第86話 『西』従姉と観察者




 ~黒原 懐斗side



 今日は爽やかで素敵な日曜日ビューティフル・サンデー


 あの『奇跡の修学旅行』から戻ってきた二日が経過した。


 開始当初はクソ行事だとばかり罵っていたが実際に始まると、これまで生きてきた歴史の中で最も充実したひと時だったかもしれない。


 これも全て、彼のおかげだろう。


 ――神西 幸之くん。

 

 異端の勇者と呼んでいる男だ。


 あの旅行で彼の生態調査を徹底的に行い、より『S.Kファイル』の完成に近づいた。


 さらに彼が『三美神』とデートをする度に、僕もそのおこぼれが貰えたという特典つきだ。

 同じ班なのに、ほんの数時間程度しかいられなかった、サッカー部の内島やバスケ部の二宮なんかとは違う。

 体育会系カースト共ですら圧倒する濃厚で楽しい時間だった。


 はっきり言って、修学旅行時の僕は勝ち組だったと思う。



 そして今でも僕の奇跡は続いている。


 僕は、これからある場所へ向かっていた。


 スマホの画面を確認する。



>黒原くん。

 明日、生徒会の全員で打ち合わせするから、サキ君の家に来れる?



 昨日、送られてきた東雲生徒会長からのLINEメールだ。

 あの修学旅行で交換する仲になったのだよ。


 生徒会長だけじゃないぞ!


 同じく書記になる南野さん。

 ついでに、あたしもと庶務の北条さん。


 なんと伝説のレア『三美神』をコンプしたんだ。


 もう僕、ガチで勝ち組じゃね!?


 これも副会長の神西くんのおかげだ。

 前副会長だった王田ではあり得ない展開だろう。


 何度でも言わせてもらうよ……神西くんに乾杯さぁ!



 そして僕の返答は当然――イエス、イエス、イエス!

 

 神西くんの家にも入れるし、おまけに『三美神』の私服姿も拝めるという特典展開てんこ盛りさ。

 


 さぁ、異端の勇者の家にいざ参ろうか!




「――黒原君」


 男の声。

 誰かが背後から声を掛けてくる。


 僕は振り返ると、そこに『浅野 湊』くんが近づいてきた。


「……あ、浅野くん? どうしたの?」


「キミも、これからサキの家に行くんだろ? 一緒に行かないか?」


 すっかり忘れてた。

 こいつも『庶務』で生徒会に入ったんだっけな(笑)。


 まぁ、修学旅行で害のない男だって判明したから別に構わないか。


「……うん、行こう」


 浅野くんと一緒に、神西くんの家に行くことにした。



 が、



「ちょっと彼、カッコよくない?」


「うん、イケてるぅ~!」


 通り過ぎる、どっかのモブ女子達が隣で歩く浅野くんを見てキャキャッと騒ぎながら、熱い視線を送ってきやがる。


 僕の存在は完全に無視! 置物か何かだと思われているようだ。


 フン! クソビッチ共がぁ! これから会いに行く『三美神』に比べれば、貴様らなんぞ、ガムのおまけ以下の存在だぞ!


 だから決して羨ましくないぞぉ! 断じて羨ましいとは思ってないぞぉ! ちやほやしてくれていいなぁって、思ってなんかいないぞぉぉぉぉぉっ!


 イケメンなんて……イケメンなんて……――いっせーの、



 ヒエェェェェェェェェェェェェェェイ!!!



 おっといけない、ブレーキ、ブレーキ。


 しかしスッキリした。

 一日一回はやらないと落ち着かない。





 そして、神西くんの家に辿り着いた。


 ほう、結構いい住まいじゃないかね?


「そういや、俺ってサキん家、来たの初めてだったな……」


 浅野くんは何気に呟く。


 僕だって初めてさ。

 つーか、誰かの家に招かれること自体、初めてかもしれない。


 やばい……そう思ったら、急に緊張してきたじゃないか。



 …………。



 おい。


 なんでチャイム押さないんだ、こいつ?



「……浅野くん、チャイム押したら?」


「お、俺……実は友達の家に来たの初めてなんだ……ずっと、ぼっちだったからな。なんか、そのぅ緊張して……黒原君、悪いけどチャイム押してくれないか?」


 え!? んなイケメンで何言ってんの、こいつ!?

 ボクサー部の鈴木山を大衆の前で堂々とぶっ飛ばしてたじゃん!

 女子達に囲まれたって、しれっとしているじゃないか!?


 その胸糞悪い度胸でやれって言ってんだよぉ!


 しかし、このまま男二人で立っていても意味がない。


 ここは『三美神』に会うため……いや、神西くんの生態調査のために、僕から折れようじゃないか。


 うん、僕も明らかに成長しているぞ。


 チャイムを押してみる。



 ピンポーン♪



『はーい!』


 女性の声だ。


 東雲会長か?

 にしては、随分と声が艶っぽいようだが……。



 ドアが開けられると、見知らぬ女の人が出てきた。


 大人の女性だ。


 しかも、かなりの美人でセクシー。

 特に屈んだ際に薄手のカーディガンから覗く、胸の谷間が……超堪らないんですけどぉ!


 この人、神西くんのお姉さんか?

 

「サキちゃんのお友達ね? さぁ、上がって~」


 やっぱり神西くんのお姉さんか……いいなぁ美人のお姉さんがいて。



 僕と浅野くんは勧められるがまま、家の中に入った。


 リビングまで案内されると、そこに神西くんと『三美神』がソファーで座っている。


 あれ? なんだろう?

 東雲会長といい……南野さんも北条さんも、みんな我が家のようにくつろいでいる。

 まるで一晩泊ったかのような馴染み具合だ。

 

 いや、流石にそれはないか……。


 仮にあったら、あまりにも羨望で狂いすぎて「ヒェェェイ」から「キェェェイ」になるわ(笑)



「よぉ、シン。それに黒原もよく来てくれたね。適当にくつろいでくれよ」


「ああ、サキ。ありがとう」


「……うん、副会長。どうも」


 とりあえず空いているソファーに腰を下す。


「サキちゃん~。お客さんにフルーツ牛乳でいい?」


「ふ、普通に麦茶とかで良くね? つーか、夏純ネェは何もしなくていいから、しばらく自分の部屋にいてくれよぉ!」


「なぁによぉ! 私、お母さんじゃないんだけどぉ! 邪魔者扱いしないでくれるぅ!?」


「今は従姉のニートじゃん……いいから、真面目な話もするから部屋にいてくれよぉ」


 従姉? ほう、あの夏純さんって人は神西くんの親戚ってわけか?

 自分の部屋があるってことは、この家に一緒に住んでいるようだな。


 まぁ、不自然ではないが……あんな美人のお姉さんと……やっぱり羨ましい。


 にしてもニートか……とても素敵でいい響きじゃないか(類友)。



「……サキ。俺なんか、こうして他人の家に上がるのが初めてだから、さっきから緊張するよ」


「そういか、シン? 実は俺もリョウ以外の男友達を招くのが初めてだから同じかもな」


「でも、シンシン。ウチらは何度もサキん家に来てるよ~ん。昨日だって、三人でお泊りしたんだから~、にしし♪」


 なぁ、なんだってぇぇぇ!!!?


 今、北条さん、なんて言ったんだぁ!?


「おい、そういうことシンに言うなよ……それに黒原だっているんだし……」


 マジか!? 神西くん! 否定しないってことはマジなのかぁ!?


「まぁ……強化合宿だと思って頂戴。勿論、節度を守った上だからね……特に黒原君」


 会長、なんで僕だけに念を押すんですか?

 浅野くんより口が軽そうだからですか?


 し、しかし……神西くんはガチだ。


 あの『三美神』を家に招いてお泊りさせるなんて……ガチの勇者だ。


 異端を越えた……もう『神』じゃね?


 とりあえず、これだけは言わせてもらうよ……。


 羨ましいぞぉぉぉっ! キミって奴はなんて羨ましい男なんだぁぁぁぁっ!!!

 


 キェェェェェェェェェェェイ!!!



 ブレーキ、ブレーキ、寸止めのブレーキ。



「さっきの女性は、サキの姉さんか?」


「いや、従姉だよ。夏純って言ってね。一昨日から一緒に住んでいるんだ。来年、もう一人高校受験する従妹がいてね……その子とも一緒に住むことになるから、保護者として今から来てもらっているんだ」


 こ、高校受験する従妹?

 その子とも一緒に住むというのかね?


「サキの親父さんとお袋さんは?」


「ああ、仕事で海外を点々と回っているんだ……今年の正月も帰ってこないらしい。だから、あんなんでも大人が一人必要というか……そんな感じかな」


「ハハハハハハハハハッ――……!」


 僕はついに壊れてしまった。


 人目を気にせず大声で笑ってしまう。

 もう自分でも抑えきれなくなっている。


 ――無理もない。


 あまりにも異能力チートを発揮する彼に、ついに自分の許容範囲キャパシティを超えてしまったのだ。


 しかし神西くん、キミってやつは……。


 外側だけでなく、内側まで美少女達で固めようとしているなんて……。


 学校では『三美神』、そして家では親戚である美人のお姉さんに可愛い妹ちゃんってかい?


 しかも時には泊まりに来てくれるなんて……なんちゅう贅沢な『モテ道』なんだ。



 羨ましい、なんて羨ましい……いや、素晴らしいんだぁ!!!



 ――恐るべし、異端の勇者!






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