第116話 親友の彼女の悩みと意外な邂逅
「私ね。中学二年の頃……いじめに合ってたの」
「え?」
千夏さんの告白に、俺は戸惑う。
「それまで仲がいいと思っていた女子同士のいじめでね……一時期、不登校にもなったんだよ」
「また、どうして……?」
「上級生の男子の先輩が……私のこと好きだって。ろくに話したこともないのに……友達だと思っていた子の一人が、その先輩のこと好きだったみたいで……」
「え? それだけの理由で?」
俺が聞き返すと、千夏さんは首を縦に振った。
「……きっかけは些細なモノ……でも一度、踏み込んでしまうと勢いが止まらない。先生はどっちつかずだし、唯一頼れたのは両親だけだった。不登校だった私を転校させてくれたおかげで、こうしてこの街で安心して過ごすことができているの。今はね親戚の家から学校に通っているんだよ」
「そうなんだ……」
「……だから苦手なんだ。誰かと本音で話したり、気持ちを打ち解け会うの……つい顔色を窺っちゃう……リョウくんに対しても、そう」
「俺には、こうして話してくれているようだけど?」
「……サキくんは南野さん達と仲良くしてるの、ずっと見ているからね。私も彼女達が酷い目に合ってたの知っている方だから……同じ中学だったリョウくんからも聞いたことあるし……それに」
「それに?」
「夏休みで一緒に泊まった旅館で、幸せそうにサキくんのことを語っている彼女達を見てたら……あっ、サキくんになら本音で話しても大丈夫かなって、そう思えて話してるのよ」
俺は頷き、なんとなくだが理解する。
きっと似たような境遇を持つ愛紗達と俺の関係っという前例があるから、千夏さんも安心して心を開いて話してくれているんだと思った。
だけど――。
「……リョウはどうなの?」
「え?」
「リョウは、そのう……安心できない?」
言葉を選びながら問う言葉に、千夏さんはすぐ首を横に振るう。
「そんなことない……本当は誰よりも信頼しているし大好き。でも機嫌を損ねて嫌われてしまうかもって思うと……何も言えなくて、それにリョウくんも今は大事な時期なのわかっているから……」
千夏さんの大きな瞳が潤み、必死で零れ落ちる涙を拭っている。
俺はただ切なく見守るしか術はない。
要は、リョウのことが好きすぎて素直に向き合えないのか?
きっと昔のトラウマが彼女をそうさせているのだろう。
大好きになるほど、その人に嫌われるのが怖いと思うのは当然かもしれないな。
それだけ繊細で純粋な子なんだと思った。
「千夏さん、修学旅行どうだった?」
「何が?」
「函館で、そのぅ……リョウと初めて手を握ったろ?」
「やだぁ……リョウくん、サキくんに話したの?」
「いや、提案したの俺だから……あいつも相当悩んでたよ。千夏さんのことが心配で……一年も付き合っているのに、このままでいいのかなって」
それこそ彼女は自由時間中、ずっとリョウに『俺と愛紗達』のことばっかり話すもんだから、一瞬だけまさかって内心思っちゃったけどね。
今話を聞いて考えてみれば、千夏さんなりに俺達の関係が羨ましかったのかもしれない。
俺的にはこれだけお互いに労わり合っている親友カップルの方が羨ましいけどな。
「う、嬉しかったよ……人生で一番の思い出だったと思う。けど、はしゃいだり期待しすぎると、リョウくんに嫌われちゃうんじゃないかと思って……」
「ははは……」
こりゃ、もう俺の出る幕はねーな。
はっきり言って相思相愛ですわ。
この二人の間に誰も介入できませんわ。
俺は地面に落ちている小石を拾い、ガサガサと不自然に動いている茂みに向けて投げつけた。
「――痛て!」
案の上、茂みらからリョウの声が漏れる。
「リョウ、もういいだろ? そういうことだから、後はリョウが千夏さんの気持ちと向き合ってあげればいいんじゃないか?」
俺が大きな声でそう言うと、茂みの中からガサゴソと音を立てて出てきた。
リョウは髪の毛と身体の至る所に葉っぱがくっついている。
それに何故か、脇に黒原を抱えて『ヘッドロック』状態で引きずってきた。
黒原は顔中が紫色になって、意識の半分が消失している様子だ。
「……なんで黒原を抱えているの?」
「口封じに決まっているだろ? 後、首を絞めながら事情を説明していた。これ以上、マブダチに迷惑をかけれねぇからな……」
「……そう、ありがとう」
まぁ、いいやと割り切ることにする。
「リョウくん?」
千夏さんも突然の彼氏の出現で驚いてベンチから立ち上がっている。
「千夏……」
リョウは黒原を解放する。奴は「うげっ」と言いながら地面に倒れ込んだ。
多分、生きていると思う。
リョウはゆっくりと千夏さんに近づき向き合う。
「……すまない。俺、何もわかってあげれなくて……自分の想いばっかりで」
「……そんなことないよ。はっきり言わない何も話さない、私が悪いんだもん。リョウくんに嫌われたくなかったから」
「んなことねーよ。てっきり、お前はそういう女だと決めつけていた俺が悪いんだ……んな辛い目に合ったら当然だろうな……」
「リョウくん――」
千夏さんはリョウの胸に、自分の額をくっつけて身体を小刻みに震わせる。
リョウはそんな彼女の肩を抱き、優しく頭を撫でた。
「ありがとう、リョウくん……私ね、もう少し素直になる」
「ああ、俺もそうする……だから千夏」
「うん?」
「お前を酷い目に合わせた、その連中の名前と住所を教えてくれやぁ! 今から姉貴を連れて、カチコミに行くからよぉ!!!」
急にブチギレだす、元ヤンの親友。
忘れてた、ヤンキーはネチっこいんだ。
「や、やめてよぉ、もう! どうしてお姉さんまで入ってくるの!?」
「姉貴のバイクに乗せてもらって、そいつらん家を襲撃しに行くんだよぉ! 後、何もしねぇ、先公も同罪だからなぁ!」
やべえよ、こいつ……ガチだ。
しかも、あの
「おいおい、リョウ! プロテスト前だろ!? 問題起こそうとしてんじゃねぇよ!」
「プロテスト前だからやるんだろうが!? 最後の打ち明け花火、派手に見せてやんよぉ、ああ!?」
あかん……完全に昔のスイッチ入っている。
打ち上げ花火ってなんだよ、もう。
駄目だ、俺如きじゃ火野家の暴走は止められないらしい。
「――リョウくん! そんな事したら、もう手ぇ握ってあげないんだから!」
「え? 千夏、それ困るんだけど……わかったよ、もう」
千夏さんの激怒で、リョウのボルテージは一瞬で冷めて収まった。
やるじゃん、彼女……さっそく威厳を発揮しているんじゃね?
どうやらカップルとしての新しい関係性が築けたようだ。
「それじゃ俺、帰るわ~。後はお二人でお好きなように~!」
お邪魔虫と化した俺は早々に、その場を離れようと背を向ける。
もう熱くて火傷しそうだ。
「サキ、ありがとな!」
「待たね、サキくん!」
俺は親友カップルの感謝の言葉を背中で受け止め、軽く手だけ振って見せた。
「――ほら、黒原も行くぞ」
ついでに地面にうつ伏せで倒れている黒原を起こし、一緒に立ち去った。
「……副会長、気を失った時、一瞬だけ死んだ筈のおばあちゃんがお花畑で僕に手を振ってくれたのですが、あれはなんだったんでしょうか?」
「知らないよ……もう、俺に変な勘違いしないでくれよ」
死に際に見えた走馬灯ってやつだろうか?
けど俺に関係ないし。
まぁ、ともかく。
これでリョウ達も問題ないだろう。
明日から普通に戻ってくれる筈だ。
俺は納得し安堵する。
そう思って公園を出た矢先だった――。
俺と黒原は、繁華街へ向かって仲睦まじく歩いているカップルの姿を見かける。
男の方はまるで知らない、体格のいいオラオラ系のいかつい奴だ。
――しかし問題は女性の方である。
気品に溢れた綺麗で可愛らしい女子であり、どうひい目で見てもその男と歩くのには似つかわしくタイプ。
長くウェーブのかかったハイタイプのツインテールヘアの美少女。
俺と黒原がよく知る三年生の先輩だ。
そう、あの神楽 美架那先輩の親友でもある。
「……
思わず、その名を口にした。
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