第79話 修学旅行~ 愛紗達の気持ち




 前半は、赤レンガ倉庫街でショッピングとなった。


 情緒溢れる歴史ある光景にノスタルジックな気持ちが蘇っていく。




 しばらく歩いている中、あの班と遭遇した。


 別クラスでバスケ部の二宮をリーダーとする班。

 つまり愛紗がいる班だ。


「サ、サキくん……」


 愛紗は何故か気まずそうだ。

 まるで浮気現場を目撃された彼女みたいな表情に見える。


 確かに、二宮を含む男達に囲まれた、逆ハーレム状態で他の女子達が可哀想な状況だ。

 けど元々そういう話だけど、なんか俺の方が申し訳なく思えてしまう。


「やぁ、愛紗。楽しんでる?」


 一応、それとなく声を掛けてみる。


「う、うん……ごめんなさい」


 何故、謝る?


 そんな顔されると、俺がますます罪悪感が芽生えてしまうじゃないか?

 こういう場合はあっけらかんとしてくれよ。


「アイちゃん、よかったらウチらとコラボするぅ?」


 詩音がさりげなく提案してくれる。

 ちなみに彼女の隣には内島が幸せそうな顔で歩いていた。

 この男は自ら荷物持ちを引き受け、その念願のポジションを手に入れたのだ。


 麗花も同様の条件で、同じ班の男子達に挟まれた状態だ。


 しかし二人共どこか不満そうに、さっきから俺をチラ見している。


 シンとリョウは他の女子達に囲まれ、興味なさそうにしれっとしている。


 俺はというと、最後に余った黒原と二人で先頭を歩いていわけだ。



「うん……わたしはその方が嬉しいけど……」


 愛紗はすがるような眼差しを班リーダーの二宮に向ける。


「南野さんがそう希望するなら俺はいいよ! 但し、神西君! このデルタフォーメーションは断じて崩させないからな!」


 なんだよ、デルタフォーメーションって?

 お前ら愛紗を左右と後ろに囲んで、所々で交代しているだけじゃないか?

 そのせいで、他の女子二人が思いっきりドン引きしてんじゃん。


「じゃ、一緒に歩こうよ」


 班リーダーの俺は了承する。満たされ中の内島には聞くまでもなかった。


 しかし、かなりの大所帯となってしまったぞ。


 そんな中、余っていた女子の二人が俺の隣で歩く形となっている。

 愛紗とはクラスで仲がいいらしく、二人とも意外と可愛い。


「神西君、よろしくね」


「うん、こちらこそ」


「わーっ、噂の神西君と最後に歩けるなんて、いい思い出になったよ~」


「そお? その噂って例の寝取りのアレだろ?」


「違う違う。最近、イケてるって話~。だって、結構いいガタイしてるしょ?」


 言いながら、隣の子が俺の二の腕を触ってくる。


「本当だぁ。胸板も厚いよねぇ」


 もう片方の子が、胸をペタペタ触ってはしゃいでいる。


 思わぬボディタッチに……やばい、くすぐったい……。

 


「あーっ! ちょっと浮気は許さないからねぇ、サキィッ!?」


「本当、隙だらけなんだからぁ!」


 後ろで、詩音と麗花が叫んでいる。

 なんで俺にブチキレるんだよ?


 チラッと愛紗の方に視線を向けると、何も言わないが悲しそうに顔を俯かせている。

 これはこれで心理的に大ダメージを受けてしまう。


 何この状況……地味に俺が悪い扱いになってんだけど……。


 ってか、この幼馴染の三人。


 お互いには寛容なのに、それ以外の女子には厳しいようだ。


「……ふん。仮初の負け組どもが、今だけささやかな幸せに浸っているがいい……最後に勝つのは、この僕さ」


 結局、黒原一人が除け者にされ、負のオーラをまとって延々と呟いていた。






 そして辺りは薄暗くなり、自由時間は後半となった。


 みんな約束通り、バラバラに離れて行く。


 内島達は詩音と麗花の荷物を持ったまま、「後でホテルに届けに行くから」と充実した笑みを浮かべている。


 二宮達みんなも笑顔で手を振っていた。


 どうやら各々いい思い出を作れたみたいだ。



「――サキくん」


 後ろから、愛紗が声を掛けてくる。


「ああ、それじゃ行こうか?」


「うん」


 そう。俺達にとって、ここからが本番だ。


 これから、愛紗との修学旅行デートが始まるのだから――



「愛紗が行きたい所、当ててやろうか?」


「え? 何?」


「あそこだろ?」


 俺は坂道の頂上にある山に向けて指を差した。


 愛紗はにっこりと微笑む。


「えへへ、やっぱりわかっちゃう?」


「函館のデートスポットといえば定番だからね……それに」


「それに?」


「俺も行ってみたいと思ってたから……愛紗とね」


「サキくん……あのね」


 愛紗は顔中を真っ赤に染めて恥じらいつつ、右手をすっと差し伸べる。


「て、手を握って行こ、ね?」


「あ……う、うん」


 俺は緊張を隠しきれず、彼女の指先に触れつつ、しっかりと手を握った。


 二日目の動物園以来だな……また、あの時とは違う感覚。


 ――俺達は明らかに互いを意識している。




 それから勾配の急な上り坂を歩き、展望台用のロープウェイに乗る。約3分程で展望台まで登って行く。


 ずっと手を放さず指を絡めたまま、人混みもあり互いに体を寄せ合った。



 展望台に到着し、その光景に俺達を含む周囲から感嘆の声が漏れる。


 まさに『世界三大夜景』の一つとして世界に広く知られ、『100万ドルの夜景』とも称される超有名な夜景スポットである。

 

 その名に恥じることのない、まるで七色の宝石が散りばめられた絶景にロマンチックな輝きが放たれていた。


『100万ドルの夜景』とは良く言ったもんだな……。


 だけど、その言葉の由来って確か『電灯などの消費した電気代』という事からで、紐解いていくとなんとも現実味のある情緒の薄い話なのだが……。


「綺麗……」


 愛紗は夜景を見た瞬間、溜息と共に声を漏らした。


 俺もその光景に壮観し言葉すら失う。


 やっぱり、『100万ドルの価値がある夜景』だと心から感動している。


 何より、感動で瞳を潤ませている、愛紗の横顔が何より綺麗で可愛らしく尊い存在に思えてしまう。


 この子の笑顔を守りたい。


 心からそう思えた。



「――ようやく来られたね、サキくん」


「うん、歩いてみると結構な道程だよな。おかげで、こうして絶景が眺められているよ」


「それもあるけどね……こうして、わたし達二人だけでデートをしていることだよ」


「え? ああ……うん、そうだね。前はあんな形で流れてしまったからな……」


 王田に拉致されなければ、愛紗と一番最初にデートする予定だったんだ。

 でも今回の修学旅行デートの順番を決めたのは彼女達だけどなぁ。


 三人でどうやって決めたのかはわからないけどね。


「でも嬉しかったよ……サキくんが必死でわたしを守ってくれたこと。ずっと大切に思っているから……」


「俺も愛紗が無事で本当に良かったと思っている。そして今こうして一緒にいられることに嬉しく思っているよ」


「ねぇ、サキくん……」


「ん?」


「そんなに焦らなくていいからね……」


「え? 何が?」


「……自分に答えを出そうとするの」


「愛紗……」


 いきなりストレートパンチを食らったみたいに心に響いた。


 まさか愛紗の方から言ってくるとは思ってなかった……。

 

 それこそ、王田やシンを含む色々な奴らに散々言われまくって、迷走して自己嫌悪に陥っていたんだ。

 このままじゃ、いずれみんなに見限られてしまうと、ずっと悩んでいた。


「――前にも言ったよね? わたしも麗花も詩音も……早々答えを求めているわけじゃないから」


「けど……これまで周囲からも色々言われてきてるし」


「人は人だよ、わたし達はわたし達。だからサキくんには、わたし達のこと一人一人を知ってもらいたいの……そのための修学旅行デートでもあるんだよ」


 愛紗の優しい言葉が、荒んだ俺の心に染みていく。


 同時に自分はまだまだ成長しなければならないと思った。


 こんな素敵な子達に胸張って向き合える男になるために――。


「ありがとう愛紗……なんか、俺の迷いっていうか悩みを聞いてもらった形だね」


「えへへ、そんなことないよ。わたしにだって、悩みくらいあるよ」


「へ~え、どんな?」


 俺は何気に聞くと、愛紗は切なそうに瞳を逸らした。






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