第43話 影の勇者の次なる手




 ~王田 勇星side



 あの後、僕はと行きつけであるカラオケ店にいる。

 今回は流石に女子を連れ込んでいない。


 その心境じゃない。


 神西 幸之。


 あいつのせいでなぁ。




「――翔、お前には失望したよ」


 僕が長椅子に座り足を組む、その床下に翔が土下座していた。

 

 神西を陥れるのに失敗しただけでなく、その後もみっともなくフラれた女を追いかけ言い寄り、返り討ちにあったのだ。


 しかも、あの『風瀬 耀平』にも尾行されていたらしい。

 中学の頃から、僕の周りをチョロチョロ嗅ぎまわっていた糞ネズミだ。


 健斗に痛めつけるよう依頼するも、火野によって妨害されてしまった。


 僕も明るみになるのを嫌がり、風瀬も自粛するようになったので放置していたのだ。


 火野とも対立する必要や理由もなかったしな。

 奴も奴で日頃から目立っていた男だ。


 しかも旅館を経営する火野の親戚が、僕の祖父と知り合いで有力な後援者であるらしい。

 別な方法で抹消しても僕が手引きしたことがバレ兼ねないから様子を見ていたんだ。

 

 まぁ、その事はいい。


「ユウ兄ぃ……ごめんよ。赦してくれよぉ……」


 翔は顔を上げた。

 風瀬に殴られ鼻が折れているのか、顔の真ん中に大きなガーゼで保護されている。

 自慢の美少年も形無しってやつだな。


 顔以外は無能な奴だからな。

 もう手駒として使えるかどうか……。


「僕が怒っているのは失敗したことだけじゃない。今回の件で、神西に認識されたことだ。僕が手引きして奴を失脚させ、南野さんを奪おうとしていることをね。今後は神西が彼女に余計なことを吹き込み兼ねない。現にその兆候もあったからな」


「……南野先輩? やっぱりユウ兄ぃも?」


「僕のことはいい……証拠なんて一切ないんだからな。言及されても知らぬ存ぜぬを貫き通せる。周囲だって『寝取りの神西』より、『堅実な副生徒会長』である僕の言い分を信じてくれるだろうさ。その為に怨みを買われないNO.2を演じているんだからね……」


「さ、流石、ユウ兄ぃだね……」


「だが目障りには違いない。本当は退学させ、遊井のようにカンボジアにでも飛ばしてやりたかったがな……」


 そう。


 あの事件後――遊井 勇哉はカンボジアへ行った。


 僕が祖父に頼んで、あの事件後にすぐ手配してもらったんだ。

 まぁ、神西は無傷で告訴しなかったとはいえ、未成年でも本来なら執行猶予くらいはつくらしいがね。


 そんなの僕の知ったことじゃないし興味もない。

 使えない、ただのカスは日本にいらない。

 遊井の罪状を有耶無耶にして、とにかく国外追放を急がせただけさ。


 まぁ奴が一番犯した罪といえば、南野さんへの仕打ちに対してだな。

 生かしてやっているだけ、まだ良心的だと思ってほしいよ。


 今頃、遊井は僧侶になるため修業しているんじゃないか?

 地元で監視もついているし、二度と日本に戻ってくることはないだろう。


 遊井の両親も自分達が傍にいても更正できない理由と、マスメディアを恐れ渋々了承したことだ。

 はっきり言うと自分達の身の可愛さに息子を売ったようなもんだがな。

 


「遊井のことはどうでもいい……それより確実に神西を消す方法を思いついた」


 僕は言いながら、鞄からケースに入った『サバイバルナイフ』を出し、翔の前に放り投げた。


「ユウ兄ぃ、これは……?」


「――それで今から神西を刺してこい。今の翔なら神西を憎む動機も十分にあるし、こっそりなら深手を負わせることはできるだろう?」


「お、俺に人をキルしろって言っているのか!?」


「そこまでは言ってない。お前の怨みをおおやけにすればいいんだ。それで神西の評判は益々落ちる。何せ二度も男子生徒に殺されそうになるんだからな……たとえ真実が違えど、奴はもう学校にはいられなくなる。あとは遊井の時みたいに僕が対応しよう」


「ちょっと待て! お、俺は? 俺はどうなるんだよぉ!?」


「無論、罪は償うことになるな。その方が神西を確実に追い詰めることになるんだ。安心しろ、全て終わったら人生のアフターケアはしてやる。その為の幼馴染だろ?」


 僕がさらりと言うと、翔は蹲り体が小刻みに震わしている。


「どうした、翔? 早く行ってこいよ」


「――ざけるな」


「ん?」


「ふざけるなぁぁぁ! 俺をなんだと思ってやがるぅぅぅ!」


 翔はナイフを持ち、ケースを外して僕に切っ先を向ける。


「なんの真似だ?」


「俺はお前の道具じゃねぇ! これ以上、人生を狂わせてたまるかぁ!」


「誰のおかげで、散々女遊びできていたと思っているんだ?」


「うるせーっ! お前だって俺を散々利用してきたじゃねーか!? あのヤクザの妻も、どうせあんたが仕向けた奴じゃねーのか!?」


「……今更、気づいたのか? バカが……」


 僕はニヤリとほくそ笑む。


 そう、出会い系サイトで知り合ったなんて嘘だ。

 全て、こいつに恩を売るための偽装工作さ。


 ヤクザは祖父の知り合いの方達を雇って一芝居打ってもらったんだ。


「ケン兄ぃのことといい、赦せねぇ……テメェだけは赦せねぇ!」


「――東雲会長」


「何!?」


「欲しいんだろ? あの麗しき高貴な彼女を……お前如きが手にする方法はただ一つ。僕に従うことだけだとは思わないのか? なんだったら僕がお前好みの女に調教してやるよ」


「……ぐっ! そ、そうかもしれない……けどよぉ!」


「けど?」


「あの人は、あのままがいいんだぁ! あの人がテメェに汚されるなんてまっぴらごめんだぁ!」


「今更、純愛気取りか? これまで僕の指示なしでも散々女を食い物にしてきた癖によく言うなぁ」


「うるせーっ! 東雲先輩は別なんだぁ! あの人の笑顔は汚れちゃいけないんだぁーっ!」


 翔はナイフを突き立てて向かってきた。


「フン、見た目だけの雑魚がぁ!」


 僕は椅子から立ち上がり、両手の掌で突き刺そうとする刃を挟んだ。


「う、嘘だろ!?」


「真剣白刃取りだっけ? 忘れたか、僕は剣道の有段者であり居合術の心得もあるんだ。現実味のない技だが素人以下の突きなら容易いもんさ」


 言いながら僕はそのままの体制で翔の顔面を蹴り上げた。


「ぐふっ!」


 ナイフを離し、あっさりと倒れ込む。


 普通の女子にも負けるような男だ。

 全国大会でわざと2位の僕に勝てる通りは微塵もない。


「やれやれ本当に失望したよ、翔……いいだろ。そんなにカッコつけたかったら、しばらくリタイヤしてもらう」


 俺はスマホで待機させていたある人物を呼び刺した。


 強面のいかつい大人の男が入ってくる。

 その顔を見た瞬間、翔の顔色が青ざめる。


「あ、あんたは……?」


「久しぶりだな、寝取り小僧」


「お前が寝取った人妻。その旦那さんだ」


「だ、だって、さっき仕向けたって……」


「ああ、そうだ。でも奥さんは本物ですよね?」


 僕は敬語で、強面の男に訊いてみる。


「そうだ……下っ端の俺が組長に頼まれてほぼ無理矢理な」


「その後、僕が誠意を込めて謝罪して個人的に仲良くなったんだ」


「ええ、坊ちゃまには色々してもらってマジで恩にきます。もうじき若頭に出世ですわ~」


 強面が一変して笑顔になり、僕に向けて愛想を振りまいている。

 表の世界だろうと裏の世界だろうと、この日本では全ての大人達が僕の思いのままに動く。


「それじゃ、僕はアリバイ作るんで、10分後にでも適当にそいつを痛めつけてください。そうですね……健斗と同様、しばらく入院してもらいましょうか?」


「わかりましたぜ、坊ちゃま。へへへ」


「あ、あああ……」


 男は怯える翔に詰め寄る中、僕は一人で悠々と退出した。




 翔のカスがどうなったか知ったこっちゃない。


 結局、どいつも無能な奴ばかり……だだそれだけのことだ。



 しかし……。


 ――問題は、神西だ。



 あいつ、一学期の頃よりも何か変わってないか?


 実際サッカー勝負で健斗に勝ち、翔の策略にも引っ掛かるどころか逆に刺客の女を味方につけている。


 それにあの時、僕を睨みつけた目だ。


 凄みが増したというか。


 決意に満ちたというべきか。



 ――遊井以上の何かを感じる。



 しかし、まだ僕と渡り合う範疇じゃない。


 実際、どの程度までの男なのか?


 こちらも情報を集める必要があるかもしれない。



「……しょうがない。気が乗らないが、また『彼』を使うか」


 スマホを取り出し、に連絡した。






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