第66話 意外な末路と謎のクラスメイト




 王田は自分から罪を認め、クラスメイト女子を拉致し監禁したとして逮捕されていた。


 さらに暴行罪も適用されるとか。


 したがって公になっていないが、奴は未だ留置所に拘留されたままのようだ。


 今後の経過次第で家庭裁判や鑑別所行きとなるらしい。


 学校はそのための自主退学なのか?


 けど、これまで自分の手を汚さず、NO.2を気取っていたのが幸いして余罪もない初犯扱いだ。



「また爺さんが動いて、マスコミや警察に圧力を掛けたらしい。だからほとんど報道されていない。警察も消極的で検察とも話がついていたようだが、勇星さんが頑なに拒み今回の流れになったようだ」


 学校の屋上にて。


 シンが俺に教えてくれる。


「随分、内情に詳しいな? 耀平以上じゃね?」


「俺の両親が王田家と通じているんだ。ぶっちゃけると、爺さんに雇われた専属使用人や秘書みたいな仕事をしている」


 だからシンは、王田の指示で簡単に転校したりしていたのか?

 でもよく、そんな奴と決別できたよな?

 まぁ、シンはまだ王田を慕っているし、主から見限られたようなもんか……。


「それで、王田はこれからどうなるんだ?」


「わからない……きっと勘当され敷居を跨げないと思う。何せ、見事に爺さんの期待を裏切ってしまったんだからな。きちんと罪を償うってことはそういうことだ」


「どうして、いつも通りに爺さんの力を借りなかったのかなぁ……?」


「おそらくサキに負けたことで、勇星さんも『王田家』のしがらみから解放されたいと思ったんじゃないか? きっとこれからは、自分一人の力で生きていくことになる」


「そうか……シン、お前はどうするんだ?」


「俺の気持ちは変わらない。遠くから、あの人を見守って行くつもりだ。無論、この学校での生活は続けるつもりさ」


「良かったよ……せっかく仲良くなったし、また技を教えてもらいたいしな」


「……それ以上、強くなってどうする? プロにでもなるつもりか?」


「え? まさか……まぁ、半分趣味みたいなもんだよ。それに実戦で出来た蹴り技も、結局はローリングソバットだけだったからな」


「……いや、実践でいきなりローリングソバットを決める奴も十分に凄ぇし」


 シンは軽く引いている。呆れつつ、フッと柔らかく笑う。

 

 俺も愛想笑いを浮かべる。


 そして思った。


 王田 勇星が初めて誰にも頼らず罪を償うことで、シンもまたその『王田家』のしがらみから解放されたんだと……。



 こうして、この学園から『影の勇者』がいなくなった――。





 一限目が終わり休み時間。


 麗花が一人、教室に入ってきた。


「サキ君。今日、退院して明日から学校に復帰できるそうよ」


「本当か? 良かったぁ……後でLINEするよ」


 俺はほっと胸を撫でおろし安堵する。

 

 麗花は言う事だけいうと、足早に教室から立ち去ろうとする。

 その去り際、一人の男子生徒に視線を合わせた。


「――黒原君。今、大変な時期だから今日は生徒会に顔を出すのよ」


「……わかりました、会長」


 塩姫ぶりを発揮する麗花に、黒原と呼ばれた男子生徒はボソッとした小声で答える。

 麗花は教室から出て行った。

 

 妙な空気が流れる。


「なぁ、サキ……ウチのクラスにあんな奴いたっけ?」


 リョウが奇妙なことを尋ねてきた。


「え? 一年からいたよ。俺、割と話し掛けているよ……挨拶程度だけど」


 そう俺は知っている。

 

 彼の名は『黒原くろはら 懐斗かいと』。

 身体が細く、ひょろりとした体形。

 色白で視界を遮るほど髪が長く、根暗っぽい雰囲気を持つ。


「中学の俺によく似ているな……だが不思議な奴だな」


 シンが怪訝な表情を浮かべる。


「黒原は別に無害な奴だよ?」


「そういう意味じゃない。なんていうか……陰キャっぽいが、妙な自信に満ち溢れている」


 元陰キャの隠れイケメンのシンにとっては、黒原がそう見えるらしい。

 俺にはよくわからんが……。



「ねぇ、男子で集まって何話してんの~、あたしもまぜて~♪」


 トイレから戻ってきた、詩音が輪に入ってくる。


「詩音も知ってるだろ? 黒原のこと」


「黒原? うん、知ってるよ。生徒会の会計ね~。レイちゃんがたまに愚痴ってるからね~」


「たまに愚痴る?」


「サボりの常習犯だって~。それでレイちゃん、いつも怒ってるんだよぉ」


「へ~え。麗花もそういう所、厳しいからな……でもそんなんで、よく生徒会にいられるよな?」


「仕事は抜群にするみたいだからね~。それに前の副会長が割と彼を庇ったり推していたみたいだよ~」


「副会長? 王田が?」


 俺はちらりと、シンの方を見る。


「さぁ、聞いたことないな……」


 内情に詳しい、シンでさえ首を傾げている。


 ってことは別に王田とは関係がないのか?


「……なぁ。さっきから俺ら何の話しているんだ? いい加減もうやめよーぜ」


 リョウが呆れ口調でツッコミを入れる。


 いや、そもそもお前が言い出したことじゃねーか!?

 詩音よりも飽きっぽい野郎だ!

 



 昼休み。



 愛紗がいないので必然的に食堂でみんなと食べることになった。


 リョウは彼女の千夏さんとランチしており、俺と麗花と詩音それにシンの四人でテーブルを囲んでいる。


「麗花……生徒会、大変なのか?」


 俺はさっきのことが気になり訊いてみる。


「え? そ、そうね……サキ君に話していいかわからないけど相当ピンチよ」


 彼女にしては、とても弱気な言動だ。


「どうして? やっぱり副会長が不在だからか?」


「それもあるわ。おまけに先日、書記の子も体調崩しちゃってね……顧問の先生から継続は無理だと言われているの」


「え? ってことは、今の生徒会って……」


「そう、私と黒原君だけよ。だから結構参っているの……もうじき修学旅行だし、その後は体育祭ね。なんとか任期まで頑張らないと……」


 麗花が困っている。

 いつも気丈に振舞っているのに、かなり参っていると感じた。


 どうする?


 俺に何かできることは――


「なぁ、麗花……俺で良かったら入ろうか、生徒会?」


「え? サキ君が?」


「うん、自信はないけど……麗花が困っているなら」


「でも……迷惑かけれないわ」


 麗花は目を逸らし難色を示している。

 

 俺も少し前は正直「面倒だなぁ」っと思ってたけど、彼女の様子を見ていたら放っておけない。


「助けたいんだ、麗花を……俺、いつも助けてもらっているからさ。今度は俺が麗花を助けたい!」


「サキ君……」


 麗花は、不意に俺の手を握ってくる。

 切れ長の瞳を潤ませ、柔らかい微笑を浮かべていた。

 

 俺にだけ向けてくれる微笑み。

 いつもやる気と意欲を与えてくれる貴重で大切な微笑み。


「ありがとう……嬉しい。やっぱり、サキ君ね……優しい」


「いやぁ……ははは。たまにはカッコつけないとね……」


「ううん。カッコイイわよ、サキ君……。後で顧問の先生に相談してみるわ」


 頬を染めて穴が開くほど見つめられてしまう。

 おまけにカッコイイだなんて……照れちゃうけど凄く嬉しい。


「レイちゃんばっかずるい~! ねぇ、サキ! あたしも手握っていい~!?」


 詩音が妙な要求をしてくる。


「ああ、別にいいけど……」


 俺は片手を差し出すと、詩音は「にしし~♪」と得意の笑顔で手を握ってきた。


 学校の食堂で、二人の美少女に手を握られる奇妙な構図。

 実はかなり恥ずかしい状況だと今更ながらに気づく。


 この場に愛紗がいたら、さらにどんな状況に発展していることやら。


 ……やばい、顔が火照ってくる。


 そう思いながら、隣でもくもくと食べているシンと何気に目が合う。


「気にするな。火野じゃないが、大分見慣れてきたぞ」


 しれっと言ってくれる。

 これはこれで良いのだろうか?



 ――だがこの時、俺の背後の席で、あの男が……。



 黒原くろはら 懐斗かいとが、じっと見ていたことに気づかなかった。






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