第83話 『西』従姉の爆弾発言




 それから、夏純ネェと二人で晩御飯を食べる。


 不意に彼女が来てくれたおかげで、虚しかった家もパッと明るくなって寂しくなくなったのも事実だ。


 そういう意味では凄く感謝しているけど……。


 けど、何か腑に落ちない。


 夏純ネェが言っていた「あの言葉」。


 俺が何かを言ったらしいのだが……。


 あれから、ずっと考えているが何も思い出せない。



 思い出せるのは幼い頃、夏純ネェと遊んだ楽しい記憶だけだ。


 そういや、ずっと俺のことを実の弟のように可愛がってくれたよな?

 年上で頼もしい存在であり、いつも気に掛けてくれる優しい人だった。


 俺はそんな夏純ネェが大好きで、ずっと後ろ姿ばかり追っかけていたかもしれない。


 そんな幼い頃なら、誰もがあるだろう楽しかった懐かしい思い出……。


 特別に何か引っ掛かることはない筈なのに……。






 次の日。


 俺は朝のトレーニングを終え、シャワーを浴びる。


 そのまま簡単な朝食を作った。


 二人分。


「サキちゃん、おはよう! 久しぶりに10時間も寝れたよーっ! ニート最高ッ!」


「そりゃ良かったね。朝ご飯できてるよ」


 寝癖だらけの夏純ネェが食卓に並んでいる朝食を凝視する。


「サ、サキちゃんが作ったの?」


「そうだよ。起こして一緒に作れば良かった?」


「いや、うん、ありがと……ちょっと感動しちゃった。昨日の晩御飯で腕前は信用しているんだけどね……」


 瞳を細めて柔らかく微笑んでくる。


 俺は気恥ずかしさに顔を背けた。

 

 そう。俺は幼い頃からこの笑顔に弱い。

 きっと潜在的に植え付けられた何かがあるのだろう。


 それがなんなのか、俺にはわからない。



 二人で向かい合い、食事を食べている。

 昨日も思ったけど何か奇妙な感覚。


 この光景、他所の人が見たら同棲中の歳の差カップルとか思われてしまうだろうか?


 まぁ、相手はあくまで親戚のネェちゃんなんだけどね……。


「ねぇ、サキちゃん……」


「ん? なんだい?」


「彼女いるの?」


「ブーッ!」


 いきなりのぶっちゃけ質問で、口に含んでいた味噌汁を全部噴き出してしまった。


「な、なんだよ……急に?」


「別に可笑しなこと聞いてないでしょ? ねぇ、いるの彼女?」


 やたら聞いてくる……一体なんなんだ?


「い、いないよ……でも気になる子ならいるよ」


 しかも三人も。


「へ~え、どんな子、ねぇ?」


「うん。可愛くて、美人で、華やかで……お淑やかで、凛として、元気がよくて……家庭的で、頭が凄く良くて、意思が強くて……とても優しくて、色々と支援してくれて、いつも勇気を与えてくれるんだ……」


 とりあえず、三人の特徴っぽいことをさらりと言ってみる。


 けど、夏純ネェは、そんな俺を冷やかな眼差しで見てきた。


「な、何、そのカオスみたいな子……まるっきりイメージ湧かない。つーか、その子、何者なの?」


「何者って同じ学校の同級生だよ。みんなとてもいい子達なんだぞ!」


 ちょっとムッとして思わず、ボロってしまう。

 あっ、やばいと思って唇を押えるが、もう遅い。


 夏純ネェは、あからさまに驚き瞳が大きく見開いていた。


 あれ? これ、やばいやつ?


「みんなって……サキちゃん、ひょっとして一人じゃないの?」


「え? い、いや、まぁ……なんて言うか……」


 なんて説明していいかわからない。

 別にそこまで教える必要もないのだろうけど。


「いいじゃん、俺のことは……夏純ネェこそ、どうなんだよ? 彼氏とかいるのか?」


「……いたら、ここにいないと思います」


「……ごめん」


 余計、気まずくなってしまった。


 でも、こんなに美人なのに彼氏いないのか……。


 なんだ? 妙にホッとする俺がいるぞ。



 しばらくして。



 ピンポーン♪



 チャイムが鳴る。



「ん? あれ……どうしたんだろ?」


 ドアフォンを確認し、玄関に向かう。



 躊躇うことなく、ドアを開けた。


「――どうしたの、みんな揃って。それにその荷物は?」


「にしし~♪ ゲリラだよ~、サキ寂しんがっていると思って遊びにきたぞ~!」


「まぁ、ついでに生徒会の打ち合わせもしようかなって思ってね」


「あとね、今日一日だけ……三人でお泊りしていい?」


 詩音と麗花と愛紗だ。


 三人とも手に大きめのバッグを持っている。

 ちょうと、一泊できるくらいの大きさだ。


「ああ、うん……けど、昨日から親戚が泊……いや住んでいるんだ。害はないけど、それで良ければ……」


「親戚? だぁれ? ニコちゃん?」


「いや違うよ……もう一人、いるんだ、そのぅ」


 愛紗の聞かれるも、段々答えづらくなってしまう。

 別に後ろめたい事は一切ないのに、きっと彼女達の反応が怖いのかもしれない。


 案の定。


「サキ……親戚って女の人? 玄関にあるの、随分と若い女性の靴だね?」


 三人の中で一番勘の鋭い詩音が感知して言ってきた。

 前から思ってたけど、絶対にこの子なんかのレーダーを搭載していると思う。


「ああ、従姉いとこの姉さんだ……社会人だよ」


「社会人、サキ君……失礼かもしれないけど、お年はいくつなの?」


「確か23歳だよ。それがどうかしたの、麗花?」


 俺の返答に、三人は固まって、ヒソヒソと何かを話し合っている。


 なんか妙な流れになってきたのは、これまでの付き合いでわかってきた。


「ちょっと、みんな誤解しないでくれよ! 従姉であって親戚だからな! 来年、ニコちゃんが住む予定だから、保護者として住んでもらうだけなんだ! 俺とニコちゃんの二人だけだと不安だろ?」


「今、ニコりんいないよね? それって来年の話でしょ? どうして昨日から住んでいるの?」


 詩音が『素』の口調で指摘してくる。

 やばい……本気モードの時だ。


「向こう側の事情だよ。会社辞めて生活に困っているから、ウチでしばらく住もうとしているんだ。ウチの両親にもちゃんと許可貰っていることだからね」


 どうよ――。


 実に堂々とした返しだろ?

 しかも俺は一切嘘をついてないし、誤魔化してもいないぞ。


 修学旅行で学んだこと。


 変に焦ってキョドると、かえって怪しまれてしまうことだ。


 特に、この三人の前ではオープンに真実を語った方が断然いい。

 基本いい子達だから、素直に話せばきっとわかってもらえると思う。

 

「――わたしは、サキくんを信じるよ。だって、真っすぐわたし達を見てくれるもん」


 ほらな。優しい愛紗はすぐわかってくれる。


「そうね。サキ君だものね」


「ごめんね~、サキ~。疑ってぇ~」


 麗花も詩音も信じてくれたようだ。


 俺って成長したな……いや、『修羅場フラグ』の回避能力がね。


「とりあえず泊るのはOKだから、みんな上がりなよ。従姉のネェちゃん、紹介するからさ~」


 信用を勝ち取った俺は、気分よく愛紗達を招いた。



 が――



「あら、サキちゃん。お友達?」


 リビングで、夏純ネェが長い両足を組んでくつろいでいる。


 それはいい。


 けど、何故かカーディガンを脱いで、肌を露出したキャミソール一枚だった。

 寝ぐせだらけだった髪はさらりとかされており、おまけに薄く化粧もしている。

 しかもやたら艶っぽい余所行きの声を出していた。

 

 その姿に、俺と三人がドン引きする。


「……あ、ああ。さっき話していた子達だよ。ほら、気になる子がいるって」


 俺の言葉に、愛紗達の表情がパッと明るくなる。

 かなり恥ずかしいけど、これも嘘偽りのない俺の正直な気持ちだ。


「そお。初めまして、神西 夏純よ。よろしくね」


「はい、南野 愛紗です! こちらこそ、よろしくお願いいたします!」


「東雲 麗花です。初対面で失礼ですが、随分と露出高いですね。健全な男子高校生と同居する以上は控えてもらっていいでしょうか?」


 麗花の生徒会長ならではの指摘に、流石の夏純ネェも「あら、ごめんなさい」と素直にカーディガンを羽織った。


「北条 詩音だよ~♪ にしても、お姉さん、凄いセクシーで美人さんだね~? 彼氏いんの~?」


 詩音、それ禁句だよ。


「――彼氏というか……ずっと前に約束した婚約者はいるかなぁ」


 え? 何それ? 夏純ネェ、俺、聞いてないんだけど……。


「へ~え、どんな人ぉ? イケメンなんですか~?」


 詩音自身は然程イケメンに興味はないのに、相手の彼氏となるとやたら聞きたがる。

 ギャル特有のノリなのだろうか?


「そうね……」


 言いながら、夏純ネェは何故か俺の隣に立ち、いきなり腕を組んできた。


「――この子。サキちゃんよ」


 なぁ~んだ。俺じゃん……良かったぁ。



 って。



「なんだってェェェェェェェェ!!!?」






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