第59話 影の勇者の屈辱と思惑




 ~王田 勇星side



「フッハハハハハハハハハハーーーッ!!!」



 王田邸の自室にて、僕は独り大声で笑っていた。


 これほど笑ったのは『遊井勇哉』が自滅した時以来だ。


 けど何も可笑しくない。


 僕は怒りの沸点を超えると狂ったように笑う癖がある。

 今がその心境なのだ。


 そうだ。


 あの『神西 幸之』に対して――。


 まさか、ここまで思い通りにならなく、僕に噛みついてきた相手は初めてだ。


 運のいいだけの平凡な奴だと思っていたが……。


 その平凡が実は侮りがたい才能だとは流石に気付かなかったよ。


 唯一そこに気づいた東雲は、やはり天才であり末恐ろしい女だ。

 しかも偏らせず、ほとんどの能力値を平等に底上げてしているんだからな。


 だから短期間でボクシングをマスターし、あのシン君にも勝てたわけだ。


 さらに、あの反骨精神。


 まるで周囲を魅了するカリスマ性すら感じる。

 現に、シン君といい他の関わった連中を取り込んでいるようだ。



 それこそ――真の勇者。



 ああいう奴こそ、そう呼ばれるのに相応しいのかもしれない。


 だが僕は認めないぞ!


 前にも言ったが、奴をNO.1にして僕がNO.2である構図だけは受け入れるわけには行かないのだ!


 いや、違う。もう正直に言おう。



 ――南野さんが神西を好きであることが我慢できないんだ。



 あんなどっちつかずの優柔不断な男に取られるくらいなら、この僕が奪う!


「フフフ……」


 まだ笑みが込み上げてくる。


 しかしもう怒りからではない。


 心の奥からの喜悦だ。


 生まれて初めてだと思った。


 ここまで本気になれる相手を……心から叩き潰してやりたいと思える奴と巡り合えたからだ。



 ――ブブブブブブッ!



 スマホのバイブが鳴った。


 おじいちゃんからだ。


 こんな時にと思いながらも出ないわけにはいかない。

 王田家は、祖父は絶対だからだ。


 僕は着信に出る。


「はい、勇星です」


『どうだ、勇星、学校生活は?」


「順調ですよ、おじいちゃん」


『そうか、何よりだ……それと勇星』


「はい?」


『前にも苦言した通り、お前とてもう子供じゃないんだ。いずれワシの跡を継がなくてはならない。ワシは一族の中で誰よりも優秀なお前に期待している』


「はい、ありがとうございます」


『だから、いつまでも子供気分で羽目を外すなよ。特に今の時代、いくら痕跡を残さず入念に石橋を叩いても、道端の小石に躓いて簡単に大怪我することだってあるんだ。ワシとて、そう庇ってやるわけにはいかんからな』


「……わかってますよ、おじいちゃん。それじゃ――」


 僕は通話を切った。


 どうやら僕の唯一の切り札チートも使えないようだ。


 おまけに手駒も尽きている。


 あの間藤を入院させたヤクザの男も微妙だ。

 特に、僕がおじいちゃんの力が借りられないと知ったら協力するかも怪しい。

 ああいう連中こそ、自分の都合のいい所に靡く傾向があるからな。

 下手に保身に入られ裏切られても厄介だ。


 要するに、もう誰も当てにしてはいけない。

 何も期待してはいけない。

 こうなれば自分で動くしかないだろう。


 その結論に至る。


 しかしどう仕留めるべきか?


 神西に風評攻撃は通じない。

 特にあの男はメンタルが非常に強い。

 寧ろ逆境を糧にしてしまう傾向すらある。

 雑草魂って奴かな? よくわからんが……。


 それに、僕とてもう時間が限られているだろう。


 今回のセフレとのトラブルの件を、神西は南野さんに話す筈だ。

 実際の現場を目の当たりにした彼女に誤魔化しは効かない。


 少なくても、僕はそういう奴だと彼女に見られてしまう。


 きっと清純な南野さんのことだ。

 今後、僕を避けるようになるに違いない。



 ――クソッ! 



 クソォッ! 神西め!


 どこまで僕を追い詰めてくる!?


 僕はストレスで自分の頭を掻きむしる。

 爪に血が付着するほど強く、ガリガリと――。



 クソォ、クソォ、クソォ、クソォ、クソォォォォォッ!!!



 怒り笑い、また憤怒し発狂する。


 これまでにない苛立ち、困惑と憤りを交差させながら。

 自分でも情緒不安定なのがわかる。

 今の僕なら祖父と父親が自分の妻達に当たり散らしていたのも理解できるかもしれない。


 だから、僕もあのセフレの女を殴ったんだ。


 素直に金を貰って股だけ開いていればいいものを、僕にそれ以上の事をしつこく求めてきやがるから……。


 権力や金で従えないのなら、最早最終手段はそこ・ ・でしかない。


 ――圧倒的な暴力で叩き潰すこと!


 神西が強くなったとはいえ、所詮はスポーツ。


 まだ僕に届く範囲じゃないんだ。


「――いいだろう、神西 幸之。こうなりゃ僕も形振り構わず本気で奪いにいってやるよ……南野さんをなぁ!」






**********



 あの後、俺は愛紗達に『王田とセフレ女子に関して』一連の説明をした。


 っと言っても、奴が爺さんの権力を傘に陰で散々悪事を働いていたことまでは流石に言えない。

 下手したらトラブルに巻き込んでしまうからだ。


 けど愛紗も名指しされ身体を震わせ困惑した表情を浮かべている。

 実は密かに狙っているなど具体的に説明こそはしていないが、王田がどういう人間かは理解したようだ。


 奴とは同じクラスメイトだし、これから気まずいかもしれない。

 王田本人からの身から出た錆とはいえ、悪戯に不安を煽らせてしまっただろうか。


「――やっぱりね。彼もどこか勇哉っぽい所あったから、薄々そうじゃないかと思ってたわ」


 麗花は不快そうに顔を顰めた。

 夏休みに会った時も、どこか勘づいていたような素振りもあったからな。


「まるで女の子をゲームの経験値稼ぎや何かと思っているんだよ。ほとんどビョーキだね」


 詩音も風評被害で辛い経験があるだけに、軽蔑した言動が聞かれる。


「王田くんに限って、そういう人じゃないと思ってたのに……残念だなぁ」


 愛紗は寂しそうに感想を漏らしている。

 あの男も特に彼女の前では紳士を装っていたのだろう。

 剥がれやすいメッキだらけの紳士だがな。


「まぁ、王田も思わず手を上げてしまったけど、あいつの言い分も一応は筋が通っているからね。俺としては、これ以上事を荒立てるつもりはないけど……後は生徒会長である麗花次第だと思う」


「多分もっと掘り下げて叩いていけば、いくらでも埃は出てくるでしょうね。当然、このまま彼を副会長として置いておくわけにはいかないわ。私の方で顧問の先生に相談して、彼の解任を求めさせるわ」


「一応は暴力沙汰だし、まずは停学処分にはなるんじゃないの?」


「でしょうね。理由だって、結局は男女交際のもつれだし……まぁ、無期停や退学にはならないでしょうけど」


 詩音の問い掛けに、麗花は見解を述べる。


 俺としては、どうせまた爺さんのコネ使って有耶無耶にしそうだけどな。

 多少は制限されているようだけど、まだそれくらいの力はありそうだ。



 しかし、この話は意外な方向へと流れていく。





 次の日。



「――王田が謹慎処分だって?」


 昼休み、そう麗花から聞かされる。

 周囲には愛紗と詩音、リョウにシンもいた。


 クラスメイトの愛紗は「何も聞かされてない」と言い、シンも「初めて聞いた」と驚いていた。


 麗花は話を続ける。


「ええ、早朝に本人から学校へ連絡があって、自分から全てを告白したみたいね。私も顧問の先生に聞かされたけど、ほぼサキ君の話と一緒の内容だったわ」


「でも、やたら処分の決定早くない? 相手側の女子は?」


「勿論、同じ処分を受けているわ。話の流れだと悪いのは彼女の方だからね」


「王田は自分で罪を認めて被害を最小限にした……いや、それならまた隠蔽すりゃいいだけの話……」


「また隠蔽?」


「あっ、いや……王田も随分潔いなって。それに普通、学校で双方から事情聴取して処分が決まるんじゃない?」


「さぁ、王田君のお爺さん、この学園の理事長と知り合いのようだし便宜が図れたかもね」


 逆にそっちの方でコネを使ったってのか?

 確か謹慎処分って「口頭注意」だけで謹慎が解除されるまで「自宅で待機」だっけ?

 どの道、停学よりはマシな処分の筈だ。


 にしても、何かキナ臭くね?






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