第125話 傀儡の悪役令嬢
~壱角 亜夢side
それは、ミィちゃんとお友達になったばかりの頃の話だ――。
わたくしの誘いに、彼女が初めてお泊りに来てくれました。
一度、お友達としてみたかった「恋バナ」を彼女に持ち掛けた矢先。
「そうそう、アムちゃん……出会った当初は天馬のことで、私を『泥棒猫』扱いしてたわね?」
「そ、そうですの……? ごめんなさい……」
「いいのよ。ずっと想いを抱いていたアムちゃんからすれば、いきなり出てきた私がそう見えても仕方ないかもね……でも、これだけは言わせてもらっていい?」
「はい、ですの……」
「――ほんと勘弁してね。私、天馬だけは無理だから」
「……逆にどうして、そこまで嫌なのですの? あんなに素敵な方なのに……」
「恋するアムちゃんの前で言いたくないけど、あいつ変よ! 私に話しかける男子達全員に問答無用で殴り掛かってくるんだからね! おかげでこっちが気を遣っちゃうわよ!」
「でも、いつも一緒にいますの。羨ましいですの」
「あのね、アムちゃん。一緒にいるんじゃない。傍にいさせているのよ……学園の平和のためにね。じゃないと何をしでかすかわからない危険人物でしょ? どんなにキレても、まだ私の言う事は聞くから首輪に鎖をつけて見張っているようなものよ。それは主従関係であり、恋愛関係とは言えないわ」
「でも天馬様は、ミィちゃんのことが好きです。いつも大声で叫んでますの」
「そうね。私はあえてそれを利用して抑えつけている酷い女よ。でも、そのおかげでみんなが平和に暮らしているし、私も平和な学園生活が送れているわ。とりあえず卒業するまでこのままの状態でしょうね」
「卒業までですの……」
「そう。その後は自由にさせてもらう……目指せ、スローライフよ」
「お金を稼ぐことじゃなくて、スローライフ?」
「うん。私、家のために幾つもバイトしているけど、実はそんなにお金に執着がある方じゃないのよね……お金持ちにも興味ないし」
「興味ありませんの?」
「ないよ。だって家柄とか人付き合いとか面倒くさそうじゃない? それよりまず、弟と妹がきちんと独立してもらって、お母さんとゆっくり静かに暮らしたい……それが今の私の夢かな」
高く望めばいくらでも、
あくまで家族と平穏に暮らしたいと願っている。
ミィちゃん……いいえ、神楽 美架那って方はとても不思議な女の子だ。
だから余計に惹かれてしまうのかもしれない。
天馬様も……わたくしも……。
コンコン。
扉をノックする音。
わたくしは「どうぞ」と声を掛けると、『
「お兄様、どうかなされましたか?」
「――亜夢、悪いがまた協力してくれないか?」
「お兄様……また、わたくしに扮して
「ああ、クソみたいな悪い奴がいてね。どうせゴミカスだ……いつものように粛清すると思えばいいだろ?」
「どうして、ご自分の姿でおやりにならないのです? お兄様なら――」
「僕が直接動くと天馬に気づかれるだろ? それに美架那にも……脳ある鷹は爪を隠すじゃないけど、彼らに僕がやっていることを知られたくないんだよ。特に勘がいいからね、
勇魁お兄様は軽い口調で言いながら、わたくしの
「今度はどのような方ですの?」
「学校外の奴だが気になるかい?」
「結局、火の粉はわたくしに降りかかりますので……前のディニーズ事務所だかのアイドルでしたっけ? 週刊誌にお兄様の姿が撮られていたようですよ」
「ああ、違う違う……撮らせて、こちら側で週刊誌に投稿したんだ。健勇と茶近に協力してもらってね。僕の美架那に手を出そうとした『
地元だからっていい気になるなよってね。まぁ、亜夢の姿なのは学校の連中に対して箔をつける意味もある。なぁに、どうせ一般人扱いで目線されているだろうし、知る人が知ればいい程度さ」
「……ミィちゃんは薄々勘づいていますわ。恐らく他の生徒の間でも何かしらの違和感を抱かれているかも……きっと生徒会の神西君達にも……」
「神西君か……彼の正義は嫌いじゃないが好きでもない……遊井にせよ、王田にせよ……詰めが甘すぎるんだよ、彼は……僕ならもっと徹底的に痛めつけて仕留めてやるけどね」
お兄様は昔っから正義感が強い。
本当は警察のキャリアや検察官になりたいようだが、お父様の後を継ぐことが決まっている。『壱角物産』の次期社長でもある。
「わたくしは神西くんのやり方には好感が持てますわ……罪を憎んで人を憎まずっていう言葉もありますもの」
「罪は人が生み、そいつが罪人って呼ばれるんだ。したがって根本的なモノを潰さない限り解決したとはいえない。たとえ、モラルに反しようと、『悪』は根こそぎ潰すべきなんだよ。勿論、亜夢にはいつも悪いとは思っているよ。でも、お前なら平気だろ? おかげで『謎の悪役令嬢』なんて呼ばれ、みんな怖がって以前みたいにイジメられなくなっているのだから」
「それはそうですが……お兄様はやることが過激すぎですわ」
「亜夢、そんな甘いことばっかり言っているから、舐められたりバカにされるんだよ。いいか、人間なんてのは常に誰かを見下して叩き、その優越感を得て生きてるような存在なんだ。その概念に富裕層も貧困層も関係ない。どう見下されないか叩かれないようにするか、それに限る。美架那がいい例だろ?」
「……わかってますわ」
「だったら、クローゼットからカツラを持ってきてくれよ。あと服もだ。そうだな……紺の花柄ワンピースがあるだろ? 肩幅を誤魔化すのにジャケットも必要だからな」
「ええ……」
わたくしは注文通りのモノを用意して、お兄様の傍に置く。
「ありがとう……よし、今日も完璧だな」
勇魁お兄様は鏡を見て納得し、自分の服を脱ぎ始める。
わたくしと同じくらいの身長なのに、筋肉隆々の背中を見せた。
紺の花柄ワンピースにジャケットを羽織り、最後にカツラを被る。
「亜夢、こっちに来てごらん」
呼ばれた、わたくしは近づき、鏡の前でお兄様と並んだ。
「どうだい、完璧だろ?」
――鏡の中で、わたくしが二人並んで映っている。
そう、わたくしが『悪役令嬢』と呼ばれる理由。
――全て、勇魁お兄様がわたくしに変装した姿だ。
お兄様は気に入らない悪人を見つける度に、その姿に扮して学校内あるいは外で『粛清』と称して対象者を狩っている。
やり方は様々だ――。
学校内では『悪役令嬢の取り巻き』を作り、集団で嫌がらせをして精神的に追い込んだり、直接暴力を使って相手を叩き潰すこともある。
特に外では、得意のジークンドーを使って病院送りにするケースがほとんどだ。
さっき話した、ディニーズのアイドルを始末したのと同様の手口で……。
その本性は手段を選ばず見境がない。
――偏った正義感の塊。
きっと内面に秘めた暴力性なら、天馬様の比ではないだろう。
いつも、その姿でやるものだから、わたくしが二面性のある『悪役令嬢』と揶揄されてしまっている。
高校一年の頃も、ミィちゃんに嫌がらせをしたのはわたくしではありませんわ。
――わたくしに扮した『勇魁お兄様』だ。
きっかけは、天馬様が彼女と揉めて屈服したばかりでなく、天馬様がミィちゃんに告白して交遊関係を持ったことで目障りと感じたことが発端だったらしい。
それ以前にも他の男子生徒達に、ミィちゃんに嫌がらせをしたり襲うようにけしかけたのは、実はお兄様
しかし、いくらお兄様が仕掛けて攻撃しようと、ミィちゃんは決して負けなかった。
最終的にはその場で変装したお兄様に向けて逆襲したようだ。
この時、お兄様も初めて「彼女にだけは絶対に勝てない」と諦め、今の関係に至ったらしい。
――それから、お兄様はずっとミィちゃんに密かな想いも抱いている。
さっきの会話の中からも「僕のミカナ」っという言葉が何度か聞かれている通りだ。
わたくしは、お兄様の尻拭いでミィちゃんに近づき、代わりに謝罪しながら彼女の人柄に惹かれ仲良くなったようなものである。
だから、わたくしもずっと親友であるミィちゃんを騙しているようなものだ。
「はい、お兄様。完璧ですわ……でも学校外であれば、別にわたくしの姿でなくても……」
「さっき言った通りだ、これは亜夢のためでもあるんだ。それと明日の遊園地の件、少し遅れるが僕も行くようにするよ。ミカナにもそう伝えてくれ」
「わかりましたわ、お兄様……」
わたくしは、勇魁お兄様に逆らうことはできない。
この世で最も一番身近にいて、その本性と恐ろしさを知っている人間だから。
だから自分の身を護るため、あえて傀儡になるしかないのだ。
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