第124話 体育祭終了と悪役令嬢の想い




 ~神楽かぐら 美架那みかなside



 天馬が騎馬戦の試合から戻ってきた。


 試合に勝ったのに、勝負に負けたせいか酷く憔悴している。

 正面から堂々とサキくんにハチマキを取られたことがショックだったらしい。


「おかえりー、天馬ごくろうさん」


「ミカナ……すまない。神西の首を持ち帰り、お前に勝利を捧げる筈だったのによぉ……」


 やめてよ! いつの時代よ!?

 サキくんに何かしたら、真っ先にあんたの首を刎ねてやるんだからね!


「まぁ、正々堂々と戦った結果なんだから、そんなに落ち込むことないわよ。私はあんたにしては頑張った方だと思うわ」


「本当にそう思ってくれるか?」


「ええ、まぁね」


「だったら、お前の膝の上で泣いていいか?」


「やってごらんなさい。首を刎ねて欲しいならね」


 私は拳を鳴らしながら睨みつけると、天馬は舌打ちしながら離れて行った。

 こいつ相変わらず油断も隙もないわ。

 少しでも見直した私がバカみたいね。



 しばらくすると、勇魁達も戻ってくる。

 実は騎馬戦の勝利は、彼らの功績が大きいかもしれない。


「勇魁、お疲れーっ」


「やぁ、ミカナ。僕の試合はどうだった?」


「流石って感じ。凄いねぇ、みんなと一緒だった3チームとも完勝だもんね」


「しっかり作戦立てたからね。正直、二年生で脅威なのは、神西君のチームくらいだろ?」


「あのルールだと、天ちゃんに咬ませておけば、後は俺らがバラバラでも楽勝だからねぇ」


「まあ、天馬に騎馬隊として同じチームに入れと言われたけど、効率悪すぎて流石に断ったよ」


 勇魁と茶近と堅勇がしれっと説明している。


 普段は天馬を立てている癖に、自分らに不利益があると、こうしてよく手の平を返してくる。

 別に悪い事ではないし、考え方は合理的なんだけど……。


 ――やっぱり違和感を覚えてしまう。


「天馬にきちんと相談したの? 今の話の感じだと、あいつを囮にしたように聞こえるけど……?」


「したって聞いてくれないよ。ミカナだって、あいつの性格しっているだろ?」 


「確かに、勇魁の言う通りだけど……」


「いいじゃん、ミカちゃん。俺らの活躍で三年が勝ったんだからさぁ!」


「まぁね……茶近」


「敵を騙すには味方からとも言うしね。これ、恋愛の駆け引きにも言えることじゃないかね?」


「堅勇、あんたが一番よくわからないわ……」


 まぁ、みんなの言いたいことは理解できる。


 けど私から言えば、「友達なら……」って感じ。


 ――そういえば、どうして彼らはいつも一緒にいるんだろう?


 初めは仲良し御曹司の四人組だと思っていたけど、実際はそうでもないし。

 けど認めているところは、お互いに認めているようだし。

 だからといって深い絆で結ばれているわけじゃない。


 天馬以外はあくまでドライな関係……。


 そう――まるでビジネスね。


 互いの利益を利用し合っているみたい。


 ウィンウィンってやつかしら?


 だけど非常に危ういバランスだと思った。


 特に彼らのことを深く知れば知るほどに……。


 ――ふと不安が過る。


 残りわずかの学校生活で、このバランスが崩されなければいいなって……。



 ほんの些細なことがきっかけで倒れてしまうのかわからないだけに……。






**********



 色々あった体育際もなんだかんだ怪我もなく無事に終わった。

 後はみんな風邪を引かなきゃいいなっと思うだけである。


 体育祭が終了した後、全生徒が早めの帰宅となっている。


 俺は愛紗と一緒に帰り、そのまま家で夕食を作ってくれることになった。

 夕食を一緒に食べた後は、いつもの通りに俺が彼女を家まで送ることにしている。



 その最中、



「――サキくん、今日はごめんね」


「え? 何が?」


 不意に謝ってくる、愛紗に俺は首を傾げる。


「……詩音のこと。あの時のこと……あの子に知られちゃって」


「ああ、そのことか……まさか、お父さんのこと話したのかい?」


「まさか……土曜日はデパートでサキくんとのデートって言ってるの。そこで根掘り葉掘り聞かれちゃって……つい」


「ほ、ほっぺに……してくれたこと言っちゃったんだ」


 俺の問いに、愛紗は頬を染めて無言で頷く。

 その仕草に胸がきゅんとしてくる。


「まぁ、隠し事できない所が愛紗の良いところだからね」


「ありがとう、サキくん……」


 愛紗は俺の手を握ってくる。

 外気の寒さもあり、その手の温もりに身も心も次第に温まってきた。


「ねぇ、愛紗」


「なぁに?」


「明日、お母さんと用事があるって言ってたけど、なんかあるの?」


 照れ隠しに何気に尋ねてみた。


「うん……お父さんの所、面会に行ける許可が出たから……」


「そうなの? でも、よく……ごめん」


 危なく口を滑らせる所だった。

 こればっかりは彼女とお母さんである愛菜さんの問題だからな。


 だけど、愛紗はニッコリといつもの優しい笑みを浮かべてくる。


「一生懸けても償ってほしいから……わたしとお母さんで、あの人を付かず離れずに見守ることにしているの。一応は父親だからね」


「そうか、やっぱり凄いな……愛紗も愛菜さんも……」


 普通はとても出来ることじゃない。


 そしてお父さんは幸せだと思う。

 きちんと更生して真人間になってもらいたいものだ。


「わたしが、こういう気持ちになっているのはサキくんのおかげだよ」


「俺の? どうして?」


「だって、サキくんも悪い事した人達を大抵許しているでしょ? その影響もあると思うの……ずっと避けてばかりじゃ前に進めないし」


「愛紗……うん、そうだと思う」


 俺は心から、愛紗は強い女の子だと思った。






 ~壱角いちかく 亜夢あむside



 明日は、いよいよ天馬様と遊園地にてデートですわ。


 二人っきりではないですが、わたくしにとっては十分なことです。

 今から嬉しすぎて気持ちが舞い上がっておりますの。


 これもミィちゃんがセッテングしてくれたおかげですわ。


 本当にいつもわたくしのことを考えてくれる、とても大切な親友……。

 



「……ああ、天馬様」


 わたくしはお部屋の壁に飾られている、天馬様の等身大パネルを眺めながら呟いていた。


 ――麗しの君。


 とても凶暴で獰猛で誰に構わず、威風堂々と拳を振るう勇ましい姿。

 いつも威圧感丸出しに、教師達すら手にも負えない問題児。

 世の中、なんでも思い通りになると本気で考えている我儘さ。

 自分が一番だと豪語する、あくまで自己中心的な振舞い。


 ――だけど、本当はとても情が深くお優しい。


 わたくしは誰よりも、その事を理解している。

 だからこそ、お慕いしているのです。




 あれは、私立の小学校で低学年くらいの時。



 昔から気の弱い、わたくしはよく男子生徒達に揶揄われイジメられておりました。


 原因は双子のお兄様と同じ顔をしているから……。

 よく男みたいだと揶揄されていました。


 お兄様は別のクラスでしたが、そんなことはなかったようです。


 まぁ、あのお兄様に何かできる人間がいるとしたら、それこそ天馬様くらいでしょう。


 気の弱いわたくしに男子達の嫌がらせ行為がより過激になりそうだった時――。


「お前らぁ! たった一人相手に寄って集って何やってんだぁぁぁっ!!!」


 転校してきたばかりの天馬様が颯爽とわたくしを助けてくれたのです。


 当時から勝気だった彼は、たとえ相手が大人数だろうと物怖じせず、わたくしを守ってくれました。

 それがきっかけで、お兄様とも仲良くなったようなものです。


 わたくしも、それからずっと密かに彼を想い続けていました。




 でも、天馬様はわたくしの親友である『神楽 美架那』ことミィちゃんにぞっこんです。


 気持ちはわかりますわ。


 ミィちゃんは本当に素敵な子。


 とても綺麗で頭も良く度胸もある子です。

 優しくて大らかで頑張り屋で、さらに男子に負けないほど喧嘩も強く、異様に執念深い。

 気が強く、わたくしに無いモノを沢山持っている方ですわ。


 だから、わたくしはミィちゃんに憧れ友達になってもらいました。

 

 そして、より彼女を好きになってしまいました。

 勿論、大切なお友達としてですわ。


 本当は、ミィちゃんと天馬様が一緒になるべきかもしれません。

 

 けど、彼女は本当にそういう気持ちがない様子です。

 初めは、わたくしに遠慮しているものだと思ってました。


 だって、あんなに素敵な天馬様に好意を持たれて恋に落ちない女子はいないと思ったから。(※恋は盲目ともいいます)


 でも、ミィちゃんは――






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