第117話 悪役令嬢の凶変
どうして亜夢先輩が、あんなガラの悪そうな男なんかと?
確か同じ三年で『勇者四天王』の『
あの時、俺に言ったことは嘘?
だとしたら、以前のディニーズ事務所アイドルの『
――やはり彼女なのか!?
「……副会長。今のは間違いなく、壱角先輩ですね」
彼女と面識のある黒原も同じことを思っている。
いつの間にか撮ったデジカメ画像を俺に見せてきた。
やばい……どうみても壱角先輩に間違いない。
しかし信じられない。
たった今、見たばかりにもかかわらずにだ。
それに何か違っているような違和感を覚える。
なんて言うか……雰囲気が別人のような何か?
――どうする?
「……黒原、後を追ってみないか?」
気がつくと、俺は口走っていた。
深入りはしないと決めたのに、どうしても気になって仕方ない。
それに、あのミカナ先輩の親友でもある人だ。
きっと何か事情があるのかもしれない。
もし真実を知っても俺が黙っていればいいだけのこと。
黒原には口止めさせればいい話だし、こいつだって誰かに言うメリットもないだろう。
あくまでも自己満足、野次馬根性だ。
見失った時点で、それで終わりにすればいい。
俺は自分にそう言い聞かせた。
一方で、黒原は……。
「……今度はあの女子ですか? 懲りませんねぇ、旦那も……へへへ」
何、言ってんの、こいつ? なんで小悪党っぽい口調なんだよ……。
最後に「決定的な一枚を撮ってやりましょうぜ!」とカメラを持って、ほくそ笑む始末だ。
まるで、壱角先輩のゆすりネタを掴もうとする勢いだぞ。
そういや、こいつ盗撮とか好きそうだもんなぁ。
こうして悪戯心に火がついた俺と黒原は、壱角先輩の後を追うことになった。
彼女はオラオラ系の男と二人で繁華街に入り、さらに奥へと進む。
いつの間にか、二人仲良さそうに腕を組んでいる。
とても知人とか友達とは思えない雰囲気。
明らかに恋人同士のように見えてしまう。
俺達は見失わないよう配慮しながら人混みに紛れていく壱角先輩の後を追う。
でも誰かを尾行したことなんてないので、どの距離まで近づいていいのかわからない。
近づきすぎたらバレそうだし離れ過ぎたら完全に見失ってしまう。
――だがここで、黒原が意外な能力を発揮する。
どういうわけか、黒原は自分の存在を消せるらしい。
「……ここはプロの僕に任せてください」
そう言いながら、奴は一人でどんどん前に進んで、壱角先輩達の真後ろまで接近する。
万が一、彼女は察知し後ろを振り向いても、黒原は他の通行人の間と影にスッと入り込んで上手く背景に溶け込んでいた。
――まるで忍者か盗賊みたいな特技を持つ男だ。
つーか、お前はなんのプロなんだ?
後に黒原は、この技を『
俺はというと離れた場所で歩きながら、先方に進む黒原とスマホで連絡し合い位置情報を確認している。
『……副会長。壱角先輩と男がラブホテル街に入ろうとしています。このまま追跡いたしますか?』
「え? マジで!?」
黒原からの連絡を受け、俺は心臓が跳ね上がるくらい驚く。
『……マジです。証拠を送りましょう』
ご丁寧に、二人がラブホテル街を仲良く歩く画像がスマホへ送られてくる。
なんでこういう時に有能ぶりを発揮するんだろう、こいつ?
俺は画像の内容に驚きつつ、黒原の周到さにも驚いた。
しらばく繁華街を歩くと、ラブホテル街が見えてくる。
あちら側は流石に、この時間帯では人の通りが少ない。
つーか、俺は当然入ったことがない
そんな中、黒中から着信が来る。
『……副会長。壱角先輩達、妙な所に入って行きました』
「妙な所? ホ、ホテルの……な、中とか?」
ドキドキしながら聞いてしまう。
『……いえ、それが建物の裏側と言いましょうか? 人気のない路地裏の通りに入って行ったのですが……?』
「なんだって?」
黒原の報告で、俺はさっき思い出していた『御手洗の暴行事件』を頭の中を過る。
『……このまま追跡続行しましょうか?』
「いや、待て! せめて俺が行くまで待機してくれ。嫌な予感がする」
『……わかりました』
黒原の着信を切り、俺は待機している場所へと向う。
初めて踏み込んだ禁断の
とある古びたラブホテルの前に、黒原が堂々と立っており、俺に向けて手を振っていた。
俺も手を振って近づいて行くと通り過ぎる大人のカップル達に何故か失笑されてしまう。
え!? まさか俺と黒原の関係を疑われているの!?
やだぁ、やめて! 一体なんちゅう誤解してくれてんだよぉ!?
俺は恥ずかしくなり、ショルダーバックからマスクとキャップを取り出して身につけた。
こんな事もあろうかと持ってきて置いて良かった。
「……副会長、お待ちしておりました」
「ああ、お前よく恥ずかしくないな?」
「……前に言ったでしょ? 僕は
つまりアレか?
仮に知らない人に顔が見られても、印象が薄すぎてすぐに忘れられてしまうってのか?
便利なんだか悲しいんだか何も言えない。
まぁ、いいや。
「それより、壱角先輩は?」
「……このホテルの裏路地に入って行きました。一緒にいた男と共に」
黒原が説明した途端、
ギャァァァァァァ……――
どこからか男の悲鳴が遠くから聞こえた。
「おい、今聞こえたか!?」
「……は、はい、人の悲鳴でしょうか? 路地裏の方からかと?」
まさか壱角先輩の身に何かあったのか!?
「とりあえず行ってみるしかないな!」
俺と黒原は路地裏へと入った。
華やかだった表通りとは一変して、そこは薄暗く不気味な雰囲気が漂っていた。
通行人もなく、まるで映画とかで観る「暗黒街」さながらだ。
俺達二人は慎重な足取りで前へと進む。
すると、
男がゴミ捨て場に、ゴミに埋もれて倒れていた。
顔中に殴られた腫れや変色が見られ、鼻と口から血液が滴り流れている。
服装から察するに、ずっと尾行していたオラオラ系の男だと一目でわかった。
そして、男の目の前に立つ、一人の少女。
両手の拳と、顔に返り血が飛び散って付着している。
――壱角 亜夢先輩だ。
壱角先輩は、俺達の存在に気づいた。
その大きな瞳を見開き、歯を剥きだしにして微笑んでいる。
なんとも言えない形相であり禍々しさ……。
これが本当に、あの品格に溢れお淑やかな壱角先輩だと言うのか!?
「ホアアアアアアア!」
突如、壱角先輩は奇声のような雄叫びを上げ、俺達に向かって駆け出し迫ってきた。
異様なほど口角を吊り上げる形相は、まるで殺人鬼か悪魔のように錯覚させる。
「――逃げろ!」
俺は背後にいる黒原に指示する。
奴は「ひぃぃぃっ!」と悲鳴を上げ、気配を消して何処かへ逃げ出した。
ダッ!
接近してきた壱角先輩は踏み込み、俺のあばら骨を目掛けて
俺は咄嗟に後退し回避するも、彼女は素早く蹴り足を着地させ、さらに踏み込んで来た。今度は手刀が、俺の喉元に向けて撓り襲い掛かる。
俺は片腕でガードするも前腕に鉄の何かで叩かれたような衝撃が走る。
「ツゥッ!」
痛みに意識を向けた途端、今度は金的に向けて前蹴りを放ってきた。
俺は横ステップで躱し、壱角先輩の背後に回り込む。
しかし彼女はその場で飛び、俺の顔面に向けて回し蹴りを繰り出してくる。
その体勢を切り替えるスイッチの早さが尋常ではなかった。
激流のような動きと巧みに戦術を組み立てられた連続攻撃。
ガッ!
「ぐっ――!」
俺は辛うじて両腕でガードしたが、蹴りの直撃を受けてしまう。
そのまま後方へと飛ばされる。
何か突き抜けるような重い衝撃が頭部から脳を貫きながら――
ドサッ!
気が付けば、俺は血塗れの男が倒れているゴミ置き場で共倒れする形で突っ込んでいた。
同時に意識が薄れて行く――……
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