第118話 寝取り勇者の復活
「――副会長、大丈夫ですか?」
気が付くと黒原が顔を近づけていた。
俺は起き上がり、周囲を確認する。
――誰もいない。
壱角先輩どころか、隣でボコボコにされて倒れていた男の姿さえもなかった。
俺だけがゴミ捨て場で埋もれるように倒れて気を失っていたらしい。
きちんとガードしたのに、たった蹴り一発で……。
一体なんだったんだ、あれは?
昨日、戦った空手の有段者である菅野とは違う……まるで異なった動き。
例えるなら、『一気に畳み掛ける』――そんな戦い方だった。
今はそれよりも……。
「黒原、壱角先輩は? 俺の隣にいた男は?」
「……はい、壱角先輩が男を背負って、さらに路地裏の奥へと連れて行きました。倒れて動かなくなった副会長はスルーされてました」
言いながら、デジカメで撮った画像を見せてくる。
あんな華奢そうな身体なのに、壱角先輩は自分より上背のある男を片肩に担ぎ上げて悠々と歩く姿が写っていた。
さっきの戦いぶりや様子といい……明らかに女子とは思えない。
まるで人格どころか中身すら入れ替わっているような……。
俺は自分の身形を確認する。
頭はくらくらするが、他は目立った外傷はない。
それに顔を隠すために身につけてマスクやキャップもそのままだ。
黒原の言う通り、スルーされたのは本当らしい。
「ところで黒原は何故逃げなかったんだ?」
「……逃げましたよ、自分の安全が確保できる距離までは……ですが、副会長を見捨てていいってことにはならないでしょ?」
「え? ああ……ありがとう」
差し出された腕を掴み、その場から立ち上がった。
結構、見直したっていうか意外といい奴だと思いながら……。
「……いいえ(この僕が貴重な
その黒原は薄い笑みを浮かべている。
とりあえず、ここから早々に立ち去るべきだと思い路地裏を離れラブホテル街を出た。
「……副会長、この画像どうしましょうか?」
繁華街を歩きながら、黒原は聞いてきた。
確かにどうしたらいいものか……。
けど、これまでの疑惑が確証に変わったのも事実だ。
ディニーズ事務所のアイドル『御手洗 勇李』を暴行してゴミ捨て場に全裸で放置したのも、さっき対峙した壱角 亜夢先輩の仕業に間違いない。
だけど本当に彼女なのか?
あんな目に合ったのばかりなのに未だ信じられない。
それに仮に本人だとして、本来俺が介入する理由もそんなにないわけだし。
何か直接被害があれば別だけど何もないわけだし、今回は俺達が勝手に尾行したことが発端だからな。
ただ、あのミカナ先輩の親友だったから気になっただけで……。
――いっそ、ミカナ先輩に相談してみるか?
あの人なら冷静に話を聞いてくれそうだ。
何故かそう思えてしまう……。
きっと彼女から、俺と通じる何かを感じているかもしれない。
次の日、学校にて。
休み時間、俺は黒原を連れて三年生の教室に向かう。
昨日の件で、ミカナ先輩に会うためだ。
当たり前だが、あのことは誰にも話していない。
知っているのは俺と黒原の二人だけ。
「……副会長、僕は三年生の階に行くのは初めてで……とても緊張してしまいます、はい」
「気をつけろよ。ガチでいきなり殴り掛かってくるからな」
「ひぃぃぃっ! なんですか、それぇ!? 世紀末覇者でもいるんですかぁ!?」
黒原は怯えて俺の腕にしがみつく。
女子なら萌えるが、こいつはまったく萌えない。
廊下を歩いていると、やっぱりアウェー感が半端ない。
とくに三年生の男子生徒からだ。
テメェ、一体何しにきやがったんだ?
そう言いたげに思える。
そして彼女がいる教室へ辿り着く。
前回と同様、窓際の席に彼女はいた。
神楽 美架那先輩だ。
その隣には、あの赤毛パーマの凶犬こと『
ミカナ先輩と奴を挟む形で、見た事のない三人の男子生徒達が屯している。
金髪に染めたロン毛でナルシストっぽい男。
名前は確か、『
平和そうに双眸を細めニコニコ笑っている坊ちゃん刈りの男。
確か『
最後に小柄で中性的な顔立ちの優男。
あれ? この先輩……どこか壱角先輩に顔が似てないか?
そうか、彼は『
「……どうやら『勇者四天王』勢揃いのようですね」
俺の背後で、黒原が呟いている。
勇者四天王?
なるほど……この三年生達がねぇ。
う~ん、基本『勇者』と呼ばれている奴に偏見を抱いてしまうからか。
どいつもこいつも胡散臭さを感じてしまう。
まるでバケの皮を被った『遊井 勇哉』と『王田 勇星』のようだ。
そういう目で見れば、リーダー格とされる『勇磨 天馬』がわかりやすいキャラかもな。
どちらにせよ、この先輩に用事はない。
この場はしれっとして無視しよう。
「――ミカナ先輩」
俺は早速声を掛ける。
「あら、サキくん? 一昨日はご苦労様。左のほっぺ大丈夫?」
「はい、絆創膏で大袈裟に見えますけど、ただの擦り傷なので……」
「テメェ! 神西じゃねぇか!? 何しに来た!? また俺に殴られに来たのかぁ、ああ!?」
案の定、勇磨は席から立ち上がり牽制してくる。
言っとくけど、俺、お前の糞パンチなんて一発も貰ってないからな!
俺はしれっと無視するが、背後に隠れる黒原が「ひぃぃぃっ!」っと怯えている。
「やめなさい、天馬! サキくんに危害を加えたら永久に絶交だからね! 他の三人もだよ! いい!?」
ミカナ先輩は立ち上がり、勇磨だけでなく他の三人にも怒鳴りながら呼び掛けている。
勇磨は「チィッ!」と舌打ちしながら椅子に腰を下し、他の三人も呆れ顔で頷いていた。
噂通り、『勇者四天王』はミカナ先輩の言う事だけは唯一聞くってのは本当らしい。
キレ気味だったミカナ先輩は、俺に視線を合わせると一変して爽やかで優しい微笑を見せた。
「それでサキくん、私に何か用なの?」
「はい、先輩とお話ししたくて……先日のお礼も含めて、後は今週の『体育祭』に向けての打ち合わせとか。その他もろもろ……」
ミカナ先輩は三年生の『体育祭実行委員』でもある。
だから生徒会副会長の俺が会いに来ること自体は不自然じゃない。
まぁ、その実行委員の一人に壱角先輩も含まれているんだけど……。
「うん、いいよ」
「ミカナ先輩、ここじゃなんですので場所を変えません?」
「そっだね。こいつらの前だと、サキくんも話しづらいもんね。屋上にでも行く?」
「はい、お願いします。黒原、用務室で鍵を借りに行ってくれ。俺の名前でね」
「……わかりました、副会長」
黒原は素直に頷き駆け足で用務室へ行った。
「さぁ、ミカナ先輩、行きましょう――」
「ちょっと待てや! 神西、コラッ!」
勇磨が両腕と両足を組みながら、俺を制してくる。
「なんですか?」
「テメェ……いつの間に、俺のミカナを名前で呼んでんだぁ!? ミカナだってなんで、そいつを『サキく~ん』なんて呼ぶんだぁ!? ああっ!?」
「そんなの天馬に関係ないでしょ!? 私とサキくんはねぇ、共に戦った戦友なのよ! いつまでも、いい歳して親のスネかじりのアンタなんかより、彼の方が数億千倍も素敵なんだから!」
ミカナ先輩は言いながら、俺の腕をぎゅっと掴み抱き寄せる。
「サキくん、こんなバカはほっといて行きましょ、ね?」
「は、はい……」
俺は自分から誘って置いて返答に戸惑ってしまう。
何故なら――。
「ミ、ミカナ……お前、まさか……そいつに寝取られたのかぁぁぁぁっ!?」
勇磨が変な誤解をし出してきたからだ。
俺もいい加減、「あっ、またこのパターンか……」っと、頭を抱えてしまう。
案の上、勇磨だけじゃなく他の『勇者四天王』メンバー三人も俺に向けて、なんとも言えない眼差しを向けていた。
さらに教室にいた他の三年生まで妙な視線を浴びせてくる始末。
男女問わず、俺を奇異な目で見つめている。
どうやら、アレだ……。
三年生の間で、また『寝取りの神西』の噂が復活しそうだぞ、これ。
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いつもお読み頂きありがとうございます!
作者の体調不良とプライベートでのごたごたが続き、数か月の間放置している状況が続いておりましたことをお詫びいたします。
にも関わらず、変わらずに応援頂いている読者様方には大変感謝しております。
しばらく不定期となってしまいますが、連載は続けていきたいと思いますので、これからもどうかよろしくお願いいたします<(_ _)>
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もし「面白い」「続きが気になる」と思ってもらえましたら、
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皆様の応援を頂ければ気合入れて更新を頑張っていきたいです(#^^#)
これからもどうぞ応援のほどお願いいたします!<(_ _)>
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