第123話 何かと波乱の体育祭「後編」




「サキ……ごめんねぇ」


 詩音が二人三脚競争について謝ってくる。

 彼女の企みのせいで、俺が田中先生と一緒に走る羽目になってしまったからだ。


「あの場合、仕方ないだろ? 天宮さんをぼっちにする方が問題だ」


「うん……ありがとう。やっぱ優しいなぁ、サキ……えへへ」


 頬を染めて柔らかく微笑む、詩音。

 まぁ、この笑顔に免じてってやつだな。


「ねぇ、サキ……」


「うん?」


「暖めてあげるから、あっちで隠れてハグしようよ」


「だ、駄目だよ! おまっ、何言ってんの!? 誰かに見つかったらどうすんだよ!」


「じゃ背中のハグは? だったら、じゃれ合っている感じでOKじゃない?」


 それはそれで想像するだけでドキドキしてしまう。

 思わず賛同しそうになってしまうが……。


「いや、やっぱり俺達、一応は生徒会だし……他の生徒に示しがつかないって言うか……学校内じゃ気まずいっていうか……」


「――サキ君の言う通りよ、詩音!」


 凛とした声、麗花が毅然とした態度で近づいて来る。


 彼女の後ろで愛紗も体をもじもじしながら付いて来た。


「ぷん!」


 詩音は頬を膨らませ、そっぽを向く。

 いつも仲のいい幼馴染達にしては、珍しく険悪な雰囲気だ。


「サキ君、さっきの二人三脚競争……パートナーがいなければ、私達に声を掛けてくれれば良かったのに……」


「いやぁ、気持ちは嬉しいけど、麗花達だって二度走るのも大変だろ?」


「そんなことないよ。サキと一緒に走れるなら寧ろ……」


 愛紗は語尾の方で言葉を詰まらせる。


「二人共、クラス違うんだけど……」


「サキ君が困っているのにクラスは関係ないでしょ、詩音」


「それにあんまり羽目を外すとサキくんだって迷惑でしょ?」


「アイちゃんだけには言われたくないし~!」


 詩音に強く言われ、愛紗はしゅんとする。

 なんだ? またどうしたんだ?


「おいおい、みんなも見ているし、こんな所で喧嘩はやめてくれよ」


「いいの! だってアイちゃんが悪いんだからね!」


「なんだって? またどうして?」


 俺が問うも、誰も答えようとしない。


 愛紗は俺をチラ見して俯き、顔を真っ赤にしている。


 ――あっ、まさか!?


 言っちゃったのか? 先週の『親父さんの事件後』に俺のほっぺに貴重なちゅうをしてくれたこと?


 前のハグした件といい、愛紗ってどうしてなんでも幼馴染に言っちゃうかな~!?


 どうせまた詩音の誘導尋問に引っかかってしまったんだろうなぁ。


「しょ、しょーがないだろ! あの時は色々あったんだ! なぁ、愛紗!」


「う、うん……サキくん」


 妙に恥じらう乙女を見せてくる愛紗さん。

 そんな反応をしたら何も無かったとしても、さもあったような感じになってしまうだろ?


「けど、詩音。それはそれ、これはこれよ。サキ君に迷惑を掛けていい理由にはならないわ」


 麗花が二人を宥めて場を取り繕う。


「わかった~。ごめんね、サキ、アイちゃん……」


「いいよ、詩音。わたしこそ、色々とごめんなさい」


 二人共、素直に謝り仲直りしている。

 流石、幼馴染って感じだな。

 特に誰が悪いってことはないんだけど、この素直さが彼女達の良い所だと思う。


 つーか、愛紗さんが一体どこまで二人に話したのか気になる……。




 その後も次々と色々と競技が行われ、無事にこなして行く。


 最後はいよいよ男子生徒達による学年対抗の『騎馬戦』が行われることになった。


 本来は互いの英知と想像力を結集した白熱する戦いが繰り広げられるのだが、今の時代は意外と平和的なものだ。


 まず男子生徒全員参加ではなく、体力自慢のある生徒達が数人ほど選ばれる。

 一斉に生徒達が戦うのではなく、三チームほど小分けにして順番に戦い、相手のハチマキを取った合計数で最終的な勝敗が決まる。

 参加中は、男性教師達が付きっ切りで生徒達を囲み、万一落馬してもいいように支えてくれる。

 したがって騎馬は走っては駄目だとか細かいルールが設けられていた。


 俺はリョウとシンと『彦坂ひこさか 克也かつや』というクラスメイトとチームを組むことになっている。

 彦坂は本来カースト上位グループだが、人数的に余ったのでこっちに招き入れたのだ。

 (本当は黒原を入れたかったが、体力的に戦力外となる)


 騎手は俺であり、騎馬は他の三人という構成だ。


「ちゃちゃと終わらせて教室に入ろうぜ……俺、寒いの苦手なんだよ」


 リョウが面倒くさそうにぼやいている。気持ちはわかるけどな。


「んで、俺達の対戦相手は……」


 俺は向かい側で待機している相手チームの三年生の姿を一瞥する。


 ん? やっぱり、あいつがいたぞ。


 ――勇磨 天馬。


 しかし、他の三人の姿は見られない。


「ぶっはははははーっ! 神西ぃ! ついにテメェと決着をつける時が来たぜぇ! 覚悟しろよぉ!」


 もう、さっき勇魁先輩に言われたことを忘れてやがる……マジでどうしようもない先輩だ。


 まぁ、いいや、それより……。


「先輩~ぃ! 他の三人はどうしたんですか~!?」


 大きめの声で聞いてみる。


「クラス違うから一緒なワケねーだろ! バ~~~カッ!」


 そりゃそうか……つーかバカ野郎にバカと言われると凄ぇ腹立つ!


 んなもん、テメェら得意の財力で無茶ぶりしてベスト・メンバーを集結させろってんだ!

 あっ、生徒会副会長の俺が思っちゃ駄目な発想だ……。


「あの先輩、意外とフェアだろ? だから憎めねぇんだよなぁ」


 リョウがやたら天馬を持ち上げている。

 前もそんな言動が聞かれていたな。


 けどいくらマブダチの言葉でも、俺にも受け入れがたいこともある。

 とかやってる内に、俺達が戦う番が来た。


「行くぜぇ、テメェら! 対神西フォーメーションだ!」


 天馬が指示を出すと、奴の騎馬隊を中心に他の2チームの騎馬隊が渦をまくように旋回しだした。


「なんだ、ありゃ!?」


 あまりの奇策に驚いてしてしまう。

 ところで対神西フォーメーションって何よ?


「見たか! 必殺、旋風陣だ! どうよ、これで手も足も出ねぇだろ、ああ!?」


 確かにほぼ徒歩とはいえ、天馬がいる中心に入ると、回っている他の2チームにサイドを取られてしまうな。

 だけど、それが有効なのは、あくまで俺達が残り1チームとなった場合じゃね?


「味方の2チーム、悪いんだけど、あのくるくる回っているチームの足止めしてもらっていい?」


「「おっけー」」


 俺のお願いで、味方の2チームが、旋回するチームを足止めする。

 付き添っていた先生達は目が回ったのか、ぶつかり合って生徒より危ない目にあっている。

 傍迷惑な作戦だなっと思った。


「なんだと!?」


「これで一対一ですね、先輩」


 驚愕する天馬に、俺は余裕の笑みを浮かべた。


「ちくしょう、神西がぁ! こうなりゃ正面突破だ!」


 天馬を乗せる騎馬隊が玉砕覚悟と言わんばかりに突っ込んでくる。


「どうする、サキ?」


 中央を支えてくれるリョウが指示を求めてきた。


「小細工不要さ、こっちも正面で戦おう。けど俺も足と腰を使うからしっかり支えてくれよ」


 俺の指示に三人は了承してくれる。


「神西ぃぃぃぃぃ!」


 天馬の騎馬隊は接近し、奴は俺の額のハチマキに向けて腕を伸ばしてくる。


 が、



 シュッ――



 カウンターのジャブを打つ要領で、俺が素早く天馬からハチマキを奪い取った。


「なぁぁぁぁにぃぃぃぃ!!!?」


 天馬はあっさり負けたことがショックで雄叫びを上げる。

 

 まぁ、ハチマキを奪うだけならスピードのある俺の方が断然有利だろう。

 こいつの動きは初めの頃の騒動で大体見切っているしな。


「相変わらず、サキも手技は天才的だな。こりゃ最強の『暗器使い』になれるだろう」


 シンは後ろで支えながら褒めてくれる。

 嬉しい言葉だが、彼は俺に何をさせたいのか最近じゃ疑問に思う。



 それから他の2チームのフォローに入り数の力で撃破することができた。


 しかし結局、総合点では三年生に負けてしまったけどね。


 それでも、俺は天馬との勝負には勝ったから十分に満足だ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る