第85話 『西』従姉と三美神
「凄く美味しい! 愛紗ちゃんって、なんでもできちゃうのねぇ?」
「そ、そお、ですか……えへへ」
――あれから昼時。
エプロン姿になった新妻風の愛紗が昼食のチャーハンをご馳走してくれる。
考えてみれば夏休み以来の手料理だ。
「夏純ネェも愛紗から料理学んだらどうだい?」
「……サキちゃん。何気に毒を吐くようになったわね。昔は素直でいい子だったのに」
「なんだよ。今は悪いみたいじゃないか?」
「そんなことないけど、少しは男としての責任と自覚を持つべきね」
持っているっつーの。
だから、こうしてみんなが泊まりに来ても色々と自制しまくってんだろうが。
「ねぇ、お姉さん。サキの昔ってどういう男の子だったの~? 聞きた~い!」
「私も知りたいわ」
詩音と麗花が何気に訊いてくる。
「そうね……いつも鼻水垂らして、頭に10円ハゲがあったかしら?」
ねーよ、そんなもん! あと鼻水も垂らしてないからな! 昭和の子か!?
「嘘よ、サキちゃん。怒っちゃやーよ♡」
この従姉、いつかぶっ飛ばしてやる。
「甘えん坊さんだったかなぁ。会ったら決まって『夏純ネェ、夏純ネェ』ってくっついてきたからねぇ」
ぐっ、本当のことだけに否定できない。
つーか、この子達に向かって正直にぶっちゃけるのやめてくれない?
「へ~え、今とあんまり変わらないねぇ~サキぃ?」
し、詩音!? 変わっているよ、大幅にぃ!
どちらかというと、べったりしてくるの、お前からの方だからね!
「そ、そのぅ……夏純さん。サ、サキ君とは、お風呂に入ったことはあったのかしら?」
最近の麗花はこの手の話に興味が湧いているようだ。
「あるわよ。だって、私に会った瞬間、必ず『夏純ネェとお風呂入りた~い!』が口癖だったからね。あと、泊まったら必ず私の布団に潜り込んできてたわね」
「もうやめて! 本当のことだけど、昔の黒歴史をみんなにバラさないでぇ!」
「「「いやらし~い」」」
クソッ! すっかりみんなにスケベ扱いされているじゃないか!?
せっかく『自制心のある賢者のサキくん』で通ってたのに!?
このままだと俺のぅ、俺のクリーンなイメージがぁぁぁ!?
「もう、昔の話だろ!? 流石に今やったら変態だけどさぁ! あの頃は仕方なかったんだよぉ!」
「うん、言えるかもね……サキちゃんのお父さんとお母さん、ラブラブで仲良すぎだから。そりゃ、幼いサキちゃんもドン引きするくらいだったわ」
夏純ネェの言う通りだ。
だから余計に、彼女に依存して甘えていたのかもしれない。
「そっか~。サキも寂しい思い結構してたんだねぇ~?」
「まぁね。でも今は寂しくないよ。みんなとこうして一緒にいられるからね」
俺の言葉に、詩音を始め愛紗と麗花が頬を染めて照れている。
本当にピュアな子達だ……だから惹かれているんだと思う。
「……サキちゃんもしばらく会わないうちに言うようになったね」
どうやらこの人にとっては、俺はいつまでも甘えん坊の『サキちゃん』だと思っているようだ。
昼食後も、親睦は続く。
特に夏純ネェと麗花が妙に盛り上がっていた。
「夏純さんて、あの有名大学出身って本当ですか?」
「経営学部よ。本当は外資系に就職したかったけど失敗しちゃってね……苦し紛れに入社した企業が、もうブラックすぎて嫌になって辞めたわ……そして昨日から寄生虫のニートよ」
「でも、それだけ能力があれば、他の企業だって……」
「なくはなかったかな……でもね、麗花ちゃん。ふと思ったのよ、このまま働いたら負けというか……人生一度くらい立ち止まってもいいかなぁって」
胸張って言うなよ。駄目な大人の見本じゃねーか?
つーかバイトくらいしろよ、マジで。
「そうですか……」
「麗花ちゃんは将来何になりたいの?」
「私は父と同じ医者になろうかと……でも今はそれより、サキ君と……」
麗花はチラッと俺を見つめて頬を染める。
つい最近の修学旅行のひと時が脳裏に過ってしまう。
そう、残りの高校生活で彼女と思い出を作るって約束したんだ。
「ふ~ん。そっかぁ」
夏純ネェは妙に納得し、バンバンと俺の肩を平手で叩く。
何気に痛いんですけど……。
愛紗と麗花が夕食の買い出しに行っている間、詩音と夏純ネェがリビングでゲーム対戦をしていた。
詩音もゲームが強いが、夏純ネェも意外と強い。
やたらとデッドヒートしている。
あまりにもハイレベルな戦いに、俺は黙って見ているしかなかった。
「あたしの勝ち~、やり~♪」
「やるわね、詩音ちゃん。この
聞いたことねーよ。絶対に嘘だろ?
「でも、カスミたん相当強かったよ~。最後、手加減してくれたしょ?」
「そんなことないわぁ。でも詩音ちゃんとは何か通じるモノを感じるわ」
詩音、カスミたんって……また妙な仇名をつけたのか?
それにこの二人が組むと悪い予感しかしねぇ。
「ねぇ、サキぃ」
詩音が急にすがるような眼差しで、こちらを見つめてくる。
その姿に俺は一瞬ドキッとした。
「な、なんだい?」
「またエログッズ、捜索していい~?」
「ねぇって言ってるだろ! そんなもん! 来る度にガチでしつこいわ~!」
「あら、詩音ちゃん。きっとサキちゃんのことだから、秘密の屋根裏部屋に隠しているわよ」
おま……何チクってんの!? このネェちゃん!?
「屋根裏部屋かぁ~! ノーマークだったわ! ありがとう、カスミたん!」
詩音は嬉しそうに立ち上がり、速攻で駆け出そうとする。
「――まてぃ!」
俺は慌てて、後ろから覆い被さり、強引に抑え込んだ。
「サ、サキ?」
「みすみす行かせてたまるかぁ! 絶対に離さないからな!」
「う、うん……いいよ。今回は諦めるから……ラッキー♡」
ラッキーだと?
あっ!? よくよく考えたら、俺って後ろから詩音を強く抱きしめているじゃん!?
や、柔らけぇ……いや、違う!
色々な意味でやばすぎるぅ!
俺は慌てて、詩音から離れる。
「ご、ごめん! そういうつもりじゃ……」
「いいよ、サキだもん……何されてもアリだよ。寧ろ超ドキドキで嬉しいかも……」
詩音は身を縮めてもじもじさせている。真っ白な肌なので耳元まで真っ赤なのがわかる。
もう可愛すぎてやばい……夏純ネェがいなければ、まだ何か違う過ちを犯していいたかもしれない……。
いや、そもそも夏純ネェがバラしたのが発端だったんだ。
クソッ! こりゃ違う場所に隠さなねぇと……。
「へ~え、サキちゃんも大胆になったんだなぁ……」
うるせぇ、全部あんたのせいじゃねぇかよぉ!
そして夕食となり。
俺達は団欒しながら愛紗が作った手料理で舌鼓を打つ。
ビーフシチューが絶品で、ポテトサラダも凄く美味しい。
だけど、一人だけ様子が可笑しい子がいた。
「――詩音どうしたのよ? ずっと顔、赤いわよ?」
「なんでもないよ、レイちゃん……ね、サキ♪」
やめて、そこで俺に振るの。
あからさまに何かありましたって感じじゃないか……。
でも、詩音。
ガチで柔らかくて、すべすべの肌でいい香りだったなぁ。
「愛紗ちゃん、本当にヤバイくらい料理上手だね~。お姉さん感動ぉ!」
「ありがとうございます」
「本当、一家に一台欲しいわ~」
愛紗を家電製品っぽく言うのやめてくれよ、夏純ネェ。
「えへへ、サキくん。時折こうして晩ご飯作りに来てもいい?」
「えっ、マジで!? そいつは助かるよぉ! 実は結構、二人で暮らすの不安だったんだよぉ! なぁ、夏純ねぇ!?」
「へえ、そうでございますねぇ……サキさんの言う通りですわぁ。でもあたしゃ、レトルトでも生きて行ける口なんでどうかお気遣いなく、はい」
おまっ、何言ってるの!?
半分以上は、同居するあんたがポンコツだから言ってんだろーが!?
さっきまでベタ褒めだった癖に急に不貞腐れやがってぇ気難しいわ~、この姉さん!
どうやら夏純ネェは、ハイスペックな女子力を持つ愛紗に大人げなく嫉妬したようだ。
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