第128話 女神から不意の告白
「外は寒いのに、アイスを頼んでしまう矛盾しているかもしれないなぁ」
俺と麗花と路美は飲食店コーナーで、何故かアイスクリームを注文した。
室内は温かく快適であり、何か甘い物といえばのノリだ。
窓際で俺を真ん中に二人が座り、その手には各々が頼んだアイスクリームを握っている。
「ここのさつま芋アイス、美味しくて評判なんですよ。先輩、一口食べてみます?」
路美は頬をピンク色に染めながら、アイスをスプーンで掬って見せている。
「へ~え、じゃあ一口だけ」
俺は遠慮なく、ぱくっと食べてみる。
なるほど……後から濃厚なさつま芋の味がしてくる。確かに美味しい。
「えへへ、どうですか?(やったぁ、サキ先輩との間接キス成立♪)」
「(や、やるわね、軍侍さん……まさか、その手があったなんて)サキ君、私のミント味もあっさりして美味しいわよ」
麗花もアイスを掬ったスプーンを口元に向けてくる。
「うん、頂くよ」
ぱくっとスプーンを口に入れた。
「はぁ~(何これ……凄くドキドキするわ」
麗花は深く溜息を漏らしながら魅入っている。
なんか小動物にエサを分け与えられている感覚も抱かずにはいられない。
「じゃあ、俺のチョコチップ味も二人に上げるよ」
今度は俺もスプーンに掬って二人に食べさせてあげる。
麗花も路美も「ん~~~♡」と言いながら美味しそうに食べてくれた。
あっ、よく考えたら間接キスだよな、これ?
今頃気づいたが、まぁ、いいかっと割り切った。
「――サキ先輩、これ」
路美は、ふとバッグから『クマのキーホルダー』を見せてくれた。
俺が修学旅行のお土産であげたやつだ。
自宅の鍵と一緒にくっつけてくれている。
「ああ、大事に使用してくれているんだね?」
「はい、私の一番の宝物ですぅ」
そんな満面の笑顔で言われると凄く嬉しい。
「ありがとう……勇気出して、路美に渡せて良かったよ」
「勇気? サキ先輩が?」
「そうだよ……お互い出会いが出会いだったからね。どうしようか迷ったんだけど……」
けど買ってしまった――。
理由はなんとなくだけど。
多分、路美が俺に好意を持ってくれて可愛いからだと思う。
別に変な下心はなかったんだけど、会って渡せればいいかなって……。
詩音じゃないけど、俺のこういう所がいけないんだろうか?
「けど、私とても嬉しかったです。だって絶対に、私のこと忘れられていると思ったから……」
「そんなこと……」
やっぱりいい子だな……だから余計に邪険にできない。
それに、こんなに喜んでくれているんだ。買ってきて良かったと思う。
「サキ先輩……」
「なんだい?」
「やっぱり……『枠』、いっぱいですか?」
「え?」
「なんでもないです……これからもよろしくお願いします」
路美は瞳を逸らした。そのまま俯き無言になる。
別の話題を振った方がいいかな?
「そういや、路美ってバスケやってるんだよね? 調子どお?」
「はい、もうじきウインターカップが始まるので……ウチの学校、出場資格得られたから、今それに向けて練習しているんです」
へ~え、サッカー部といい、ウチの学校スポーツ頑張っているんだな。
「路美も試合にでるのかい?」
「ええ、まだ補欠ですけど、来年に向けて試合には出させてくれるみたいで……」
「そっか、そうなったら、生徒会総出で応援に行かなきゃな」
俺の提案に、麗花も「そうね」と頷いてくれる。
「本当ですか!? 嬉しい……なんとか出れるように頑張りますね!」
「ああ、だけど無理して怪我だけはしないようにな」
「はい!」
本当に素直な後輩だと思う。
見ていて、こっちまでほっこりしてくる。
こりゃ気合入れて応援しに行こう。
「――サキく~ん。お姉さんにも構って~」
ミカサ先輩がドアを開けて入ってくる。
どうやら一人のようだ。
「あれ、先輩……勇磨先輩と亜夢先輩はどうしたんです?」
「ん~? 隙を見て抜け出したのよ。アムちゃんもようやく天馬と話せるようになったから、二人っきりにさせたわ。元々そうするつもりだったしね」
本当に、ミカナ先輩は天馬を異性として見てないようだな。
まぁ、当然か。
逆に、あんなわがままで凶暴な奴にぞっこんな亜夢先輩が凄いとしか言えない。
俺から言わせれば、奴は金持ち以外あんまりいいとこねーじゃんって感じ。
だけど亜夢先輩も相当なお金持ちのお嬢様だから、そっち目的じゃないだろうしな。
「サキくん達は何してんのぉ? ハーレム? まぜて~」
「なんてこと言ってんですか!? 三人で普通にアイス食べてくつろいでいるだけですよ! 変な方向で混ざろうとしないでください!」
「でも、これは親睦会でしょ? 気づけば別々のグループ出来ちゃっているし、せっかく一緒なのに勿体ないんじゃない?」
ふざけていると思ったら、いきなり正論を言ってくる。
やはり掴みどころのない女神様だ……。
「まぁ、ぶっちゃけて言いますけど、俺はどうも勇磨先輩が好きになれなくて……どうしても距離を置いてしまうんですよね」
「うん、その方がいいかもね。天馬も最近じゃ『神西、ぶっ殺す!』が口癖だからね」
致命的じゃねーか。
どの角度から見ても改善案が見つからねーよ!
「――けど、あいつ……ああ見ても意外と男気もあるのよ」
ミカナ先輩の口から初めて天馬をフォローする言葉が聞かれる。
「男気ですか……」
そういや、リョウも似たようなこと言ってたな。
体育祭の騎馬戦もなんだかんだフェアに戦っていたしな。
「ほら、よく言うじゃない? 『豚もおだてりゃ木に登る』って、あんなノリで、天馬と付き合えばいいのよ」
あんまり聞かないですよ、ミカナ先輩。
昭和のアニメネタじゃないですか……一体歳いくつですか?
「ですが神楽さん。私も当事者の一人として、サキ君の気持ちもわかります。言っときますけど、近寄りがたい雰囲気を作っているのは、そちら側ではないですか?」
麗花はスパッと切り込み指摘してくる。
密かに俺が被害を受けたことに、不満を抱いてくれているようだ。
「……そっだね。それは否定できないわ。ああ見ても、随分と丸くなったと思うけど……やっぱ、どっか浮世離れしているのよね。それより、麗ちゃん!」
ミカナ先輩の目つきが豹変する。今の麗花の言動が勘に触った様子だ。
「はい、神楽さん、何か?」
麗花も眼鏡の縁を指先でくいっとして位置を直し、舌戦への臨戦態勢を整える。
ゲームは弱いが、彼女も相当な負けず嫌いだからな。
俺と路美は黙って、ごくりと生唾を呑む。
「――相変わらず硬いな~! 前から私のことは、美架那って呼んでって言ってるでしょ!?」
どうでもいいことをムキになって注文をしてきた。
緊張した俺達はずっこけそうになり、麗花も肩透かしを食らう。
「は、はぁ……では、美架那さん。一つお聞きしますけど今回の親睦会、まるで『あの二人』の為に企画されたようにも見えますけど?」
あの二人とは、天馬と亜夢先輩のことだろう。
「そうよ。それと、私のためでもあるわ」
「え?」
「二年のみんなとも仲良くできたらなって……特にサキくん、キミとね」
「お、俺?」
いきなりミカナ先輩に名指しされ戸惑ってしまう。
対して、彼女は柔らかく微笑んだ。
「そっ。私、結構キミのこと気に入っちゃったんだよねぇ」
「え!?」
「ちょっと、美架那さん!?」
突然の告白に、俺と麗花は戸惑う。路美は開いた口が塞がらない。
一方のミカナ先輩は微笑みを絶やさない。
「フフフ、安心して麗ちゃん。私のは恋愛感情じゃないわ。なんていうか……人間、ううん。後輩としてよ」
あくまで、後輩として好感を抱いてくれたようだ。
「はぁ……まぁ、光栄です」
俺はそういうことかっと安堵する。
しかし、
――もしも、万が一、それが恋愛感情だとしたら……。
男としては嬉しいが、色々と問題が生じてしまいそうだ。
間違いなく、勇磨 天馬とはこじれて何をされるかわかったもんじゃない。
下手をすれば『勇者四天王』全員を敵に回しかねないような気がする……。
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