第72話 修学旅行~詩音のカミングアウト
札幌市内の自由行動で、詩音と二人でデートをすることになる。
とにかく、彼女はぐいぐいと俺の腕を引っ張っていく。
「し、詩音、みんなから了承をもらっているとはいえ、あんまり離れるとまずくないか?」
「大丈夫だよ~! 3時間デートの約束だからぁ、その後連絡して合流する手筈だよ~ん♪」
なるほど、むやみに暴走しているわけでもないのか……。
だったら任せてもいいかな。
「詩音はどっか行きたい所あるの? 観光地とか?」
「う~ん。あるけど、まだ最後の方でいーよーっ。まずデート楽しも、サキ~」
詩音は得意の笑顔と一緒に小顔を近づけてくる。
う~ん、普段よりもやたら密着してくるんだけどぉ……。
まるでタガが外れたみたいだ。
それから俺と詩音は商店街に行き、ショッピングモールやゲームセンターに立ち寄った。
修学旅行というより、ほとんど普通のデートっぽい。
別に地元でもいいような気もしなくもない。
「サキ~! 一緒にプリクラ撮ろーっ?」
「わかったよ」
まぁ、詩音が喜んでくれるならいいかなって思うけどね。
なんだかんだで、俺も楽しいし。
そして飲食店で一休みする。
「サキ、こーゆーデートは嫌?」
「え? 別に嫌じゃないぞ。普通に楽しいよ。どうして聞くんだ? 俺、ムスっとしてたか?」
「ちがうよ~。でも、あたしと一緒で楽しいかなって……」
「詩音と一緒に居て退屈するんなら、誰と居たって退屈だよ」
俺は笑みを浮かべ正直に答える。
いつものハイテンション娘にしては珍しい言葉だと思った。
そういや、詩音。
最近、少し変わったと思う。
普段は分け隔てなく大らかなのに、俺の周囲を気にしたりヤキモチを焼いたり……特に他女子に対して。
一年の後輩の『軍侍 路美』とも揉めていたよな……。
愛紗や麗花に対してもヤキモチ焼くようになった気がする。
まぁ、俺のことを心配したり大切に思ってのことなんだろうけど……。
けど先日の生徒会に入るかどうかの件といい、何か自分を気にしているような素振りも見られる。
その後、電車に乗り、とある大きな公園に辿り着いた。
今の時期はイチョウ並木の黄葉が大した見頃であり、樹の下の落ち葉の絨毯も綺麗である。
秋の雰囲気を感じさせる景色だ。
俺と詩音の二人は並木道を散策する。
相変わらず、彼女は腕を組んで密着してくる。
これ絶対に周囲から、カップルだと思われているんだろうなぁ。
「景色が黄金一色に輝いているよな……まるで、詩音の髪みたいじゃね?」
恥ずかしさを誤魔化しながら、少しイジってみる。
「……そぉ? あたしの髪ってやっぱり変に見える?」
「いや、そういうつもりで言ったんじゃ……ごめん」
「ううん。いいよ、サキになら……嫌じゃなければね」
詩音は軽く微笑んでいる。
いつもと違う雰囲気……しかも喋り方が普通っぽい。
「そういや、俺に何か話したいことあるって言ってたな? 悩み事か?」
「……うん。最近ね、迷っているの」
「迷っている? 何を?」
「自分のキャラというか……身形とか……この金髪だってそうだよ」
「俺は似合っていると思うけど……それに、いつも明るい詩音は、そのぅ……一緒にいて元気もらえるし、俺はいいと思う」
「ありがとう、サキ。キミは優しいから、いつもそう言ってくれるよね?」
「そんなこと……」
「――知っているでしょ? このキャラね……元々は『
「あ、ああ……前に話してくれたアレな」
詩音は中二の頃、遊井の母親とママ友だったロシア人であるお母さんを引き合いに、奴から強制的にギャルの格好をさせられていた経緯がある。
それで今に至っているとか。
今思い返しても酷い話だ。
俺も叶うことなら、今すぐカンボジアに行って、あの糞野郎をぶん殴ってやりたいぜ!
俺が無言で憤慨する中、詩音は悲しそうに瞳を潤ませる。
「変な話して、ごめんなさい……サキ」
「あっ、いや……別に詩音が謝ることじゃ……」
「あたしね、それまではアイちゃんのような格好やキャラしてたんだよ。あの子に憧れて、ずっとね真似っ子しててね……髪の色も本当はブラウンなんだぁ」
「愛紗の真似?」
それはそれで、詩音なら似合うかもしれないなぁ。
「でもどんなに似せても、決してアイちゃんのように女子力が高いわけじゃないし、ましてやレイちゃんのようなタイプは、あたしじゃ絶対に無理だろうって諦めてたの。あたしの唯一の取り柄はハーフに生まれたことくらいかな……」
「詩音……」
「でも、この格好をするようになってから以前より目立つようになったし、周りからも一目置かれるようになって……なんかこう、ようやくあの二人と同じ高さに追いついたというか……初めて、ハーフに生まれてきて良かったのかなぁって思えたのも本当なんだぁ。変わったきっかけは最悪なのにね……」
「……そっか」
切なそうに語る詩音に対して、俺はそれ以上の返答をすることができない。
遊井に脅迫紛いに先導された筈のキャラだったが、彼女の中で密かに手応えを掴むような感覚も芽生えていたのだろう。
キャラにハマってしまったという感じかな?
でも意外だったな……いつも愛紗や麗花と平然と肩を並べているし、時には甘えてみたり自分の好きなように振舞っていると思っていたけど……。
心の奥では、詩音なりに二人に対してのコンプレックスがあったんだな。
でも俺は他の誰よりも他の子にはない、詩音の魅力を知っているつもりだ。
どんな相手だろうと頑張った相手を褒め称えたり、弱い者を必死で庇おうとしたり、誰にでも分け隔てなく明るく振舞って元気と勇気をくれる。
そんな凄げぇ、いい奴。
いや、とても素敵な女の子だということを――。
「けど、やっぱり考えちゃう。あいつはもういないわけだし……昔に戻ろうと思えば、いつでも戻れるのに
「いやぁ、全然。俺は今の詩音も魅力的で可愛いと思うし、新しい詩音も見て見たいとも思う。けど、誰かに言われたからとか左右されて無理して変える必要ないよ。詩音は詩音。いつも輝いていて、辛い時でも俺に元気をくれる大切な女の子だ」
だから守ってあげたくなる。
いつも傍にいたい、いてほしいと思えてくる。
「サキ……本当に、キミって凄い男の子だね」
「え? そっかな? よくわからないや」
「凄いよ、キミ……(本当に大好き、好きすぎて気持ちが溢れちゃいそうだよ)」
詩音は頬を染めて爽やかな笑顔を浮かべている。
ふと、そよ風が吹いた。
イチョウの樹の黄葉と共に、彼女のサイドテールの金髪もふわりと靡く。
艶やかな光沢を発した絹糸のような髪に神秘的な尊さを感じる。
詩音は今のままでいい……十分、魅力的で素敵な女の子だ。
少なくても俺はそう思う。
「にしし~♪ 今度サキん家に泊りにいったら、またエログッズ捜索のリベンジすっから、よろ~☆」
いつの間にか口調が戻っている。
しかも何気に聞き捨てならないこと、さらりと言ったぞ、こいつ。
「やっぱり、少し身形を整えて真面目になってくれ。その方が俺のためだ」
「いやぁだよ~! 学校戻ったら、このままの姿で生徒会に入ってあげるぅ~。シンシンと一緒の『庶務』でいいよぉ。そしたら学園初の金髪生徒会役員の誕生だね~。歴史に名が残るかな~?」
生徒会に入ってくれるのは嬉しいけど、動機が不純すぎて素直に喜べねぇ……。
でも、詩音の胸の内も聞けて良かった。
それだけでも意味のあるデートだと思う。
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