第136話 勇者四天王と偽りの友情関係




 ~壱角 勇魁side



 昔っから僕はあいつが大っ嫌いだった。


 ――勇磨 天馬。


 もう語るまでもないと思うが、あんな横暴な奴はいないだろ?


 おまけに家柄もあり、大抵の大人達は奴の振る舞いを黙認し見て見ぬフリをする始末。

 だから一緒にいる僕らも同じような目で見られてしまう。


 しかし僕はそれを利用する。


 木を隠すなら森ってね。


 天馬が横暴な態度で目立たせる中、僕は堅勇と茶近と組んで裏方でターゲットを選抜して『粛清』を繰り返す。


 中学からずっとそれをやってきた。


 堅勇と茶近も天馬のことは内心では好きじゃない。

 はっきり言えば嫌悪感すら抱いている。


 そこで彼らと気が合ったんだ。


 堅勇の家は表向き不動産王であるが、元々は裏社会で名を馳せた一族である。

 したがって、そっちの世界の情報を入手しやすく、その気になればヤバい武器を仕入れることも可能らしい。

 また彼自身も中学まではフェンシングの達人だったが、ある事件を起こして事実上の引退をしている。

 普段、変人ナルシストのスケコマシを装っているが、実は天馬以上の攻撃的な性格だろう。


 茶近はその名の通り、有名な茶道の家元に生まれ本人も一見童顔で平和そうな雰囲気を醸し出しているが内面は真っ黒だ。

 笑顔で人を傷つけられるサイコパスな一面を持っている。

 こいつの戦いは見たことがない、いや敢えて見られないようにしているようだが、その立ち振る舞いから『古武道』を学んでいると見ている。

 手の内がわからない以上、僕の中では一番戦いたくない男なのかもな。


 しかし、この二人。


 本来なら『粛清』対象に上げても可笑しくない連中だが、僕のコントロール下に置くことで協力体制を築くことができている。


 毒には毒を持って制するようにしたんだ。


 出会った当初は僕がチョイスした「悪人」を影で裁きながら、『打倒、天馬』をスローガンに掲げて一致団結をさせた。

 そういう意味じゃ、天馬の存在も初めて役に立ってくれたようなものだ。


 高校に入ってからミカナと出会い、全員が彼女に惹かれたことで、『ミカナを守る会』を結成し、彼女に近づこうとする男達を排除する目的も追加する。


 おかげで、この三人の中でより強固な結束が生まれることになった。


 そして卒業と同時に、彼女に気持ちを打ち明けて選んでもらう。

 ミカナが誰を選ぼうと恨みっこなしっていう誓いを立てた。


 けど、こいつらの気性を考えれば実際どうなるかわからないけどね……その時は戦うことも想定しなければならないだろう。



 そう考えている内に、天馬がやって来た。


 相変わらずの自家用ヘリで登場か……ウケでも狙っているのか?


 僕は亜夢に指示し、天馬を迎えに行かせた。



 そういえば、亜夢の奴。


 どういうわけか小学生の頃から天馬に想いを寄せているらしい。

 クラスでイジメられている所を助けてもらったとか?

 あの子は我慢強い子だったからな。


 僕はずっと気づいてやれなかった……。


 そこだけは唯一、天馬に感謝し恩義も抱いている。

 だから普段、奴の振る舞いも僕がフォローしてやっているし、表向きは奴の右腕あるいは二番手ポジを演じてやっているんだ。

 でなければ誰も好き好んで、あんな奴にフリでも従ったりしないさ。


 ましてや亜夢との交際なんて認めるわけがない。


 亜夢は僕の双子の妹……最も大切な存在だ。

 あの子を守れるのは、本来なら兄である僕しかいない。

 したがって僕が手の届かない範囲は、あの子自身が強くならなければならない。


 ――その為の『悪役令嬢』。


 誰にも舐められない、寧ろ恐れられる存在として祭り上げているんだ。

 亜夢も本当は僕のやり方に不満があるかもしれないが、賢明なあの子ならきっとわかってくれているだろう。


 その亜夢が天馬を連れて客間に入ってきた。


「……天馬、よく来てくれたね。まぁ、座ってくれ」


 僕は立ち上がり、さも神妙そうな表情で奴を招き入れる。


「ああ勇魁、ミカナの件で報告したいことがあるってなんだよ?」


「今、説明しょう……亜夢、天馬に紅茶を出したら、少し席を外してもらえないか?」


「はい、お兄様……」


 亜夢は僕の指示通りに動き、天馬に紅茶を差し出してから退出する。

 ようやく『勇者四天王』だかの四人が揃ったってわけだ。

 どこの誰が僕達をそう名付けたか知らないが、見つけたら『粛清』しなければならないな。


「それでなんなんだ? オメェら全員集まってよぉ?」


 流石の脳筋も、この集まりに異常を感じているか。


「ああ、まずはこれを見てくれ……ミカナから送られたLINEメールだ」


 僕は天馬に、亜夢から借りたスマホの画面を見せた。


「なんだこれ? なんで、ミカナが神西の家に泊まるんだ?」


「きっと、弟さんと妹さんを預かっているからだと思うが……僕らの中では、どうも腑に落ちないと思っていてね」


「まぁな……俺があれだけ協力するって言っているのに……あいつ、いつも『大丈夫』って気丈に振舞っていたのによぉ……」


「ミカナはそういう女性だ。口や態度とは裏腹に脆い部分もある……特に、ご家族に関してはね」


 高一の頃、僕は亜夢に成りすまして、彼女に復讐しようと企てた。


 理由は、この天馬のせいで赤っ恥をかかされたらだ。

 それに男子を平気で金的攻撃して何度もスタンガンを浴びせる女が「いい奴」とも思えなかったからね。


 しかし見事に逆襲され、僕はやむを得ず降参した。


 まさか女子相手にジークンドーを使うわけにはいかない。

 事の発端はあくまで天馬であり、そこは正義に反していたからね。


 けど亜夢を通して、ミカナを知る内に彼女の強さと繊細な部分を知ることができた。

 そして好きになり、気付けば夢中で彼女の後を追っていたんだ。


 時には、亜夢に扮して彼女とメールをやり取りしたし遊んだこともあった。

 度が過ぎるとバレてしまうので、最近は控えていたが……。



 ――それだけに腑に落ちない。



 何故、神西君なんだ?



「ミカナにとって親友である亜夢を通して事の経由を聞くこともできる……だが、その亜夢からの支援も拒んでいるからね……正直に話してくれるかだ」


「……多分、話さねぇだろう。ミカナはそういう女だ」


 フン、自己中の塊の癖にわかってんじゃないか。


 なら話が早い。


「一つだけ、僕らが真相を聞き出せる相手は一人しかいない」


「誰だ?」


「神西君だよ。彼に直接聞いてみるのが一番だよ、そう思わないかい?」


「神西か……確かにそうだな」


 ん? こいつ、いつもと反応が違うな。


 普段なら「あの野郎か!? 今からブッ殺してやるぅ!」って剣幕で屋敷から出て行くのにな。

 それを見越してけしかけるよう誘導しているんだが……。


「どうした、天馬? なんか普段と様子が違うようだけど?」


「いやよぉ……昨日の遊園地でよぉ。なんっつーか、そんなムカつく奴とは思えなくてよぉ」


 なんだって? まさか感化されたのか?

 確かに僕だって彼は嫌いじゃない。


 だがミカナの件では別モノの筈だろ?


 それとも、こいつにとってミカナに対する想いはこの程度なのか?


 僕は少しイラッとし、堅勇と茶近をチラ見する。


 二人共、こくりと頷いた。


「どっちにしてもさぁ、天ちゃん……このまま有耶無耶にしていいのかな~?」


「どういう意味だ、茶近?」


「だってさぁ、俺達を飛び越えての神西だろ? まぁ、最近仲良くなったからって、そこまでするぅって話だろ? それにあいつ『寝取りの神西』って噂もあった奴だし……」


「天パ赤ゴリ……いや、天馬。ボク達は善悪抜きで理由を知りたいんだよ。キミだって知りたいだろ?」


 堅勇、今、天パ赤ゴリラって言おうとしたな?


「ああ、勿論だ」


「別に腕づくで聞き出すわけじゃないし……でも僕ら四人で押し掛けても、神西君だって困るし警戒もするだろう。昨日の件で、彼も天馬とは打ち解けているみたいだし、キミから真相を聞いてくれると嬉しいんだけど……」


 まぁ、僕としては目的さえ果たさればいいだろう。


 平和的な話なら僕からでも構わないが、情報を得た出所が『亜夢とのLINE』だと知られるのは困る。


 天馬ならそういう面では口が堅いから、普段通りの勢いに任せて聞き出せるかもな。


 仮に、そこでひと悶着あったとしても、そこは天馬と神西君の問題。


 僕らは、こうしてくつろぎながら結果を待つだけでいい。



「――わかった。明日にでも俺から神西に聞いてみるぜ」






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