第81話 父からの手紙と新たな同居人




 修学旅行から戻ってきたと思った途端、親父から手紙が届き驚愕する。


 何故なら、親父達はカンボジアいて、そこで手紙を書いたらしい。


 カンボジアと言えば、あの『遊井 勇哉』が『王田 勇星』によって追放された国だ。



「……ま、まさかと思うけど」



 とりあえず、手紙を読んでみよう。





――拝啓



 親愛なる息子よ。

 元気にしているか?


 息子も、もう高校二年生か……いや、三年か? どっちだ?



(覚えてねーのかよ、親父……)



 まぁ、いい。


 それで彼女はできたのか?


 なぁ、できたのか?


 本当にできたのか!?


 JKか!? 本物か!? かわいいかぁ!?


 父さん、JKギャルと言えば黒だけど、白も実は大好きだぞ! 金髪なら尚更可ッ!



(親父、変に食いつきすぎ……最後なんて思いっきり自分の好みじゃねぇか? 詩音に会ったら、もろフィーバーすんじゃね?)



 父さん達は今カンボジアに入港している。

 二日間ほど滞在し、もうすぐ出港するところだ。


 その間、不思議な体験をしたので、こうして手紙を書いて教えてやることにした。


 息子よ、感謝しろ。


 いやマジで。



(ムカつく文章だな……つーか、そろそろ俺を名前で呼んでくれよ)

 

 

 父さんは、ユ―チューバーである母さんの手伝いをさせられ……いや、協力を惜しまず、アンコール・ワットに行かされた……いや行ってきた。



(無理矢理行かされたんだな、親父……)



 カンボジアの象徴と言われる世界遺産の遺跡だが観光客だけでなく、あらゆる寺院から多数の僧侶が巡礼や修行のために訪れることは知っているよな?


 え? 知らない?


 うわっ、知らないのぉ!? やっべぇ、息子、マジでウケるわ~www



(ウザッ! 親父、ウザッ! もう、とっとと話を進めてくれよ! あと手紙にwwwはやめろ!)



 丁度、母さんが動画を撮影していた時だ。


 巡礼している僧侶の中に、一人『見習僧』がいてな。


 頭を綺麗に丸めた、とても若い東洋人の青年だった。


 丁度、お前と同じ歳くらいの年代だと思う。

 


(……え? その、見習僧って……まさか……)



 そして、母さんが興味本位で、その見習僧に声を掛けてみたんだ。



「――チャンネル登録よろしく!」



(一体なんの声を掛けてんのぉ!?)



 だが、青年は流暢な日本語でこう答えたよ。


「修行の身である、わたくしに近代の代物はお持ち合わせておりません」


 っとなぁ……不思議だろ?



(いや普通じゃね? 不意にチャンネル登録求める、お袋の頭がどっかにブッ飛んでいるだけだよ)



 だから父さんも聞いてみた。


「キミは日本人かい?」


「……はい」


「どうして僧侶に? 見た所、まだ若いようだけど……」


「この国では8歳から出家している者もおります。わたくしなど決して珍しくもありません」


「でも、それだけ日本語が話せるなんて、相当長く日本にいたんだろ? キミのお父さんとお母さんはいないのかね? キミの名前は?」


「……それは言えません。わたくしも元々、自分の意志でこの地に赴いたわけではありませんでした」


「え!? 望んでいないのに、この国にいるってのかい?」


「いえ、そうではありません……自分から進んで来た場所ではなかったという意味です」


 父さん、この小坊主が何を言っているのかわからない。

 黄昏たような目で、なんかキマっちゃったように見えるんですけど……。


 息子よ。お前ならわかるか?



(……そいつが俺の思った通りの奴ならなんとなく……。あと小坊主言うな! それと、そろそろ俺を名前で呼べよな!)



「けど、キミ……今はそうでもないって顔しているね? なんて言うか……とても馴染んだ爽やかな顔つきだ。ウチのボーッとした平凡息子より、ずっとイケメンだぞキミ」



(仮にも父親だろ!? 他国で息子の悪口言ってんじゃねーぞ! あと、この顔はあんた似だからな!)



「ありがとうございます。仰る通り今は己の犯した罪と向き合い、こうして毎日の修行を日課としております。おかげで荒んだ心も清められ、自分でも信じられないくらい平常心を取り戻しております……これも全て『彼』のおかげかもしれません」


「彼?」


「――わたくしが最も心から謝罪したい人物の一人です。同時に、こんなわたくしを赦してくれて、大変感謝をしております」


「ほう、罪を憎んで人を憎まず――その『彼』も大した人物なんだろうねぇ。ウチのボーッとした息子とえらい違いだ」



(その『彼』、ウチのボーっとした息子かもしれねぇぞ!)



「どことなく、貴方に似ているかもしれません」


「ほう、このダンディの私に似てる? ちょっと母さん、聞いたかい? 録画してる? え!? つまらないから切っているって……嘘だろ!?」



(この親父だけは救えねぇ……ついでにお袋も何気に酷でぇ)



 こうして。


 父さんと母さんは、日本人の『見習僧』の青年と別れた。



 一枚だけ記念に写真を撮らせてもらったよ。


 手紙に同封しているから、良かったら友達とJK彼女に見せて自慢してくれ。




 俺は手紙に同封された、一枚の写真を撮り出して見る。


 写真には親父とお袋を挟み、真ん中に立つ『見習僧』の姿があった。

 髪の毛を剃り込み、オレンジ色の僧衣をまとって合掌する日本人の青年。


 親父じゃないが、とても穏やかで仏のような表情をしている。


 一瞬、誰かわからなかったが――


「……やっぱり、遊井 勇哉だ。あいつ本当に僧侶になってたんだ」


 俺はそう確信する。


 けど、あれだ……。


「自慢どころか、こんなの愛紗達に見せれねーよ……無理だわ」


 奴がカンボジアにいることを知っている人間は極々わずかだしな。

 とても言えるわけがない。


 しかし遊井の奴、真面目に更生しているようだ。

 

 けど俺は複雑な思いを抱いてしまう。


 何故なら、遊井自身は変われて満足かもしれないが、実際奴に傷つけられた愛紗と麗花と詩音のトラウマが永遠に消えることはないからだ。


 だけど、彼女達は前向きに自分を見つめながら変わろうと頑張っている。

 

 俺はそんな彼女達をずっと支えていきたいと思っているんだ。



 ――そう思いながら、手紙の続きを読む。




 息子よ。


 実に面白い体験だったろ?


 何故か、その日本人の『見習僧』に親近感を覚えてな……。


 なんかこう、因縁めいた何かを感じずにはいられないのだよ。

 まるで身内の誰かが、彼と深く関わったみたいな、そんな感覚だ。



(だってそいつ、息子である俺を刺し殺そうした奴だからな)



 まぁ、いい。


 それじゃ、そろそろ手紙を終わらせる。


 元気に頑張れよ、息子よ。



――敬具



(結局、最後まで名前で呼んでくれねぇのかよ、親父……)




PS:母さんがお前に「チャンネル登録よろしく」って言ってたぞ。



(他に言う事ねーのかよ、母さん!?)



 それと、父さんと母さん……今年の正月は戻れそうにないや。

 色々と大人の事情があってな。

 皆まで聞くなよ、恥ずかしいから。



(聞かねーよ! バカ夫婦が、二度と帰ってくんな!)



 だから、お前が寂しくならないよう親戚の『彼女』に我が家で住むようを頼んでいる。

 

 息子にとって従姉に当たる社会人のあの子だ。


 丁度、もう一人の従妹である『ニコちゃん』も来年受験だし、きっと我が家で一緒に過ごすことになるだろう。


 従妹同士とはいえ、流石に高校生同士で二人っきりというわけにもいくまい。


 父さんだってJKと暮らすの夢だったんだ……ましてや、ニコちゃんだぞ!?

息子、この野郎! テメェばっかいい思いさせてたまるかぁぁぁっ!



(この親父、しょーもねぇ……つーか、姪っ子相手に何言ってんだ?)



 そして社会人の『彼女』だが、ずっと前に会社を辞めたらしくてな。


 生活に困っているらしく、直ぐにでも住みたいと言ってきた。


 きっと、この手紙が届く頃に来ると思うからよろしく頼む。





 以上で親父からの手紙は終わった。



 が、



 待てよ!?


「――この手紙が届く頃って……もう今日すぐ来るってのか!?」



 ピンポーン♪



 あっ、チャイムが鳴った。






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