第115話 親友の彼女との密会
「マジか、サキ?」
「ああ、実は前からそう考えてね……最近のリョウの様子が、あまりにも可笑し過ぎたからな」
「すまん……確かに自暴自棄だったのかもしれねぇ」
「でも、それだけ彼女に本気なんだろ?」
問いかけに、リョウは黙って頷く。
俺にしか見せない弱い部分だ。
「正直、そうしてもらえると助かるぜ……俺ぇ、サキと違ってハーレムじゃねぇし、女って女に惚れられるような恋愛マスターでもねえからよぉ。どうしていいのかわからねぇんだ」
ん? 言葉の節々に俺の悪口が含まれてないか?
まぁ、いいや。
リョウには本当に世話になっているからな。
本人の了承も頂いたことだし帰ったら早速、千夏さんと話してみよう。
一応、LINE登録をするくらいの交流はあるからな。
「なに~、サッちゃん。もう帰っちゃうの? 泊まって行けばいいじゃん」
俺が家から出ようとすると、リョウの姉貴である『
「いえ、家に同居人いるので、あまり放置できないんですよ」
居候の社会人ニートだけどな。
あっ、考えてみれば夏純ネェも千夏さんと同じで名前に『夏』がつくよな。
特に意味はないんだけど……。
「同居人? 誰、彼女?」
鞠莉さんは細い眉を顰める。
何故、その発想になるのかわからない。
「親戚ですよ、社会人のね。来年、もう一人住む予定なので保護者として居座る……いや住んでもらっているんです」
「社会人? 女?」
「ええ。多分マリーさんと同じ歳ですよ」
「誰よぉ、それぇ! ああっ!?」
鞠莉さんは何故か突然ブチギレだした。
俺は恐怖で急いで靴を履き出て行く。
「お、お邪魔しました~!」
逃げるように自分の家に帰る。
おっかねぇ~!
一体なんなんだ?
今の会話でマリーさんが激怒するポイントなんてあったか?
やっぱり俺、あの人だけは苦手だわ~!
自宅にて。
「サキちゃん、お帰り~。お風呂沸いているよぉ。先にご飯にするぅ? それとも、わた――」
「それ以上、言わなくていいよ。それより、夏純ネェもあまり家の中でダラダラしていると、そのうちある人からヤキ入るぞ」
「えっ!? 嘘、誰に? 半分、引きこもりなのにストーカーでもいるの?」
一方でこちらの従姉は幸せなくらい能天気だ。
ニコちゃん……早く来てくれないかな
次の日。
テレビのニュースで例の『特殊詐欺』グループが逮捕されたと報じられた。
愛紗の父親である『
他、俺と戦った『菅野
まぁ、テレビでは伏せられても、どうせSNSですぐ実名と顔写真が投稿されるんだろうな……今の時代。
でも直樹さん、出頭ってことは警察も以前から『詐欺グループ』をマークしていたのだろうか。
出頭の方が自首より罪は重いらしいけど仕方がないと思う。
俺としては、これから直樹さんの口から真実を語られ特殊詐欺が壊滅してくれることを切に願うしかない。
そして、きちんと罪を償ってほしいものだ。
俺は左頬の擦り傷に大き目の絆創膏を張り身形を整える。
これから、リョウの彼女である『名取 千夏』さんに会うからだ。
勿論、二人っきりじゃない。流石にそれはよろしくない。
リョウがこっそり隠れて俺達の様子を見守っている算段だ。
場合によっては、二人で話し合う機会を作ってもいいかもな。
俺は楽観的に、そう考えていた。
そして待ち合わせ場所である自然公園に来た。
昨日も来た公園だ。
目印である時計塔の下で、俺は一人で立っている。
肝心のリョウは後ろの茂みの方で隠れている筈だ。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
だが、かなり緊張しているようで、やたら息づかいが荒い。
隠れているの、すぐバレるんじゃね?
すると誰かが近づいてくる。
千夏さんだと思い、俺は愛想よく振り向く。
「……あ、副会長。こんな所で、お一人で何をしているのです?」
クラスメイトで生徒会会計の『黒原 懐斗』だった。
なんでお前がここにいるのぉ!?
しかも首にごっつい双眼鏡をぶら下げて、その手には望遠レンズ付きのカメラを持っている。
「く、黒原……お前こそ、どうして?」
「……え? 公園で屯してイチャつくバカップルの盗撮……いえ、野鳥の生態観察です」
ん? 今、前半でボロっと何か言わなかったか?
やめろよ、犯罪めいたこと……生徒会長の麗花にも迷惑かかるからな!
俺の後ろで茂みがバサバサ揺れている。
そこで身を潜めているリョウが「早く、そいつを追っ払え!」っと、催促しているようだ。
「まぁ、ほどほどにな。それじゃ……」
「……そういう副会長は誰かを待っているのですか? 会長とか南野さんか北条さんですか?」
「え? いや……いいだろ別に。また明日、学校でな」
俺はしれっと忙しいフリをするも、黒原は立ち止まったまま、じぃっと顔を覗き込んでくる。
「なんだよぉ、黒原? 俺に何か用なの?」
「……いえ。副会長がそういう顔をしている時、とても重要な何かを隠してられると思いましてね」
何!? こいつ、なんなんだ!?
まるで普段から、俺の様子を詳しく観察して見抜いているような口振りじゃねぇか!?
「か、仮に、そうだとしても……黒原には関係ないだろ?」
「……副会長って本当、男子には冷たいですね?」
やめて、そういう言い方するの!
お前が、しつこくてウザったらしいだけだろーが!
「ごめん、そういうつもりじゃ……大切な人との待ち合わせなんだ。だから……そのぅ、邪魔されたくないんだよ」
「……なるほど、理解しました。どうもすみません、じゃあ」
黒原は納得したのか、ようやく立ち去ろうとする。
が、
「――サキくん」
遠くから女子の声。
振り向くと、千夏さんが歩いてきた。
華奢な体に大きめのセーターを着こみ、長いスカートを履いた私服姿。
可愛らしい顔立ちに色白でショートカットヘアーがとてもよく似合っている。
なんていうか雰囲気が小動物っぽく思わず支えてあげたくなるような子だ。
って、呑気に親友の彼女に見惚れている場合じゃないぞ。
「……ふ、副会長。ま、まさか……待ち合わせしている大切な人って……名取さん?」
そう。何故なら、一番見られたくない奴に見られてしまったからだ。
「いや、黒原……これは……」
「……副会長が大親友である火野くんの彼女と……まさか密会?」
黒原は青ざめながらドン引き、わなわなっと体が小刻みに震えている。
思った通り、とんでもねぇ誤解してんぞ、こいつ!?
「いや違う! そうじゃないんだ! 頼むから話を聞けよ!」
「このぅ異端の勇者がぁ! どんだけ見境ないんだぁ!? あんたの血は何色だぁぁぁぁぁっ!? ヒェェェェェェェェェイ!!!」
黒原は絶叫して走り去って行く。
ところで、異端の勇者って何よ?
俺の血の色がどうだっていうんだ?
――バサバサバサバサバサバサバサバサ!
俺の後ろの茂みが激しく動き、道なりに生えている茂みに沿う形で、逃げて行く黒原を追跡している。
どうやらリョウは俺の名誉のため、黒原を捕らえて口封じしてくれるらしい。
サンキュ、親友!
「サキくん、どうしたの? あの人、確か……」
「ああ、クラスメイトで同じ生徒会の黒原だよ……少し変わっているんだ、あいつ」
「ふ~ん。それで話ってなぁに?」
「ここじゃ、なんだから、どっか座って話そう」
千夏さんを誘い、人気のないベンチへと座る。
誤解を招かないよう、一定の距離を保った上で。
ところで、リョウの奴は近くにいるだろうか?
「千夏さん、ごめんね。わざわざ呼び出しちゃって」
「……ううん。サキくんが聞きたいことわかるよ……リョウくんのことでしょ?」
「うん、そうなんだ。最近リョウの奴、様子が可笑しいからさ……二人の間で何かあったのかなって」
「……何もないよ。けど、それがいけないみたい。全部、私が悪いんだけどね」
切なそうに顔を伏せる、千夏さん。
「リョウはね。千夏さんにわがままを言ってもらいたいみたいだよ。いつも気を遣っているようだって……」
「そう、リョウくんには、そう見られているんだね……仕方ないかも」
どこか諦めているというか、投げ遣りに聞こえる。
「……千夏さん。リョウと何かあったの?」
「ないよ。だって、リョウくんいつも優しいもん」
「だったら……」
俺が問うも、千夏さんは俯き口を噤んでしまう。
少し間が置かれ、彼女の唇が動いた。
「――リョウくんの親友であるサキくんになら話してもいいかなぁ」
千夏さんは顔を上げ、俺の瞳に視線を合わせてきた。
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