第69話 修学旅行前の決め事
次の日。
俺はリョウに生徒会の副会長になったことを伝える。
初めは驚いていたが説明すると納得してくれた。
「……麗花さんを助けるためとはいえ、よくやる気になったな?」
「うん、彼女にしては相当参っていたからな……だから、つい」
「まぁ、そこがサキのいい所だけどな。任期まで支えてやれよ」
「ああ、わかってる」
ちなみに本格的な生徒会活動は、『修学旅行』が終わってからになるとのことだ。
そのあと『体育祭』が待っているらしい。
特に、三年生にとっても最後の学校行事だから、先輩達との調整が大変らしいのだ。
「――サキ、リョウ、おはよう」
シンが登校してくる。
リョウともすっかり打ち解けたみたいで、いつの間にか下の名前で呼び合うようになった。
けど様子が可笑しいように見える。
「おはよう、シン。どうした?」
「生徒会の件……俺に協力できることがあったら言ってくれ。雑用でもなんでもやるから」
どうやら、王田が抜けた件に、こいつなりの責任を感じているようだ。
まるっきり関係ないのに、いつまでも義理堅い奴だな。
「サンキュ、だったら『庶務』にならないか? その役員は多い方がいいって麗花も言ってたから」
「そうだな、そうしてくれ」
おお、戦力確保。
なんかパワーアップしてんじゃね、生徒会。
「黒原、シンも生徒会に入るんだけど、いいだろ?」
俺は同じ生徒会である黒原 懐斗に声をかける。
「……いいんじゃないですか? ただ僕は会計だからね。決定権は東雲会長と顧問の先生だよ」
「そうか、つまり俺が伝達する役目ってことだな。ありがとう、教えてくれて、じゃあな」
「いえいえ……フフフ」
黒原は微笑みながら、またノートに何か書いている。
なんか不気味だな、こいつ……。
田中先生が教室に入ってくる。
「お前らぁ、元気にしているか~? 先生、実は彼女を怒らせちまってな……鈍感なところが嫌いと言われてしまったんだ。お前らぁ、どう思う?」
どうも思わないんだけど。
つーか、生徒に恋愛相談するなよ、この教師は……。
「先生、そこは『気づけない俺が悪かったよ』って、自分からハグしなきゃ駄目だぞ~!」
詩音がノリノリで答える。しかも何故か横目で俺を睨むような視線を向けながら。
「なるほど、ハグか……他の意見はないか?」
ねーよ! とっとと、ホームルーム始めろよ!
他の生徒からも「いい加減にしろよ!」と愚痴が聞かれている。
しかし、田中をあんまりヘコませると、不貞腐れてまた席替えさせられるから困ったもんだ。
「……まぁ、いい。それより、もうじき修学旅行だな。4時限目が終わるまで、それぞれ班とリーダーを決めてくれ。男女それぞれ三人ずつな」
ってことは、合計で6名か……。
後ろの席のリョウが背中を突っついてくる。
「――サキ、当然、俺らは一緒な」
「ああ、リョウ、勿論だ」
後一人は当然……。
俺とリョウは窓際の席にいる、シンに向けて手を振る。
シンはニッコリ笑い頷いてくれた。
よし、男子メンバーはパーフェクトに決まったぞ。
「サキ~、あたしと一緒の班でいいよね?」
詩音が笑顔で顔を覗き込んでくる。
「ああ、勿論。でも、詩音は女子の誰と組むんだ?」
「もう決めてるよーっ、後で紹介すんね~♪」
そしてホームルームが終わり、詩音は二人の女子を連れてきた。
「紹介すんね~っ。遊び友達のユリッチとアズッチだよ~ん」
詩音の紹介に二人の女子は軽く頭を下げる。
ユリッチと呼ばれたのは、
温厚で真面目そうな雰囲気。ストレートヘアーで眼鏡を掛けている。
どこかふわふわとしており、ちょっぴりぽちゃっとした体形。フェミニン系の学級委員だ。
アズッチと呼ばれたのは、
いつも気だるそうにパーカーを着ている。ショートヘアの前髪にヘアピンを幾つかしている。
当たり前のようにガムを噛んでおり、ダウナー系の女子って感じだろう。
「わぁ、神西君達とこうしてお話するなんて初めてだねぇ」
「ガム、食う?」
天宮さんと来栖さんが、それぞれ挨拶をしてくる。
普段話したことはないが、こうして見ると二人とも中々魅力的な女子達だと思う。
本来ならカースト上位グループに入っても可笑しくないレベルだが、何故かあの連中とはずっと距離を置いているのだ。
それで最近、詩音と仲良くなったらしい。
「ああ。こちらこそ、よろしく頼むよ。ガムは遠慮しておくよ」
「あっ、そう……」
来栖さんはあっさりとガムを引っ込める。
「班のリーダーはどうする?」
「学級委員の天宮さんがいいんじゃない?」
リョウに聞かれ、俺は適当に言ってみる。
「あたしはユリッチより、サキがいいと思うよ。生徒会の副会長だし、今のうちに仕切れるように練習してみたら~?」
「お、俺……うん、わかったよ」
詩音に勧められ了承する。
彼女も悪戯に振ったわけじゃなく、俺も人前で何かできるよう慣れた方がいいと考えてくれた上だと察した。
彼女もなんだかんだで、いつも俺の事を考えてくれている。
だから感謝しているんだ。
こうして順調に修学旅行班が決まる。
筈だったのだが――。
4時限目の終わりに田中先生が教室に入ってくる。
「お前らーっ、班決まったか?」
「先生、黒原君が余っています」
学級員の天宮さんが手を挙げて答える。
「なんだって!? ああ……そうか、男子だけ一人余る計算か……誰かぁ、黒原を班に入れてやってくれぇ! 人数が多い班は優遇して宿泊部屋も大きい所にしてやるから安心しろ~!」
田中先生は呼び掛けるも、どの男子も答える者はいない。
俺はチラッとリョウとシンを見る。
「別に俺は構わねーぜ」
っと、リョウ。
「無害そうだから問題ないだろ?」
っと、シンも大きな声で前向きに返答してくれる。
それじゃと、俺は手を挙げる。
「おっ、神西の班か……流石、生徒会の新副会長だな。それじゃ頼むぞ~」
急遽、黒原が班に加わった。
その後、すぐ黒原が近づいてくる。
「副会長……ありがとうございます」
「いいって、同じ生徒会だろ? 仲良くやろうぜ」
「ええ、勿論です……(フフフ、これは必然だよ、神西くん。全ては僕の計算通り。修学旅行中は24時間体制で、キミの生態調査させてもらうよ)
昼休み。
愛紗と麗花を交え、みんなと屋上で昼食を取っている。
「詩音、いいな~、いいな~。サキくんと同じ班でいいな~」
愛紗は幼女のように、ひたすら羨ましがっている。
ずっと体を左右に揺らしてなんか可愛い。
「こればっかりは仕方ないわ。でも移動時や集団行動以外なら、同じ班のリーダーさえ承認すれば、現地の班行動や自由時間内で個人同士の合流はできるわよ」
麗花は何気に朗報を教えてくれる。
けどそんな話、先生から聞いたことがないので、その場にいる全員が驚いている。
「え? 麗花、そうなの?」
「そうよ。だって私が進言して先生達に通させた
さ、流石、秀才と言わしめる生徒会長様だ。
伊達に教師達の信頼を勝ち取っているだけある。
つーか田中も教えろよ……無駄なプライベートばっかり喋りやがって。
麗花の情報で、すね気味だった愛紗の表情がぱっと明るくなる。
「じゃあ、サキくんと一緒に色々と回れるね!」
「そうだね。俺も楽しみだよ」
はしゃいで喜ぶ愛紗に、こちらまで嬉しくなる。
来週には修学旅行か……。
行先は北海道だっけ?
楽しみだなぁ。
──────────────────
次話から「修学旅行編」の始まりです!
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