第42話 チョロインの初めての涙




 ~軍侍 路美side



 私がバカだった。


 翔くん……いや、間藤の言うことなんて聞いたばかりに、危うく神西先輩を罠にハメてしまう所だった。


 あんな純粋で心優しい人を……。


 ――神西先輩。


 カッコ良かったなぁ。


 見た目は平凡なんだけど……そのぅ、なんていうか……。


 性格がカッコイイのよねぇ。



 私は昔からずっとアイドルとかイケメンが好きだった。


 それで間藤も好きになった。

 はっきり言えば、それだけの理由だ。


 私を利用して切り捨てるような奴だとは思わなかった。


 騙された私が一番バカなんだけど……。




「路美ぃーっ!」


 帰宅途中、間藤が走って追いかけてきた。


「もう嫌だぁ、関わって来ないでよ!」


「俺の話を聞いてくれよぉぉぉん!」


 私の腕を押さえてくる。

 よく見たら、私が叩いた彼の頬がまだ赤みが帯びミミズ腫れとなっている。


「離して! 何を聞くって言うのよ!」


「だから誤解なんだって! 俺と別れるなんて言わないでくれ!」



「付き合ってもないのに別れるとかないでしょ!? もう関わってこないでって言っているのよ! この軟弱オカマ野郎!」


「な、なんだとぉ、路美ィ!」


 間藤は拳で私に殴りかかってくる。


 私は掴まれた腕の力を込めて押してやると、間藤のバランスを崩して、あっさり拳を躱すことができた。


 間藤は勢いで転び尻餅をついてしまう。


「うわっ! こ、この女ァ、よくも!」


 弱っ。


 私、バスケ部だけど別に喧嘩が強いわけではないわ。

 言っとくけど、こいつが華奢で弱すぎるのよ。


「これでわかったでしょ? もう二度と近づかないで! LINEの登録も消しているからね! 着信拒否ブロックだってしているから!」


「テメェ……路美の癖にぃ、俺をナメんじゃねぇ!」


 間藤は起き上がり、私に抱きつこうとする。


 私は間藤の片腕を取り、軽く捻ってやった。


「いででででぇ! テメェ、さては格闘経験あるな!」


「あるわけないでしょ! アンタが弱すぎるのよぉ!」


 そういや、クラスの男子達の間で『間藤は戦闘能力0』って聞いたことがある。


 こいつってばガチだと思った。

 もう、なんか子供を虐めているみたいで嫌になってくる。



 その辺、神西先輩に抱き着いた瞬間……意外とがっしりとしていたのを覚えている。


 あの感覚を思い返すたび、なんかこう……。


 ――胸がドキドキと高鳴ってしまってしまう。



 私は腕を離すと、間藤は「ひぃ~っ」と唸り声を出して距離を置いてきた。


「いいのかぁ!? お前、それでいいのかぁ!?」


 また妙なことを言ってくる。


「何よ? アンタに私を脅迫する材料なんてないでしょ? 言っとくけど、体育館倉庫前と今の会話も全てスマホで録音しているんだからね!」


「な、なんだとぉ!? 路美ぃ、テメェ! いい気になるなよぉ!」


「……いい気になんて、なれるわけないじゃん! 私今、凄く自分がバカだと思っているんだから」


「なんだと!?」


「私、男の子って上辺だけ見ていた。だからアンタに告白して近づいたのよ。付き合うことで恋人になれることで周囲に自慢できると思ったから」


「そうだ! 俺は間藤 翔だ! 俺と付き合えば、周りからお前を見る目だって変わるんだぞぉ! 今からでも遅くねぇ! 俺達よりを戻そうぜ、なぁ!?」


「……程度にもよるって気づいたの。特にアンタは顔だけで中身スカスカのクズよ。あんな素敵な先輩を逆恨みして目の仇にして、私に嘘をついて……罠にハメようとするなんて……」


「あんな素敵な先輩だと? お、お前、まさか神西こと――」


「うっさい! もう話しかけてこないで! 友達に全部暴露してやるんだから!」


 私は足早に立ち去ろうとする。



 しかし――



「路美ィ! 俺を……俺を舐めんじゃねぇぞぉ!」


 間藤はポケットから小刀を取り出した。


「ちょっと、何する気よ!?」


「俺はなぁ! 女に舐められるのが一番嫌いなんだぁ! 女なんてなぁ、東雲先輩以外はみんな俺の所有の家畜奴隷なんだよぉ!」


「東雲会長? アンタ……最初から、あの人が狙いだったのね!? その為に仲のいい神西先輩を陥れようとしたのね!?」


「うっせーっ! もう一度、俺にひれ伏せぇ! そうすりゃ一度くらい抱いてやるからよぉ!?」


「嫌よ! 刺したきゃ刺せばいいでしょ! アンタみたいな奴に初めてを差し出すくらいなら、この場で死んだほうがマシよ!」


「路美ィィィッ!!!」


 間藤は怒り任せに醜く顔を歪ませる。

 きっと、これがこいつの本性なのだろう。


 本当、私ってバカだ。

 こんなのに、初めてを捧げてもいいって本気で思ってたんだから。


 小刀を握り締め、間藤が踏み込もうと一歩を踏み込む。



「――やめるっすよ」


 変な口調の男子の声。


 私と間藤は視線を向けると、マッシュルームヘアーに丸眼鏡を掛けた真面目そうな男子生徒が立っている。


 彼は確か……。


「風瀬!?」


 そう、同じクラスの『風瀬 燿平』だ。

 帰宅途中らしく、革製の鞄を片手に抱えている。


「間藤……それだけはやっちゃいけねぇす。今ならまだ取返しがつくっす」


 彼は普段から誰に対しても、こんな喋り方だ。

 でも噂だと中学の頃、結構やんちゃしていたって聞いたことがある。


「うるせーっ! テメェに言われたくねぇ! これは男女の問題だぁ! 赤の他人は引っ込んでろぉ!」


「引っ込んでいい事態には見えないっす。とにかく、それはやめるっす」


「うるせーっ! まずはテメェからだーっ!」


 間藤は風瀬に向かって行く。

 しかし彼は逃げようとしない。



 ゴッ!



「ブギャッ!」


 間藤は顔面にカウンターを受け地面に倒れこんだ。

 そのまま気を失ったみたいだ。


 風瀬は拳を突き出している。

 よく見ると、革製の鞄に小刀が突き刺さっていた。

 

「――だから素人がやることじゃないと言っているっす」


 風瀬は小刀を抜き、その辺に投げ捨てる。


 やばい、なんだろう……?


 風瀬が凄くカッコ良く見えている……私って大丈夫かな?


「あのぅ。風瀬、あ、ありがとう……」


「別にいいっす……それより、軍侍。お前、サキ先輩に惚れたんすか?」


「え? いやぁ、唐突に何よ……ん? 待って! あんた、まさかさっきからずっと見てたのね!?」


「そうっす。実は情報収集目的で、ずっと間藤の跡を尾行してたっす」


 最低ッ! だったらもっと早く助けに来なさいよ!


 そう! こいつってばそういう変態なのよ!

 だからカッコイイなんて思っちゃいけない奴なのよ!


 私が軽蔑な眼差しで見つめると、風瀬は笑っている。


「まぁ、怒るなっす。軍侍ってチョロくてミーハーだと思っていたっすけど、案外見どころがあるんっすね。少し見直したっす」


「うっさい、バーカ」


「けど、サキ先輩を好きになるなら、相当覚悟しておくっすよ。とても強力なライバルばかりっすから……」


「そんなの、知ってるもん」


 けど、こんな気持ちは初めてかもしれない。


 付き合えなくてもいい……。


 振られてもいい……。


 ほんのひと時でいいから、傍にいたい……。


 もっと先輩のことが知りたいです。



 ――神西先輩。



 優しくて切ない想いが込み上げ胸へと染み渡っていく。



「軍侍、お前大丈夫っすか?」


「何がよ?」


 ぽつりという風瀬に、私は少し強い口調で尋ねてしまう。



「……いや涙、拭いた方がいいっすよ」


「え?」


 自分の瞳から頬を伝って流れる涙。



「あれ? なんだろ……これ?」



 私は初めて恋して泣いていた。







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