第46話 影の勇者と暗殺者

※浅野 湊→アサシン→暗殺者で文字ってます。




 ~浅野 湊side




 俺は中学二年まで壮絶なイジメを受けていた。

 一歩間違えば自殺していたかもしれない。


 だか、そんな時、俺の前にあの人が現れた。


 ――王田 勇星さんだ。


 ある日、俺は屋上でいつも通りクラスの不良達にリンチを受けていた。

 人数も10人くらいいるし、抵抗したらもっと酷い目に合うと思って我慢する。


 けど、相手の暴力はエスカレートしていき、どっちに転んでも殺されるんじゃないかと思った。


 だが、あの人……勇星さんが助けてくれたんだ。


 目立つことを嫌う筈の、あの人が隠し持っていた特殊警棒で10人の不良をボコボコにしてくれた。



「……やれやれ。このままじゃ目立ってしまうな……また違う学校に転校をお願いするか」


 勇星さんは倒れる不良を踏みつけながら、涼しい顔で言っている。


「あ、ああ……」


 俺は怖かった。

 助けてもらった筈なのに、勇星さんがとても怖く感じた。


 だって、ずっと微笑を浮かべながら10人もの相手をボコッたんだ。

 ストレス解消と言わんばかりに、凄ぇ楽しそうに無邪気にな。


 このままだと、俺も不良と同じ目に合うんじゃないかと思ってしまった。


 その勇星さんは、俺と目を合わせてくる。


「キミ、大丈夫かい? 立てそうかい?」


「は、はい……あ、ありがとうございます」


 俺はお礼を言うも、勇星さんは何も言わず、ただじっと見つめている。


「ふむ。キミは身長もあるし、いい面構えだ。磨けば光りそうだな。しかし、どうしてキミがこんな連中に酷い目に合っているのか、僕にはわからないのだが?」


「き、きっと……お、俺がこんなんだから……こういう連中に見くびられ舐められるんだと思う」


「……そうか、わかっているじゃないか。どうだい? キミ、自分を変えたいと思うかい?」


 勇星さんは近づき、俺に手を差し伸べてくる。


「え……?」


「自分を変えたいと思うなら、今すぐ僕の手を握るがいい。このまま惨めな生活でもいいのなら、そのまま座り込んで何もしないでいることだな……どうするか選ぶのは、あくまでキミ自身だ」



 グッ!



 俺は一切、迷わなかった。


 勇星さんの手をしっかり握り締めて立ち上がったんだ。



 ――そして今の俺がいる。



 勇星さんのサポートで身体を鍛えまくり、打撃系を中心にあらゆる格闘技を会得した。


 もう誰も俺をイジメなくなった。

 その後、あの10人の不良共にもきっちり仕返ししてやったからな。 


 今の俺は誰にも負けない自信がある。


 但し、勇星さん以外の連中にだ。

 

 俺にとって、勇星さんは絶対だ。

 その価値は十分ある人だと思う。


 気高く強く、男の俺が見てもカッコイイ。

 しかも頭も切れ、狡猾さは誰にも負けない。

 そして財力と、あのデタラメの権力だ。


 こんな完璧な超人がこの世に二人といるだろうか?

 

 いる筈がない。


 にも関わらず、常に二番でいることを望む、あの謙虚さだ。


 憧れとか目標にするのさえ、おこがましい。

 俺が唯一望むことが許されるのは、あの人への忠誠だけだ。


 だから俺は自ら勇星さんの影になった。

 

 あの人が常にNO.2でいられるため、それを邪魔しようとする連中の排除だ。


 暗殺者アサシン

 そう思われても構わない。



 そんな俺が、勇星さんに頼まれたことがある。


 ――神西 幸之の調査だ。


 実際、こいつはどこまでの男なのか?

 そこを知りたいらしい。


 特に知りたいのは身体能力のようだな。

 

 勇星さんお気に入りの傀儡だった『遊井』って奴を自滅させ、プロに声を掛けられている『内島』にもサッカー対決で勝ったようだ。


 しかも一学期とは比べ物にならないほど身体能力が飛躍しているとか?


 実施に会った限りは誇張のようにも思えるが……。


 そうそう。


 神西の友人である、火野って奴も相当強いと聞く。

 しかし所詮は自己流の喧嘩屋か何かだろ?

 きっと俺の相手にならないさ。


 まぁ、勇星さんから指示がない限りは、火野と戦うことはないな。






 次の日。


 担任の田中から「坂本が帰宅中、車にはねられて重体だそうだ。復帰したばかりで可哀想に……」と告げられた。


 説明を受けたクラスのみんなは、ざわっとどよめいている。


 特に坂本と仲が良いグループ達は、不審な目で俺の方をじっと見つめている。

 

 察することはあるだろうが生憎証拠はない。

 全て、勇星さんが手配した連中が上手く処理してくれたからな。


 まったく恐ろしい人だ。



 そう思いながら、俺は伊達眼鏡越しで、神西の姿をチラ見する。


 ん?


 なんだ……あいつ?


 少し顔が腫れて、よく見たら傷だらけじゃないか?

 誰かに殴られたのか?


 だが本人は何事もなさそうにけろっとしている。


 隣の席の北条は頬を膨らませて怒っているようだ。

 特に火野に対して、「もう、やりすぎだっちゅーの!」と言っている。


 火野に殴られたのか?

 それにしては特に喧嘩した様子はないようだ。



 どう考えるべきか……まだ、勇星さんに報告する範囲ではないのは確かだ。






 休み時間。


 俺は早速、昨日居合わせた坂本の友達たちに問い詰められる。


「なぁ、浅野。あの後、お前どうしたんだ?」


「……何がです?」


「だから、坂本と何があったって聞いているんだ?」


「貴方達が僕を見捨てて放置してくれた後、坂本君に殴られてお金を取られました、ホラ」


 俺は坂本に殴られ切られた唇を見せた。

 自分から被害者をアピールするために、あえて殴らせたんだけどな。


「その後は?」


「知りません。なんなら先生に昨日のこと説明しましょうか?」


「い、いや、いい……悪かったな」


 連中は去って行く。


 当然だ。

 構図的には、俺は被害者であり連中は加害者だからな。

 チクられて立場が危うくなるのは奴らだ。


 カースト上位だかなんだか知らないが所詮は雰囲気でそう見られているだけの連中だ。


 真の勝者を目の当たりにしている俺としては、どいつも上辺だけのカスとビッチだな。





 昼休み。



「痛てて……」


 神西は胸や腰を痛がりながら席から立ち上がる。

 顔だけじゃなく、全身にもなんらかのダメージがあるようだ。


 その都度、北条が「大丈夫~?」と支えている。


 少し羨ましい……いや、こういう所がムカつく奴だ。



 ふと気づくと、南野と東雲も教室に入ってきた。


「サキくん、怪我したって本当!? あっ! い、痛そう!」


「しーっ! 愛紗、大丈夫だから大袈裟にしないで、ね?」


「火野君……話は聞いているけど、初日からやりすぎじゃないの?」


 東雲がキッと奴を睨みつける。


「望んだのはサキだ。俺は支援しているだけだ」


「でも、これは――」


「麗花、俺は大丈夫だから……それより、アレ持ってきてくれた?」


「ええ、勿論よ」


 東雲は分厚いバインダーを神西に渡す。


「ありがとう……」


「文化祭まで二カ月……火野君のメニューと合わせれば十分だけど……ここまで酷いとサキ君が先に潰れてしまうわ。そこまでする必要はあるとは思えないけど……」


「昨日言ったろ、今を頑張りたいって」


「わかったわ……」


 東雲は見かけによらない柔らかい微笑を神西に向ける。


「サキくん、わたしも頼まれたお弁当作ったから食べに行こう」


「うん、愛紗ありがとう……よし、行こうか。痛てて……」


「サキ~! 無理しないで、あたしの肩貸してあげるからね~」


「詩音ってばずるい! サキくん、わたしの肩でいいよ」


「身長的に私の方がサキ君も楽できるんじゃないかしら?」


 三人の美少女が揃って、神西を取り合い始めた。


 当の本人は「大丈夫だから」っと、言いながら一人で教室から離れて行った。

 その後ろを子犬のようについて行く、三人の女子。



 なんだろ、あの状況……。


 確かに他所から見たらスゲー、ムカつく絵面だ。



 こりゃ敵が増えても仕方ないぞ……特に男達からな。



 ……神西よ。






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