第75話 修学旅行~ 男達の悲願と試練(前編)
札幌のホテルに戻り、夕食後に男連中で大浴場に入った。
かれこれ3日ほど泊まった宿なので初日ほどのテンションはない。
けど黒原だけは、いつも俺の裸を見ながら妙に興奮している。
やっぱり、こいつ……実はそっち系なのか?
こりゃ気を付けないといけないぞ。
「明日の函館で一泊したら最後か……」
宿泊する一室で、寝そべりながら俺はしんみりと呟いた。
はっきり言って、この修学旅行は凄げぇ楽しい。
小学、中学なんて比べモノにならないくらい充実している。
こうして気心しれた友達と過ごしたり、一番は……。
――彼女達とデートを満喫していることが大きい。
詩音と麗花……二人とも普段聞かれない胸の内が聞かれたり、弱い部分が見られたり……。
きっと、学校の男子の中で、俺しか知ることはない貴重な瞬間だったろう。
明日はおそらく愛紗か……。
楽しみだなぁ。
コンコン
誰かがドアをノックしてくる。
また詩音が奇襲を仕掛けてきたのか?
いや、それならわざわざノックする必要はない。
俺は班長らしく、「どうぞ~」と言いながらドアを開けた。
「お、お前は……?」
ドアの前に、内島 健斗が立っている。その後ろに見たことのある男子生徒が二人。
以前のサッカー勝負で試合に出ていたサッカー部員だ。
さらにその横には別のクラスの男子が三人もいる。
彼らは確か、愛紗と同じクラスの男子達だ。
「どうした、内島? なんか用か?」
「とにかく立ち話もアレだ……部屋に入れてくれないか?」
「いいけど、リョウとシンもいるぞ?」
「うっ!? ……いや当然か。だが事は急を要する。頼むよ」
内島は顔を引きつかせながら言ってくる。
こいつは過去、ヤンキーだったリョウにトラウマがある。
おまけにシンとは『王田 勇星』繋がりで顔見知りだからな。
決して、いい印象はないだろう。
「おう、内島、久しぶりだな~? サッカー、頑張ってるか?」
「……ああ、まぁな。火野、お前もボクシングのプロテスト受けるんだって?」
「おお、そうだ。体育祭終わってからに受けようと思っているぜ」
「そうか……ならもう殴られる心配はないか」
「わかんねぇぞ。テメェがまたしょーもない悪さしたら、遠慮なくボコるぜ。死人に口なしって言葉もあるからな」
「……うぐっ、もうしねーよ。俺だってプロ目指してんだ」
内島はビビりながら、シンと目を合わせる。
「その節はどうも……」
「いえ、こちらこそ……」
なんかお互いかしこまり丁寧に頭を下げ合っている。
結局、『王田』がいなければ、この二人がいがみ合う理由もないらしい。
これも平和になった証拠だろう。
ちなみに俺達が宿泊している部屋は結構広い。
田中先生が、余った黒原を受け入れたご褒美として用意してくれた部屋だ。
俺達を含めて、男子は10人くらい座っても、まだ余裕がある。
「んで、内島。俺達になんの用?」
「ああ、神西……まず一人紹介させてくれ」
「いいよ」
すると、一人の男が前に出てきた。
短めの茶髪に高身長、わりと整った顔立ち。
一見するとアイドルグループにいそうなイケメンっぽい。
「バスケ部の
「ああ、よろしく……」
「ちなみに俺は、東雲と同じ班でリーダーってわけだ」
内島が神妙な顔で教えてくる。
そういやこいつ、麗花と同じクラスだったな。まさか班まで一緒とは……。
「そう……それで?」
「神西……俺達の思いがわからないのか?」
「うん、まったく……ごめん」
俺の返答に内島と二宮は深い溜息を吐き、後ろに座っている男達は「う、うう……酷でぇ」とすすり泣く。
「すっかり変っちまったな……神西。前は人を思いやる心に溢れている奴だと思ったのによぉ」
「何、俺が悪い流れになってんの? まずは意図を教えてくれよ」
「なら、はっきり言うぜ――」
すると内島と二宮、後ろの男子達が正座し、一斉に土下座してきた。
「頼む! 半日でいい、南野と東雲を返してくれ!」
「ええーっ!?」
思わぬ要望に、俺は驚愕する。
「か、返せってどういう意味だよ!? 一体、俺が何したってんだ!?」
「だって、あの二人。自由時間のほとんどが、お前の班にいるだろ?」
「そうだけど……あくまで二人の意志だし、それに修学旅行の
実は麗花の策略で強引に押し通したルールだけどな。
「けどよぉ、せっかく同じ班になっているのに初日以外ほとんど一緒の行動してないんだぜ!? 思い出どころか虚しさしか残らねぇだろう!?」
「まぁ、気持ちはわかるけど……本人達に直接言ったら?」
「あんな可愛い笑顔で『お願い♡』って言われたら従うしかないだろ? 察してくれよ~!」
二宮まで訴えてくる。
気持ちはわからなくもないが……。
「でも内島は詩音のことが好きなんだろ? 麗花は別にいいじゃん」
「俺はいい……だが後ろの二人がすがってくるんだ。同じサッカー部として願いは叶えてやりたい……あっ、でも北条ちゃんとトレードでもありだぞ、俺はな」
んなことできるわけねぇだろ。
「駄目だよ、彼女達の意志は尊重する。俺がどうこう言える話じゃない」
「「「「「「そこをなんとかお願いします! 神西さん!!!」」」」」」
六人が一斉に頭をさげお願いしてくる。
「ええーっ」
うぜぇ、こいつら、なんなの?
リョウとシンに助けを求めるようとするも、二人とも面倒がってスマホでゲームをやり出した。
そんな中、あの男が動き出した――!
「ククク……ハハハハハーーーッ! 滑稽ですねぇ、おたくらはぁ!」
黒原 懐斗だ。
またキャラが崩壊している。
「なんだぁ、テメェ! 何、笑ってんだぁ、コラァ!」
どうみても陰キャっぽい奴に見下され、更生した内島も流石にカチンとする。
昔のヤンキー魂が蘇ったようだ。
「僕ですか? 僕は……そうですね、『
何、
「だから何なんだ、テメェは!? 俺達は神西と喋ってんだ!」
「いやぁねぇ。あまりにも無様さに呆れ返ったといいましょうか……所詮、雰囲気だけの負け犬といいましょうか、そう思っただけですよ」
「んだとぉ、テメェ! ちょっと
「ヒィィィィッ!」
内島達のブチギレに、黒原は悲鳴を上げて俺の後ろに隠れて怯えている。
「……ふ、副会長。あいつら全員、やっちゃってください」
「できないよ……悪い事してないもん」
こいつも、うざいと思った。
「――まぁ、黒原の言うことも一理あるわな」
リョウがふと言ってきた。
「……ひ、火野?」
「内島、サキにお願いするのは筋違いだぜ。サキはなぁ、三人と正々堂々ハーレムを満喫してぇんだよ!」
お前もどさくさに紛れて変な力説するなよ!
少しは当たっているけど……。
「けど……俺達は……」
「じゃサキ、こうするか?」
「え? なんだよ?」
「今からこいつらと勝負して、お前が勝ったら大人しく帰ってもらう。内島達が勝ったら、お前から愛紗ちゃんと麗花さんにお願いしてみるってのはどうだ?」
どうだじゃねぇよ。ドヤ顔で何言ってんの、こいつ?
「俺もリョウに賛成だな。一応は誠意が込められたお願いだし、サキも気が進まないのもわかるが、このままでは話が平行線だ。いつまでいられても迷惑だし、ここは見切りをつける必要もあるだろう」
シンまで言ってくる。しかも意外と正論だ。
「……わかったよ。けど、あくまで彼女達の気持ちが優先だからな! お前らの方からも、ちゃんと自分達の気持ちを伝えてくれよ!」
「「「「「「神西さん、あざーす!」」」」」」
内島達全員が調子よく土下座して見せる。
「んで、リョウ。一体なんの勝負をするんだ? トランプとか? なんかのゲーム?」
「――待ってろ」
リョウは立ち上がり、自分のボストンから何かを取り出した。
俺達に向けて無造作に投げつけてくる。
丸っこく真っ赤な四つの物体だ。
こ、これは……まさか。
「……ボクシング、グローブ?」
「そうだ。それを着けて、サキとファイトするってのはどうだ?」
どうだじゃねーし。
つーか、なんでこんなの持ち込んでんだよ……。
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