第45話 転校生の秘密
中休み時間にて。
「おい、浅野とか言ったな~! お前、そこ、どういう席が知っているかぁ!?」
転校生の『
あれはサッカー部の坂本だ。
怪我も治って、つい最近からサッカー部に復帰したけど、ブランクがあり練習が上手くいかなくずっとイラついていると聞く。
遊井がいない今でも一応カースト上位グループの男女は健在だが、最近じゃすっかり目立たなくなっているんだよなぁ。
そう見えるのは、俺も相手にしてないからだけど。
他のグループの連中は見て見ぬ振りをしているか、所々に煽る言動も聞かれている。
「え? い、いや……ぼ、僕は……」
転校生の浅野も状況がわからず俯いて困った顔を浮かべているじゃないか。
ったく、つまらないことしやがって……。
「おい、坂本! さっき田中先生や北条にも言われたろ! そういうのやめろよ! だったら、お前が浅野君と席を変わればいいだろ!?」
見てられない俺は近づき一喝する。
「くっ、神西か……」
坂本はあっさりと引き下がった。
他の上位グループ達も散っていくように離れて行く。
どうやら地味に俺もクラスの連中に一目置かれているようだ。
寝取り風評もあるが一番は遊井を倒した男ってことと、前のサッカー試合でもエースの内島と当たり負けしないで互角以上の勝負をしていたことが要因らしい。
やっぱ、神西は只者じゃないって感じなのか?
どうやら村人モブから違う職種にジョブチェンジできたようだな。
「あ、ありがと……え、えっと……」
「神西だよ。神西 幸之、よろしくな」
「う、うん……神西君、あ、ありがと」
俺は軽く手を振ると、自分の席へと戻った。
「サキ~、カッコイイ~♪ 惚れ直したわ~♡」
詩音が嬉しそうに褒めてくれる。
「俺はただ、詩音を真似ただけだよ。一番カッコイイのは詩音だと思うよ」
「にしし~、あんがと☆ でも、あたし、サキにはカッコイイよりカワイイって言われたいなーっ」
「え?」
「もう言わないよーだ」
頬を染めて照れながら、真っ白い前歯を見せる。
十分、可愛いと思うぞ。
「ああいうのは放っときゃいいのに……キリがねぇだろ?」
リョウは本来、こういう物臭な性格である。
女子には優しいが、男子には「自分の身は自分で守れ」ってタイプだ。
こいつに、それを言われると、いつも守られている俺は耳が痛い。
「うん、でも……理由が理由だからさぁ」
「そうじゃねぇ……必要なさそうだったから言ってんだぜ」
「必要ないって?」
「う~ん。まだなんとも言えねぇがな……俺の本能がそう囁いているんだ」
リョウの言いたい事がさっぱりわからん。
つーか、本能って何よ?
放課後。
俺は麗花に生徒会室まで呼ばれた。
昨日の件で話があるらしい。
「サキ君も大変だったわね? 大丈夫?」
「ああ、別に怪我したわけじゃないし……どうして俺だけ呼んだの?」
「あの後、少し彼のこと考えての……間藤君のこと。そしたら、今日になって入院でしょ? びっくりしたわ。サキ君も何か知らないかなって思ってね」
麗花も間藤から密かに好意を持たれたことを知ったからな。
それで不審に思っても仕方ないかもしれない。
だけど俺が知る情報を教えるわけにはいかないけど。
「さぁね。そういや、間藤ってよく生徒会室に来てたのか?」
「ええ、そうよ。王田君に勉強教わったり、時折手伝ってもくれたわ……私の前では素直でいい子だと思ったのにね……」
麗花の前では完全に猫かぶっていたようだな。
けど、話を聞く限りでは麗花への想いだけは本物だったような気がする。
だったら、あんな姑息な真似をしないで堂々と……。
――いや、俺が言う資格はない。
寧ろ、はっきりしている間藤の方が、今の俺より何倍もマシなのかもしれない。
「内島の件もあるから、少し落ち着いたらみんなで見舞いくらい行こうか?」
「そうね、そうしましょう」
麗花は柔らかく微笑む。
なんとなく情が芽生え思わず言ってしまった。
俺があんな野郎の見舞いに行く義理はないのに……。
麗花の姿を見れば元気になるんじゃないかって勝手に思ってしまった。
少し話題を変えようか。
「そういや副会長の王田は?」
「今日は用事で来られないらしいわ。なんでも、おじいさんに呼ばれているようね」
「……おじいさん? 政治家だっけ?」
「そうね、凄い一族よ。親戚には政治家だけでなく、検察や警察官僚もいるって聞いたわ。お爺さんを中心に一族がまとまっているって感じかしら。特に彼はお爺さんに期待され、その跡を継ぐ人だから大変みたいね」
その爺さんのコネを使って、本人は陰で好き放題か……クソッ!
「サキ君どうしたの?」
「いや、なんでもない……それより麗花、頼みがあるんだけど……」
俺は麗花に今後の運動メニューの変更と追加を依頼する。
「そう、火野君と『文化祭の特訓』ね……いいんじゃない。但し、あまり危険なことしちゃ駄目よ」
「うん、麗花にはそれにあった身体機能向上の訓練表を作って欲しいんだ」
「わかったわ、任せて。栄養面では愛紗にサポートさせるわ」
「頼むよ。今日から、すぐ取り組むから……」
俺は俯きながら言うと、麗花は顔を覗かせてくる。
「……サキ君、何かあったの?」
「え? いや、なんでも……今を頑張りたいんだ」
「そう」
よし、今日から大改造計画の始まりだ――。
その頃、裏校舎にて――。
「ゆ、赦してください……」
転校生である浅野が一人、坂本達カースト上位グループに連れて来られ囲まれていた。
「うるせーっ、陰キャ! テメェを見てるとイライラしてくるんだよぉ!」
坂本は髪を鷲掴み、強引に浅野の頭を揺らしている。
「坂本、もうやめろよ……そんな陰キャ相手にしても、つまらないだろ?」
「神西や北条に知られたら、またなんか言われるよぉ」
男女問わず周囲はやりすぎる坂本の行為を非難していた。
どう考えても、他者より充実して生きている彼らにとってメリットのない行為だ。
寧ろ自分達の評価を下げるだけである。
「うるせぇ! お前達に俺の気持ちがわかるかぁ!」
坂本は苛立っていた。
折られた足首は完治して、サッカーに復帰しても前ほど上手くできない苛立ち。
その原因を作った遊井はいなくなり、神西のような目立ないモブキャラが気づけばクラスで幅を利かせている。
遊井ほどでないにせよ、エリート意識を持つ彼が受け入れるには変化が多すぎていたのだ。
そんな坂本の苛立ちを、他の仲間達は受け止めることはない。
自分達は巻き込まれないよう、舌打ちしながら「ほどほどにしとけよ」とだけ告げて帰って行った。
坂本と浅野だけが残っている。
「やめてください。赦してください」
「さっきから、同じこと言ってんじゃねーぞ! イラつくんだよぉ、コラッ!」
バキ!
坂本は浅野の顔を殴り、彼の黒縁眼鏡が飛んだ。
だが、その瞬間――
「――やれやれ。どこの学校でも、必ずカスはいるもんだ」
浅野の口調が変わる。
猫背だった背筋が伸び、長い前髪を掻き上げた。
その身長は、坂本よりも高く長身である。
さらに、切れ長の双眸で鋭く坂本を睨んでいる。
よく見ると鼻筋や口元も整っており、身形さえ整えれば女子から声をかけられても可笑しくない。
――所謂、隠れイケメンだ。
「な、なんだ、お前は!?」
浅野の豹変ぶりに、坂本は数歩ばかり退く。
「お前、坂本とか言ったな? 仲間を帰したのは失敗だったな……俺も立場上、おおっぴらに活動できないんでね」
「だからなんなんだよ、お前!?」
「この場で、お前は一人だ……目撃者もなし。これはお前にとっては不幸な状況だぞ」
「ごちゃごちゃ、うっせーぞ! 陰キャ如きが!」
坂本は拳を振るったが、あっさりと浅野に片手で掴まれてしまった。
「バ、バカな!?」
「お前の糞未来のために一つだけ忠告しておく。人に危害を加える奴は自分も加えられる覚悟がなきゃいけない。じゃないと、こうなる――」
ゴキィッ!
握った指が万力のように締め上げ、拳を握り潰した。
「ぎゃぁぁぁぁっ! 手がぁぁぁ、指がぁぁぁ、いでででぇぇぇっ!」
坂本は地面に倒れ悶絶する。
「……坂本、お前がまた1ヵ月くらいでも入院してくれれば、奴との決着もつけれるだろう……目的さえ果たせば、俺はこの学校を去ればいい」
「や、奴だと?」
「お前のようなクズに関係ない――しばらく、イッとけ!」
それから校舎裏では長い間、叫び声が響いた。
ようやく静まり返ると、浅野は何気にスマホで誰かに連絡する。
「あっ、俺です。はい、はい……実は、またカスに絡まれまして……ええ、そうです。はい、いつもの通りゴミ処理の方をお願いします。はい、では――」
丁寧な口調で受け答えし連絡を切る。
そのまま地面に落ちた黒縁眼鏡を拾い掛け直した。
「神西 幸之……あの人が一目置く男か……そうは見えなかったがな……」
浅野 湊は溜息交じりで、その名を口にするのであった。
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