第76話 修学旅行~ 男達の悲願と試練(後編)




「リョウ、なんでグローブなんか持ち込んでいるんだよ?」


「安心しろ、ヘッドギアも二人分用意してあるぜ」


 いや、そういうこと聞いてんじゃないんだけど……。


「この面子だろ? ホテルで暇だったらお前らとスパーリングでもしようかなって……俺、シンと戦ったことねーし」


「そういやそうだったな……だがリョウ、いくら俺でも本気でプロを目指している奴相手にボクシングじゃ勝てない。蹴りや肘が打てれば、まだ戦いようもあるが……」


 シンまで何まともに応えてんの?

 まず、この事態をツッコめよ!


「しかし、火野……俺は文化祭で神西のボクシング試合を観たことがある。はっきり言って勝てる気がしないんだが……サッカーじゃ駄目か?」


 内島よ。室内でどうやってサッカーするんだよ!?


「勿論、ハンデは必要だ。そうだな……サキは顔面を殴るは禁止で相手のダウンを一度でも奪えば勝ちだ。対してお前らは誰か一人、サキの顔面に一回でも拳を入れたら勝ちとする。それならイーブンだろ?」


「俺達、六人ずつ戦うのか?」


「そうだ。勝ち抜き戦でいいんじゃね? サキも六人相手だとバテるかもしれねぇぜ」


「なるほど……それなら、俺達の方が有利か……わかった挑戦しよう!」


 内島を含む六人はやる気になっている。


「ちょっと待ってくれよぉ! 俺は一言もやるなんて言ってねぇぞ!」


「いいだろ、サキ。たまには戦わねぇと勘が鈍るぞ!」


「鈍るって言ったって……別に憎くもない相手と戦う理由ないし」


「これも思い出だって。たまには男連中にも付き合ってやれよ~」


 まるで俺がいつも女遊びしているような言い方しやがって……あっ、でも少し当たっているかも。変な意味じゃなくてね。


「わかったよ……俺が勝ったら諦めてくれよ」


 これも修学旅行の思い出の一つとして割り切ることにする。




 敷布団でなんちゃってリングが作られる。


 俺はグローブとヘッドギアを装着した。


 黒原が近づいて来る。


「……副会長、僕がセコンドについていいですか?」


「別に必要ないけど、好きにしてくれよ」


 俺は投げ遣りに応えると、黒原は半笑いで例のノートを手に持ち「調査開始……」と意味深なことを呟いている。

 何故だろう? こいつから最も異様な悪意を感じるぞ。


 俺の対戦相手は……バスケ部の『二宮 秀晴』か。

 バスケ部のエースで女子から人気のある別クラスのカースト上位だった筈だ。

 

 きっと愛紗に気があるんだろうな……。


「よし! 俺が出来るだけ神西の体力を奪う! あとはお前らに託すからな!」


 二宮達はイキリながら何か作戦を立てているようだ。



 そして戦いが始まる。



「カーン」


 審判役のリョウが口でゴングを鳴らした。


「よし、神西、覚悟しろよ!」


 二宮はファイティングポーズで構える。


 俺も溜息を吐きつつ構えてみた。


「――あっ、そうだ。サキ、お前、確か20人のチンピラ相手に素手で戦って勝ったよな?」


 不意に、リョウが訊いてきた。


「え? まぁね……でもお前、知ってるだろ?」


「な、何ィ!? き、聞いてないぞ、火野!?」


 二宮は驚愕し青ざめる。


「だって、今言ったもーん。よし、ファイト!」


 リョウはニヤつきながら号令して離れていく。


 やる気満々だった、二宮は急にブルブルと生まれたての小鹿のように両足が震えている。


 どうやら、こいつら全員、リョウに遊ばれているらしい。


「う、うわぁぁぁぁぁっ!」


 二宮は雄叫びを上げ両腕を振り回しながら迫ってくる。

 おそらく恐怖のあまりに錯乱したらしい。


 俺はボディしか打てないルールなのに隙だらけで意味ないじゃん。



 ドン!



 けど負けたくはないので、とりあえずボディに一発入れておいた。


「ぐおっ!」


 二宮は両膝を付いて蹲り動かなくなった。


「に、二宮!? ちくしょう、神西ぃ! テメェは鬼かァァァッ!」


 駆け寄り涙を流す、内島達。

 奴らの中で、すっかり俺は悪者扱いだ。


「……フフフ。ただの雰囲気イケメン如きが『異端の勇者』に敵うわけないだろ? 身の程を知れってのざまぁ!」


 セコンドもブツブツうるせーっ。

 ところで『異端の勇者』って誰のことよ?


「ほら次の奴、出て来い! じゃねぇと終わりにすっぞ!」


 リョウは他人事のように急かしている。

 なんだろう? 今一番こいつと戦いたくなってきたぞ。




 その後、俺はあっさり四人抜きする。

 俺の方にハンデがあるにも関わらず、


 余りにも実力に差がありすぎて、なんか連中が可哀想になってきた。



 最後は、内島が相手のようだ。


「内島、大事な体だろ? やめるなら今のうちだぞ?」


 一応、忠告は入れてみる。


「う、うるせーっ! 俺はみんなの想いを背負っているんだ! 北条ちゃんはお前には渡さねぇ!」


 ん? 何か主旨が変わってないか?

 詩音はウチのクラスで同じ班だからな!


「まぁ……負けなきゃいいか。来いよ」


 俺は手招きして挑発する。


 内島も構えるも中々踏み込んで来ない。


 流石、喧嘩慣れしているだけあって戦い方はわかっているようだ。

 あの大柄の体格も侮り難いかもな……。


「ク、クソォッ! もう一人の火野を相手しているみてぇだ……急にレベル上げやがって……バケモンがぁ! ほ、北条ちゃん……俺に力を与えてくれ!」


「――え? 内島ッチ、あたしがどうしたって~?」


 詩音がしれっとして部屋に入って来た。


「詩音ちゃん、今真剣勝負中だから離れてくれ」


「ヒノッチまで……どうして、サキと戦ってんの? グローブまで付けてさぁ~?」


「サキくん、何しているの?」


「あら、内島君じゃない? それに貴方達まで? どうしてここに?」


 愛紗と麗花まで入ってくる。

 まぁ、毎日今くらいの時間に三人で遊びに来ているんだけどね。


「――フッ、ハハハハハハ!」


 内島が急に笑い出した。恐怖の余りに気でも触れたか?


「おい、どうしたんだ?」


「神西ッ! この勝負、俺の勝ちだ!」


「なんだって!?」


「何故なら、俺は女神の加護を得ている! 北条ちゃん、見ててくれ! 俺の戦いを! この一撃をキミに捧げるよ!」


「よくわかんないけどぉ、お互い怪我しちゃ駄目だぞ~!」


 詩音が一番まともなこと言ってんだけど……。


「行くぜぇ! 神西ィ!」


 完全に吹っ切れ、内島はやたら闘志を燃やしながら突進してくる。

 愛の力ってやつだな。


 おまけに両腕でがっしりとボディをガードしているのは流石だ。


 けど――


「俺だって譲らないぞ!」


 俺は左フックで、内島のガードをずらし、そのまま踏み込みで右ブローを打ち込んだ。


 正確に鳩尾みぞおちこと横隔膜に衝撃を与え、相手の動きを止める打撃――



 ソーラープレキサスブローだ。



「ぐほっ!」


 内島は一時的な呼吸困難を起こし、その場で跪き倒れた。


「勝者、サキッ~!」


 リョウが勝利宣言して、ようやく勝負に決着がついた。


「相手との実力差もあるが……サキも相変わらず精密なパンチで凄かったよ。まさにチート級だな」


 シンは褒め称えてくれるが、正直あまり嬉しくない。


「男には容赦の欠片もない……そこも異能の力か……いいねぇ。ぞくぞくしてくる」


 このセコンド、マジでうるせぇんだけど……。

 

 けど黒原じゃないけど、俺も少し大人げなかっただろうか?

 一応、まだボクシングは続けているからな……。


「内島ッチ、大丈夫ぅ~?」


「ほ、北条ちゃん……せ、背中擦って……そしたら全回復するから」


「え~っ、ごめん無理ぃ。サキにならいくらでもしてあげるけどねぇ~♪」


 内島は二度も詩音に振られてしまう。

 違う意味でも撃沈KOされてしまったようだ。


「ところで、貴方達はなんなの? なんの揉め事なの、これ?」


「麗花の言う通り、喧嘩は駄目だよ、二宮くん」


「南野さん、これは違うんだ……俺達はそのぅ、神西君にお願いごとがあって……」


 二宮はベラベラと愛紗達にことの経緯を説明している。


 初めから、そうすりゃ良かったのに……。






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