第71話 修学旅行~彼女達との手繋ぎイベント




 千歳空港に到着し、そのままバスで札幌まで移動する。


 集団行動でドームや劇場を観覧し、それからホテルに到着して一泊した。


 次の日、午前中はバスでとある動物園へと到着した。

 なんでも、普段ふれる機会のない動物達と直にふれあえる体験型動物園だとか。


 園の中は決められたルートに沿った形の自由行動だ。



 ここで、ようやく愛紗と麗花の二人と合流することができる。


「やっと、サキくんと一緒に行動できるよ……」


「っと言っても、ルートを回ったら、また班に戻らなきゃいけないわ……面倒ね」


 二人はそれぞれ愚痴を漏らす。

 

 そうは言うけど、昨日泊ったホテルで、詩音を含めた三人で部屋に遊びに来てたけどね。


 リョウとシンは普段通りだったけど、黒原がやたら興奮してたっけ。

 またノート開いて何かメモっていたようだな……まぁ、いいや。

 

「それじゃ、みんなで回ろうか?」


 俺は班のリーダーらしく仕切ってみた。


 みんな気が合うというか協調性があるからか素直に応じてくれる。


 同じ班の女子である、天宮さんと来栖さんも特に問題なくついて来てくれた。

 何故かシンにべったりだけどな。




「おっ!? こいつ、いい食べっぷりだな!」


 俺は子猿に直で餌を与えながらテンションを上げる。


「はい、サキ、あ~ん♡」


 詩音が甘声で、俺に向けて餌を差し出してくる。


「喧嘩売ってんのか、お前?」


 思わず口を開けそうになった自分も悲しいぜ。




「サキくん……わたしね、爬虫類とか苦手なの……」


 少しルートを進んだところで、愛紗が言ってきた。

 そういやこの先から、爬虫類コーナーだったよな?


「じゃあ、俺の腕に捕まって歩こうか? それなら少しは落ち着くだろ?」


「う、うん……でも手を握ってくれた方がいいかな……」


「え? う、うん……俺で良ければ……」


 愛紗の手を繋いで歩くことになった。

 

 彼女の手を握る。

 とても柔らかく、きめ細かな指の感触に何か緊張してくる。


 けど彼女は本当に怖かったらしい。

 その震えが繋いだ手から、俺の腕へと伝わってくる。


「大丈夫、愛紗?」


「うん、うん……」


 どうやら目を瞑って歩いているようだ。

 足場もいい方じゃないから、こりゃ密着して歩かないと危ないな。


「サキ君、実は私も昆虫とかが苦手で……」


 麗花まで言ってきた。

 しかも上目遣いで、恥ずかしそうに体をもじもじさせている。

 普段は凛とした彼女からは見られない仕草にドキっとしてしまう。


 俺は空いている片手を差し出し、「一緒に歩こう」と誘ってみた。

 

 麗花は「ええ……」と弱々しく頷き、俺の手を握り締める。

 また愛紗とは違った素敵な感触に余計に心臓が高鳴ってしまう。


 これぞ、両手に花ってやつか……てか、周囲の視線が痛い。


 愛紗も麗花もガチで怖いみたいで、しっかりと手を握っており離すことはない。

 三人の歩調もズレてしまうから、必然として歩く速度が遅く、それだけ長く手を握り締め合っている。


 おまけに両腕から、それぞれ違った素敵な温もりが伝わってくる。

 とても柔らかく張りのある胸の感触が……。


 やばい……これぞ不可抗力という名の幸せなのか?


「あっ!? 少し目を話した隙に、何、3P満喫してんの!?」


 詩音は大声で不謹慎なことを言ってきた。

 しかも首に太くて長い白蛇を巻いたままダッシュしてくる。

 飼育員らしき人が、その後を追っていた。


 詩音はどうやら爬虫類が平気で寧ろ好きらしい。


「お前こそ、なんちゅうモン、首にぶら下げてんだよぉ!? とっとと飼育員さんに返してこい!」


「嫌だ! サキの首に巻いてやるぅ!」


「やめろよ! 俺だってそんなに得意な方じゃねぇよ! それに、そんなの首に巻いたら二人が気絶しちまうだろ!?」


 俺は必然的な不可抗力をアピールする。

 

 詩音は「う~~~っ!」と唸り声上げて凝視する中、飼育員さんが白蛇を回収して立ち去った。


「……じゃあ、サキ……後で、あたしと……手ぇ繋いでくれる?」


「うん、わかったよ……つーか、詩音も平気なら、どっちか引き受けてくれない?」


 俺の要望に詩音は「うん、わかった~」と返答し、愛紗と麗花の手を握ろうとするも、二人共すっかり怖がって拒否している。


 仕方ないので、詩音は愛紗の空いている片手を握って一緒に歩きだす。

 何故か高校生四人が横一列に並んで密着して歩くという奇妙な絵面となってしまう。


 なんだ、これ? どんな状況?



 俺が困惑する後ろで、黒原が「いいぞ~! ナイスですね~! もっと僕に異能を見せてくれ~!」と、スマホを構えてやたら興奮して叫んでいる。

 こいつも爬虫類が好きなのだろうか?



 ようやくルートを周回して動物園のふれあい体験が終わる。




 無事にバスへと戻った。


 座席に腰を下ろすと、どっと疲れが押し寄せてくる。

 体というより、気持ちが疲れたかもしれない。


「よし、みんな揃っているなぁ? それじゃ、一旦ホテルに戻って昼食にするからな~」


 田中先生がざっと人数をチェックし、運転手さんに発車するよう指示を送る。


 バスが動き出した。



 あっ、そう言えば、自分の班の点呼を取るの忘れてた……。


 俺は立ち上がり、チラッと自分の班メンバーの顔を見る。


 大丈夫のようだ。


 きちんと6人いる―――ん?


 6人だと? ウチの班、7人じゃん……。


 あっ!? あいつだ……。


「――先生! 黒原がいません!」


「なんだと!?」


 俺の声で、田中先生を含む全員が「え!?」と驚き、後ろを振り返る。


 すると、黒原が半ベソを掻きながら、全力疾走でバスを追いかけていた。


「運転手さん、止めてください!」


 田中先生の指示でバスが停車し、黒原はなんとかバスに乗り込むことができた。

 けど、ガッツリと先生に怒られている。

 

 その後。


「……ハァ、ハァ、ハァ。すみません……どうもご迷惑をお掛けしました」


 黒原は息を切らして、班全員に向けて平謝りしている。


「いや、班のリーダーである俺も悪かったんだ。こうして無事に乗れたことだし、もう気にすんなよ」


「……ありがとう、副会長」


 黒原は自分の座席へと座る。

 何故、バスに乗り遅れたのかは不明だ。


「サキのそういう心が広いところがいいよね~♪」


 詩音が笑顔で褒めてくれる。

 彼女に褒められると不思議にその気になってしまうなぁ。


(なるほど……それが神西くんの手口……優しさという異能の力ですね? S.Kファイルに記録しなくては)


 黒原の暗く沈みこんだ胸の内で、何を考えているのか誰にもわからない……。






 ホテルで昼食後、札幌市内で自由行動となった。


 各自、班ごとに別れて好きな所を散策し、20時まで戻ってくるように言われる。

 夕食は自由に食べていいとのこと。


 そしてお約束通り、愛紗と麗花が合流してきた。

 リョウの彼女である千夏さんもいる。



「それじゃ、サキ、行こーっ!」


 詩音が妙にテンションを上げている。

 俺の腕を引っ張ってきた。


「お、おい! みんなと離れたら駄目だろ!?」


「大丈夫、大丈夫、にしし~♪」


 悪戯っ子のように笑う、詩音。


 あっ、これって……まさか?


「なぁ、もう始まっているのか……デート?」


「そっ! 第一弾は、あたしだよ~ん!」


 詩音は得意の笑顔を向けながら、手を握り密着してくる。


 二の腕に胸が密かに当たっているんですけど……。

 麗花や愛紗に比べると控えめなほうだけど、詩音も決してないわけじゃない。


 とても柔らかく素敵な感触。

 


 ――ごくり。



 やべぇよ、俺。


 何、生唾飲んでいるんだ?

 変に意識しちゃ駄目だろ?



「詩音! ルール破ったら駄目だからねーっ!」


 見るに見兼ねた愛紗が遠くで叫んでいる。


「大丈夫だってば~! ねえ、サキ~♪」


 いや、こいつはわかってねぇ……。

 だって、ますます指を絡ませてくるもん。


 さっきのお返しと言わんばかりだ。



 こうして、詩音との修学旅行デートが始まった。






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