第120話 深まる疑惑と女神からの誘い




 ミカナ先輩の話は続く。


「――わたしだって最初の頃は、アムちゃんって実は多重人格じゃないかって思ったわよ。密かに『サイコパス・アム』って命名したくらいよ」


 若干どうでもいいプチ情報を交えながら……。


「だけど、キミ達の話を聞く限りでは、サキくんを蹴り一発でブッ飛ばす程の強さは彼女にはないと思う……家柄が家柄だから護身術は習っているみたいね。でも格闘技や武道をやっているなんて聞いたこともないし……でも」


「でも?」


「キミが感じている違和感は、私も感じているよ……アムちゃんと親友である今もね。逆に親友と思うからこそ、このままじゃいけないような気もするわ」


 ミカナ先輩も俺と同様の事を密かに思っていたようだ。

 

 やっぱり先にこの人に相談したのは良かったのかもしれない。

 

 なんていうか……思考が俺に似ている。

 

 麗花や詩音から、彼女が「どこか俺に似ている」って言われていたけど、ようやくその意味を理解しつつある。


 それにミカナ先輩がよく俺に向けて『不思議な人』っと言っていた理由も……。


 ――似た者同士。


 きっと、そう言いたかったに違いない。



「これまで、ミカナ先輩から亜夢先輩に言及とかしたことなかったんですか?」


「あるわよ、何度も……その度に、あの子は黙ってしまうか、下手したら泣き出してしまうの。だから聞くに聞けなくなっていたのも事実ね……まぁ、対象者となった人達もまるっきり善人ってわけでもなかったし」


 そう言われてみれば、アイドルの『御手洗みたらい勇李』もろくな奴じゃなかったな。

 昔は犯罪者の『板垣』と同じ中学の元ヤンでつるんでいたらしいからな。



「ねぇ、サキくん。この写真一枚もらっていい?」


「俺は構わないけど、いいか黒原?」


「……僕も構いません。女神様に貢献できるのですから」


 黒原がそう言った瞬間、ミカナ先輩は顔を顰める。


「ちょっと会計くん。私、そういう呼び方されると凄くイラッとするよね! やめてくれる!?」


「……は、はい!」


「本当、頭に来ちゃう! 私達に変に仇名をつけた奴! 卒業するまで見つけ出して、ギッタギッタにフルボッコにしてやるんだから!」


「ヒィィィィッ!」


 拳を鳴らして意気込むミカナ先輩に、黒原は妙に怯えている。

 まるで仇名をつけた張本人のような素振りだ。


 そういや、こいつ……時折、俺にも『異端の勇者』とか妙な呼び名で叫んでいたよな?


 考えてみれば、これまでの『勇者』と呼ばれていた連中といい、愛紗達の『三美神』といい……。


 ――実はこいつじゃね? 名付け親の犯人?


 いや、まさかな……。


「それにしても前の事件……御手洗くんと一緒に歩いていた女の子……もしアムちゃんだとしたら、誰が週刊誌に投稿した人物なのかも気になるわ。サキくんの話だと、ウチの学校の生徒かもしれないのよね?」


「はい……亜夢先輩に恨みがあるんじゃないかという話です」


 それは後輩である耀平からの情報だ。

 

 御手洗が暴行を受ける前、ラブホテル街で一緒に手を繋いで歩いていた女子が、亜夢先輩ではないかという疑惑がもたれている。

 本当は、アイドルの御手洗のスキャンダルではなく、大富豪の娘である彼女のスクープとして写真が投稿されたんじゃないかという話だ。


「案外ウチの生徒じゃなくて、アムちゃんのお家に恨みがあるかもしれないわね。何せ世界で名を馳せる『壱角物産』だから……何かしらの敵がいても不思議じゃないわ」


「……そうですね。可能性を考えるとキリがないですけど、」


「本当、アムちゃん可哀想……。私も家庭の事情でお金は必要だけと、それ以上のお金持ちにはなりたくないわ……特に、敵の多い天馬達を見ていたら余計にそう思えてくるもの。だから彼らも周囲に馬鹿にされないよう、ああいう振る舞いをしていると思うの。そういう意味じゃ、あいつらも浮きまくりで可哀想な連中なのよ」


 俺も理解はできる。

 なまじ気づけば敵が増えていることが多いだけに……特に何故か男達から。


 それにしても、勇磨達も可哀想か……ずっと傍にいるミカナ先輩だから言える台詞かもな。


「……サキくん。アムちゃんの件、しばらく私に預けてもらっていい?」


「ええ、先輩。わかりました」


 こうして、亜夢先輩の件はミカナ先輩に預けることになった。



 その束の間。



「――ミィちゃん」


 ふと屋上に誰かが上がってきて、声を掛けてくる。


 振り向くと、『壱角 亜夢』先輩が立っていた。


 相変わらず気品の塊のような麗しい淑女のような佇まいである。

 とても昨日、雄叫びを上げて俺に襲い掛かった人物とは思えない


 やっぱり何かが異常だと思った。


「アムちゃん……どうしたの?」


「いえ、お兄様からミィちゃんがどこに行ったのか聞いたら、神西くん達と屋上に行ったと仰っていましたので……それに、わたくしも『体育祭の実行委員』ですわ」


 お兄様……ああ、双子の兄の勇魁ゆうかい先輩だっけ?

 

 さっきチラッと見かけたけど、双子なだけに顔つきはよく似てたよな。

 おまけに身長も同じくらいか……。


「そう、でもアムちゃん。丁度、話し合いは終わったところよ。後で説明するからね」


「はい」


 素直にニッコリと優しく微笑む、亜夢先輩。

 一瞬、平和主義の愛紗とキャラが重なって見える。


 だから余計、違和感しかないけどな。


「――アムちゃん、一つ聞いていい?」


「はい、ミィちゃん。どうしましたか?」


「昨日、何してたの?」


「ずっとお屋敷におりました。基本、用事がない限りは外出いたしませんの。それが何か?」


 普通に応える亜夢先輩。とても嘘をついているように見えない。


「そう、ならいいわ……あとね、アムちゃん」


「はい、ミィちゃん」


「何か格闘技とか護身術とかやってたっけ?」


「合気道を少々……どうかなさいましたか?」


 合気道だって? やはり武道はやっているのか?


 でも合気道って確か相手の力を利用して投げたりする武道だよな?


 急所を攻撃したり、あんな激しい蹴り技なんてなかったような……。

 そもそも攻めるイメージがない。


「ううん、なんでもないわ――それよりアムちゃん、体育祭が終わったら天馬とデートしてみない?」


「え!?」


 ミカナ先輩のいきなりの提案に、亜夢先輩が驚愕する。


「ミ、ミィちゃん……どうしたの、いきなり?」


「打ち上げよ、実行委員としてのね。勿論いきなり二人っきりは、アムちゃんのハードルが高いから、みんなで『遊園地』で遊びに行くのもありね。所謂、グループデートって奴? ねぇ、サキくん」


 何気に俺を見つめながら、片目をつぶってウィンクしてくる。


 俺に振られても、特に三年生同士が仲良く遊びに行く分には関係ないしな。


「別にいいんじゃないですか?」


「じゃあ、サキくん。来週の土曜日だからよろしくね!」


「はぁ?」


「デートよ、デート! キミも一緒に来るんだぞぉ!」


「ええ!? 嫌だぁ、なんでぇ!?」


「いいじゃない、お互いの親睦を深めましょ? あれだったら、麗ちゃんとか生徒会の人も連れてきていいから……そこの会計のキミも行こうよ!」


 うわっ、行きたくねぇ!


 ミカナ先輩は良しとして、あの『勇磨いさみ』もだろ!?

 会った早々、喧嘩になるに決まっているじゃないかぁ!?


「……でも先輩、あの勇磨先輩が了承しますかね?」


「大丈夫よ。私の言う事には忠実だから尻尾振って喜んで来るわ。ああ見ても、アムちゃんとも兄貴の勇魁を通して仲はいいのよ、ねぇ?」


「はい……いつも麗しくて素敵な方ですわ♡」


 いや、あんた達はいいかもしれないけど……俺とあの凶犬の仲は険悪だからね。


「……僕は構いませんよ。うふふふ」


 いや黒原、構えよ。お前、絶対に別な目的で了解しているだろうが!


 う~ん……しゃーない。



 ――ある意味、亜夢先輩の正体を見極めるいい機会かもしれない。


 

 こりゃ、勇磨の暴力対策にシンも誘って万一は二人で抑えつけるのもありだな。

 

 リョウにも声を掛けて、千夏さんとの復縁祭りにしようじゃないか。


 あっ、別にあのカップル……別れていたわけじゃなかったっけ。


 寧ろ超相違相愛のリア充カップルだったんだ。




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