第74話 修学旅行~ 麗花のトラウマと思い出作り




 その後、俺達の班はオルゴール店に行き、オルゴール制作体験をする。


 制作と言っても、予め完成されたオルゴールを選び、ガラス細工で色々と装飾してデコる作業なのだが。


「よし、これでいいや」


 ニコちゃんの好きな、白クマやペンギンなどくっつけて、なんちゃって動物園風にデコってみた。


「あら、可愛いわね、サキ君」


 隣で同じ作業していた、麗花が褒めてくれる。

 彼女は色々なガラスの花を色鮮やかに並べて装飾していた。


「そぉ? 麗花も流石センスいいね? お土産?」


「うん、お父さんにね……フフフ」


 彼女は朝から機嫌がいい。

 理由はよくわからないけど。


 でもお父さん、麗花からのプレゼントなんて羨ましいな……。



 それから予定通りガラス工房に行き、その後は人力車に乗って観光地を回った。


 初めての体験ばかりで、俺を含むみんなのテンションは上がる。

 これぞ旅行の醍醐味だと思った。


 その後、小樽から札幌のホテルへと戻り昼食を食べる。



 午後から、またバスで移動することになり、高速で2時間ほどかけて登別へと辿りついた。



 登別にある水族館で自由行動である。



「……でけぇ、水族館だな? そういや小樽にも水族館はあったよな? どうしてわざわざ移動したんだ?」


 リョウが見渡しながら呟く。

 確かにお城みたいな大きくて広々とした建物だ。

 遊園地も併設されているらしい。


「あるわよ。多分、自由時間の場所とかの関係かしら? それと宿泊する札幌のホテルを中心メインとした配慮もあるかもね。明日は列車で函館まで行くから」


 麗花はにこやかに説明してくれる。

 やっぱり、どこか機嫌がいい。


「登別か……確か熊や忍者とガチでファイトできる観光地があるらしい。あと地獄の鬼とタイマンできるとか?」


 真顔でボケてる、シン。

 ねーよ、そんなところ!


「なんだよ……そっちの方が断然いいじゃん。『熊殺し』や『忍者マスター』の称号貰えるんじゃね? 『鬼殺し』も酒っぽくて箔がつくかもなぁ」


 リョウまでアホか!?

 んな称号貰ってどうすんだ!?


 ウチの班の男子チーム、あんまり文句言ってこないと思ったら、実は残念な連中だっただけなのか!?


「……副会長には期待していますので……フフフ」


 黒原まで後ろで囁いてくる。

 俺の何を期待してんだよ、こいつは?



「――それじゃ、サキ君。私と行きましょう」


 麗花は言いながら、制服の袖口を摘まんで引っ張ってきた。

 恥ずかしそうに、俯いてほほをピンク色に染めている。


「行く? 麗花と? どこに?」


「自由時間……い、いえ、デートの時間よ」


 え? そ、そうか……。


 ってことは、今から麗花と二人でデートするってことか?



 俺達が不在の間、班は愛紗と詩音が仕切ってくれるらしい。


 とはいえ、札幌同様にみんなそれぞれ好きなように動くらしい。

 館内や敷地内だし問題はないだろう。


「それじゃ、二人共、行ってらっしゃい」


「よろ~☆」


 愛紗と詩音が手を振って見送ってくれるという奇妙な絵面。


「副会長! マジでもう最高です~、思い出あざーす!! ウッヒャーッ!!!」


 黒原が二人の間に挟まれる形で一番テンションを上げている。

 どうやら愛紗と詩音の二人と自由時間を一緒に行動するらしい。

 けど、すっかりキャラが変わってないか?




 そして、麗花との修学旅行デートがスタートする。


「凄いな、ここ……」


 麗花と二人並んで、色々な魚の群れが回遊する水槽トンネルを潜る。


「ええ、一度来てみたかったのよね……」


 彼女も圧巻の光景に魅了され溜息を漏らしている。

 その横顔はとても綺麗だと感じ思わず胸が疼いてしまう。


 隣で歩いているだけなのに、一緒にいて誇らしい気持ちさえ抱いている。

 これから一緒に生徒会活動する上で、より一緒にいる時間が増えるんだろうなぁ。


「サキ君……ありがとう」


「え? 何?」


「生徒会の件よ……本当に不安だったから」


「うん。けど言ったろ、今度は俺が麗花を助けるって」


「ええ、そうね……嬉しい」


 麗花は、俺の制服の袖をぎゅっと摘まんでくる。

 彼女なりのささやかな密着だろうか?


 稀に手を握ってくるけど、大抵はトランス状態の時や感謝している時だからな。

 後、動物園で怖がっていた時だった……。


 こういうデートだと、また心境が異なるのかな?


「サ、サキ君……」


「なんだい?」


「そのぅ、て、手を握っても……いいかしら?」


 麗花は顔が見えないくらい俯いておねだりしてくる。


 やばっ……かわいい。


 普段見ることがない反応に、俺の胸がきゅっと絞られる。

 いつも美人で綺麗だと思っているだけに、このギャップは反則だ。


「う、うん……俺でよければ」


 思わず了承してしまった。


 いや、俺も心の中ではそうしたいと願ってしまったかもしれない。


 ただ自分から認めてしまったら、何かが崩れてしまいそうで怖かった。


 俺が最も大切にしている、みんなとの関係……それが失ってしまうのが怖い。


 同時にそう思えてしまっている。


 やっぱり、俺って優柔不断で最低だろうか?



 麗花は頷き、指先が静かに触れ、ぎゅと握られた。

 自然と指先同士が絡み合い、体が寄り添い密着されていく。


 繊細で温かい指と手の平の感触。

 柔らかく大きな胸も二の腕に当たって幸せすぎる。


 これはこれでやばい……。


「こうして二人っきりで歩くのって初めてね……」


「そうだな。夏休みのランニングでも、麗花は大抵チャリに乗っていたからな」


「ええ……けど、サキ君の成長は凄いわ。私の見込んだ通り……いえ、それ以上……」


「麗花の訓練メニューがあるからだよ。俺はそれを信じて取り組んでいる。その成果だと思う」


「サキ君……」


 麗花は立ち止まり、俺の足取りも止まる。

 彼女の切れ長である目尻が下がり、瞳を潤ませてじっと見つめてくる。


 また俺の胸が高鳴る。


「私のこと、どう思う?」


「え……どういう意味?」


 思わぬ質問にドキっとして訊き返してしまう。


「そのぅ……女の子として見てもらえる?」


 なんだ……一瞬、告白を求められていると思ってびっくりしたぞ。


「勿論だよ、どうして?」


「知っているでしょ? 私、周囲から『塩姫』って呼ばれているの……」


「ああ、まあね。でも生徒会長だし、それくらい引き締まってないとね」


「でも、その生徒会長も、元々は『あいつ』の標的から外れるために……自分の身を守るためにやってきたことよ」


「うん、聞いている」


「あいつから離れて世界が広がったと同時に気づいたわ……私って周囲から浮いているって……もう少し素直にならなきゃって」


「麗花……でも無理して変える必要はないよ。俺は今の麗花のままでも十分に魅力的だと思う」


「サキ君……」


 麗花が握る指先に力が込められる。

 彼女の気持ちとリンクして、その想いが俺に注がれていく。


「私……本当は男子が苦手……まだ昔のトラウマがあるの……でもサキ君は違う。貴方といると……心が落ち着くし、こうして触れ合うことも怖くないわ」


「麗花はこれからどうしたいと思っているの?」


「……みんなのように、女の子として思い出を作りたい。サキ君とみんなと……」


「んじゃ作ろう。一緒に……俺も麗花との楽しい思い出を作りたい」


「ええ、そうね……ありがとう、サキ君(貴方を好きになって本当に良かった……心からそう思うわ)」


 麗花は柔らく優しい微笑みを浮かべる。


 俺も微笑み、彼女の手を強く握りしめた。


 いつも凛として強い女子のイメージがある彼女だが、実はとても繊細で傷つきやすくか弱い部分もあると、ずっと前から気づいていた。


 でも、これから楽しい思い出を一緒に作っていくことで、少しでも過去のトラウマが薄れていければいい。


 麗花には常に前を向いて毅然として歩いてほしいんだ。

 その為なら、俺もいくらでも成長して守ってみせるよ。


 俺と麗花は頷き合い、同じ歩調で前へと進んでいく。


 これから素敵な思い出を作るため。

 今を大切に楽しむため。

 

 麗花とみんなとなら、それが出来ると思う。


 こうして俺と麗花は、イルカのショーを観たり遊園地で遊んだりして、デートを満喫したのであった。






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