第126話 遊園地前で三年生を待ってみた




 ミカナ先輩との約束の日。



 俺達、生徒会の参加者は、遊園地の前に集まっていた。


 参加メンバーは予定通り、俺と麗花、路美とシンと黒原の5人だ。

 リョウと千夏さんは少し遅れて来るらしい。


 三年生は、ミカナ先輩と亜夢先輩、天馬……そして勇魁さんの四人だと聞く。

 ちなみに勇魁さんは用事があるらしく、少し遅れてくるらしい。


 どっちしても、なかなかの大人数だな。



「そうだ、サキ。事前にこれを渡しておくぞ」


 シンはポケットから二つ、金属製で掌くらいの大きさの何かを渡してくる。

 黒い光沢を発した、丁度指が四本入る穴が開けられている。


「なんだ、これ?」


「暗器のメリケンサック……俺は『ナックルダスター』と呼んでいる」


「ナックルダスター? これって、拳にはめて殴るアレか?」


「そうだ。それを装着すれば、お前の拳打パンチ力は数十倍になるだろう」


 なるか!? アホか!? 厨二っぽい口調で、生徒会副会長の俺になんちゅうもん渡してくるんだよ!?


 俺がドン引く隣で、黒原が「ほう……」興味ありそうに覗き見てくる。


「……確か、それって硬いモノとか殴ると逆に指を痛めるんですよね?」


「がっしりと固定したモノなら確かに破壊力が自分の手に跳ね返ってしまう。だから対人用の暗器なんだよ。決して悪戯に使うなよ」


「使うか!? こんなもん危ねぇじゃねーか!?」


「まぁ、武器を持った相手への牽制用でもいい。隠し持って置くのに損はない筈だ」


「……シン、お前、いつもこんなの持ち歩いていたのか?」


「まぁな。他にも寸鉄とか鉄扇とかタクティカルペンもあるが今日は所持していない。別なモノを服に仕込んでいるが、それは秘密だ」


 やべぇよ、こいつのカミングアウト。

 ガチの暗殺者アサシンじゃねーか……。


「……副会長、くれぐれも他人に見せたらいけませんよ。基本、その手の武器の所持は『軽犯罪法』に触れますからね」


 黒原まで妙な警告をしてくる。


「じゃあ、いらないよ。別に戦闘狂でもないし……」


「これから会う相手が相手だ……せめて今日だけでも持っておけ。お守りだと思えばいい」


 シンに強く勧められ、俺は溜息を吐きながらショルダーバッグに突っ込んだ。


「――それにしても、神楽さん達遅いわね」


 麗花は腕時計を眺めて呟く。

 彼女はロングコートにニットのワンピースと黒タイツと同級生とは思えない大人っぽいスタイル。

 すらりと身長もあってスタイルも抜群だからか余計にそう見えてしまう。


「サキ先輩、いざとなったら私達だけでも遊びましょうね」


 路美は嬉しそうに微笑を浮かべている。

 デニムスカートとニットカーディガンを羽織った女子高生らしい、可愛らしい私服姿だ。

 考えてみれば、この子とプライベートで一緒にいるのって初めてだから、とても新鮮に感じる。


「まぁ、もう少し待ってみようよ」



 俺がそう言った最中、



「サキく~ん、お待たせ~!」


 ミカナ先輩が遠くから手を振って近づいてくる。

 ふわふわのベレー帽にニットのセーターと両膝を見せたスカートなど、流石現役のJKモデルだと思う。


 その隣に、亜夢先輩も一緒に歩いており、お嬢様らしい清楚系のコーディネイトだ。


 流石は三年生……二人共、見た目だけでも相当なハイスペック女子だと思う。

 そんな二人とようやく合流することができた。


「遅れちゃってごめんね~、サキくん!」


「いえ、そんなに待ってないので……」


「わたくしの準備が遅いばかりに申し訳ありませんわ」


「いえいえ、壱角先輩……そんなことないですよ!」


 色々と疑惑の多い、亜夢先輩に警戒してしまっているのか、つい改まってしまう。


「神西くん、わたくしのことは亜夢でいいですわ……もうじき、お兄様も来られますので紛らわしいでしょ?」


「え、ええ……それでは亜夢先輩、俺もサキでいいのでよろしくお願いします」


「はい、サキくん」


 亜夢先輩は、俺に対し優しい笑みを浮かべた。


 う~ん……やっぱり可愛らしくて凄くいい先輩だと思う。


 とても先週の獰猛ぶりが嘘のようだ。

 やっぱ多重人格なのか? 

 いや同一人物だと決めつけるのは、まだ早いか……。


 何せそれを見極めるための集まりでもあるんだからな。


「そういや、ミカナ先輩。あのバカじゃなかった……勇磨先輩は?」


「まだ来てないの? そっか、きっとまた上から来るつもりね」


 ミカナ先輩は言いながら、青空に向けて指を差している。



 上だって? どういう意味だ?


 俺達全員が上空を見上げた――その時だ。



 何か大きな物体が舞い降りてくる。



「あっ、鳥だ」


「違う、飛行機だ」


「天馬様ですわ~♡」


 亜夢先輩の言動で、俺達は「え!?」と、より目を凝らして見つめる。


 ――それはパラシュートだ。


 よくみると一つのパラシュートに二人乗っている。

 所謂、『タンデムジャンプ』ってやつだ。


 パラシュートは滑り込むように、俺達から大分離れた野原へと降りて行った。



 しばらくすると、大柄な赤髪のパーマ男が猛ダッシュでこっちに向かって来る。


 ――勇磨 天馬だ。


「はぁ、はぁ、はぁ……ミカナ、間に合ったぜ!」


「間に合ってないわ、10分の遅刻よ。まぁ、私達も遅刻しちゃったから咎めたりしないけどね」


「天馬様、今日も素敵ですわぁ」


「おう、亜夢ちゃんも、その服似合ってるぜ」


「まぁ、嬉しいですわ」


 何事もなかったように、しれっと話し込む三年生達。


 いや、普通にこの状況可笑しくね!?


「ちょっとツッコんでいいですか? どうして勇磨先輩がパラシュートで降りて来たんですか?」


「なんだぁ、神西~!? んなもん、自家用ヘリで空から降りたに来たってんだろうが!」


 じ、自家用ヘリだと、この野郎!?


「さ、さっきのパラシュートは!?」


「俺と一緒に降りた爺やが回収している。なんか文句あっか?」


 爺やだと!? んなもん、いんのか!?

 そういや、こいつの家、恐ろしいくらい金持ちで財閥の坊ちゃんだっけ……ゴリラみたいに野生児っぽい奴なんで、すっかり忘れてたぜ。


 現に他の生徒会連中なんて、みんな大口を開けてただ呆れている。


「まぁ、見慣れてなければ誰でもそうだよね。それじゃ、早速受付して遊園地の中に入りましょ?」


 ミカナ先輩が仕切り、俺達は頷き彼女に従う形となる。



「――神西。テメェには昨日の屈辱を受けた件もあるが、今日だけは休戦協定だ安心しな。ただし、俺のミカナに近づくんじゃねーぞ!」


 相変わらずムカつく先輩だ。

 んなもん、お前が決めることじゃねぇだろ!


「勇磨さん、ご安心ください。サキ君は私達と一緒に歩きますので」


 麗花は言いながら、俺の傍に寄ってくれる。


「そうです。サキ先輩はこっち側の人なんですからね!」


 路美までフォローして寄り添ってくれた。

 二人の美女と美少女後輩に挟まれ、それだけでも俺は勝ったような気がする。


 天馬は「チィッ」と舌打ちし、受付しているミカナ先輩の所に向かった。




 ようやく遊園地に入ることができた俺達。


 考えてみれば、数年ぶりに来たのかもしれない。

 確か小学生以来だろうか?

 当時とほとんど変わらない光景に、俺は懐かしさで一杯になった。




「よぉ、サキ、待たせたな」


 リョウと千夏さんが良いタイミングて来てくれる。


「やぁ、良かったよ……二人共、来てくれて」


「サキくん、こないだはどうもね」


「うん、千夏さん……その後はどうなの?」


「……うん、順調。ね、リョウくん」


「お、おう……全てお前のおかげだぜ、サキ」


 いえいえ。こちらこそ、ごちそうさまでございます。


「まぁ、仲良さそうでよかったよ」


「まぁな……そういや姉貴が今度泊まりに来いって言ってたぞ」


「マ、マリーさんが……そのうちって伝えておいてくれ」


 どういうわけかリョウの姉である鞠莉さんは、前から俺のことを気に入ってくれているようだ。

 俺的には怖すぎて、あまり近づきたくないお姉さんなんだけどね。



 こうして俺達生徒会の二年生と、実行委員の三年生の極めて平和的な親睦会が始まった。




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