや、その気になればその力はあるのかもしれない……ただ器がないだけかもな」


 わたくしにとって耳を塞ぎたくなるような言葉の数々。


 お兄様達が一体誰の事を言っているのか、すぐにわかりました。


 ――愛しの天馬様。


 普段さも仲良さげに振舞いながら胸の内では、日頃から各々がこのような事ばかり考えている。


 特にお兄様は小学生の頃から、天馬様に嫌悪感を抱いていたようだ。

 それは、天馬様自身っというよりも家柄である『勇磨財閥』への憎悪に近いかもしれない。

 

 わたくしのお父様が運営する『壱角物産』も世界に名を馳せる大企業ですが、天馬様の家柄程ではない。


 世間体の評価では、由緒ある貴族家系と成り上がり庶民家系の違いがある。


 したがって、お兄様はいつも「天馬様から二番手」扱いを受けていた。


 さっきの言葉通り、お兄様が認める相手なら、それもやむを得ないと割り切ったのかもしれない。


 けど、お兄様は成績にせよスポーツにせよ、自分の方が優秀だと思っている。

 実際にその通りなのですが……。


 しかも天馬様の横暴な性格が、正義感の強いお兄様の癇に触っているらしい。


 だが相手は天下の『勇磨財閥』の御曹司。

 とても正面から敵対して粛清できる筈がない。


 だからお兄様は、天馬様と親友のフリをしてあの方を内側から操作し利用する方法を選んだ。


 ずっと傍にいる、わたくしにはそう見えていますわ。



「――無能な奴だが使えるところもある。神西君の件に関しては、まず奴をけしかけて様子を見た方がいいかもな」


 お兄様が言うと、他の二人は冷酷に微笑を浮かべている。

 普段、学校では絶対に見られない表情。

 これが、彼らの本来の姿であり本性なのかもしれない。


「……いつもの通り、咬ませ犬にするのかい、天ちゃんを?」


「ああ、仮に神西君が二度と社会復帰できないほど痛めつけられたとしても、奴の家なら一生分の責任は取れるだろう」


「神西が撃退したらどうする?」


「それはそれで、僕達にとって好都合じゃないか……巨悪の権化みたいな奴を倒してくれるんだ。神西君に感謝するさ。けどミカナの事だけは譲れないからね。彼の出方次第で『粛清』することになるだろう」


「んじゃ、ユウちゃん。俺らはまだ様子見でいいんだね?」


「ああ、今から奴を呼び出そう。『ミカナのことで報告したいことがある』って言えば、すっ飛んでくるさ。それこそ自家用ヘリでも使ってね……ムカつくったらありゃしないけど」


 お兄様に加担するつもりはないですが、天馬様なら本当に自家用ヘリで来られる方であります。



 そして、30分後――。



 案の定、天馬様は自家用ヘリでお屋敷に来られました。






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