第67話 異端の勇者とS.Kファイル

※注)このキャラは非常にやさぐれております。




 ~黒原くろはら 懐斗かいとside



 僕の名は『黒原 懐斗』。


 本物の『モテ道』を目指す観察者オブザーバーだ。


 そんな僕が思うことがある。


 世の中には神に愛される男と、そうでない男がいるということを。


 そして、イケメンと呼ばれる男こそ、まさに神に愛される者達である。


 だって連中、黙っているだけで大抵モテるからな。

 後は髪型さえ気を使っていればいい。

 女子にチヤホヤされりゃ、自然に性格も明るくなるし社交的にもなるってもんだ(偏見)。


 一方で愛されない男は、まさに僕のような奴を言うのだ。

 黙っていたら存在感すら忘れられる。


「あれ? 黒原、あんたいたの?」


 って感じでな。


 稀に相手にされると思えば、変にイジる比較材料として扱われる始末。

 そこでしか存在を見出せない自分……惨めなもんさ。


 だから愛されない者達は、少しでもイケメンに近づくため雰囲気だけでも装い努力し始める。

 見た目を補えなければ、スポーツしかり、バンドやダンスしかりだ。


 しかし僕は雰囲気イケメンなんかに興味がない。


 そこに本物の『モテ道』はあり得ないからだ。


 例えるなら夏のビーチ、冬のゲレンデ。

 その時はカッコ良く見せても、街で合ったら幻滅されてしまう。

 歌って踊らなければ、ただの人ってね。


 僕が目指す『モテ道』は圧倒的な存在。

 どんな難攻不落な美少女でも落とせる無敵の存在。



 だから僕は研究し調査することにした。


 ――イケメン共の生態をね。


 中二頃から始めた観察だったが、これといって大したサンプルがいなかった。

 大抵のイケメン共はすぐに妥当な彼女を見つけ、リア充交際で落ち着いてしまう。


 面白くない。


 少女漫画家やラブコメ作家もがっかりだ。


 つまらなすぎて、ネタにすらならない。


 僕が調査したいのは常識を覆すほどのイケメン。

 チート級のような絶対的な奴だ。

 

 高校に入ると、同じクラスに最も理想とするモルモットがいた。


 『遊井 勇哉』だ。


 成績優秀、スポーツ万能、そして爽やかな容姿。

 おまけに金持ち。

 まさに絵に描いたような神に愛された男だ。


 しかし調べていくうちにとんでもない実体が判明する。


 遊井は自分の地位を保持するため、幼馴染である『三美神』を奴隷のように利用しまくっていたことだ。

 そう、あの美人でスタイル抜群の東雲生徒会長も、その一人だった。

 まぁ、彼女は他の二人を守る形であえて飛び込んだみたいだけどね。


 遊井も上っ面が良いものだから、常に本性を隠し爽やかイケメンを演じていた。

 反面、女遊びは激しく告ってきた女子はその場で食べちゃう強欲ぶり。


 ――だが、こいつは面白い。


 探求心が疼いた僕は『遊井 勇哉』の生態観察に夢中になった。


 気付けば、僕自身がぼっちとなり陰キャ扱いだったが構うことはない。


 遊井に比べりゃ、クラスの男達なんて8ビット程度のNPCの村人程度しか思わない。

 話しかけても同じことしか言わないアレ(笑)


 そんなノリで僕は、遊井を『勇者』と呼ぶようになる。


 しかし、その呼び名はいつの間にかクラス中に広まり、普通に生徒の間でそう呼ばれるようになっていた。

 まぁ、いい……どうせ僕が発信源とは気づくまい。


 

 高二となった頃、あの事件が起こる。


 遊井が『三美神』から見放されたこと。


 あの男……神西 幸之が寝取ったことだ。

 正直、彼は『こっち側』の人間だと思っていた。


 その後、遊井は崩れるように転落し自滅に終わる。


 なんだ……この程度か?

 こんな脆い男を僕は夢中で追いかけてきたのか?

 これが勇者だと言うのか?


 僕はしばらく失望する……。

 美しい東雲会長を眺める目的で通っていた生徒会もサボるようになった。


 必死で調査した資料も、焼き芋の焚火用として全て燃やし、芋だけは美味しく頂いた。



 失意に追われる中、いつも通り『あの男』が僕に接触してくる。


「やぁ、会計の黒原君」


 王田 勇星だ。

 もう一人の勇者と呼ばれる男。


「……副会長、どうかしましたか?」


「そろそろ例のモノ……頼むよ」


 副会長のおねだりに、僕はニヤリと微笑む。

 彼のスマホに、あるデータを転送させた。


「ありがとう……いつもすまないね」


 王田はスマホを確認し満足して帰って行く。


 僕が彼に一目置かれ気に入られた理由がそこにある。


 ――南野 愛紗さんの隠し撮り画像。


 定期的に、その画像を彼にプレゼントしているのだ。


 そう、これが僕の特殊能力。



 ―― 見えざるインビジブル・存在エクジスタンス (エコー)。



 僕は存在の薄さを利用し、南野さんを始めとする学校中の美少女達を隠し撮りし、その画像を集めるのを趣味としていた。


 無論、女子更衣室やトイレに忍び込むなんて下衆い真似しないけどね。

 あくまで美しさを探求した自然体の写真さ。


 副会長とは高一の頃、南野さんを撮っていたのを偶然に目撃され、その完成度の高さから気に入られ内密に画像を提供する関係に至る。


 気づけば生徒会に入らされ、今の会計監査に任命された経由があった。


 その副会長も相当なイケメンであり、僕の求める条件を全て満たしていた。


 何より、『影の勇者』という異名を持つ。


 ……だけど、この世で関わって良い奴と悪い奴がいるくらい僕にもわかる。


 普段こそ人当たりよく温厚そうだが、裏の顔は遊井よりヤバく真っ黒だ。

 おまけに、全てをねじ伏せる圧倒的な力がある。


 媚びて気に入られようと思っても、調査する気にはなれない。


 だが、その王田も副会長を辞任し自主退学。

 噂だと警察沙汰になるくらい大事になっているとか? 


 こうして僕が認めた『勇者』が二人、学校から去って行ったわけだ。


 しかし、その背後の必ず彼の名前が挙がっている。



 ――神西 幸之。



 学校のアイドルであり、絶対的象徴の『三美神』を虜にし、あの遊井を倒したとされる。

 以前は『寝取りの神西』と呼ばれていたが、今はそう呼ぶ奴はほとんどいない。


 あの文化祭の余興で見せた『ボクシング試合』からだ。


 これまで特段優れところなく、高一まで僕と似たようなポジだった筈。

 それが何故、突然テストでランキング入りしたり、プロ顔負けに戦えるようになったのか?


 神西くん……キミは一体何者なんだ?






 放課後。


 誰もいない教室で、僕は一人で考えごとをしていた。

 鞄から一冊のノートを取り出す。


 それは、転校生の『浅野 湊』が王田に向けて提出した『神西観察記録』だ。


 記録には三週間ばかり、神西くんが変わっていく経過が詳細に記されている。


 しかも最後に必ず「ハーレム、ムカつく」と当時の負の心境が語られていた。

 そんな浅野くんも、今では微塵も感じられないくらいクール系のイケメンにジョブチェンジしてしまったがな。


 ちなに、このノートは生徒会室で読んでいた副会長が無造作にゴミ箱へ放り投げた物である。

 僕がこっそり拾い入手したのだ。


 ノートを捨てる際に言っていた、彼の言葉が気になる。


「――真の勇者ってわけか……」


 あの王田にそこまで言わしめたというのか?


 しかし真の勇者だと?


 ……神西くんが?


 昼休みの食堂でも、東雲生徒会長の桃色オーラ全開のメロメロ具合といい……あんな彼女を見たのは初めてだ。


 おまけに、超可愛くてイケてるギャルの北条さんにまで……ぐぅ。


 ――羨ましい!


 いや、違う……不思議な男だ。


 神西くんは、ルックスは悪くない。けど普通だ。


 性格も気さくで優しい方だと思う。でも話術とか普通だ。


 なのに何故、あそこまで『三美神』にモテるのか?


 そういや、一年の後輩でバスケ部の美少女からも告白を受けたという噂も耳にしている。


 やばいよ、こいつ……もう最強じゃん。


 勇者っていうより、異端者じゃないか?


 異端……異能……チート。


 この観察日記にも書かれているように彼は覚醒したのかもしれない。



 異端の勇者、神西へと――



 僕は新しいノートを取り出す。


 表紙にマジックで、こう記した。



 ――S.Kファイル。



 そう。


 異端の勇者、神西 幸之を調査するためのファイルだ。


 さっき東雲会長から報告があり、明日の放課後に神西くんが来るらしい。


 しかも生徒会に入ることを希望しているとか?



 ――好都合。





 翌日の放課後。



 僕は軽快な足取りで、生徒会室へ向かう。


 まるで新しい玩具を手に入れた子供のように興奮してくる。



 さぁ、神西くん。



 調査を始めようか――。







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