第127話 それぞれのデート。麗花とのひと時




 大方、みんな揃ったので、俺達は遊園地の遊具で遊ぶことにする。


 ミカナ先輩は、すっかり照れて無口になってしまった亜夢先輩のフォローに入っていることもあり、天馬と三人で行動を共にしている。

 二人の間に入り、一生懸命仲を取り持っているようだ。


 けど肝心の天馬はミカナ先輩にぞっこんのためか、亜夢先輩そっちのけのようにも見える。

 なんかミカナ先輩の一人相撲状態で不憫そうだが、俺達にはどうこうできないので放置することにした。


「サキよぉ、どうやら勇磨先輩は問題なさそうだな? だったら千夏と二人で小動物コーナーに行きたいんだけど、俺らはフリーでいいか?」


 リョウが頬を染めながら聞いてくる。

 何気に彼女の手を握りながら。


 すっかりラブラブじゃないか……まぁ、いいけど。


「ああ、わかったよ。何かあったら連絡するわ」


「悪りぃ、プロテストの練習に入ったら、こういう機会は減っちまうからな……」


 なるほど、『食い溜め』もとい『イチャ溜め』ってわけか。

 まぁ、何かあった際のゲストで誘ったようなもんだからいいだろう。


 リヨウと千夏さんは二人で、しばらく別行動を取る形となった。



 一方で、シンは何故か黒原の傍にいることが多い。

 ぱっと見は仲の良い男友達っぽいが、黒原の方が少し迷惑そうだ。



 俺はというと、麗花と路美の間で挟まれる形で歩いている。


 麗花は詩音と違って大人であり、路美と揉めることはない。

 というか効率を優先して、互いに乗り物席や歩く位置を譲り合っているようにも見えた。


 路美も麗花の提案や言葉には素直に従いつつ、彼女を敬う様子もある。

 やっぱ生徒会長として威厳がそうさせているんだろうな。


 時折、麗花からこんな言葉も聞かれている。


「軍侍さんには、是非とも来年の生徒会を引っ張ってほしいからね」


 と、期待しているようだ。




 そして路美がトイレで離れている間、俺と麗花の二人は一緒のベンチで座っている。


 自然と距離が短くなり、麗花は密着してきた。

 俺は少し胸を高鳴らせつつ、彼女の体温を受け入れる。


「こうして外で、サキ君と歩くのって修学旅行以来かしら?」


「そうだね……ごめん。なかなか誘う機会がなくて……」


 考えてみれば、麗花とだけ個別にデートに行ったことはなかった。

 なんか地味に色々な事件があり、誘う暇がなかったんだよな……。


「ううん……サキ君には本当に助けられているわ。それに前よりも、ずっと傍にいれる機会も増えているし……でも――」


 麗花は俺の腕を組み、そのまま指を絡ませてくる。

 二の腕に当たる柔らかく張りのある感触は、彼女ならではの神秘だと思った。


「……わたしだって、外ではこうしたいなぁって思っているのよ」


 頬を染めながら優しく微笑んで見せてくる。

 きっと俺にしか見せることのない、彼女の貴重な一面だ。

 しかもこんな至近距離で……綺麗なのに可愛いって、麗花ってなんか凄いな。


 俺も耳元まで真っ赤に染めて、思わず目を背けてしまう。


 これ以上、見つめ合ってしまうと、彼女の瞳に吸い込まれて唇を近づけてしまいそうだ……。


「れ、麗花……そういえば、修学旅行のお土産はどうしたの?」


「お土産?」


「ほら、小樽でお父さんに作ったじゃない? オルゴール……」


「ああ、あれね。先週家に帰ってきたから、その時にちゃんと渡したわよ。サキ君は和心ニコさんに渡したの?」


「え? いやぁ……夏休み以来、会ってないからね……受験生だから、こっちからの連絡を控えているんだ。きっと冬休みには来るんじゃないかと思うんだけどね」


 それに、夏純ネェも住むようになったからそれどころでもなかったしな。

 LINEくらいしておくか。


「そう、でもサキ君の家も最近賑やかそうでいいわね」


「麗花は独り暮らしのようなもんかい?」


 彼女はこくりと頷く。


 麗花のお父さんは医者で、元は『遊井』の両親が経営する病院で部長職をしていた。

 けど、その遊井が今までやらかした素行を、麗花から打ち明けられ、お父さんは退職して他所の街にある病院へ単身赴任する形で勤めているらしい。


「寂しくない?」


「それは寂しいわ……でも仕方ないし、それに今の私はみんなと離れるなんて考えられないし」


 麗花の握る手に力が入った。

 まるで「一番はサキ君だよ」っと言ってくれているような気がする。


 これも普段見られない麗花の弱さ。


 きっと俺にしか見せることのない、彼女の一面だろう。

 握られた手に少し力を入れて、麗花を見つめる。


「時折、泊まりにおいでよ。一応、保護者代わりもいるから問題ないだろ?」


 ニートの不良社会人だけどな。

 それに、夏純ネェとは勉学の件で気が合っていたからな。


 思いつきで言った提案に、麗花は瞳をうるっと潤ませる。


 ――ふと、俺の肩にそっと彼女の頭が置かれた。


 これまでにない彼女との密着……吐息がもろに身体から伝わってくる。


「ありがとう、サキ君……いっそ、住んじゃおっかな」


「え?」


「……冗談よ、うふふ」


 密着しすぎて、彼女がどんな表情かわからない。


 だけど、この時間がとても貴重で大切だと思えていた。


「そういえば、サキ君、夏休みに教えた『超集中力ゾーン法』は上手く行っている?」


 麗花は頭を上げて聞いてくる。

 ついさっきまでとが違う表情、瞳を少年のように輝かせていた。

 もう一つの彼女の側面でもある『マッドモード』に入ったようだ。


「ああ、教えてもらってから、イメージトレーニングと呼吸法は毎日行っているからね。上手く行っているよ」


 俺の場合、勉強面じゃなくてほとんどバトル面だけど。


「けど、変なんだ……あの状態を解いたら、身体全体の疲労がどっと来るんだよ」


「あくまで個人差はあると思うけど、サキ君の場合、その瞬間の超集中力ゾーンの入り方が一般より並み外れたものなのかもしれないわね」


 う~ん。やっぱり、そういうもんだと割り切るしかないようだ。



「――あ、あのぅ!」


 いつの間にか、路美がトイレから戻ってきたようだ。

 ベンチに座っている俺達の正面に立ち、恥ずかしそうに身体をもじもじとさせている。


「ああ、おかえりーっ。どうしたの?」


「い、いえ……そのぅ、サキ先輩と生徒会長もプライベートだとそういうことされるのかと……」


「「え?」」

 

 路美に指摘され、俺と麗花は密着したままだという事に気付いた。


 慌てて離れて座り直すが、もう遅い。


 完全にイチャついていると思われただろう。

 まぁ、ぶっちゃけイチャついてたんですけどね……。


 俺は妙な罪悪感が芽生え、路美と麗花に「なんか温かい物でも食べない? 奢るからさぁ」と言い、三人で飲食コーナーへと向かった。



 ――また奴に監視されていたとも知らずに……。






 ~黒原 懐斗side



 やあ、諸君。久しぶりだね。


 お前、誰に向かって言ってんのだって?

 僕ほどになれば、第四の壁を突破することくらい容易いのだよ。



 しかし、それでも『超越者』には決して敵わないだろう。


 超越者……異端の勇者:神西 幸之。


 今日も絶好調にその能力を惜しみなく発揮している。


 新しい生徒会メンバーであり、僕と同じ会計監査の『軍侍 路美』を取り込み、東雲生徒会長との3Pデートをさらりと成立させる巧みさ。


 さらに軍侍が不在な内に、あの難攻不落と謳われた『塩姫』として名高い東雲会長とイチャラブを実現させるなんて……。


 初めて見たよ、あんな東雲会長のデレ顔……美人がデレるってめちゃくちゃ可愛いじゃないか!?


 クソォッ! 羨ましいぞ! 羨ましいぞォォォッ! 神西く~ん!

 キミが羨ましいぞォォォォォッ!


 さぁ、同士達よ。

 いつものアレいくぞ……いっせーの、



 ヒェェェェェェェェェェェェイ!!!



「――なぁ、黒原君。二人でコーヒーカップにでも乗らないか? なんでも平衡感覚が鍛えられるそうだ」


 僕がこっそり神西君を監視する後ろで、『浅野 湊』君がひたすら誘ってくる。


 イケメンとはいえ、なんで男のこいつと二人っきりでコーヒーカップに乗らなきゃいけないんだ!?


 嫌だよ、絵面を考えろよ! やべぇよ、こいつ!?


 こんな所で平衡感覚鍛えてどうすんだよ!?


 体育祭の件といい、やっぱりそっち系でもあんのか!?




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る