第119話 不可解な悪役令嬢




「……副会長、鍵を借りてきました――おっ!? ホウォォォォォッ! この状況は、まさか異能チート!? また、やっちゃったんですね、副会長!?」


 戻ってきた黒原が、騒然とする現場を見てテンションを上げている。


 ところで、またやったって何がよ? 

 一応、お前は味方の筈だろ?


「サキくん、行こ。そこの会計のキミも」


 ミカナ先輩は周囲の雰囲気などお構いなしに、俺の腕をぐいぐい引っ張って行く。


「ぐぬぅ……神西ぃ、テメェ……」


 勇磨は奥歯を噛み締めて、俺を睨んでいる。


 他の仲間三人も奴ほどではないが、じっとこちらの様子を見ていた。

 何を考えているのかわからない。

 非常にわかりやすい勇磨とは、まるで違う異質さを三人に感じてしまう。


 それこそ嘗ての『遊井』や『王田』のような表面は優等生ぶり、その奥に隠された内面の不気味さ……。





 屋上にて。


 ようやく、ミカナ先輩と三人だけの状況となった。


「それで、サキくん。私に話ってなぁに?」


「ミカナ先輩……ひょっとして何か察してます?」


 改めて聞いてくる彼女に俺は違和感を覚える。


「まぁね。前にあんな目に合ったサキくんが、自分から三年生の教室に来るなんて余程のことでしょ? 体育祭の話なら、生徒会長の麗ちゃんがアポ取りに連絡してこないのも不自然だし……」


 どうやらお見通しらしい。

 俺も麗花か詩音の伝手でないと、ミカナ先輩とは直接会って話す以外は手段がないからな。

 下手に二人の耳に入れると内密にしたい話がバレてしまうかもしれない。


 ミカナ先輩と壱角先輩のためにも出来るだけ情報を漏らすことは控えるべきだと思った。


「……実はミカナ先輩に相談っというかお話しした方がいいかと思いまして……そのぅ、壱角先輩の件で……」


「壱角? どっち? 兄の勇魁ゆうかい?」


「いえ……妹のお友達の方です」


「アムちゃん?」


 俺は素直に頷く。



 そして昨日の出来事や、『アイドルの御手洗の暴行事件』など、引っ掛かることを全て彼女に説明する。



「――ってことがありまして。それに証拠あったりして……黒原、先輩に例の写真見せてやってくれ」


「……わかりました」


 俺の指示で黒原は隠し撮りした写真をミカナ先輩に渡して見せる。


 正直、出しゃばりすぎて怒られる覚悟もしていた。

 親友の秘密っというか、プライベートを暴露しているようなもんだからな。


 しかしニュースや週刊誌にも乗っている事件だし、知ってしまった以上は放置するわけにもいかない。


 ましてや、ミカナ先輩の親友なら尚更……。



「――やっぱりね。アムちゃんって前々からそういう所があるのよ」


 ミカナ先輩は意外にも同調して見せる。


 にしても、「やっぱり」って……。


「先輩も心当たりあるんですか?」


「あるわ。だって一年生の頃、初めて会ったアムちゃんは本当に意地悪な子だったからね」


 ミカナ先輩は俺達に当時の『壱角 亜夢』先輩との出会いとやり取りを話してくれた。




 当初のミカナ先輩は、あの『勇磨 天馬』に告白され、あくまで友達とならばと交流を持つようになったらしい。

 その芋ずる式で、他の『勇者四天王』三人もついて来たようなもんだと話していた。




 しばらくして、亜夢が仲間の生徒を引き連れて美架那ミカナの前に現れた。


 なんでも亜夢が片想いしている『勇磨を奪った泥棒猫』だと言い出し、そのまま美架那の頭に牛乳瓶を逆さにして頭からぶっかけてきたらしい。


 ――基本、美架那はやられたら数倍にして、やり返す女子である。


 翌日、彼女は500mlの牛乳パックを隠し持ち、亜夢のいる教室に乗り込んだそうだ。


「あんた、壱角 亜夢って言ったわね!」


「は、はい……どなたでしょうか?」


「昨日はよくもやってくれたわね! くらえーっ!」


 美架那は500mlの牛乳パックの蓋を開け、亜夢先輩に頭上に逆さにする。


 当然、亜夢は全身牛乳塗れとなった。


「……ひ、酷いですわ……えっく、えっく、えっく」


 彼女は弱々しく、めそめそと泣き出した。


「ざまぁね! これに懲りて二度と私に仕掛けて来ないことね! 次は5倍にして返してやるんだから!」


 美架那はドヤ顔でその場を立ち去った。




 次の日。



 勇磨達の不在を見計らい、今度は亜夢が仲間を引き連れて教室に乗り込んできた。


「神楽 美架那……昨日は、よくもわたくしに恥をかかせてくれましたわね!」


 いきなり頬を引っ叩いてきた。


 しかも仲間に囲まれ、身体を押え付けられ身動きが取れない状態で何度も……。


 頬を真っ赤に腫らし、ぐったりする美架那に、亜夢はこう言ったらしい。


「貴方こそ、自分の立場をわきまえた方がいいですわ――この貧乏人がぁ!」


 最後の捨て台詞で、美架那がブチンとキレた。


 美架那は掃除ロッカーから、モップを持って逆襲に行く。



 亜夢は一人教室で静かに本を読んでいた。



「壱角ゥ! さっきはよくもやってくれたわねぇ! あんただけは絶対に許さないわ! 覚悟しなさいよ!」


 美架那は、亜夢の髪を鷲掴みにする。


「いやあ! やめてぇ!」


「今更やめてじゃないでしょ! 言ったわよね! 次は5倍にして返してやるって!」


「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」


 涙をボロボロ流し、とにかく許しを請う、亜夢。


 他所から見れば、どう見ても美架那が悪者になっている。


「な、何よ! あんたから先に仕掛けてきたんでしょ!? さっきの仲間は何処に行ったのよ!?」


「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ううう」


 何を聞いても、亜夢は謝罪しかしてこない。

 さっきの威圧的な態度は微塵も感じられなかった。


 おかげで昂っていた美架那の感情は冷めて行く。

 亜夢の髪から手を離した。


「わ、悪かったと思っているなら、もういいわ。本当に次こそはないからね……」



 しかしその後も、亜夢は人が変わったかのように、美架那に何度か嫌がらせをしてくる。

 

 少し時間を置いた状態で責め立てに行くと、亜夢はまた怯え謝罪しながら泣いてしまう。


 まるで加害者が被害者になっているような違和感――。


 美架那は不思議に思わずにはいられなかった。





 そして、ある試みを決意する。



「――貧乏人が、いい加減に身の程を知れですわ」


「うるさい、この悪役令嬢がぁ!」


 美架那は拳で、亜夢の顔面を殴る。


「ぶほっ! グウ!? 普通、女がグウで殴る!?」


「今までのツケよ! でも不思議ね……今のあんたなら一切の容赦なく、なんでもやってもいいような気がするわ! 覚悟しなさい!」


 美架那はたとえ他の生徒が見ていようと、受けた仕打ちはその場で徹底的に晴らすようにした。


 幸い美架那は『勇磨 天馬』と交際が疑われているため、生徒も教師も彼女の行動を黙認している傾向がある。

 彼女はあえて、それを利用したのだ。


 逆襲された亜夢はボロボロになりながら悲鳴を上げて逃げ出したらしい。



 その一件から亜夢による美架那への嫌がらせと攻撃はピタッと沈静化した。



 さらには――。



「神楽さん、是非わたくしとお友達になってくれませんか?」


 突然、愛の告白をするかのように、友達になりたいと強く申し込まれてしまう。


 美架那も『勇者四天王』との付き合いで、周囲から浮いた所もあり渋々了承する。


 それ以降は、これまでの事が嘘のように気が合い、二人は親友と呼べる間柄になったそうだ。




「――アムちゃんが……あの子が『悪役令嬢』って呼ばれるのもそれが理由よ。私の前ではすっかり見せなくなったけど、今も時折同じようなことをしているみたい……わざわざ、それ専用の集団グループも作っているみたいだからね」


「ミカナ先輩は知ってて、壱角せ……いや、亜夢先輩の行動を黙認しているんですか?」


「だって証拠がないんだもの……この写真だって凄く似ているけど、100%本人だって確証はないでしょ?」


「そ、そうですけど……」


「それにね。普段のアムちゃんは、純粋で本当にいい子なんだよ。気が弱くて人と争うのを嫌う本物のお嬢様だよ。だから余計に信じられないの」



 じゃあ、昨日の亜夢先輩は一体なんだって言うんだ?





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