第68話 生徒会という名のラボ




 翌日。


 愛紗は退院し今日から学校に復帰した。


 俺は早速、彼女のクラスに顔を出しに行く。


「退院おめでとう、愛紗。もう大丈夫かい?」


「うん、ありがとう、サキくん。もう大丈夫だよ」


 いつも通りの優しい微笑を向けてくれる。


 無事で何よりだと思った。


 俺は安堵しながら、チラッと彼女から斜め後ろの空席に視線を向ける。


 王田 勇星が座っていた席だ。


 奴は二度と戻ってくることはない。しばらく埋まることはないだろう。


 愛紗もあれから、王田の話はしてこない。

 密かに好意を寄せられていた自体はいいとして、想い余ってストーカーと化しスタンガンを浴びせられ、挙句の果てに拉致されて散々な目に合ったからな。


 彼女の身になれば、全て忘れた方がいいと思う。


「そういえば、サキくん。生徒会に入るって本当?」


「麗花から聞いたのか? そうだよ……なんか結構大変みたいなんだ。まぁ、任期まで半年もないし……」


「ふ~ん、ってことは副会長か書記?」


「そういや、ポジまで聞いてなかったな……二つ埋めなきゃいけないってことか」


「実はね、サキくん……わたしも志願したんだ、生徒会に入るの」 


「え? 愛紗も? 退院したばかりで大丈夫か?」 


「うん。体調の方は問題ないよ。それに、これまでも何度か手伝いに行ってたから、やる事もわかっているし」


「そうか。それは、麗花も助かるよな」


「……それもあるけどね。でも一番は……サキくんと出来るだけ長くいたいなぁ……って」


「え?」


「もう、言わないもん……」


 聞き返す俺に、愛紗は上目遣いで頬を染めている。

 唇を尖らせ怒っているというより照れてしまっているという表情。


 その仕草に、俺の胸が疼く。


 やっぱり、愛紗は純粋で可愛いと思った。





 放課後。


 俺と愛紗は生徒会室へ向かう。

 何故か詩音もついて来ている。


「別にいいしょーっ」


「まだ何も言ってないだろ? 詩音も生徒会に入るか?」


「……検討中」


「どうして? 人手が多い方が麗花だって喜ぶだろ?」


「……あのね、サキ。この学校、偏差値の割には頭髪や服装の規定とかそんなに厳しくないけどさぁ」


「うん」


「金髪っ子が生徒会に入っているの見たことあるぅ?」


「……ない」


 じゃ、染めればと言いたいけど、そこは詩音の自由だしな。

 それに詩音はこのままでも十分に魅力的だし……つーか似合って可愛い。


「だから、もし志願するとしたら、染めなきゃと思って悩んでるんだよね~」


「そっか……じゃヘルプとかそんなポジでいいんじゃないか? それでも全然助かると思うぞ」


「にしし~。やっぱ、サキだな~♪」


 詩音は満面の笑みを見せ、俺の腕に抱き着いてくる。


「ちょっと、詩音!?」


「お、おい、学校内だぞ!?」


「じゃあ、学校外ならいいの~?」


「駄目に決まっているでしょ! もう、ルール違反だよ!」


 俺じゃなく、何故か愛紗が一番怒っている。


「アイちゃんだって、サキとハグしたんでしょ? それだってルール違反だよね?」


 急に口調を変えてズバリと指摘する、詩音。

 つーか、お前がなんで知ってるんだ?


「あ、あれは……サキくんからだし……ノーカンだもん」


 愛紗も照れながら、いちいち正直に答えなくていいよ。

 きっと、この素直さであっさり暴露してしまったのか?

 詩音ってゲームもそうだけど、案外心理誘導とか上手いからなぁ。


「まぁ、あれだ……早く生徒会室に行こう! 麗花も待っているからさ!」


 俺の言葉に、詩音は「そだね」と満足そうに離れ、愛紗はぷくっと頬を膨らませていた。

 素敵な感触と温もりで片腕が名残惜しいが仕方ない。


 こうして、プチ修羅場を回避した。




「サキ君、愛紗、来てくれてありがとう。とりあえず、これ――」


 生徒会室にて。


 麗花は俺達二人に証書を渡してくる。

 『当選証書』と書かれていた。


 やっぱり、俺が『副会長』で愛紗が『書記』で任命されたようだ。


「本当は校長先生から役員の『当選証書授与式』するのだけど、今回は異例扱いなの……ごめんなさい」


「いや、麗花が謝ることはないよ……でも俺が生徒会の副会長か……緊張するなぁ」


 今更ながら、とても重要な役を引き受けた感が芽生えてくる。


「任期まで、私の傍にいて……そのぅ、支えてくれればいいから」


 なんだろう、麗花。

 そんな言い方をされると変な意味に捉えてしまうじゃないか?


 生徒会を頑張ればいいんだよな、俺?


「愛紗もお願いね」


「わかった。よろしくね」


 二人がやり取りしている間、俺はチラッと隅に視線を置く。


 クラスメイトであり、会計の『黒原 懐斗』と目が合った。

 なんかニヤつきながら、さっきからノートに何か書いている。


「黒原、よろしくな」


「……こちらこそ、神西くん。いえ副会長」


 黒原は軽く挨拶だけすると、再びノートに書き込んでニヤついている。

 何か自分の世界に没頭しているようだ。


 きっと仕事熱心な奴なのだろう。


「――詩音はどうするの?」


 麗花は何気に訊いている。


「考え中」


「そう……良かったら『庶務』もあるから気が向いたら声をかけて」


「うん、わかった~」


 思った以上に、詩音は自分の髪や身形を気にしているように思える。


 別に校則に反してないなら、気にする必要もないと思うけどな……。






 ~黒原 懐斗side



 ようこそ、『異端の勇者』こと神西くん。


 我が生徒会こと、秘密の研究所ラボへ。


 今日からキミの異能をたっぷりと観察をさせてもらうよ。


 おっと、さっそく異能ぶりを発揮しているねぇ。


 さっきまで毅然としていた塩姫様こと、東雲会長がデレデレに甘く溶けまくっているじゃないかね?

 難攻不落と言わしめた、あの人をこうもあっさり陥落させるとは流石だね。


 そして南野さんも生徒会の書記として任命されるとは……こりゃいい。

 また目の保養……いや、貴重なサンプルが増えたよ。


 けど、やっぱり可愛いなぁ。


 こんな子に好かれているなんて……美人の会長といい、なんちゅう羨ましいんだぁ、おい!


 ……失礼、つい取り乱してしまった。


 そうそう、忘れてはいけない、北条さん。

 相変わらずの派手目なギャル系で、本来なら僕とは何ら接点もなく住む世界の違う子のように見えるが逆にそこがいい。


 なんていうか国際交遊というか異類婚姻譚っというか……時には未知の領域に踏み込みたい男心をくすぐってしまう!


 それに彼女、さっきから頻繁に神西くんをチラ見しているじゃないか?

 あの表情が初心うぶのギャップ萌えで凄げぇ堪らん!


 羨ましい! 羨ましいぞぉ、神西くん!


 凄く羨ましいぞぉぉぉぉぉっ!!!


 あんな超一級のハイスペックな美少女三人に好意を持たれている、キミが羨ましいィィィッ!!!


 これこそ究極のハーレム! ザ・モテ道!


 最高の被験体だよぉぉぉ、キミって奴はぁぁぁぁ!



 ヒェェェェェェェェェェェェェイ!!!



 おっと、いけない……ブレーキ、ブレーキ。

 

 僕って興奮が最高潮に達すると、思わず奇声を発してしまう癖があるんだ。


 それは置いといて。


 認めよう……キミこそ本物だよ、神西くん!


 僕の求めている領域に、キミは到達し極めているのだ。


 そう、見せかけだけのイケメン共を超越した存在。

 これこそが異能チートであり、『異端の勇者』と言える究極の存在。


 いいぞ、神西くん。


 キミの『モテ道』をもっと見せてくれ……。


 僕はそれをこと余すことなく、この『S.Kファイル』に書き記そう。


 いつか、キミの異能を僕の『モテ道』として取り込む、その時まで――。






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