第58話 影の勇者と対峙する




「王田ァ、聞いてんだぞ!? お前、その子に何をしているんだ!?」


 俺はその異様な光景に声を荒げ問い質す。


 王田は床に寝そべる女子生徒を無言で睨みつけていた。

 ふと視線を俺に向けてくる。


「……神西君。これは僕とその子の問題だ。キミ達には関係ないだろ」


「関係ないだと? ここは生徒会室だぞ? どう客観的に見ても、お前がその子に危害を加えたって構図だろ!?」


「…………」


 王田は何も答えようとしない。

 いや、愛紗の前では答えられないのか?


 これまでの経過から、俺にも大体の想像はつく。


「愛紗……その子を連れて保健室に行ってくれよ。出来るだけ目立たないようにね」


「う、うん……わかった。王田くん……?」


 優しい彼女は心配そうに顔馴染みのクラスメイトを見つめている。


「大丈夫、王田君には事情を聞くだけだから……」


 俺は憤る感情を抑えつつ、精一杯の穏やかな口調で促した。


 愛紗は頷き、女子生徒を立ち上がらせ一緒に部屋から出て行く。



 初めて、王田 勇星と二人っきりになった。


「……これで少しは本音で向き合えるだろ? 自称、NO.2」


「フン、まさかキミ如きにまで、そう言われる日が来るとはね……いや、今のキミはその資格があるのかもしれないな」


「どうでもいい。もう一度聞くぞ、今の女子はなんなんだ?」


「ただのセフレだよ。僕の事はわかっているんだろ? あの女子が僕に『忘れられない、付き合ってくれ』っと、しつこく無理矢理求めてくるから、多少強引に突き放してやっただけだ。はっきり言って被害者だよ、僕は」


「ふん! 今度はお前が『ハニートラップ』に引っかかったような口振りだな? そもそも自業自得じゃねーか?」


「見ての通り、僕の制服は一切乱れていない。あの女が自分から脱いで迫っただけだよ。僕は不謹慎だと拒んだに過ぎない。別に教師に言うなら言っても構わないよ。しかし問題の多い、神西君と違って僕は周囲の信頼を得ているからね。果たしてどちらを信じるかな?」


 それこそ日頃の素行ってか?

 ふざけんなよ、テメェ。


「言わねーよ。愛紗達には、お前が言った事をそのまま伝える。後は、さっきの彼女とお前の問題だ」


「そうか……なら別にいい。とっとと出て行きたまえ」


「こっちも遊びに来たわけじゃないんだ。それに、お前とは一度向き合って本音で話したいと思っていたんだ」


「本音だと?」


 俺は王田と至近距離で対峙する。


「――お前に愛紗は渡さない。二度と、俺達に関わるな!」


「まるで彼氏面だな。ろくに選べもしない男が、よくもまぁ」


「……それでも、お前なんかより余程マシな人間だと思っているよ。女の子に手を挙げるような奴に余計渡すわけにはいかない!」


「遊井じゃあるまいし、僕が南野さんにそんなことするわけはないじゃないか?」


「信じられねーよ! その遊井だって、お前が手引きしてカンボジアに追放したんだろーが! なんだよ、僧侶って!?」


「シン君か翔に聞いたのか? まぁいいだろう……。あの男には当然の報いだろ? 寧ろ実刑を免れ生かしてやっただけ、ありがたいと思ってもらいたいよ。まぁ、奴も最後は潔く受け入れたみたいだし、今頃は反省して真面目に僧侶になる修業しているんじゃないのか?」


 王田はニヤつきながらぶっちゃけてくる。


 被害者である俺も正直、遊井について驚いた反面「ざまぁ」としか思い浮かばない。

 けど、あいつをどうするかは定められた法律が決めることであって、こいつがどうこうしていいわけじゃない。

 そこを履き違えたら、俺も他の連中と同様に、王田の傀儡となってしまうんだ。


「とにかくだ。俺が気に入らないのなら、いちいち爺さんのコネを使わず、正々堂々を挑んでこいよ! 俺は逃げも隠れもしない!」


「ふん。シン君に勝ったくらいでイキってんなよ。所詮はスポーツの範囲じゃないか? それにキミ如きがおじいちゃんに頼むまでもないよ」


 王田は尚も見下した口調で俺を罵ってくる。

 いつまでも舐めやがって……。


「そのお爺ちゃんのコネも、前のように自由に使えるのか? 知っているぞ! お前、これまでの無茶ぶりが祟って釘さされているだろ!?」


「神西……貴様、どこでそれを?」


 王田の顔つきが変わる。


 しまった! 思わず、ポロっと言ってしまった……!

 下手したら、シンや間藤に飛び火がくるかもな。


 ここは勢いで誤魔化すしかないぞ。


「最近のお前の様子を見ればわかるぞ! 以前のように姑息に仕掛けて来ないからな! 大方、手駒が尽きたぼっち状態じゃないのか!? これまで散々、他人を利用してきた報いだろ!?」


「黙れぇぇぇっ! 神西がァァァァッ!!!」


 王田は初めて俺の前で怒鳴り取り乱してくる。


 だが俺は動じない。


「王田テメェ、やっと本性を現したな!? とにかく、お前みたいなセフレが何百人もいたり、自分の手を汚さず陰で好き放題しているような奴には負けねぇ! 愛紗は絶対に渡さねぇぞ!」


「貴様ァ!」


 王田は完全にブチ切れ、腰の方に手を忍ばせている。

 野郎、何か武器を隠し持っていやがるな!?


 俺はボクシングスタイルで構え牽制する。

 股関節と両足は絶望的に痛い。おかげでフットワークが使えない。

 この状態で上手くジャブが打てるか微妙だ。


 しかしこの距離なら、奴が何か出した瞬間に一発くらい顎に先手を食らわせることはできる筈だ。


 俺の構えを見て、王田の動きはピタッと止まる。


 流石、剣道の有段者なだけあり、頭に血が上ってもそこは冷静なのか。

 やはり、ただキレていただけの『遊井』とは比較にならない男だ。


 俺と王田は膠着する


 このまま一触即発の状況が続くかと思われた。



 が、



「――サキくん……」


 愛紗が入ってきた。

 その後ろに、麗花と詩音がいる。

 どうやら合流して三人で駆け付けてくれたようだ。


 俺は退き構えを解く。


 王田も何も持たず腰元から腕を下ろした。


「愛紗……これは……」


「――それじゃ生徒会長、僕は帰らせて頂きます。事情は神西君から聞いてください。では」


 王田は毅然とした口調で、麗花の返答を聞かず足早に去って行った。



「サキ君、これはどういうこと?」


 当然の麗花からの問い掛け。


 俺は言葉を詰まらせる。


 女子生徒に対して王田が手を挙げたのは事実だが、奴の話が真に受けるなら学校内の風紀を正すためのやむを得ない行為とも受け取れる。

 けど、内情はセフレとのトラブルであり真っ黒で腐った事情だ。


 今更ながら、そこまで話していいものかどうか?


「サキ~! 何か答えてよ~!」


 詩音も詰め寄ってくる。

 こりゃ正直に話した方がいいかもしれない。

 そもそも、俺が王田を庇う理由なんて微塵もないわけだし。


「これは……そのぅ……事情があるわけで」


「サキ~! もうアイちゃんに決めたの~!?」


「え?」


「詩音は『愛紗に決めたの』かって聞いているのよ……さっき、大声で叫んでいるの聞いたんだから……ブツブツ」


 麗花まで、そっぽを向き不貞腐れている。


 なんだって? どゆこと?


 あっ、そうか……俺が王田に「愛紗は絶対に渡さねぇぞ!」って言った台詞を三人はドア越しで聞いてたのかよ!?


 つまり俺と王田が愛紗をめぐってトラブったと思っているのか!?


 つーか、なんでそこだけ聞こえてんの?


「違う、違う! そういう意味で、あいつに言ったんじゃないって!」


「サキくん……違うの?」


 今度は愛紗が悲しそうな表情を浮かべる。


 彼女からしてみれば、「違う=愛紗のこと好きじゃない」。そんな風に捉えてしまうのか?

 だからそこも誤解だっつーの!


「そういう状況で言った台詞じゃないって意味だよ! 今、ちゃんと説明するから聞いてくれよ!」


 俺は異様にテンパりながら、みんなに説明することになってしまう。


 実際、当たっているかさえ、俺にだってわからない。


 まだ自分でも本当はどう思っているか迷っているだけに――。






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