第73話 修学旅行~観察者キャラ崩壊する

※このキャラは時折、第四の壁を突破します。




 ~黒原 懐斗side



 ふむ。



 自由時間になり、神西くんと北条さんの二人が消えてしまった。


 例の『三美神』と一人ずつ、修学旅行デートやらを満喫するらしい。


 学園屈指を誇る美少女達の順番制とは……なんちゅう羨ましい企画だろう!


 まったく、神西くん。

 キミって奴は期待以上の凄い男だよ……。


 え? いつもの「ヒェェェイ!」は叫ばないのかって?


 まぁ、落ち着きたまえ諸君。



 ――実はね。僕も少しだけおこぼれを頂いているのだよ。


 では説明しよう。


 班リーダーである神西くんと北条さんが不在となり、別のクラスの筈である東雲会長が仕切り、南野さんがサポートするという奇妙な構図となった。

 

 但しだ。


「みんなぁ。好きなように過ごしていいから3時間後に合流しましょう。それ以外で何かあったら連絡頂戴」


 っと言い出し、火野くんと名取さんのリア充カップルは「オッケ~」とか言いながら、二人肩を並べて街へと消えて行った。


 この学園では稀な裏表のないベストカップルなだけに、この僕ですらジェラシーが沸かない。

 もうキミ達は好きにしたまえ、って感じに受け入れてしまう。


「俺はどうしようかな? まぁ、ぼっちは慣れているが……なぁ、黒原君。野郎同士でどっかに行くか?」


 浅野くんが誘ってくる。

 転校当初の彼は、僕に最も近い存在であり見所のある男だった。


 けど、今の彼は嫌いではないが好きになれない。


 だってイケメンなんだもん。


 しかも、クール系のナイスガイ。


 そんな彼と一緒に街を歩くってことは、あからさまに周囲への引き立てポジになってしまうから、まっぴらごめんだね。


 僕は「え? い、いや……そのぅ、あのぅ」とコミュ症っぽく、あるいはラノベ主人公並みの優柔不断を装うことにする。

 そうやって時間を稼いでいると案の上、例の連中が近づいてきた。


「浅野くん。良かったら、私達と一緒に行動しない?」


「女子だけだと不安……ガム食う?」


 同じ班の女子である、天宮さんと来栖さんだ。

 

 そう、三美神の裏工作で、浅野くんは彼女達と3Pデートなのだ。


 ぽちゃっとしたフェミニン系の天宮さんといい、気怠そうなダウナー系の来栖さんといい、二人とも僕のタイプであり、ぶっちゃけどっちもイケる。


「いや、俺、黒原くんの返答待ちだから……」


 誘いに乗らないんかーい!


 バカなのこいつ!? 行けよ! 僕なら速攻で乗っかるぞ!


 そういや彼、カースト上位グループの女子達に声を掛けられても、あっさり斬り捨てる『辻斬り』みたいな奴だったな。


 本当、無自覚系のイケメンって自分の武器を活かせないまま、その辺の女とできちゃった婚して、あっけなく人生妥協して終わらせるんだよ。

 俺、こう見えて一途でカッコイイだろ、みたいな感じでね……ケェッ!


「……僕のことは気にしなくていいよ、浅野くん。二人と回っておいでよ」


 しゃーないから助け船を出す。

 

 だって僕にはやるべき事がある。


 ――ずばり、神西くんの追跡&尾行だ。


 彼の生態調査を行い、事余すことなくこの『S.Kファイル』に記録するのだ。


「そうか……わかったよ、残念だな。じゃ天宮さんと来栖さん、俺達で行こうか? ガムもらっていい?」


 こうして浅野くん達三人も街へと消えて行った。



 ふぅ、やれやれ……。


 さぁてと、僕は単独で神西くんを追跡するとしよう。

 これはこれで楽しいぞぉ。



「ちょっと黒原君、どこへ行くの?」


 東雲会長が声を掛けてきた。


「え? い、いやぁ、僕は……」


 まずい! まさか神西くんの後を追うなんて言えない!


 どうする!? どう切り抜ける、黒原 懐斗!?


「――黒原くん、よかったら、わたし達と一緒に回ろ? ね?」


「え? ぼ、ぼくと……?」


 南野さんの甘いお誘いに、僕は唖然としてしまう。


「そっ、たまにはいいでしょ? 同じ生徒会なのに、これまで深くお話ししたことなかったわよね? サキ君と愛紗も加わって新体制になることだし、ここは親睦を深めましょう?」


 え!? 生徒会長まで!?

 しかも何気に『庶務』になった浅野くんが抜けてんじゃん!?


 あんなイケメンをド忘れする生徒会長って、なんか素敵じゃね!?


 ――待てよ!?


 神西くんが、ああして『三美神』の誰かとワンツーマンでデートするってことは、僕が残りの二人と自由時間を一緒に行動できるってことじゃないか!?


 凄くね!?


 だって、天下の『三美神』だよ!?


 他の男子なんて手が届くどころか、近寄ることすらできない女神であり尊い存在だよ!?



 そんな彼女らと日替わりに……この僕が……3Pデート。



 男なら当然――



「行く、行く~!」


 この時、僕の中で17年間築き上げてきた大切な何かが崩壊した。


 それは陰キャというアイデンティティを捨てた瞬間である。


 でもそんなのどうでもいい……。


 『S.Kファイル』の記録だって、神西くんじゃなく彼女らの記録だって必要な筈だ。


 うん、そうだ。そうするべきだ……。



 僕は今を満喫するんだ~い!



 そしてこの時、改めて思った。



 ――神西 幸之、キミはなんて恐ろしい男なのだろう。



 だけど、とても素敵な奴じゃあないか!?



 もう、神西くん……キミに乾杯さぁ。






**********



 詩音との初デートを終え。


 俺達二人は待ち合わせ場所でみんなと合流する。


 みんなも案外楽しかったみたいで、班メンバー達は全員笑顔で賑わっていた。


 あの黒原さえも爽やかな笑顔を浮かべている。

 ところでなんで、俺に向けて親指立てているんだよ、こいつ?


「詩音、サキくんとのデート……どうだった?」


 ヒソヒソ声で愛紗が耳打ちしている。

 傍にいる俺には丸聴こえだ。


「うん、とても楽しかったよ~。お互い身も心も知り尽くしてスッキリしたよ。ねぇ、サキ~?」


 し、詩音さん!?

 変な言い方するのやめてくれる!?


 妙な誤解を招いたらどうするんだ!?


「そっか……いいなぁ」


 愛紗は上目遣いで俺のチラ見してくる。

 

 その愛らしい仕草に、俺も胸が疼いてしまう。


 あの王田のせいで、前のデートがおじゃんになったからな。

 今度は楽しみたいもんだ。



 その後、みんなでレストランに行き夕食を食べる。


 ホテルに戻って、修学旅行の2日目が終わった。






 そして、3日目。



 次の行先は小樽だ。


 レトロな風情が魅力的なノスタルジックな港町。


 そんな印象を受ける。


「ガラスとオルゴールが有名らしいわね。なんでも自分で作ることもできるらしいわよ」


 麗花がうんちくを語ってくれた。


「そっか……それじゃ、まずオルゴールの店に行かない? それからガラス館に行こうよ」


「うん、いいよ」


「サキ、オルゴール店で何か作ろうとしているの?」


 愛紗が素直に頷き、詩音が何気に訊いてくる。


「まぁね、お土産用に手作りでもって、ニコちゃんの……駄目かい?」


「いいと思う。きっとニコちゃん喜ぶと思うよ」


「特にサキの手作りとかだったら、きっとニコりん興奮して鼻血ブーもんだよ~♪」


 いや、鼻血ブーはねぇだろ? 


 詩音、お前は俺の従妹をなんだと思ってんだ?






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