第78話 修学旅行~ 男達の恋愛事情(後編)




 ~黒原 懐斗side



 ……なるほどね。


 これまで何故この僕が、火野カップルだけには邪念を抱かなかったのか理由がわかったよ。


 この人、滅茶苦茶ピュアじゃん!


 なんていうか……微笑ましいわ!


 思わず応援したくなるわ!



「……リョウ。今度の自由行動にでも、千夏さんの手を握ってあげたら?」


「あん? 俺からか?」


「そうだよ」


「は、恥ずかしいじゃねぇか、この野郎!」


「けど、真剣交際なら別に……それに千夏さんも実は待っているんじゃないの?」


 神西くん。

 キミって他人の恋愛事情には鋭いのに、自分のことになると激鈍げきにぶだね?

 それも異能の力を発揮する影響故か……。


「手、手ぇか……どうやればいい?」


「さりげなくで、いいんじゃない? 指先から触れてみるとか」


「サキ、凄げぇな……お前、いつも愛紗ちゃん達とやっているのか?」


「い、いや……そういうわけじゃ」


 してるよ、彼。


 何度も見かけているからね……。

 しかも決まって女の子の方から……。


 クソッ! 羨ましい……羨ましいぞぉ!


 神西くん! キミが羨ましいぞぉぉぉっ!!



 ヒェェェェェェェェェェェェェェイ!!!



 おっと、今日は普段よりスイッチ入りが絶好調のようだ。


 とりあえず、ブレーキ、ブレーキ。



「わかった……ちょっと、チャレンジしてみるわ」


 何故か『頑張れ』と、上から目線で応援したくなる。

 ここまでピュアだと余計になぁ。


「ところで、シンはそういう悩みとかないのか?」


 自分の相談を終えた火野くんが聞いてくる。


「彼女もいないのにあるわけないだろ」


「作ればいいじゃん。お前、モテるんだし」


「……別にだな」


 ケェッ!


 一度は言ってみたい台詞だな、オイ!


 クール系イケメンならではの余裕ってやつですか!?


 やっぱり、僕は彼が嫌いじゃないけど好きになれない。

 相反する存在のようだ。


「シンはどんな子がタイプなんだ?」


「サキ、それは俺が逆にこっちが聞きたい質問だぞ?」


「え? い、いやぁ、俺は……そのぅ」


 何だ、こいつらの会話……段々ムカついてきたんですけど。


 片や無自覚イケメン系に片や無自覚ハーレム異端者か……。


「黒原はどうなの?」


 神西くん、絶対に話を反らすために苦し紛れで僕に振ったろ?


「……僕には、まだそこまでは……まずは今の自分を変えなきゃと思っています」


 この『S.Kファイル』さえ完成させれば、僕は究極の『モテ道』を歩むことができるだろう。

 その為にも、しっかり観察して調査をさせてもらうよ、神西くん。


「そっか……なんか俺の心境と似ているなぁ」


 似てないよ。


 キミなんか、あの『三美神』から、天の神様の言う通りで決めれるじゃないか?

 あるいは三人とも同時に……羨ましい!


 僕なんて、その相手すらいない空気少年エアーキッドだぞ!


 チクショウ、チクショウ、チキショウゥゥゥッ!


 ヒェ――おっと……興奮したら、また叫びたくなる。


 とりあえず、ブレーキ、ブレーキ……。


「俺も黒原君と同じかな……今まで悪戯に転校ばっかりしていたからな。こうして友達と一緒に過ごしている自体が初めてだ。まずは自分を見つめ直して今を大切にしたい」


「そういや、シンも色々あったみたいだからな……今がスタートなんだな」


「ああ、だから、まだ誰かと恋愛には至らないにかもしれない」


 んな余裕ぶっこいてたら、いずれ行き遅れるっつーの!


「……わかる気がするな」


 いや神西くん。


 確かに、あの超ハイスペックな美少女メンバーなら、目移りし過ぎて選びようのないのはわかるが……やっぱ羨ましい! 重婚できない日本に生まれたことを呪うしかないね、キミの場合!


「まずは、みんなを良く知ることだと思う。黒原君も含めてな――」


「……え? 僕?」


 浅野くんに名指しされ戸惑ってしまう。


「ああ、俺も生徒会に入る身だ。これからよろしく頼むよ」


「……うん、こちらこそ」


 なんだろ? 地味に浅野くんに好かれているのか、僕は?

 そういや札幌での自由行動の時も、女子からの誘いより僕の返答を優先していたからな。


 今までの行動や言動から『そっち系』でないのは確かだ。

 これだけのイケメンで、『そっち系』だったら、マジで目も当てられない。

 腐女子なら大好物な素材かもしれないが……。


 まぁ、いい。


 彼の生態に興味はないが、神西くんの調査で必要なら、せいぜい利用させてもらうよ。


 全ては『S.Kファイル』の完成のため。


 そして究極の『モテ道』へ到達するためだ。






**********



 ここに来て、久しぶりに男同士で語り合ったと思う。


 リア充そうに見えていた、リョウも意外と悩みがあったり。


 シンや黒原も今の自分を見つめ直していることもわかった。


 特に黒原――


 最近、俺をじっと見てニヤついて気味が悪いと思ってたけど、案外しっかりした所もあるみたいだ。

 流石、生徒会の古株って感じだろう。


 シンとも仲良くなったみたいだし、こりゃ生徒会も安泰だな。






 ――次の日、修学旅行の最終日。


 俺達は札幌駅から、列車に乗り函館に向かっていた。


 約5時間くらい掛かるとのことで、午前中はほぼ列車内で過ごすことになる。


 まぁ、班のメンバー達と定番のトランプしたり、言葉遊びゲームをして適当に時間を潰しているんだけどね。


 これはこれで旅の醍醐味ってやつだ。


 時折、愛紗と麗花が遊びに来てゲームに加わる。


「今のうちにサキ君に会っておかないと、次は夜になってしまうわね」


 麗花が恥ずかしいことをさらりと耳打ちしてくる。


 昨日のデート以来、ちょっぴり大胆になったのかもしれない。


 嬉しいけど、どこかもどかしい。

 きっと自分自身に対してだと思う。


 俺だけに見せてくれる微笑み、俺だけに聞かせてくれる言葉が幸せすぎて。


 詩音も同じだ。


 きっと、彼女の悩みやコンプレックスを打ち明けられたりされた男なんて俺くらいだ。


 さらには、お互いの手を握ったり腕を組んだり……これまでにない程の密着……。


 今更ながら、この修学旅行は楽しい……やばいくらいに。


 だけど、ますます迷走してしまう。自分自身の気持ちに対して……。


 そして、今日は愛紗との――。






 函館に辿り着いた。


 同じ北海道だけど明らかに空気が違う。

 なんていうか……歴史と趣がある観光地。

 そんな印象を受ける。


 昼食後、団体行動で有名な城郭へ見学し、その後は赤レンガ倉庫街で自由時間となった。


「――なぁ、神西。俺達の班とドッキングしないか?」


 内島は微笑を浮かべて提案してくる。


「なんでだよ?」


「みんな幸せになるためだ。はっきり言おう、俺は意地でも北条ちゃんと一緒に過ごしたい。思い出を作りたいんだ」


 こいつ、あそこまで詩音に拒否られているにもかかわらずめげねぇな……ある意味尊敬する。


「……でも俺達だけで決められないだろ? そっちの班メンバーはなんて言っているんだ?」


「全員満場一致でOKだ。お前の班は北条ちゃんを含めて可愛い子が多いからな。男の方も浅野や火野の人気が高い。それに東雲なんか、俺の名案にベタ褒めしてくれているぞ」


 そ、そうなんだ……麗花らしい合理的な考えだ。


「わかった……聞いてみるよ」


 俺は班メンバーに話をしてみる。


 リョウとシンは「別に構わない」と返答し、天宮さんと来栖さんも「後半以外なら別にいい」と了承する。


 けど、この二人がぐずった。


「え~っ! はっきり言ってあの班、レイちゃんしかいないじゃん!」


 詩音にとって内島は完全に圏外のようだ。


「……副会長、交渉とは互いに利益で合意されるウィンウィンで成立するもの。正直、僕達側の利益を感じませんね」


 黒原まで妙な御託を並べてきた。

 けどなんか正論のような気もする。


「う~ん。他のメンバーは前半だけならいいって言ってくれてるし……ここは多数決でどう?」


「前半だけね……なら、いいよ。その代わり、サキはアイちゃんから声が掛かったら、そっちを優先してね、絶対だよ!」


「……副会長に一任します」


 とりあえずOKを頂いた。


 愛紗からの声か……勿論、優先するさ。



 絶対にね。






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